【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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7歳の駈歩。

スクワンジャー公爵の夜会にて。

 社交シーズンも半ばを過ぎたある晩、僕はストークとミザーリに手伝ってもらいながら夜会服を整えていた。今夜はスクワンジャー公爵家の夜会だ。豪奢な公爵邸の広間には、既に煌びやかな衣装を身にまとった貴族たちが集まり、音楽と香の漂う空気に包まれていた。

 公爵令嬢のマリーダさんと、ゼローキア侯爵家のメリンさんが僕に声をかけてくれたのは、招待客が落ち着きはじめたころだった。

「リョウエスト君、ようこそお越しくださいました」 

 マリーダさんは花模様のドレスをひらりと揺らして、品よくお辞儀した。彼女は僕の兄、ストラ兄さんと同じ王立学園に通う才女だ。

「実は、リョウエスト君にお話したいことがありまして」

 隣のメリンさんがそっと続けた。メリンさんはしっかり者で、誰にでも対等に接する気さくな貴族令嬢。けれど、マリーダさんと一緒にいるときは、少しだけ乙女らしくなるような気がする。

 二人の目がふと柔らかくなった。

「ストラのことなんです」

 予想はしていた。というより、ほんの少し意地悪に、そういう話を聞けるかもと思っていたのだ。僕はうなずいて答える。

「ストラ兄さんのことだったら、僕にできることなら何でも」
「最近のストラは、ますます社交的で皆から頼られています。困っている同級生がいると、すぐに気づいて声をかけてくれるんです」
「そうなの。周りに構いすぎると私たちが思うほどにね」
「でもそれがストラの良いところじゃないかしら」
「そうよね。悔しいけど」
「授業も、すべて優秀な成績で…本当に素敵な人ですね」
「私たちに相変わらず家庭教師してくれてるわ。面と向かってはちょっとと思うけどお礼言っといてもらえるかしら」

 二人の頬が赤らんでいるのが見えた。特にマリーダさんの声はほんの少しだけ震えていた。もしかしてやっぱりストラ兄さんのことを。いや、ここは黙っておくのが礼儀だろう。

 そのあと、マリーダさんが少し申し訳なさそうに話を続けた。

「去年の長期休みに、ルステインに伺う約束をしていたのですが、どうしても家の事情で叶いませんでした。お会いしたかったのに…ごめんなさい」
「ごめんなさい。私もいけなかった。あとでミシェレルにも謝っておくわ」
「僕も残念だったの。でも、またいつか来てください。そのときはお料理やお菓子をたくさん作って待っています」

 二人はほっとしたように顔を見合わせて、柔らかく笑った。その笑顔にストラ兄さんの人柄がどれだけ人の心に触れているのかを感じた。僕の兄さんたちは本当にすごい。
 マリーダさんとメリンさんとお話を終えて軽くお辞儀をすると、後ろから穏やかな声がかかった。

「リョウエスト君。久しぶりだね」

 振り向くと、落ち着いた色の礼装に身を包んだ紳士が立っていた。ロイック兄さんの奥さんの一人マリカ姉さんのお父さんマリエンティ伯爵だった。僕は慌てて頭を下げる。

「お久しぶりです、伯爵様!」
「うむ。こんなに大きくなって…いや、前に会ったときも思ったが、やはり君は実に聡明だ」

 少し照れくさいが、伯爵様は僕に優しくて言葉の一つひとつに温かみがある。スサン三兄弟のマニアだからって事だけじゃないよな。

「実は、少し君に伝えておきたいことがあってね」

 僕が頷くと、伯爵は周囲に人の少ない壁際に僕を連れていって、声を落とした。

「リョウエスト君。前の話を覚えていると思うが、我が国からミッソリーナ王国への親善使節団を再び送る事となった。そこで、ミッソリーナ国からの要望でリョウエスト君をぜひという声がまたあってね。リョウエスト君派遣論が省庁内で強まっている。君が派遣されれば、きっと良い印象を与えると信じられていてね、どうしようかと思ってるんだ」

 伯爵の声は穏やかだったが、言葉の重さは感じ取れた。

「…まだ子どもです。それにミッソリーナとは色々あったから…」

 僕は正直にそう答えた。だけど伯爵は優しく笑った。

「そうだろうが、今後の為にも少し考えて見てくれるかな。私個人が思うに君が子どもであることは、むしろ強みだ。相手国にも若い王子がいるし、柔らかな印象を持ってもらいやすい。君の料理の腕前と発想力も、異国では強い武器になる。ミッソリーナ国には嫌な印象があると思うがそういう外交をこなす事は君にとってプラスの事も多い。外務大臣や官僚がなんと言おうと私は君が行くとしたら万全の体制をとらせる事を約束しよう」

 僕はうつむいた。確かにそういう風に言われると行きたい気持ちも少しある。でも…僕は家族と一緒にいたい。お父さんとも、お母さんとも、まだまだ一緒にいたいんだ。

 だけど、王都にいる今、自分の立場も、少しずつだけど分かってきた。

「お父さんやお兄さんたちにも、相談してみます」

 僕がそう言うと、伯爵はゆっくりと頷いた。

「ありがとう。それで十分だ。無理にとは言わない。君が決めることだからね」

 僕は深くお辞儀をした。

「はい」

 そのあと、夜会はさらに盛り上がり、音楽が華やかに響き始めた。ダンスの時間が始まったらしい。マリーダさんとメリンさんが少し離れたところで、目を輝かせながらこちらを見ていた。いや、ダンスできないのでごめんなさい。

 公爵邸の大広間には光が満ちていて、たくさんの笑顔があった。だけど僕の心には、ちょっとだけ重たい風が吹いていた。
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