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7歳の駈歩。
今年の僕主催の昼食会。
今年の社交シーズンも僕が主催する上級貴族の昼食会が王宮の小ホールにて今開催されることになった。招かれたのは伯爵家以上の40家の当主ご夫妻。昼食会というよりも、種族や派閥の境界を一時だけでも越える静かな昼餐となるはず。思いがけずそんなイベントを開催する事になって僕もびっくりだけど頑張っていきたいと思う。
今年の特別なゲストは、王妃様と、去年に引き続き先王陛下ご夫妻。3人とも僕のことをいつも気にかけてくださっている。王妃様はお会いするたびに笑顔を見せてくれるし、先王陛下は僕の作ったデザートを気に入ってくれて、何度も厨房に顔を出してくれたことがある。
会場は、淡い金色の燭台が揺らめく静かな空間。僕は今日のために、厨房の皆さんと試作を重ねた。厨房の皆さんには僕が給料払ったよ。これは僕主催の昼食会だからね。
前菜は、鮮魚のタルタルと香草のフレンチドレッシングを添えた小皿。スープは、冬野菜と鶏だしを丁寧に煮込んだ『ルステイン田園スープ』。魚料理は、岩塩で包んで焼いた白身魚に、柑橘のソース。肉料理は、熟成アバーン肉の赤ワイン煮。氷菓は、季節の柑橘と蜂蜜のグラニテ。メインには、鴨のロースト。デザートには、僕の自信作、林檎とハチミツのミルフィーユ。
食事が始まると、貴族たちはまず料理に口をつけ、次第に静かに談笑を交わし始めた。
「今年のスープは昨年よりも優しい味ですね」
「それでいて芯が通っている。あの子らしい」
そんな声が耳に届き、僕は調理場の扉越しに、そっと肩の力を抜いた。
けれど、そこはやはり一筋縄ではいかない。
一つ、また一つと皿が下げられるうちに、テーブルのあちらこちらで空気が張り詰めていくのがわかる。話題が政治や領地の収穫、王都での取り決めなどに移ると、自然と派閥ごとの色が出てしまうのだ。
ゼローキア侯爵家の当主夫人が、今年の税制について一言述べると、すかさず隣席の伯爵夫人が反論を返す。その話題が波紋のように広がり、スクワンジャー公爵家とエフェルト公爵家の家臣筋にも飛び火しかけた。
僕はテーブルを見回して、眉をひそめた。このまま喧嘩が始まるのかな。けれど、そこに重厚な声が場を静めた。
「この場で話すことではなかろう。我らは料理を味わいに来たのだ。違うか?」
エフェルト公爵だった。さすが美食家三人衆の一人。続いてスクワンジャー公爵が静かにうなずき、ゼローキア侯爵も口を結ぶ。その一言で、空気が変わった。まるで、ずっと待っていた指揮者の合図のように。
王妃様がくすりと笑い、先王陛下も「よい働きぶりだな」とつぶやいたのが聞こえた。
僕は厨房の隅で、こっそりガッツポーズをした。貴族たちは料理を楽しむべきであり、そのために僕は今日ここにいるのだ。
最後のデザートが配られる頃には、場の空気は落ち着いていた。
「このミルフィーユ、りんごが香り高いな。まるで秋を閉じ込めたようだ」
「食べると、子どもの頃を思い出しますね。私も厨房に立ったことがあったのですよ」
そんな声があちこちから聞こえてきて、僕はうれしくなった。料理が人の心をほどくことを、僕は何度も経験してきた。そして今日も、派閥を越えた言葉がいくつも飛び交っていた。
テーブルを回って話をすると色んな感想を聞けた。概ね今年も良かったと言う話だった。各種族の自治領主達にこの後時間をとってくれと言われたので快諾した。どんな話が行われるのであろうか。
食事の終わり、僕は皆の前に出て、深くお辞儀をした。
「本日は、僕の料理を召し上がってくださり、ありがとうございました。派閥の違いはあれど、同じ王国を愛する者同士、今後ともよろしくお願いします」
拍手が湧き、王妃様が優しく微笑んでくださった。
「今年も素晴らしい宴でしたね。リョウ」
「まったくだ。年々成長しているな」
と、先王陛下も。
「君の料理が、今日の場を救ったのだ。ありがとう、リョウエスト君」
エフェルト公爵がそう言う。
僕は胸の奥がじんと熱くなるのを感じながら、静かに返した。
「僕は王国の料理番ですから」
王妃様と先王陛下ご夫妻は侍従に付き添われて、静かに退出される。王妃様は僕の肩にそっと手を添え、「また王妃のお茶会でも、ぜひお願いね」と優しく言ってくださった。
僕は深く頭を下げてお見送りした。すると、後ろからエフェルト公爵が近づいてきて、目線を合わせるように膝を折るようにしゃがんで言った。
「本当によくやってくれたな、リョウエスト君」
「ありがとうございます、公爵閣下。アバーン肉は特に力を入れました。臭みを消すために牛乳に漬ける時間を少し長くしたんです」
「料理一つで宝にもなるのだな」
公爵は目を細めて笑い、そう言って立ち上がる。続いてスクワンジャー公爵が肩を叩きに来て、「あの氷菓、我が妻が絶賛しておったよ」と照れ臭そうに耳打ちしてくれた。
ゼローキア侯爵も、背筋を伸ばして口を開く。
「派閥の対立は避けがたいものだが、お前のような者が中央にいることが救いだ。料理だけでなく、立ち居振る舞いも見事だった」
僕はただ「恐縮です」と繰り返すしかなかったけど、その言葉がじんわり胸に沁みて、少しだけ背筋が伸びた気がした。
ホールが静まり返り、皿の片づけが始まる頃、僕は一度だけ会場を見回した。派閥に分かれていても、今夜だけはひとつのテーブルを囲んだ仲間だった。その中心に自分の料理があったことを思い、僕はそっと胸に手を当てる。
「また来年も、やろう」
今年の特別なゲストは、王妃様と、去年に引き続き先王陛下ご夫妻。3人とも僕のことをいつも気にかけてくださっている。王妃様はお会いするたびに笑顔を見せてくれるし、先王陛下は僕の作ったデザートを気に入ってくれて、何度も厨房に顔を出してくれたことがある。
会場は、淡い金色の燭台が揺らめく静かな空間。僕は今日のために、厨房の皆さんと試作を重ねた。厨房の皆さんには僕が給料払ったよ。これは僕主催の昼食会だからね。
前菜は、鮮魚のタルタルと香草のフレンチドレッシングを添えた小皿。スープは、冬野菜と鶏だしを丁寧に煮込んだ『ルステイン田園スープ』。魚料理は、岩塩で包んで焼いた白身魚に、柑橘のソース。肉料理は、熟成アバーン肉の赤ワイン煮。氷菓は、季節の柑橘と蜂蜜のグラニテ。メインには、鴨のロースト。デザートには、僕の自信作、林檎とハチミツのミルフィーユ。
食事が始まると、貴族たちはまず料理に口をつけ、次第に静かに談笑を交わし始めた。
「今年のスープは昨年よりも優しい味ですね」
「それでいて芯が通っている。あの子らしい」
そんな声が耳に届き、僕は調理場の扉越しに、そっと肩の力を抜いた。
けれど、そこはやはり一筋縄ではいかない。
一つ、また一つと皿が下げられるうちに、テーブルのあちらこちらで空気が張り詰めていくのがわかる。話題が政治や領地の収穫、王都での取り決めなどに移ると、自然と派閥ごとの色が出てしまうのだ。
ゼローキア侯爵家の当主夫人が、今年の税制について一言述べると、すかさず隣席の伯爵夫人が反論を返す。その話題が波紋のように広がり、スクワンジャー公爵家とエフェルト公爵家の家臣筋にも飛び火しかけた。
僕はテーブルを見回して、眉をひそめた。このまま喧嘩が始まるのかな。けれど、そこに重厚な声が場を静めた。
「この場で話すことではなかろう。我らは料理を味わいに来たのだ。違うか?」
エフェルト公爵だった。さすが美食家三人衆の一人。続いてスクワンジャー公爵が静かにうなずき、ゼローキア侯爵も口を結ぶ。その一言で、空気が変わった。まるで、ずっと待っていた指揮者の合図のように。
王妃様がくすりと笑い、先王陛下も「よい働きぶりだな」とつぶやいたのが聞こえた。
僕は厨房の隅で、こっそりガッツポーズをした。貴族たちは料理を楽しむべきであり、そのために僕は今日ここにいるのだ。
最後のデザートが配られる頃には、場の空気は落ち着いていた。
「このミルフィーユ、りんごが香り高いな。まるで秋を閉じ込めたようだ」
「食べると、子どもの頃を思い出しますね。私も厨房に立ったことがあったのですよ」
そんな声があちこちから聞こえてきて、僕はうれしくなった。料理が人の心をほどくことを、僕は何度も経験してきた。そして今日も、派閥を越えた言葉がいくつも飛び交っていた。
テーブルを回って話をすると色んな感想を聞けた。概ね今年も良かったと言う話だった。各種族の自治領主達にこの後時間をとってくれと言われたので快諾した。どんな話が行われるのであろうか。
食事の終わり、僕は皆の前に出て、深くお辞儀をした。
「本日は、僕の料理を召し上がってくださり、ありがとうございました。派閥の違いはあれど、同じ王国を愛する者同士、今後ともよろしくお願いします」
拍手が湧き、王妃様が優しく微笑んでくださった。
「今年も素晴らしい宴でしたね。リョウ」
「まったくだ。年々成長しているな」
と、先王陛下も。
「君の料理が、今日の場を救ったのだ。ありがとう、リョウエスト君」
エフェルト公爵がそう言う。
僕は胸の奥がじんと熱くなるのを感じながら、静かに返した。
「僕は王国の料理番ですから」
王妃様と先王陛下ご夫妻は侍従に付き添われて、静かに退出される。王妃様は僕の肩にそっと手を添え、「また王妃のお茶会でも、ぜひお願いね」と優しく言ってくださった。
僕は深く頭を下げてお見送りした。すると、後ろからエフェルト公爵が近づいてきて、目線を合わせるように膝を折るようにしゃがんで言った。
「本当によくやってくれたな、リョウエスト君」
「ありがとうございます、公爵閣下。アバーン肉は特に力を入れました。臭みを消すために牛乳に漬ける時間を少し長くしたんです」
「料理一つで宝にもなるのだな」
公爵は目を細めて笑い、そう言って立ち上がる。続いてスクワンジャー公爵が肩を叩きに来て、「あの氷菓、我が妻が絶賛しておったよ」と照れ臭そうに耳打ちしてくれた。
ゼローキア侯爵も、背筋を伸ばして口を開く。
「派閥の対立は避けがたいものだが、お前のような者が中央にいることが救いだ。料理だけでなく、立ち居振る舞いも見事だった」
僕はただ「恐縮です」と繰り返すしかなかったけど、その言葉がじんわり胸に沁みて、少しだけ背筋が伸びた気がした。
ホールが静まり返り、皿の片づけが始まる頃、僕は一度だけ会場を見回した。派閥に分かれていても、今夜だけはひとつのテーブルを囲んだ仲間だった。その中心に自分の料理があったことを思い、僕はそっと胸に手を当てる。
「また来年も、やろう」
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