337 / 806
7歳の駈歩。
これからの歩みと約束。
王宮の小会議室は、食事会の華やかさから一転し、厳かな雰囲気に包まれていた。壁の装飾ランプは光を落とし、厚い木製の扉が静かに閉ざされる。そこに揃ったのは、王国に暮らす六種族の自治領主たち…地精伯、風精伯、火の民伯、水竜人伯、小人伯、そして獣人伯だった。僕、リョウエスト・スサンも同席する。
最前列には、誇り高い風格の地精伯が腰かけ、斧の紋章が刻まれた重厚な装束を身につけている。風精伯は柔らかい笑顔で詩的な目線を投げかけ、火の民伯は尾を端正に折りたたみながら瞳に灯を宿している。水竜人伯と小人伯は、共に長椅子の端に控えめに座りながらも、目は真剣であった。獣人伯は強靭な体躯ながらも穏やかな空気をまとっていた。
「さて…」
と水竜人伯が始めた。彼の声は低く、でもすべてを包み込むようだった。
「我々は過去、領土を巡る争いや資源の確保をめぐり、様々な対立を重ねてきました。しかしこの王国はもうそうした時代じゃないと感じます」
一瞬の沈黙の後、各伯爵が頷いた。
地精伯が槌を軽く床に打ち
「融和の時代は、まさにいまここからだ」
と宣言する。風精伯は
「風も土も火も水も光も闇も、すべて互いを支えるためにあると、天啓が示された」
と語る。静かにだが、各種族の長は僕の目を見据えて言葉を紡ぎ続けた。火の民伯は
「我らの諍いの時代はもう終わりだ」
と言った。水竜人伯は、地面を指差しながら
「土地の命は、互いの信頼の上で復活する」
と力強く告げた。小人伯は
「小さな手でも、大きなことを成すという証を、我々は見せられた」
と笑い、獣人伯爵は低く
「力を誇示せず、共に歩む。それが我らの誇りである」
と静かに言った。
僕は深い敬意を込めて立ち上がった。
「みなさま…ありがと。僕は異種族の友人たちとともに、新しい技術や文化を形にしてきた。だけど、その背景には…みなさま一人ひとりの信頼と協力があった。今日ここで語られる融和の未来、それを僕も心から信じてる」
全員が頷き、目を閉じていた。穏やかで、しかし力強い合意の瞬間だった。
僕は静かに席に戻り、発言を促す意味で口火を切った。
「少しだけ、僕の開発した製品について…感想やご意見をお聞きしたい」
最初に口を開いたのは地精伯。頑固一徹な顔ではあるが、その瞳の奥には温かさがある。
「なんといってもウイスキーだろ。あれは我が種族の一番の酒になりうる。缶詰は我々のように坑道で遠くの資材と共に生きる者にとって命綱とも言える保存技術じゃ。あれが軍にも民にも渡されれば、日々の安全が格段に上がる」
次に、鮮やかな緑の装いの風精伯が手を掲げる。
「僕の群れは森と一体です。だが最近、森の果実と香料を保存できる術を懸念しておりました。リップクリームや口紅など自然の香りを長く楽しめるようになったのは、文化交流の意味でも素晴らしい一歩です」
火の民伯爵は静かに微笑みながら言った。
「我らが輸送の護衛を担うにあたり、保存性と天候の変化は大きな課題だった。君の製品の防水布は水にも強く湿気にも耐える。我らがより安全に運ぶための技術だ」
水竜人伯はさらに興奮気味に付け加えた。
「蒸留器により製造された酒と甜菜糖。我らの地下の水と相性がいい。将来的には、王都と自治領の名産として、ブランド化も可能だ」
小人伯の声は笑いを含んでいた。
「小さな手でも扱える甘味と化粧品の道具……村でも農夫の妻でもお洒落が楽しめるようになる。貴族だけでなく、皆が笑顔になるのは嬉しいことだ。あとはライフジャケットで遊ぶやつが増えたなあ」
最後に、獣人伯が深くうなずいた。
「オーク肉のソテーも、アバーン肉の活用も……我らの世界では忌避されていたが、君はそれさえも宝に変えた。異を排すのではなく、料理と技術で昇華する。これ以上の和解があるだろうか」
言葉がひととおり終わると、会議室に温かな空気が満ちた。僕はひとたび立ち上がり、深く一礼する。
「みなさま、ありがと。教えていただいた信頼を胸に、これからも技術と文化を形にしていくの。缶詰、蒸留器、甜菜糖や化粧品。どれひとつとして、僕の力だけではありません。みなさまと共に築いたものです」
地精伯は大きくうなずいて
「これからは建設する工房にもこの技術達を入れてやる」
と言ってくれた。風精伯は
「森との調和を第一に、次の植物製品をともに開発しよう」
と提案し、火の民伯は
「輸送ルートの安全確保に協力しよう」
と申し出てくれた。水竜人伯は胸を張って
「海と川を結ぶ新ルートも青写真に入れている」
と話し、小人伯は
「各村に小さなワークショップを建て技術者を育てる計画を支援する」
と言った。そして獣人伯は僕の手を強く握って、
「君が開いた道を我らは歩き、守り、次世代につなげよう」
と笑った。
僕はじんわりと胸が熱くなるのを感じながら、深く頭を下げた。
「どうか、よろしくお願いします」
六人の領主の目が優しく揃った。そこにはかたく、しかし確かな約束が宿っていた。
王宮の小会議室に残されたのは、もう以前のような緊張ではなく、未来への信頼と連携の空気だった。小さな少年が提案し、紡ぎ始めた和平の歴史が、いま、確かな歩みとなって発信された日だった。
最前列には、誇り高い風格の地精伯が腰かけ、斧の紋章が刻まれた重厚な装束を身につけている。風精伯は柔らかい笑顔で詩的な目線を投げかけ、火の民伯は尾を端正に折りたたみながら瞳に灯を宿している。水竜人伯と小人伯は、共に長椅子の端に控えめに座りながらも、目は真剣であった。獣人伯は強靭な体躯ながらも穏やかな空気をまとっていた。
「さて…」
と水竜人伯が始めた。彼の声は低く、でもすべてを包み込むようだった。
「我々は過去、領土を巡る争いや資源の確保をめぐり、様々な対立を重ねてきました。しかしこの王国はもうそうした時代じゃないと感じます」
一瞬の沈黙の後、各伯爵が頷いた。
地精伯が槌を軽く床に打ち
「融和の時代は、まさにいまここからだ」
と宣言する。風精伯は
「風も土も火も水も光も闇も、すべて互いを支えるためにあると、天啓が示された」
と語る。静かにだが、各種族の長は僕の目を見据えて言葉を紡ぎ続けた。火の民伯は
「我らの諍いの時代はもう終わりだ」
と言った。水竜人伯は、地面を指差しながら
「土地の命は、互いの信頼の上で復活する」
と力強く告げた。小人伯は
「小さな手でも、大きなことを成すという証を、我々は見せられた」
と笑い、獣人伯爵は低く
「力を誇示せず、共に歩む。それが我らの誇りである」
と静かに言った。
僕は深い敬意を込めて立ち上がった。
「みなさま…ありがと。僕は異種族の友人たちとともに、新しい技術や文化を形にしてきた。だけど、その背景には…みなさま一人ひとりの信頼と協力があった。今日ここで語られる融和の未来、それを僕も心から信じてる」
全員が頷き、目を閉じていた。穏やかで、しかし力強い合意の瞬間だった。
僕は静かに席に戻り、発言を促す意味で口火を切った。
「少しだけ、僕の開発した製品について…感想やご意見をお聞きしたい」
最初に口を開いたのは地精伯。頑固一徹な顔ではあるが、その瞳の奥には温かさがある。
「なんといってもウイスキーだろ。あれは我が種族の一番の酒になりうる。缶詰は我々のように坑道で遠くの資材と共に生きる者にとって命綱とも言える保存技術じゃ。あれが軍にも民にも渡されれば、日々の安全が格段に上がる」
次に、鮮やかな緑の装いの風精伯が手を掲げる。
「僕の群れは森と一体です。だが最近、森の果実と香料を保存できる術を懸念しておりました。リップクリームや口紅など自然の香りを長く楽しめるようになったのは、文化交流の意味でも素晴らしい一歩です」
火の民伯爵は静かに微笑みながら言った。
「我らが輸送の護衛を担うにあたり、保存性と天候の変化は大きな課題だった。君の製品の防水布は水にも強く湿気にも耐える。我らがより安全に運ぶための技術だ」
水竜人伯はさらに興奮気味に付け加えた。
「蒸留器により製造された酒と甜菜糖。我らの地下の水と相性がいい。将来的には、王都と自治領の名産として、ブランド化も可能だ」
小人伯の声は笑いを含んでいた。
「小さな手でも扱える甘味と化粧品の道具……村でも農夫の妻でもお洒落が楽しめるようになる。貴族だけでなく、皆が笑顔になるのは嬉しいことだ。あとはライフジャケットで遊ぶやつが増えたなあ」
最後に、獣人伯が深くうなずいた。
「オーク肉のソテーも、アバーン肉の活用も……我らの世界では忌避されていたが、君はそれさえも宝に変えた。異を排すのではなく、料理と技術で昇華する。これ以上の和解があるだろうか」
言葉がひととおり終わると、会議室に温かな空気が満ちた。僕はひとたび立ち上がり、深く一礼する。
「みなさま、ありがと。教えていただいた信頼を胸に、これからも技術と文化を形にしていくの。缶詰、蒸留器、甜菜糖や化粧品。どれひとつとして、僕の力だけではありません。みなさまと共に築いたものです」
地精伯は大きくうなずいて
「これからは建設する工房にもこの技術達を入れてやる」
と言ってくれた。風精伯は
「森との調和を第一に、次の植物製品をともに開発しよう」
と提案し、火の民伯は
「輸送ルートの安全確保に協力しよう」
と申し出てくれた。水竜人伯は胸を張って
「海と川を結ぶ新ルートも青写真に入れている」
と話し、小人伯は
「各村に小さなワークショップを建て技術者を育てる計画を支援する」
と言った。そして獣人伯は僕の手を強く握って、
「君が開いた道を我らは歩き、守り、次世代につなげよう」
と笑った。
僕はじんわりと胸が熱くなるのを感じながら、深く頭を下げた。
「どうか、よろしくお願いします」
六人の領主の目が優しく揃った。そこにはかたく、しかし確かな約束が宿っていた。
王宮の小会議室に残されたのは、もう以前のような緊張ではなく、未来への信頼と連携の空気だった。小さな少年が提案し、紡ぎ始めた和平の歴史が、いま、確かな歩みとなって発信された日だった。
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~
夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する!
農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。
逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。
これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…