【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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7歳の駈歩。

湯けむりの刻。

 先王陛下と王妃様、そして前スクワンジャー公爵夫妻が、風呂治療のためルステインへいらっしゃる日がやってきた。朝から「安らぎの宿」は静かにけど慌ただしく準備が進んでいた。

 僕も早朝から現地に詰めていた。このために火の民サラマンダーの石工と水竜人ドラコニアンを呼び、仕立てもらった露天の岩風呂や檜の内湯は、前日に最終点検を終え、今朝は湯温の安定や湯気の流れ、香りなど微細な部分まで確認を行った。青の技ブルーアーツたちは従業員に扮して館内の整備と警備に当たり、女将は気配りで室内の湿度と香を整えてくれていた。

 そして――。

「到着されたぞ!」

 誰かの声で、宿全体が一瞬止まり、それから緊張感が広がった。僕は表玄関へと走り、控えていたお爺さんやレウフォ叔父さん達護衛に混じって並んだ。

 そして、豪奢ながらも落ち着きのある馬車から、4人の人が降り立った。

 先王陛下、オシュヴァルト・ロ・コリント様。威厳と慈愛の入り混じったまなざしで渋かっこいい。
 その隣には先王妃様、シェリア・ロ・コリント様。やわらかな笑顔に包まれた、静かな威光をまとった方。今も美しい。

「ようやく来られたな、ルステインへ」

 先王様はゆっくりと歩み寄り、僕に手を伸ばされた。僕はひざまずき、両手でその手を受け取る。

「お帰りなさいませ、先王様。お風呂も料理も準備が整ってるの」
「うむ、楽しみにしておるぞ、我が小さき料理人」
「今日はよろしくね」
「はい。先王妃様」
「いつもがんばってるから素敵だわ」
「ありがとうございます」

 その後ろから、前スクワンジャー公爵夫妻…かつて王弟として大軍を指揮した公爵閣下と、芯の強い品格を持つ夫人が続く。僕は頭を下げて迎え入れた。こちらも旧知の間柄だ。

「また会えたな、リョウエスト君。私たちの骨が鳴くような旅だったが、この空気に触れた途端、軽くなった気がするぞ」
「本当に。今日も楽しみにしてたわ」
「ありがとうございます。今回はお料理させていただくね」
「そうか。まず風呂に入ろう。楽しみだったんだ」

 僕は笑って頷いた。

「この地は、皆様を癒やすためにあるの。だからごゆっくりお過ごしください」


 昼過ぎ、先王陛下たちは部屋で一息つかれたあと、温泉へと向かわれた。男湯と女湯、それぞれに用意された特別室。外からの視線も届かないよう職人が組んだ囲いは完璧で、水竜人の湯守が湯温を保っていた。

 湯につかる先王陛下の肩から湯気が立ちのぼる。水面に映る木漏れ日が揺れ、湯の音だけが静かに響く。しばらく沈黙のままだったが、やがて陛下が小さく笑った。

「王を退いても、骨の芯に国の気配が残る。だが、この湯は不思議だな。国ではなく人に戻れる」

 隣で肩まで浸かっていた前公爵閣下がうなずいた。

「私も同じ感覚です。ルステインの温泉は、ただの湯ではない。人の温もりがある」

 湯上がりには、僕の用意した鶏スープと、甜菜糖を使った軽い蒸し菓子が出された。先王妃様達の方にも、香りづけにハーブを効かせた軽い湯上がり茶と、果実を煮込んだゼリーを出している。

 その夜、宿の広間で開かれたささやかな夕餉の会には、マックスさんとレイアムさんと僕も招かれた。今回初めての食事は薬師料理にした。よく眠れるような食事です、と言ったら喜んでいたよ。和やかな雰囲気の中、先王夫妻と前公爵夫妻は久しぶりに「ただの夫婦」として笑い合い、僕にたくさんの話をしてくださった。

「お前の缶詰、なかなか良かったぞ。あれは兵士にも庶民にも向いている。ウイスキーも…年寄りには効きすぎるがな。この風呂もお前が考えたそうだな。とても良いぞ」
「お肌の塗り薬はとても香りがよくてね、リョウエスト君。侍女たちが羨ましがっていたわ。またこのようなものを作ってね」
「前の風呂も良かったが今回のお風呂も良かった。ルステイン、気に入ってしまったよ」
「今回は私達は食べ歩きしないけど今度はまた食べ歩きしたいわ。よろしくね」

 笑い声と湯けむりが、夜の宿を包んでいた。


 4日目の朝、先王夫妻と前公爵夫妻は、もう一度お風呂に浸かってからの出立を予定されていた。この4日間はお風呂に入って前公爵がおすすめした陶芸を4人でやったり、遊技場で遊んだり、野菜の収穫体験などをして過ごされていたよ。

 出発の準備が整う中、先王妃様が僕に近づいてきて、そっと肩に手を置いてくださった。

「リョウエスト。あなたの成すことは、もう『子どもの遊び』の域ではありません。王国を動かし、民の命を守る…その力があるのです。あなたの事は大好きよ。応援しているわ」

 先王妃様の言葉に、僕は目を伏せながらも胸を張った。

「ありがとう。僕は料理人として、発明家として、人を笑顔にする方法を選び続けるの」

 そして、先王陛下は僕の肩を叩き、やわらかい声で言った。

「また来よう、この地へ。お前の料理と湯けむりに癒やされに」

 馬車に乗り込むその背中を、ルステインの地で見送る。それは誇りであり、信頼の証だった。

 僕は見送った後、安らぎの宿の湯に一人入り、そっとため息をついた。

 
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