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7歳の駈歩。
メディルの挺身。
メディルが笑っていた。
包丁を操る姿は、まるで精霊の踊りのようだった。もともと高級戦闘奴隷だった彼女は、かつて鋼を断つ剣のような存在だったが、今は工房でフィグさんの下、料理人として修行中だ。最近は僕のあげた剣を腰につける事も少なくなり僕らも料理人として扱っている。
「この切り方だと、火が通るのが早くなりますよ」
と、年下の子供たちに優しく教える彼女は、もう武器ではなく、人を養う手に変わっていた。
その日はちょうど、僕の学校の友達ヤルス君やナミリアと数人の子が、工房に遊びに来ていた。メディルは慣れない手つきの子供たちに包丁の持ち方を教えたり、一緒にスープをかき混ぜたりしながら、くすくすと笑いをこぼしていた。
「…うまくできたよ、リョウ!」
「すごい、ナミリア! それ完璧だよ!」
完成したスープとパンを囲んで、僕たちは笑い合った。メディルもその輪に自然と入っていた。彼女は、もう戦うだけの存在じゃない…そう、心から思えた。
夕方になり、子供たちは帰る支度を始めた。
「じゃあ、またね!」
「気をつけてね」
と言いながら、僕とメディルは門の前まで見送りに出た。
だがその瞬間、悲劇が始まった。
「…動くな。子供の命が惜しかったら、大人しくしろ」
突如、通りの影から飛び出してきた数人の男たちが、ナミリアとヤルス君に刃物を突きつけた。僕は咄嗟に飛び出そうとしたが、後ろから腕を押さえられた。声にならない声が喉で渦巻いた。
「この坊っちゃんを連れて行けば、全部いただける……」
その言葉が耳をかすめる。狙いは僕だ。そしてその背後に、金と地位の匂いがする。メディルは僕の前に立ち塞がった。
「子供たちに手を出さないでください。お願いです。彼らは、無関係です」
彼女はゆっくりと歩み寄り、腕を広げて子供たちを庇うようにしゃがみ込んだ。その間も男たちは動かず、彼女の目を見ていた。恐怖ではない、なにか別の…覚悟と慈しみが混じったまなざしだった。
次の瞬間、短剣が彼女の脇腹を裂いた。
「メディル!」
僕が叫ぶ間もなく、彼女は子供たちを後ろに庇ったまま倒れた。男たちは息を呑み、顔を強張らせた。
「こいつ……本気で命を張った……奴隷の癖に……」
「…くっ」
メディルは起き上がる。そして両手を広げる。その「覚悟」に怯えたのは彼らだった。武器を手にした男たちが、一人、また一人と逃げ出した。メディルは倒れる。
子供を庇って倒れ伏すメディルを置き去りにして男達は去った。
僕はすぐに駆け寄り、震える手で回復魔法を唱えた。
「治癒。お願い、生きて!」
魔法は傷を繋ぎとめるが、出血が激しい。彼女は僕の目を見て、わずかに微笑んだ。
「…守れて、よかった…」
僕は看病をしていたがその夜、僕は熱に浮かされたような眠りに落ちた。
「リョウ様」
「イサリナさん?」
闇の神イサリナさんだった。精神を司る神だからこうやって夢枕に立って情報を教えてくれるんだよね。
「はい、イサリナです」
「イサリナさん、参ったよ」
「大変でしたね。ちょうどその光景を見ておりました」
「イサリナさん、メディルは助かりそう?」
「はい。休んでいたら大丈夫でございます。元々体が丈夫ですから」
「そうか。良かった」
「正直私は怒っております。リョウ様に危害を与えようとするなんて」
「僕も今回ばかりは許せそうもない」
「多くの神も、眷属神も今回の事に腹を立てております。彼らの捜査で首謀者に見つかりましたが、お聞きになりますか?」
「よろしく」
「ミッソリーナ王国、十二宗家の一位の位置にいます『アランザ家』の当主ゲルセー・アランザ、42歳でございます」
「うん。全然知らないんだけど」
「はい、リョウ様を攫い、全ての利権を手に入れようとしてるみたいです」
「は?」
「実際レシピ料だけで相当ありますから、それが狙いでしょうか。あとは奴隷の様に働かせるつもりのようです」
「そのために子供巻き込むなんて」
「何をしても良いから攫ってこい、という命令が下っています」
「そうか。あの男達の口を割らせなきゃ」
「あの男達は明日工房の前に置いておきます」
「ありがと」
「では一旦失礼しますね」
「はい。ありがと」
目が覚めたとき、僕は汗に濡れていた。隣の寝台では、メディルが静かに眠っていた。顔色はまだ青いが、命の灯火は消えていない。
「……全部、奪うつもりだったんだね」
すべてが繋がった。ジルケル織物、ウイスキー、化粧品。ルステインの急成長を狙っていた者たちが、ついに暴力に手を染めたのだ。
僕はすぐにマックスさんに速文を送った。十二宗家に属するアランザ家の名と共に。
同時に、メディルの命がけの挺身を、速文で王に報告した。
彼女は「高級戦闘奴隷」ではなく、命を懸けて子供を守った「英雄」だと、僕は証明したかった。
メディルが再び目を開いたとき、彼女は弱々しく言った。
「料理…また…教えてもいいですか?」
僕は涙が出そうになって、笑って頷いた。
「うん。また、みんなで食べよう。僕たちの場所で」
包丁を操る姿は、まるで精霊の踊りのようだった。もともと高級戦闘奴隷だった彼女は、かつて鋼を断つ剣のような存在だったが、今は工房でフィグさんの下、料理人として修行中だ。最近は僕のあげた剣を腰につける事も少なくなり僕らも料理人として扱っている。
「この切り方だと、火が通るのが早くなりますよ」
と、年下の子供たちに優しく教える彼女は、もう武器ではなく、人を養う手に変わっていた。
その日はちょうど、僕の学校の友達ヤルス君やナミリアと数人の子が、工房に遊びに来ていた。メディルは慣れない手つきの子供たちに包丁の持ち方を教えたり、一緒にスープをかき混ぜたりしながら、くすくすと笑いをこぼしていた。
「…うまくできたよ、リョウ!」
「すごい、ナミリア! それ完璧だよ!」
完成したスープとパンを囲んで、僕たちは笑い合った。メディルもその輪に自然と入っていた。彼女は、もう戦うだけの存在じゃない…そう、心から思えた。
夕方になり、子供たちは帰る支度を始めた。
「じゃあ、またね!」
「気をつけてね」
と言いながら、僕とメディルは門の前まで見送りに出た。
だがその瞬間、悲劇が始まった。
「…動くな。子供の命が惜しかったら、大人しくしろ」
突如、通りの影から飛び出してきた数人の男たちが、ナミリアとヤルス君に刃物を突きつけた。僕は咄嗟に飛び出そうとしたが、後ろから腕を押さえられた。声にならない声が喉で渦巻いた。
「この坊っちゃんを連れて行けば、全部いただける……」
その言葉が耳をかすめる。狙いは僕だ。そしてその背後に、金と地位の匂いがする。メディルは僕の前に立ち塞がった。
「子供たちに手を出さないでください。お願いです。彼らは、無関係です」
彼女はゆっくりと歩み寄り、腕を広げて子供たちを庇うようにしゃがみ込んだ。その間も男たちは動かず、彼女の目を見ていた。恐怖ではない、なにか別の…覚悟と慈しみが混じったまなざしだった。
次の瞬間、短剣が彼女の脇腹を裂いた。
「メディル!」
僕が叫ぶ間もなく、彼女は子供たちを後ろに庇ったまま倒れた。男たちは息を呑み、顔を強張らせた。
「こいつ……本気で命を張った……奴隷の癖に……」
「…くっ」
メディルは起き上がる。そして両手を広げる。その「覚悟」に怯えたのは彼らだった。武器を手にした男たちが、一人、また一人と逃げ出した。メディルは倒れる。
子供を庇って倒れ伏すメディルを置き去りにして男達は去った。
僕はすぐに駆け寄り、震える手で回復魔法を唱えた。
「治癒。お願い、生きて!」
魔法は傷を繋ぎとめるが、出血が激しい。彼女は僕の目を見て、わずかに微笑んだ。
「…守れて、よかった…」
僕は看病をしていたがその夜、僕は熱に浮かされたような眠りに落ちた。
「リョウ様」
「イサリナさん?」
闇の神イサリナさんだった。精神を司る神だからこうやって夢枕に立って情報を教えてくれるんだよね。
「はい、イサリナです」
「イサリナさん、参ったよ」
「大変でしたね。ちょうどその光景を見ておりました」
「イサリナさん、メディルは助かりそう?」
「はい。休んでいたら大丈夫でございます。元々体が丈夫ですから」
「そうか。良かった」
「正直私は怒っております。リョウ様に危害を与えようとするなんて」
「僕も今回ばかりは許せそうもない」
「多くの神も、眷属神も今回の事に腹を立てております。彼らの捜査で首謀者に見つかりましたが、お聞きになりますか?」
「よろしく」
「ミッソリーナ王国、十二宗家の一位の位置にいます『アランザ家』の当主ゲルセー・アランザ、42歳でございます」
「うん。全然知らないんだけど」
「はい、リョウ様を攫い、全ての利権を手に入れようとしてるみたいです」
「は?」
「実際レシピ料だけで相当ありますから、それが狙いでしょうか。あとは奴隷の様に働かせるつもりのようです」
「そのために子供巻き込むなんて」
「何をしても良いから攫ってこい、という命令が下っています」
「そうか。あの男達の口を割らせなきゃ」
「あの男達は明日工房の前に置いておきます」
「ありがと」
「では一旦失礼しますね」
「はい。ありがと」
目が覚めたとき、僕は汗に濡れていた。隣の寝台では、メディルが静かに眠っていた。顔色はまだ青いが、命の灯火は消えていない。
「……全部、奪うつもりだったんだね」
すべてが繋がった。ジルケル織物、ウイスキー、化粧品。ルステインの急成長を狙っていた者たちが、ついに暴力に手を染めたのだ。
僕はすぐにマックスさんに速文を送った。十二宗家に属するアランザ家の名と共に。
同時に、メディルの命がけの挺身を、速文で王に報告した。
彼女は「高級戦闘奴隷」ではなく、命を懸けて子供を守った「英雄」だと、僕は証明したかった。
メディルが再び目を開いたとき、彼女は弱々しく言った。
「料理…また…教えてもいいですか?」
僕は涙が出そうになって、笑って頷いた。
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