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7歳の駈歩。
脅迫を得る。
翌朝、色々な報告を済ませた僕はメディルの寝台の脇でまどろんでいた。やっと意識が戻った彼女の額に、冷たい布を乗せたところだった。
「…メディル」
「ご主人様…ご無事でよかったです…」
「僕こそ、君に守られたんだ。ありがとう」
彼女はうっすらと笑みを浮かべ、再び目を閉じた。だが、僕にはもう一つ果たすべきことがあった。
奴らを、許さない。
工房の門に出ると、アインスとゼクスが青ざめた顔で僕を呼び止めた。
「リョウ様、あれを…」
彼らが指し示した先には、あの襲撃者たちがずぶ濡れのまま、動かぬ姿で地面に転がされていた。顔には漆黒の紋が浮かび上がり、呻き声すら漏れない。
「……イサリナさん」
夜に聞いた話の通りだった。彼らは神の手によって『工房の敷地』に戻されていたのだ。
その姿を見たストークが、静かに僕の隣に立った。
「リョウ様、こちら、私が口を割らせてみせますゆえ…」
「いやストーク。僕も同席させて。僕が聞きたい」
ストークは少し眉をひそめたが、やがて静かに頷いた。
部屋の一室に運ばれた男たちを前に、僕は椅子に座り、一言も発さず、ただ彼らを見つめていた。
「……言った方が楽になりますよ」
その一言だけで、一人が突然叫び出した。
「し、知らねえよ! ミッソリーナのアランザ家だ! 奴らに命じられてやったんだよ!」
「金貨百枚で、少年を確保しろって…利権を全部奴らに渡す契約があるって…!」
怒りでも恐怖でもない、ある種の静けさが僕の中に満ちていった。
その感覚が、脅迫というスキルを形成する。目線、沈黙、呼吸、全てが相手の心を削る武器となっていた。
「リョウ様、そちらはスキルでしょうか?」
「うん。そうみたい」
「あまりおすすめはいたしません。できれば多用しないようお願いいたします」
「わかった」
すべての情報を記録した僕は、報告書にまとめ、王都に送った。
5日後、速文が来た。
「王城から返信です。即座に対応するとのこと。外務副大臣、マリエンティ伯爵閣下が出向かれるそうです」
兄嫁の父…マリエンティ伯爵。温厚な紳士として知られていたが、外交においては獅子のような人物だった。
「……リョウエスト君。詳細を教えてくれ」
マリエンティ伯爵はワイバーン便でルステインを訪れ、僕はマリエンティ伯爵と向かい合っていた。
詳細な報告書を読んでもらう。書面を読んでいた彼の顔から、次第に温和な表情が消えていく。
「ふむ。アランザ家、王国法違反、さらに他国民への暴行。これは明確な敵対行為だ」
「マリエンティ伯爵様…あの家を、止められますか?」
「止める?いや、外交儀礼にのっとって『潰す』よ」
マリエンティ伯爵の動きは迅速だった。
「外務省の名において通告する。『王国臣民に対する敵対行為が認定された場合、我が王国はミッソリーナとの全外交・通商関係を凍結する』と」
ミッソリーナ王国への通告文は、通常の外交文書ではなかった。
それは明確な『圧』だった。現地の大使が青ざめたと聞いた。
その報を受けて動いたのが、ミッソリーナ王国の王族の一人――ヤワラン・ミッソリーナだった。
王家の王女にして、かつては穏健派と見なされていたヤワランは、突如として宮廷に姿を現し、王族会議にて剣を抜いた。
「アランザ家は、王の名のもとに暴虐を重ねた。もはや『取り潰し』しかあるまい」
彼女の冷たい声音に、誰も異を唱える者はいなかった。
王都内に潜伏していたアランザ家の当主は即座に捕縛され、王命により処刑された。罪状は『王国の信用を損なわせし罪』。さらに…
「現王は、これを黙認した」
ヤワランは王座の前に立ち、震える幼い王子の手を取りながら宣言した。
「本日をもって、王位は新たな後継に移る。私ヤワラン・ミッソリーナが、摂政として王国を導く」
それは一夜にして起きた政変だった。王宮から王族の旗が降ろされ、新たな摂政の紋章が掲げられる。
政変の知らせは、すぐにルステインにも届いた。
「……まさか、本当に王が罷免されるとは」
マックスさんは報告書を握り締めながら、僕を見た。
「リョウに手を出した事に王様も怒っていたようだ」
「そうなの?」
「ああ。お前の兵隊が裏で色々と動いていたようだから知ってると思ってた」
「あー。青の技は王様からもらった兵士なの」
「そうか。今度はちゃんと守ってもらえよ」
「うん」
けれど、それと同時に、恐ろしいことが起きていた。
「神殿からの報告によれば……ミッソリーナ王国、神の加護を失いました」
神殿の祝福が効かず、聖水が腐り始める。
それは王政の不義を意味し、『神々に見放された国』となった証だった。
メディルは日々元気を取り戻し、厨房でスープを煮込んでいる。
僕は彼女に話しかけた。
「メディル。君を守ると誓ったけど…たぶん、もっとたくさんの人を守らないといけなくなりそうだ」
「それは…たいへん、ですね」
「うん。でも、楽しくなるかもしれない」
メディルは微笑んで、スプーンを差し出してくれた。
「では、まずはご飯で英気を養いましょう。お料理で、世界を守りましょうね」
僕はその言葉に、大きく頷いた。
「…メディル」
「ご主人様…ご無事でよかったです…」
「僕こそ、君に守られたんだ。ありがとう」
彼女はうっすらと笑みを浮かべ、再び目を閉じた。だが、僕にはもう一つ果たすべきことがあった。
奴らを、許さない。
工房の門に出ると、アインスとゼクスが青ざめた顔で僕を呼び止めた。
「リョウ様、あれを…」
彼らが指し示した先には、あの襲撃者たちがずぶ濡れのまま、動かぬ姿で地面に転がされていた。顔には漆黒の紋が浮かび上がり、呻き声すら漏れない。
「……イサリナさん」
夜に聞いた話の通りだった。彼らは神の手によって『工房の敷地』に戻されていたのだ。
その姿を見たストークが、静かに僕の隣に立った。
「リョウ様、こちら、私が口を割らせてみせますゆえ…」
「いやストーク。僕も同席させて。僕が聞きたい」
ストークは少し眉をひそめたが、やがて静かに頷いた。
部屋の一室に運ばれた男たちを前に、僕は椅子に座り、一言も発さず、ただ彼らを見つめていた。
「……言った方が楽になりますよ」
その一言だけで、一人が突然叫び出した。
「し、知らねえよ! ミッソリーナのアランザ家だ! 奴らに命じられてやったんだよ!」
「金貨百枚で、少年を確保しろって…利権を全部奴らに渡す契約があるって…!」
怒りでも恐怖でもない、ある種の静けさが僕の中に満ちていった。
その感覚が、脅迫というスキルを形成する。目線、沈黙、呼吸、全てが相手の心を削る武器となっていた。
「リョウ様、そちらはスキルでしょうか?」
「うん。そうみたい」
「あまりおすすめはいたしません。できれば多用しないようお願いいたします」
「わかった」
すべての情報を記録した僕は、報告書にまとめ、王都に送った。
5日後、速文が来た。
「王城から返信です。即座に対応するとのこと。外務副大臣、マリエンティ伯爵閣下が出向かれるそうです」
兄嫁の父…マリエンティ伯爵。温厚な紳士として知られていたが、外交においては獅子のような人物だった。
「……リョウエスト君。詳細を教えてくれ」
マリエンティ伯爵はワイバーン便でルステインを訪れ、僕はマリエンティ伯爵と向かい合っていた。
詳細な報告書を読んでもらう。書面を読んでいた彼の顔から、次第に温和な表情が消えていく。
「ふむ。アランザ家、王国法違反、さらに他国民への暴行。これは明確な敵対行為だ」
「マリエンティ伯爵様…あの家を、止められますか?」
「止める?いや、外交儀礼にのっとって『潰す』よ」
マリエンティ伯爵の動きは迅速だった。
「外務省の名において通告する。『王国臣民に対する敵対行為が認定された場合、我が王国はミッソリーナとの全外交・通商関係を凍結する』と」
ミッソリーナ王国への通告文は、通常の外交文書ではなかった。
それは明確な『圧』だった。現地の大使が青ざめたと聞いた。
その報を受けて動いたのが、ミッソリーナ王国の王族の一人――ヤワラン・ミッソリーナだった。
王家の王女にして、かつては穏健派と見なされていたヤワランは、突如として宮廷に姿を現し、王族会議にて剣を抜いた。
「アランザ家は、王の名のもとに暴虐を重ねた。もはや『取り潰し』しかあるまい」
彼女の冷たい声音に、誰も異を唱える者はいなかった。
王都内に潜伏していたアランザ家の当主は即座に捕縛され、王命により処刑された。罪状は『王国の信用を損なわせし罪』。さらに…
「現王は、これを黙認した」
ヤワランは王座の前に立ち、震える幼い王子の手を取りながら宣言した。
「本日をもって、王位は新たな後継に移る。私ヤワラン・ミッソリーナが、摂政として王国を導く」
それは一夜にして起きた政変だった。王宮から王族の旗が降ろされ、新たな摂政の紋章が掲げられる。
政変の知らせは、すぐにルステインにも届いた。
「……まさか、本当に王が罷免されるとは」
マックスさんは報告書を握り締めながら、僕を見た。
「リョウに手を出した事に王様も怒っていたようだ」
「そうなの?」
「ああ。お前の兵隊が裏で色々と動いていたようだから知ってると思ってた」
「あー。青の技は王様からもらった兵士なの」
「そうか。今度はちゃんと守ってもらえよ」
「うん」
けれど、それと同時に、恐ろしいことが起きていた。
「神殿からの報告によれば……ミッソリーナ王国、神の加護を失いました」
神殿の祝福が効かず、聖水が腐り始める。
それは王政の不義を意味し、『神々に見放された国』となった証だった。
メディルは日々元気を取り戻し、厨房でスープを煮込んでいる。
僕は彼女に話しかけた。
「メディル。君を守ると誓ったけど…たぶん、もっとたくさんの人を守らないといけなくなりそうだ」
「それは…たいへん、ですね」
「うん。でも、楽しくなるかもしれない」
メディルは微笑んで、スプーンを差し出してくれた。
「では、まずはご飯で英気を養いましょう。お料理で、世界を守りましょうね」
僕はその言葉に、大きく頷いた。
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