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7歳の駈歩。
友達の歌。
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王都の夜、そっと灯る明かりの下『スサンの天使』王都店に、特別な集まりがあった。サテラージャ国へ嫁いだルディス姫の、かつてのご友達達が再び顔をそろえたのだ。
「ルディス様が王国にいらした頃は、よくこの季節に一緒に出かけましたわね」
「ええ。まだデビュタント前で」
「ええ、特に市場で果物を選んで回るのが楽しくて…懐かしい」
誰かがそうつぶやくと、テーブルを囲む貴族の若い男女たちは、どこか遠くを見つめた。ドレスの色も派閥も、普段なら互いに距離を置きそうな顔ぶれだが、今夜ばかりは違った。
「皆さま、本日はご来店ありがとうございます。お約束通り、僕が腕をふるうの、ゆっくりしていってください」
恭しく頭を下げると、テーブルの空気がほぐれた。
まずは前菜。厨房から運ばれてきたのは、ミニピザだ。直径10センチほどの可愛らしい円盤の上には、完熟トマトのソースと、とろけるチーズ、そして彩りのバジルが控えめに乗っている。
「まあ、可愛い…」
「こんなに香りの良いの初めてかも」
「そういえば結婚式のメイン料理こんな味だったな」
「ああ。そうだったな」
小さな歓声があがり、一人また一人と口に運ぶ。サクッとした食感に、トマトの酸味とチーズのコクが絶妙で、誰もが思わず笑みをこぼす。
「ルディス様、前こんな味のもの美味しい美味しいって食べてたわね」
「ああ。リョウエスト君が作ったニョッキとか言う料理だったな」
「ええ、あの方は軽い塩味に目がなかったのよ」
すぐにメイン料理の一つ目が登場する。ボンゴレビアンコ。たっぷりのアサリを白ワインで蒸し、香り高いスープと共にパスタに絡めた一品。火の民の協力で手に入れた特製の海塩が旨味を引き立てている。パスタなしのものがコリントとサテラージャで食べられてるんだよね。
「すごい…このパスタ、まるで海辺の味」
「美味いな」
「みなさん。この料理のパスタがないものはコリントでもサテラージャでも食べられています」
僕はそう言う。
「ははは。もしかしたら食べてるかもな」
「意外とルディスって食いしん坊だったよな」
「そうね」
誰からともなく、ルディス姫が旅立つ前の送別会の話題になる。
「涙をこらえて笑顔で送り出してねっておっしゃったわ。あのときの笑顔、忘れられない」
「ほんと…いつかまた、こうやって集まりたいって言ってたっけ」
「でも結婚式でルディスが最初に泣いたよね」
「私、もらい泣きしたわ」
少し沈黙が流れかけた時、僕は次の料理を運ぶよう厨房に合図を送った。空気を変えるには、料理の力を借りるのがいちばんだ。
次に出されたメイン料理二つ目は、上位オーク肉のソテー。下処理が難しいとされるこの肉を、僕は特製の塩麹で柔らかくし、香草と茸のソースで仕上げた。
「これは…あのオーク肉? うそでしょう?」
「まるで高級牛みたいな味わいね」
みんなが目を丸くしながらも、上品にナイフを入れていく。噛めば噛むほど旨味が広がり、テーブルの感嘆が止まらなかった。
「リョウ君、本当に七歳なの…?」
誰かがぽつりとつぶやく。僕は照れくさく笑って、そっと答えた。
「料理には年齢なんて関係ないの」
そうして、夜の帳がさらに深くなる頃、最後の一皿――果実のジェラートが出された。
凍らせた季節の果物をベースに、魔法布でなめらかに冷却し、自然な甘味を閉じ込めた一品。見た目はまるで宝石のようで、口に運ぶとひんやりと優しく、そしてどこか懐かしい。
「これは……ルディス様と買いに行った果実だわ」
「ええ、懐かしいわね……まるで、あの方がここにいるみたい」
空気がしんと澄み、誰かが小さく言った。
「派閥のことなんて今日は忘れましょう。私たちは、ルディス様の友達なのだから」
「…うん、そうね。あの人がいた頃は、こうして笑って過ごしてた」
「久しぶりに、心から笑えたわ」
「そうだな。心から笑える友達だったものな、俺たち」
「ほんとそうだ」
ふと、誰かが歌い出した。
それは、ルディス姫の結婚式で歌った歌。みなで一緒に曲を作り、必死で稽古して歌った歌。そしてこの友達達で歌った大切な歌。
誰かが口ずさむと、他の者たちも自然と声を合わせていく。最後は全員が、小さな合唱隊のように、穏やかな歌声を重ねた。
歌い終わる頃には、みんなの目に涙が光っていた。けれど、そのどれもが笑顔に包まれていた。
「また…集まりましょうね」
「リョウエスト君、今日の料理は本当に素晴らしかったわ」
「最高だった。ここは贔屓にする」
「美味しかった。涙が出るほどな」
「ありがとう。本当に、ありがとう」
ひとり、またひとりと店を後にする。帰り際それぞれが僕の手を取り、小さな声で「また来るね」と言ってくれた。
僕は深くお辞儀をして、見送った。
扉が閉まり静寂が戻った店内。
テーブルの上に残されたグラスと、歌声の余韻。ルディス姫の不在が、確かに皆を結びつけた。料理は心の距離を埋める力を持っていると、僕は信じている。
今夜はその証明ができた。
そしていつかまた。ルディス姫が戻ってくるその日まで、この味と記憶がみんなの中に残っていればいいと、僕は願った。
「ルディス様が王国にいらした頃は、よくこの季節に一緒に出かけましたわね」
「ええ。まだデビュタント前で」
「ええ、特に市場で果物を選んで回るのが楽しくて…懐かしい」
誰かがそうつぶやくと、テーブルを囲む貴族の若い男女たちは、どこか遠くを見つめた。ドレスの色も派閥も、普段なら互いに距離を置きそうな顔ぶれだが、今夜ばかりは違った。
「皆さま、本日はご来店ありがとうございます。お約束通り、僕が腕をふるうの、ゆっくりしていってください」
恭しく頭を下げると、テーブルの空気がほぐれた。
まずは前菜。厨房から運ばれてきたのは、ミニピザだ。直径10センチほどの可愛らしい円盤の上には、完熟トマトのソースと、とろけるチーズ、そして彩りのバジルが控えめに乗っている。
「まあ、可愛い…」
「こんなに香りの良いの初めてかも」
「そういえば結婚式のメイン料理こんな味だったな」
「ああ。そうだったな」
小さな歓声があがり、一人また一人と口に運ぶ。サクッとした食感に、トマトの酸味とチーズのコクが絶妙で、誰もが思わず笑みをこぼす。
「ルディス様、前こんな味のもの美味しい美味しいって食べてたわね」
「ああ。リョウエスト君が作ったニョッキとか言う料理だったな」
「ええ、あの方は軽い塩味に目がなかったのよ」
すぐにメイン料理の一つ目が登場する。ボンゴレビアンコ。たっぷりのアサリを白ワインで蒸し、香り高いスープと共にパスタに絡めた一品。火の民の協力で手に入れた特製の海塩が旨味を引き立てている。パスタなしのものがコリントとサテラージャで食べられてるんだよね。
「すごい…このパスタ、まるで海辺の味」
「美味いな」
「みなさん。この料理のパスタがないものはコリントでもサテラージャでも食べられています」
僕はそう言う。
「ははは。もしかしたら食べてるかもな」
「意外とルディスって食いしん坊だったよな」
「そうね」
誰からともなく、ルディス姫が旅立つ前の送別会の話題になる。
「涙をこらえて笑顔で送り出してねっておっしゃったわ。あのときの笑顔、忘れられない」
「ほんと…いつかまた、こうやって集まりたいって言ってたっけ」
「でも結婚式でルディスが最初に泣いたよね」
「私、もらい泣きしたわ」
少し沈黙が流れかけた時、僕は次の料理を運ぶよう厨房に合図を送った。空気を変えるには、料理の力を借りるのがいちばんだ。
次に出されたメイン料理二つ目は、上位オーク肉のソテー。下処理が難しいとされるこの肉を、僕は特製の塩麹で柔らかくし、香草と茸のソースで仕上げた。
「これは…あのオーク肉? うそでしょう?」
「まるで高級牛みたいな味わいね」
みんなが目を丸くしながらも、上品にナイフを入れていく。噛めば噛むほど旨味が広がり、テーブルの感嘆が止まらなかった。
「リョウ君、本当に七歳なの…?」
誰かがぽつりとつぶやく。僕は照れくさく笑って、そっと答えた。
「料理には年齢なんて関係ないの」
そうして、夜の帳がさらに深くなる頃、最後の一皿――果実のジェラートが出された。
凍らせた季節の果物をベースに、魔法布でなめらかに冷却し、自然な甘味を閉じ込めた一品。見た目はまるで宝石のようで、口に運ぶとひんやりと優しく、そしてどこか懐かしい。
「これは……ルディス様と買いに行った果実だわ」
「ええ、懐かしいわね……まるで、あの方がここにいるみたい」
空気がしんと澄み、誰かが小さく言った。
「派閥のことなんて今日は忘れましょう。私たちは、ルディス様の友達なのだから」
「…うん、そうね。あの人がいた頃は、こうして笑って過ごしてた」
「久しぶりに、心から笑えたわ」
「そうだな。心から笑える友達だったものな、俺たち」
「ほんとそうだ」
ふと、誰かが歌い出した。
それは、ルディス姫の結婚式で歌った歌。みなで一緒に曲を作り、必死で稽古して歌った歌。そしてこの友達達で歌った大切な歌。
誰かが口ずさむと、他の者たちも自然と声を合わせていく。最後は全員が、小さな合唱隊のように、穏やかな歌声を重ねた。
歌い終わる頃には、みんなの目に涙が光っていた。けれど、そのどれもが笑顔に包まれていた。
「また…集まりましょうね」
「リョウエスト君、今日の料理は本当に素晴らしかったわ」
「最高だった。ここは贔屓にする」
「美味しかった。涙が出るほどな」
「ありがとう。本当に、ありがとう」
ひとり、またひとりと店を後にする。帰り際それぞれが僕の手を取り、小さな声で「また来るね」と言ってくれた。
僕は深くお辞儀をして、見送った。
扉が閉まり静寂が戻った店内。
テーブルの上に残されたグラスと、歌声の余韻。ルディス姫の不在が、確かに皆を結びつけた。料理は心の距離を埋める力を持っていると、僕は信じている。
今夜はその証明ができた。
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