【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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7歳の駈歩。

守られた手。

 ジルケル織物の生産は順調だった。
老婆たちは再び紡ぎに励み、ドワーヴンベースの織機は日夜改良され続け、ルステインの織物工房は活気に満ちていた。王都からの追加注文も増え、小人ハーフリング族のクルムは「織りの再設計は芸術だわ」と笑っていた。

そんなある日、ストークが渋い顔で報告を持ってきた。

「紡績ギルドの者たちが、またルステインに進出してくるそうです」
「なんで?」
「私も聞いた話ですが羊の代わりに紡績するものがあれば、紡績ギルドの管理下に置かねばならない、と言っているみたいです」
「それはおかしい。お婆さん達は見捨てられたんだ」
「そうですね。今更おかしいと私も思います」
「なぜ、今になって?」
「想像ですがジルケル織物の評判に目をつけたかと」
「そうとしか思えないな」


 僕は何か起こった時の為、青の技ブルーアーツのフュンフにギルド員の動向を調べさせた。フュンフからの報告によりギルドの支部長が紡績工房に向かったと報告を聞いた。早速向かうと紡績工房をギルド員が囲んでいる。そしてギルドの支部長は高圧的に言い放った。

「ギルド登録していない者による繊維製品の大量生産は違法です。紡ぎ手はすべて、我々の管理下に戻ってもらう」

 彼らの目標は明確だった。マルセ婆さんたちの仕事を奪い、ジルケル織物の利権を丸ごと掌握すること。それはルステインの羊毛の利権を失った彼らの、露骨な埋め合わせだった。

「何をやってる?」
「小僧、何者だ?」
「あなた、小僧呼ばわりして良いの?」

 フュンフはキレかけながら支部長に正対する。

「なんだ?」
「この方はリョウエスト・スサン。聞き覚えは?」
「スサンだかズサンだか知らないが帰れ!」
「そんな事言っていいの?貴族だよ、この方」
「な、なんだと。貴族だと」
「支部長、とりあえず引いてくれるか?」
「うるさい。貴族でも小童だろ?私にはあの方が着いているんだぞ」
「あ、そう」
「と、とにかく大量生産は違法だ!王国のギルドの制度で決まってる」
「撤退した癖に何言ってるのか」
「それが決まりだ」
「とにかく帰れ」
「くっ。一旦引くぞ」

 ギルド員を連れて支部長は帰っていった。僕はそれで一旦帰ったが翌日彼らはまた来た。気づいて紡績工場に行った時はすでにジルケルスパイダーと糸を持ってかれたあとだった。

「大丈夫?」
「ああ。少し手荒な事されたけど」
「許せんな」
「私たちの糸は、あの魔獣の世話から紡ぎまで全部、手でやってきたのに…」

 マルセ婆さんは悔しげに糸車を直していた。その小さな背中を見て、僕は黙って工房アトリエに帰った。

 僕はストークに命じて王都へ宛てて速文を送った。宛先は、王国商業ギルド本部、そして信頼のおける人物、本部長のターニャ女史だ。商業ギルドは商業登録を守る義務がある。それを信じて送った。

《本来ギルドが守るべき職人の仕事を、ギルドが取り上げようとする。ジルケル織物は、商会や利権のために潰されようとしています。》

 数日後、ルステインにターニャ女史本人が訪れた。緊張した空気の中、僕たちは荒らされたマルセ婆さんたちの仕事場、婆さん達が整備していたジルケルスパイダーの飼育場、残り少ない糸を織っている織物工房を順に案内した。

 すべてを見終えた後彼女は出来た織物を触り静かに呟いた。

「…これは、王国の未来を紡ぐ布ですね」

 その夜、ターニャ女史はワイバーン便で王都へ戻り、すぐさま調査を開始した。
 紡績ギルドの強引な進出の背後に、かつて絹織物の独占利権で莫大な利益を得ていた某商会と、その後ろ盾となる貴族の存在が浮かび上がる。

 かつての「羊毛と絹の時代」。
 その栄光に固執する者たちは、新しい織物を憎み、支配下に置こうとしたのだ。

「ギルドは職人を守るためにあるのでしょう?」

 マルセ婆さんのその言葉が、ターニャさんらの報告書の冒頭に添えられたらしい。ターニャさんの怒りもこもっているな。


 王宮に届けられたターニャさんの報告書は、即座に王様の元へと上がった。

「ルステインの手仕事は、王国にとって貴重な宝である。これを脅かす者がいるとすれば、直ちに対処せねばならん」

 王様は紡績ギルド本部に監査を命じ、該当商会の帳簿を差し押さえた。絹織物の権利収入で潤っていた商会は不正な独占と談合、そして職人妨害の罪で摘発され、ギルドに介入していた貴族も粛清された。

「王命である。ジルケル織物は、今後王国の保護下に置かれる」

 その布告が読み上げられた日、マルセ婆さんは目を潤ませて言った。

「…あたしたち、王様に認めてもらえたんだねぇ」

 王都では新たに「自営職人制度」が立ち上げられ、ギルド登録の有無に関係なく、正当に評価される仕組みが動き始めた。ターニャさんはその制度の長に任命され、かつてのギルド体質を正す改革の旗手となった。

 僕はというと、紡績工房で糸を紡ぐ婆さんたちの姿を静かに眺めていた。紡績ギルドは、もう口を出せない。ルステインの布は、ルステインの手で守られたのだ。

「リョウ坊、お茶が冷めるよ」

 老婆たちの笑い声と、ジルケルスパイダーの糸車の音が、今日も陽だまりの中で心地よく響いていた。
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