349 / 689
7歳の駈歩。
上位オークとの戦い。
しおりを挟む
休日。僕は、ルステインの門を出て東の林へと向かった。家から馬車で30分ほどの場所にある静かな林は、街の喧騒から離れていて、訓練にはうってつけだ。今日はレザーアーマーを着込み、腰には槍を携えている。
付き添いはいつもの2人。エメイラと、ミザーリ。馬車はドライとフィアが守っている。
まずは斥候退治から。…このあたり、ゴブリンの気配がある。
僕は軽く地面に触れ、探索を意識して気配を探る。すると、すぐ近くに三体のゴブリンが潜んでいるのを感じ取った。
槍を構えて茂みに踏み込んだ。すると、獣のような声をあげてゴブリンたちが現れた。どれも背は低いが、ナイフや棍棒を持っていて油断できない。
『水の槍!』
掌から放った透明な槍が、水のしぶきを巻きながら飛翔し、最初の一体の胸を貫いた。残り二体は左右に分かれて迫ってくる。片方の動きを読んで体をひねり、脇腹を掠めるように躱してから一撃。二体目の喉元に槍が突き刺さり、短い悲鳴をあげて崩れた。
残る一体は、背後に回ろうとしていた。すぐに魔力を練り、もう一本の水の槍を形成。その瞬間、頭上から魔力の矢が放たれ、ゴブリンの胸に突き刺さる。
「ありがとう、エメイラ」
「反応が鈍かったわよ、リョウ」
微笑みながらそう言い、警戒を続けていた。
さらに林の奥へと進むことにした。目的は、自らの技を確かめること。そして、以前から噂になっていた「上位オーク」の存在をこの目で確かめることだった。
林の奥へと進むにつれ、空気が少しずつ変わっていくのを感じた。湿気が増し、風の流れが鈍くなる。
「…いるわね、あれはオークの臭い」
エメイラが低く言った。目を細めたミザーリも頷く。
「三匹、こちらに背を向けてる。斜面の下、倒木の陰」
僕はそう言いながら偽装を意識して茂みに身を潜め、僕は槍を構えて息を整えた。今度は魔法の力を抑えて、武術だけで挑む。
「行くよ」
僕は斜面を滑り降り、忍び足を意識して最初の一体の背中に槍を突き立てた。硬い筋肉を割って骨に届く感触。叫びをあげる前に回転して、二体目の膝裏に打ち込む。悲鳴とともに崩れた体を飛び越え、三体目の攻撃を回避してカウンター気味に槍を腹に突き刺す。
「さすがリョウ。やる時はやるのね」
「うん。でもまだ終わりじゃない。何か…嫌な気配がする」
直後だった。林の奥から、地鳴りのような音とともに、一際大きな影が現れた。緑の皮膚、厚い筋肉、そして全身を覆う粗野な鎧。上位オーク…あきらかに並の個体とは違う気配を放っている。
「……まずい」
僕はすぐに魔力を練り、『魔力の矢』を放った。
しかし、それは驚くほど鋭く体をひねって避けられた。
「避けた…!」
槍を構えて間合いを保つが、相手の速度は重さに見合わず速い。がむしゃらに振るわれた棍棒の一撃で、僕は吹き飛ばされそうになり、辛うじて木の陰に飛び込む。
「主よ、下がれ!」
ミザーリが叫び、投げナイフを放つ。しかし上位オークは身をかがめて避けると、そのまま僕に突進してくる。
足がすくみそうになる。頼みの『魔力の矢』は通じない。どうする――。
その時だった。
「ニャアアッ!」
空から白色の影が飛び出し、上位オークの顔面に飛びついた。
「ナビ!」
ナビはオークの顔にしがみついて爪を立て、ギャアギャアと鳴きながら暴れている。その隙に僕は距離を取り、再び魔力を練った。
(あと一発…!)
指先に力が集まる。ナビが振り落とされた瞬間、僕は全力で矢を放った。
放たれた『魔力の矢』は、空気を裂いて一直線に飛び、ちょうど顔面の横を振り向いたオークの喉元に突き刺さった。裂けた肉と骨の間に魔力が流れ込み、内部から爆ぜるように炸裂する。
「グォアァアッ!」
上位オークが絶叫し、よろめいた。ナビは無事に飛行して木の陰に隠れる。僕はその瞬間を逃さず、槍を強く握って駆けた。
「主よ無理するな!」
「今だ!」
突き出した槍は、オークの胸板を貫いた。手応えは重く、硬く、だが確かだった。
上位オークの体が崩れ落ちた。
一瞬、辺りの音がすべて止まったような錯覚に陥る。風が林を揺らし、遅れて鳥たちのさえずりが戻る。僕は大きく息を吐き、膝をついた。
「…勝った、のか?」
「リョウ、お見事」
エメイラがそう言い笑顔を見せる。ミザーリもやってきて、体力回復に効く薬草を出してくれる。
「無茶しすぎよ。ナビがいなかったら、危なかったわよ」
「……ほんとに。ありがとう、ナビ」
木の根元で尻尾を揺らすナビは、まるで勝ち誇ったように「にゃー」と鳴いた。よく見ると、鼻先にオークの血がちょっとだけついていて、誇らしげにしている。
「帰ろう、もう十分頑張った」
僕は槍を地面につきながら立ち上がり、ナビをそっと抱き上げる。その柔らかくあたたかな重みが、心の奥まで染みる。
帰り道は、来た時よりも静かだった。エメイラとミザーリは僕の少し後ろを歩き、何も言わずに周囲を警戒してくれていた。
その夜、アニナが温かいスープと柔らかなベッドを用意してくれた。ナビは僕の枕元で丸くなり、ぐっすりと眠っている。
訓練は、ただの力試しではなかった。自分の限界と、仲間の支え、そしてナビの大切さを知る機会だった。
付き添いはいつもの2人。エメイラと、ミザーリ。馬車はドライとフィアが守っている。
まずは斥候退治から。…このあたり、ゴブリンの気配がある。
僕は軽く地面に触れ、探索を意識して気配を探る。すると、すぐ近くに三体のゴブリンが潜んでいるのを感じ取った。
槍を構えて茂みに踏み込んだ。すると、獣のような声をあげてゴブリンたちが現れた。どれも背は低いが、ナイフや棍棒を持っていて油断できない。
『水の槍!』
掌から放った透明な槍が、水のしぶきを巻きながら飛翔し、最初の一体の胸を貫いた。残り二体は左右に分かれて迫ってくる。片方の動きを読んで体をひねり、脇腹を掠めるように躱してから一撃。二体目の喉元に槍が突き刺さり、短い悲鳴をあげて崩れた。
残る一体は、背後に回ろうとしていた。すぐに魔力を練り、もう一本の水の槍を形成。その瞬間、頭上から魔力の矢が放たれ、ゴブリンの胸に突き刺さる。
「ありがとう、エメイラ」
「反応が鈍かったわよ、リョウ」
微笑みながらそう言い、警戒を続けていた。
さらに林の奥へと進むことにした。目的は、自らの技を確かめること。そして、以前から噂になっていた「上位オーク」の存在をこの目で確かめることだった。
林の奥へと進むにつれ、空気が少しずつ変わっていくのを感じた。湿気が増し、風の流れが鈍くなる。
「…いるわね、あれはオークの臭い」
エメイラが低く言った。目を細めたミザーリも頷く。
「三匹、こちらに背を向けてる。斜面の下、倒木の陰」
僕はそう言いながら偽装を意識して茂みに身を潜め、僕は槍を構えて息を整えた。今度は魔法の力を抑えて、武術だけで挑む。
「行くよ」
僕は斜面を滑り降り、忍び足を意識して最初の一体の背中に槍を突き立てた。硬い筋肉を割って骨に届く感触。叫びをあげる前に回転して、二体目の膝裏に打ち込む。悲鳴とともに崩れた体を飛び越え、三体目の攻撃を回避してカウンター気味に槍を腹に突き刺す。
「さすがリョウ。やる時はやるのね」
「うん。でもまだ終わりじゃない。何か…嫌な気配がする」
直後だった。林の奥から、地鳴りのような音とともに、一際大きな影が現れた。緑の皮膚、厚い筋肉、そして全身を覆う粗野な鎧。上位オーク…あきらかに並の個体とは違う気配を放っている。
「……まずい」
僕はすぐに魔力を練り、『魔力の矢』を放った。
しかし、それは驚くほど鋭く体をひねって避けられた。
「避けた…!」
槍を構えて間合いを保つが、相手の速度は重さに見合わず速い。がむしゃらに振るわれた棍棒の一撃で、僕は吹き飛ばされそうになり、辛うじて木の陰に飛び込む。
「主よ、下がれ!」
ミザーリが叫び、投げナイフを放つ。しかし上位オークは身をかがめて避けると、そのまま僕に突進してくる。
足がすくみそうになる。頼みの『魔力の矢』は通じない。どうする――。
その時だった。
「ニャアアッ!」
空から白色の影が飛び出し、上位オークの顔面に飛びついた。
「ナビ!」
ナビはオークの顔にしがみついて爪を立て、ギャアギャアと鳴きながら暴れている。その隙に僕は距離を取り、再び魔力を練った。
(あと一発…!)
指先に力が集まる。ナビが振り落とされた瞬間、僕は全力で矢を放った。
放たれた『魔力の矢』は、空気を裂いて一直線に飛び、ちょうど顔面の横を振り向いたオークの喉元に突き刺さった。裂けた肉と骨の間に魔力が流れ込み、内部から爆ぜるように炸裂する。
「グォアァアッ!」
上位オークが絶叫し、よろめいた。ナビは無事に飛行して木の陰に隠れる。僕はその瞬間を逃さず、槍を強く握って駆けた。
「主よ無理するな!」
「今だ!」
突き出した槍は、オークの胸板を貫いた。手応えは重く、硬く、だが確かだった。
上位オークの体が崩れ落ちた。
一瞬、辺りの音がすべて止まったような錯覚に陥る。風が林を揺らし、遅れて鳥たちのさえずりが戻る。僕は大きく息を吐き、膝をついた。
「…勝った、のか?」
「リョウ、お見事」
エメイラがそう言い笑顔を見せる。ミザーリもやってきて、体力回復に効く薬草を出してくれる。
「無茶しすぎよ。ナビがいなかったら、危なかったわよ」
「……ほんとに。ありがとう、ナビ」
木の根元で尻尾を揺らすナビは、まるで勝ち誇ったように「にゃー」と鳴いた。よく見ると、鼻先にオークの血がちょっとだけついていて、誇らしげにしている。
「帰ろう、もう十分頑張った」
僕は槍を地面につきながら立ち上がり、ナビをそっと抱き上げる。その柔らかくあたたかな重みが、心の奥まで染みる。
帰り道は、来た時よりも静かだった。エメイラとミザーリは僕の少し後ろを歩き、何も言わずに周囲を警戒してくれていた。
その夜、アニナが温かいスープと柔らかなベッドを用意してくれた。ナビは僕の枕元で丸くなり、ぐっすりと眠っている。
訓練は、ただの力試しではなかった。自分の限界と、仲間の支え、そしてナビの大切さを知る機会だった。
162
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
ペットになった
ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる