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7歳の駈歩。
閑話・新たな香りの始まり。
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王都から西へ、わずか半日。
小高い丘と川が交わる場所に、巨大な杭が次々と打ち込まれていた。
「ここに、ウイスキーの蒸留所を?」
ヒト族の設計士が、広げた設計図を指差しながらリョウエストに確認を取る。
リョウエスト・スサンは深くうなずいた。
「そう。この水質なら、きっといいものが作れる。しかも王都への輸送も楽。木材と石材、どちらも近くで調達できるし、風通しもいい。ここが最適だと思ったの」
設計士は頷きながら、近くで地面の強度を確認しているドワーフの職長に声をかける。
「職長、地盤はどうだい?」
「文句なしだ。これなら三百年建っても傾かねぇ」
その一言で、全体の気配が一気に引き締まる。
火の民と獣人は石材を運び、小人たちは整地作業に取り掛かる。
水竜人たちは丘の下の川に入り、導水路の可能性を探っていた。
「主よ、ウイスキーってどうやって作るのです?」
そう尋ねたのはミザーリ。土を払いながら、リョウエストの隣に腰を下ろす。
リョウエストはにこりと笑い、懐から簡単な図を描いたノートを取り出した。
「発酵させた麦汁を蒸留するの。そうすると、アルコールが強くて香りのいい液体ができる。寝かせておくと、味が深くなる」
「寝かせるって……?」
「樽に入れて、何年も、時には十年、二十年って待つの。そうすると色も香りも変わってすごくまろやかになる」
ミザーリは驚いた顔をしたが、次にふっと笑って言った。
「つまりこの丘で『未来の味』を作るんですね」
「うん。十年後の未来を今から育てる。すごく素敵でしょ?」
リョウエストの声には、子どもらしい喜びと、職人らしい責任感が同居していた。
こうして、未来へと続く『琥珀色の夢』が、静かに幕を開けた。
蒸留所の建設は、日を追うごとに目に見えて進んでいった。
まず立ち上がったのは高さ20メートルに及ぶ『蒸留塔』。塔の中には、リョウエストとドワーフたちが設計した巨大な銅製のポットスチル(蒸留器)が設置された。耐熱加工を施し、制御する魔法道具によって蒸留温度を一定に保てるようになっている。
「この大きさで、一度に500リットルか……」
工房棟のバルコニーから見下ろしながら、リョウエストは誇らしげに呟いた。
工房内部では、エルフと小人たちが木製の熟成樽を仕上げていた。上質なオーク材を使い、独自の焼き入れによって香りを調整するという。若きエルフ職人は、リョウエストに焼き具合の違いを説明してくれた。
「深く焼くと、香ばしく重い香りになる。浅いと甘さが際立つ。寝かせる年数も影響するけれど、素材と焼きの技術で『予言』できるんだ」
リョウエストは真剣な顔で頷き、エルフ職人と焼き入れレベルごとに棚を分けるよう指示した。
一方、火の民たちは地熱を利用した乾燥小屋を組み立てていた。麦やトウモロコシなどの原料を湿気なく保存できるようにし、麹菌や酵母の育成にも対応した、実に多機能な建物である。
「水を扱うなら我らの出番だ」
水竜人の職人たちは、蒸留塔から熟成蔵へと続く冷却水の循環系統を設置していた。地下水脈を調べ井戸と小型の水の魔法道具を配置。水温の安定が品質を左右するため、最も慎重な作業となった。
獣人たちはというと広い敷地のあちこちを走り回っていた。材木の運搬、道具の整備、誘導灯の設置、草原の整地まで…実に器用で力強い彼らの働きで現場は整然と進行していく。
「まるで小さな王国のようだな」
そう呟いたのは現場を訪れたマクシミリアン伯爵だった。リョウエストの発明と調整に加え異種族の技術と誇りが結集していたからこそ、驚異的な速度で進んでいるのだ。
「マックスさん。これは『種族の王国』じゃないの。『未来の味の工房』」
リョウエストはにっこり笑いながら工房棟の扉を押し開けた。そこには初回製造に向けて準備された糖化槽や発酵槽試験用の小型蒸留機が整然と並び陽光を浴びて金属の輝きを放っていた。
「まずは最初の一滴。そこからが本当の始まりなの」
春の風が優しく吹くある朝、蒸留所はついに稼働の日を迎えた。
工房の中心にそびえる銅製のポットスチルが魔法炉の熱を受けて静かに唸りを上げる。発酵を終えた麦汁が、蒸気とともに香ばしい香りを放ち始めた。緊張の面持ちで見守る人々の前に、やがて最初の透明な液体が蛇口から滴り落ちる。
「…出た!」
リョウエストの声が響いた。その瞬間職人たちが歓声を上げ火の民の職長が腕を組んで頷く。ドワーフの職長はひげをなでて笑いヒト族の設計士は目を細めて呟いた。
「これが未来の味か」
蒸留されたばかりのウイスキーは、まだ若く荒々しい。しかしその香りと滑らかな舌触りにすでに可能性が見えていた。リョウエストは小さな銀のカップを取り出し、数滴を注いで持ち上げた。
「これは皆で作った一滴。皆さんと、未来と、乾杯」
王都から駆けつけていたロイック兄さん、ストラ兄さん、そして父のハッセルエンもそれぞれのグラスで応じた。
「乾杯!」
数日後、この初蒸留の報告は王都へ届けられた。リョウエストの直筆の報告書とともに、試作品の瓶も添えられた。
王城では、王様、王妃様、第一王子ウルリッヒ様、第二王子ルマーニ様、宰相や各閣僚たちが会議室に集まり、興味深く蒸留酒の瓶を見つめていた。
「これが…本格的に醸造所で造られた『ウイスキー』か」
王は静かに瓶を開け、香りを確かめると、目を見開いた。
「深い…これはただの酒ではない。職人技の集大成だ。リョウエストはこの製法を王国に委ねるというのか?」
会議室に沈黙が広がった。やがて、王妃が静かに言った。
「利権を独占せず、皆で享受できるように…あの子は本当に、恐ろしいほどに『王国の未来』を見ているのね」
王はにこりと笑った。
「ドワーフ達の件もあるかもしれないが、我らも応えねばなるまい。ウイスキー製造法を国の資産として管理し、地方でも生産できるよう制度を整えよう」
蒸留酒は、やがて王都貴族たちの宴席を彩る逸品となっていく。そして、リョウエストの工房から生まれたその味は、種族と世代を超えて人々を繋げていくことになるのだった。
小高い丘と川が交わる場所に、巨大な杭が次々と打ち込まれていた。
「ここに、ウイスキーの蒸留所を?」
ヒト族の設計士が、広げた設計図を指差しながらリョウエストに確認を取る。
リョウエスト・スサンは深くうなずいた。
「そう。この水質なら、きっといいものが作れる。しかも王都への輸送も楽。木材と石材、どちらも近くで調達できるし、風通しもいい。ここが最適だと思ったの」
設計士は頷きながら、近くで地面の強度を確認しているドワーフの職長に声をかける。
「職長、地盤はどうだい?」
「文句なしだ。これなら三百年建っても傾かねぇ」
その一言で、全体の気配が一気に引き締まる。
火の民と獣人は石材を運び、小人たちは整地作業に取り掛かる。
水竜人たちは丘の下の川に入り、導水路の可能性を探っていた。
「主よ、ウイスキーってどうやって作るのです?」
そう尋ねたのはミザーリ。土を払いながら、リョウエストの隣に腰を下ろす。
リョウエストはにこりと笑い、懐から簡単な図を描いたノートを取り出した。
「発酵させた麦汁を蒸留するの。そうすると、アルコールが強くて香りのいい液体ができる。寝かせておくと、味が深くなる」
「寝かせるって……?」
「樽に入れて、何年も、時には十年、二十年って待つの。そうすると色も香りも変わってすごくまろやかになる」
ミザーリは驚いた顔をしたが、次にふっと笑って言った。
「つまりこの丘で『未来の味』を作るんですね」
「うん。十年後の未来を今から育てる。すごく素敵でしょ?」
リョウエストの声には、子どもらしい喜びと、職人らしい責任感が同居していた。
こうして、未来へと続く『琥珀色の夢』が、静かに幕を開けた。
蒸留所の建設は、日を追うごとに目に見えて進んでいった。
まず立ち上がったのは高さ20メートルに及ぶ『蒸留塔』。塔の中には、リョウエストとドワーフたちが設計した巨大な銅製のポットスチル(蒸留器)が設置された。耐熱加工を施し、制御する魔法道具によって蒸留温度を一定に保てるようになっている。
「この大きさで、一度に500リットルか……」
工房棟のバルコニーから見下ろしながら、リョウエストは誇らしげに呟いた。
工房内部では、エルフと小人たちが木製の熟成樽を仕上げていた。上質なオーク材を使い、独自の焼き入れによって香りを調整するという。若きエルフ職人は、リョウエストに焼き具合の違いを説明してくれた。
「深く焼くと、香ばしく重い香りになる。浅いと甘さが際立つ。寝かせる年数も影響するけれど、素材と焼きの技術で『予言』できるんだ」
リョウエストは真剣な顔で頷き、エルフ職人と焼き入れレベルごとに棚を分けるよう指示した。
一方、火の民たちは地熱を利用した乾燥小屋を組み立てていた。麦やトウモロコシなどの原料を湿気なく保存できるようにし、麹菌や酵母の育成にも対応した、実に多機能な建物である。
「水を扱うなら我らの出番だ」
水竜人の職人たちは、蒸留塔から熟成蔵へと続く冷却水の循環系統を設置していた。地下水脈を調べ井戸と小型の水の魔法道具を配置。水温の安定が品質を左右するため、最も慎重な作業となった。
獣人たちはというと広い敷地のあちこちを走り回っていた。材木の運搬、道具の整備、誘導灯の設置、草原の整地まで…実に器用で力強い彼らの働きで現場は整然と進行していく。
「まるで小さな王国のようだな」
そう呟いたのは現場を訪れたマクシミリアン伯爵だった。リョウエストの発明と調整に加え異種族の技術と誇りが結集していたからこそ、驚異的な速度で進んでいるのだ。
「マックスさん。これは『種族の王国』じゃないの。『未来の味の工房』」
リョウエストはにっこり笑いながら工房棟の扉を押し開けた。そこには初回製造に向けて準備された糖化槽や発酵槽試験用の小型蒸留機が整然と並び陽光を浴びて金属の輝きを放っていた。
「まずは最初の一滴。そこからが本当の始まりなの」
春の風が優しく吹くある朝、蒸留所はついに稼働の日を迎えた。
工房の中心にそびえる銅製のポットスチルが魔法炉の熱を受けて静かに唸りを上げる。発酵を終えた麦汁が、蒸気とともに香ばしい香りを放ち始めた。緊張の面持ちで見守る人々の前に、やがて最初の透明な液体が蛇口から滴り落ちる。
「…出た!」
リョウエストの声が響いた。その瞬間職人たちが歓声を上げ火の民の職長が腕を組んで頷く。ドワーフの職長はひげをなでて笑いヒト族の設計士は目を細めて呟いた。
「これが未来の味か」
蒸留されたばかりのウイスキーは、まだ若く荒々しい。しかしその香りと滑らかな舌触りにすでに可能性が見えていた。リョウエストは小さな銀のカップを取り出し、数滴を注いで持ち上げた。
「これは皆で作った一滴。皆さんと、未来と、乾杯」
王都から駆けつけていたロイック兄さん、ストラ兄さん、そして父のハッセルエンもそれぞれのグラスで応じた。
「乾杯!」
数日後、この初蒸留の報告は王都へ届けられた。リョウエストの直筆の報告書とともに、試作品の瓶も添えられた。
王城では、王様、王妃様、第一王子ウルリッヒ様、第二王子ルマーニ様、宰相や各閣僚たちが会議室に集まり、興味深く蒸留酒の瓶を見つめていた。
「これが…本格的に醸造所で造られた『ウイスキー』か」
王は静かに瓶を開け、香りを確かめると、目を見開いた。
「深い…これはただの酒ではない。職人技の集大成だ。リョウエストはこの製法を王国に委ねるというのか?」
会議室に沈黙が広がった。やがて、王妃が静かに言った。
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王はにこりと笑った。
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