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7歳の駈歩。
ジルケル織物。
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ある晩お父さんと話をしていた時、紡績ギルドの話になった。現在のところ紡績ギルドは移民達が生活が安定するまでの仮の宿として、低料金で利用することのできる施設となっている。何故紡績ギルドが撤退したのか僕は知りたくなってお父さんに聞いた。
理由は羊がいなくなったからだった。
それはルステインにおける悲報だった。織物の原料として長らく親しまれてきた羊毛が、病と天敵の影響で一夜にして失われたのだ。これにより、紡績ギルドは王都へ撤退。かつて羊毛を紡ぎ、村を潤していた老婆たちも、今では畑の仕事に従事しているみたいだ。
「あの人たちの手がもったいないです」
そう呟いたのはドルトだった。彼は昔、村の一つで羊毛を扱っていた家の息子であり、老婆たちの熟練の技を知っていた。ドルトは昔の事を思い出して僕に色々話をしてくれた。昔は羊が多くいて儲かったらしい。その金で初等学校に通えたと言っていた。
僕は少し考えてから、ある魔獣のことを思い出した。
ジルケルスパイダー。
美しい絹糸のような糸を吐き、強靭でありながら柔らかい繊維を持つ魔獣だ。比較的おとなしく、養殖も可能とされる種で、ルステインの北東の山間に少数生息していた。今ガリ版印刷のスクリーンに採用されてるが、確か錬金術の加工でスクリーンの大きさに引き伸ばされているだけだ。あの糸を紡績したらどうだろうか?
「家に持ち帰るよ」
翌日、エメイラとミザーリとともに山に入った。3匹のジルケルスパイダーを慎重に捕獲し、特製の檻に入れて新しく紡績工房を用意してその裏手に小さな飼育舎を設けた。
そして老婆たちを呼び寄せる。老婆たちは最初、魔獣の糸と聞いて眉をひそめたが、糸の滑らかさと手応えに驚き、すぐに道具を持ち出して紡ぎ始めた。
「こんな糸、初めてだよ」
目を輝かせたのは、元紡績頭のマルセ婆さんだった。彼女の手元で、ジルケルの糸がみるみるうちに滑らかな糸束になっていくのを見て驚いた。
問題は織りだった。
羊毛とは違い、ジルケルの糸は絹に近い繊細さと粘りがあり、既存の織機ではうまくいかない。しかも、絹織物の製法は王都の大商会が権利を握っており、使えば高額の使用料が発生する。
「だったら自分たちで新しく作るしかないね」
ドワーヴンベースの技師たちが機械の設計に取りかかる。織りの構造は獣人たちが実際に布を引き裂きながら、強度としなやかさのバランスを探った。水竜人の技師は湿度調整の助言を与え、火の民は高温処理によって糸の癖を抑える工夫を凝らした。
そんな中、小人族の代表クルムが僕ドワーヴンベースの新しく区画分けされた織物工場にふらりと現れた。
「やっほー。何してるの?」
「この糸を織れないかと思ってね」
「なーんだ、これならあれを応用すればいいじゃんか」
「あれって何?」
「あれってあれだよ」
「わかんないよ」
「じゃあ教えてあげるね…」
彼女は昔、綿織物の製造に携わっていた。小人の手先の器用さを活かした仕事の一つだった。その経験を活かして試作された織り機は、各種族の手技を生かしつつ、ジルケル糸の特性に適した織り構造を生み出した。念の為王都から絹織機とレシピを買ってみたが全く違う構造だった。
試作品の布が完成した時、老婆たちは手を合わせて言った。
「この布は、私らの命だよ」
重みのある言葉に僕はただ頷くしかなかった。
完成したジルケル織物は、滑らかでいて軽やか、そして丈夫だった。しなやかな手触りは絹に匹敵し、しかも魔力への適応性が非常に高かった。服にすれば軽装の魔術士に最適であり、カーテンや装飾布にすれば王宮の格式に耐えうる美を備えていた。
早速商業ギルドに持ち込む。マレイローさんは絹織物と全く織り方が違う事を理解してくれて、登録しようとしてくれた。その商会からかなりごねられたようだったが、商業ギルド本部長のターニャさんが間に入り、その商会に説明して別のものとして商業登録された。
「マックスさん、お願いできますか」
ルステインの領主であるマックスさんに、王都への献上を託した。
「もちろん。これは、王都が驚くぞ」
と言い、翌日ワイバーン便で王都に向かってくれた。マックスさんの言葉通り、王都の反応は劇的だった。王妃様は手触りに驚き、王様の側近たちは軍用としての可能性に目を光らせた。王立学園の研究員たちは、ジルケル糸が魔力を通す速度と保有性の高さに仰天し、サンプル提供を求めてきた。
その夜、マックスさんから速文が届いた。
《商業ギルドが正式に『ジルケル織物』の名称で王国認可布地とする方向で動いている。リョウの働きに感謝を》
紡績工房に戻るとマルセ婆さんたちが夜通し糸を紡いでいた。灯りの中で揺れる老婆たちの手は、年老いてなお美しかった。
「ようやく、また手仕事ができる」
マルセ婆さんの言葉を聞きながら、僕は紡績工房の屋根に座り、星を眺めた。
新しい織物は、ただの布ではない。
それは失われた羊毛の代わりに、多種族の手と知恵が紡いだ…僕たちの誇りだ。
理由は羊がいなくなったからだった。
それはルステインにおける悲報だった。織物の原料として長らく親しまれてきた羊毛が、病と天敵の影響で一夜にして失われたのだ。これにより、紡績ギルドは王都へ撤退。かつて羊毛を紡ぎ、村を潤していた老婆たちも、今では畑の仕事に従事しているみたいだ。
「あの人たちの手がもったいないです」
そう呟いたのはドルトだった。彼は昔、村の一つで羊毛を扱っていた家の息子であり、老婆たちの熟練の技を知っていた。ドルトは昔の事を思い出して僕に色々話をしてくれた。昔は羊が多くいて儲かったらしい。その金で初等学校に通えたと言っていた。
僕は少し考えてから、ある魔獣のことを思い出した。
ジルケルスパイダー。
美しい絹糸のような糸を吐き、強靭でありながら柔らかい繊維を持つ魔獣だ。比較的おとなしく、養殖も可能とされる種で、ルステインの北東の山間に少数生息していた。今ガリ版印刷のスクリーンに採用されてるが、確か錬金術の加工でスクリーンの大きさに引き伸ばされているだけだ。あの糸を紡績したらどうだろうか?
「家に持ち帰るよ」
翌日、エメイラとミザーリとともに山に入った。3匹のジルケルスパイダーを慎重に捕獲し、特製の檻に入れて新しく紡績工房を用意してその裏手に小さな飼育舎を設けた。
そして老婆たちを呼び寄せる。老婆たちは最初、魔獣の糸と聞いて眉をひそめたが、糸の滑らかさと手応えに驚き、すぐに道具を持ち出して紡ぎ始めた。
「こんな糸、初めてだよ」
目を輝かせたのは、元紡績頭のマルセ婆さんだった。彼女の手元で、ジルケルの糸がみるみるうちに滑らかな糸束になっていくのを見て驚いた。
問題は織りだった。
羊毛とは違い、ジルケルの糸は絹に近い繊細さと粘りがあり、既存の織機ではうまくいかない。しかも、絹織物の製法は王都の大商会が権利を握っており、使えば高額の使用料が発生する。
「だったら自分たちで新しく作るしかないね」
ドワーヴンベースの技師たちが機械の設計に取りかかる。織りの構造は獣人たちが実際に布を引き裂きながら、強度としなやかさのバランスを探った。水竜人の技師は湿度調整の助言を与え、火の民は高温処理によって糸の癖を抑える工夫を凝らした。
そんな中、小人族の代表クルムが僕ドワーヴンベースの新しく区画分けされた織物工場にふらりと現れた。
「やっほー。何してるの?」
「この糸を織れないかと思ってね」
「なーんだ、これならあれを応用すればいいじゃんか」
「あれって何?」
「あれってあれだよ」
「わかんないよ」
「じゃあ教えてあげるね…」
彼女は昔、綿織物の製造に携わっていた。小人の手先の器用さを活かした仕事の一つだった。その経験を活かして試作された織り機は、各種族の手技を生かしつつ、ジルケル糸の特性に適した織り構造を生み出した。念の為王都から絹織機とレシピを買ってみたが全く違う構造だった。
試作品の布が完成した時、老婆たちは手を合わせて言った。
「この布は、私らの命だよ」
重みのある言葉に僕はただ頷くしかなかった。
完成したジルケル織物は、滑らかでいて軽やか、そして丈夫だった。しなやかな手触りは絹に匹敵し、しかも魔力への適応性が非常に高かった。服にすれば軽装の魔術士に最適であり、カーテンや装飾布にすれば王宮の格式に耐えうる美を備えていた。
早速商業ギルドに持ち込む。マレイローさんは絹織物と全く織り方が違う事を理解してくれて、登録しようとしてくれた。その商会からかなりごねられたようだったが、商業ギルド本部長のターニャさんが間に入り、その商会に説明して別のものとして商業登録された。
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「もちろん。これは、王都が驚くぞ」
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その夜、マックスさんから速文が届いた。
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マルセ婆さんの言葉を聞きながら、僕は紡績工房の屋根に座り、星を眺めた。
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