357 / 689
7歳の駈歩。
思いつきは温かい記憶から。
しおりを挟む
冬の夜は、いつだって誰かを思い出させる。だからこそ、僕は「温かさ」をもっとたくさんの人に届けたくなった。
工房の作業場で、僕は椅子に座って頬杖をついていた。ストークが運んできてくれたお茶を飲みながら、僕の頭の中では『ある構想』が形をなしていた。
「魔法瘤の消費を抑えて、長時間動く熱源装置……」
それは、王都でも寒村でも、子どもやお年寄りが火を焚かなくても温かく過ごせるようにという願いから生まれた発想だった。
でも実現には問題がある。魔法瘤は便利だけどすぐに力を使い果たしてしまう。今の装置じゃ、毎日交換しなきゃならない。しかも魔法瘤は高価だ。消費を抑え、なおかつ強い熱を生み出す仕組みがいる。
そんな時だった。ボリビエさんが作業場にふらりと現れた。ボリビエさんにそんな話をすると良い話を教えてくれた。
「ねぇ、統領。火食いトカゲの革って、断熱と保温力すごいのよ。ドワーフの間じゃ、昔っから炭火袋に使ってたくらい」
「炭火袋?」
「うん。革袋に少しだけ炭火を入れて持ち歩くの。小さな魔法瘤でも温度が逃げないって、ヂョウギが言ってたわ」
ピンと来た。
熱を保ち、逃がさず、少しの魔力でずっと温かい。そんな素材があるなら……それを『装置』にできる!
その夜、僕は興奮して眠れなかった。すぐにヂョウギとブルッグを呼び、革の加工技術と、魔法瘤の安定供給について相談を始めた。
「できると思うぜ、統領」
ブルッグの笑顔は、いつも少し不敵だけど頼りになる。
「革の厚みを均一にすれば、放熱率もコントロールできるはずです」
ヂョウギの言葉に、僕は大きくうなずいた。
さらに翌日、小人族の代表クルムさんがやってきた。
「ねぇ、内装の断熱はわたし達に任せてくれる? 断熱性のある革で中敷を作ってあげるわ」
「本当に? すごい……!」
クルム達の仕事は緻密で、美しく、そしてとても丈夫だ。
そして執事のストークも、開発の補佐に名乗り出た。
「リョウ様、部材管理と組み立て段階の工程表は私が作成いたします。すでに革の在庫と供給状況は調べてあります」
まるで僕が何も言わずとも、周囲が動いてくれる…そんな信頼がうれしかった。
ここからが本番だ。問題は、どうやって魔法瘤の熱を効率よく使い、それを革で包み込む構造に落とし込むか。
「いっそ、魔法瘤の熱を芯にして、その周りを革と魔獣糸で包んだ層にすれば…」
そう僕がつぶやくと、ヂョウギが腕を組み、うなった。
「…それだと統領の言う通り、たった一個の魔法瘤で十日は保つかもしれないですね」
僕は口元が緩むのを抑えられなかった。
初期の設計図が完成したのはそれから三日後のことだった。
僕は作業机に広げた図面に目を通しながら、革の厚みや魔法瘤の位置、空気の流れなどを指でなぞっていく。魔法石の発する熱を逃さず、なおかつ一定の温度に保つ…このバランスが難しかった。
「リョウエスト様、試作一号機の組み立て、完了しました」
ストークが恭しく報告する。僕はドワーヴンベースの奥にある作業場へ向かった。
そこには、手のひら大の丸い装置が置かれていた。外側は火食いトカゲの革で、内部はボリビエさんとクルムさんが仕上げた断熱素材。中央部に魔法瘤のカートリッジをはめ込み、装置のスイッチを入れると…。
「…温かい!」
手をかざすと、まるで春の日差しのような柔らかな熱が手のひらを包んだ。すぐそばにいたブルッグが、鼻を鳴らす。
「悪くねえ。これでどれだけ持つか、テストが要るな」
「さっき入れた魔法瘤、3日前に採れたばかりです。正確な消費量が測れますぞ」
ヂョウギの準備の良さに、思わず頬が緩む。
温度の安定性、持続時間、耐久性。それらを一つ一つ確認していく日々が始まった。
とくにクルムの断熱素材は驚異的で、革の外側がほんのりと温かい程度で中の熱を閉じ込めることができた。これは大きな成果だった。
だが、問題はすぐに表面化する。熱の持続はするが、外気温が低すぎると内外の温度差で結露が起き、内部の部材が傷みやすくなるのだ。
「このままじゃ、寒冷地では使えないかもしれない」
僕が眉をひそめると、ブルッグがポンと胸を叩く。
「なら、空気の流れを工夫しろ。換気口を付けて、一定時間ごとに結露を飛ばすんだ」
「なるほど…タイマー式のモビーを利用した風魔法機構を組み合わせれば…!」
さっそく僕は部材を取り寄せ、新しい設計に取りかかった。これはスージーに手伝ってもらった。忙しいのにありがとう。
一週間後。試作二号機は完成しついにフィールドテストに出すことになった。
テストは、ルステインの中山間地の農村に暮らす老夫婦の家で行った。甜菜農家だ。冷たい石造りの家屋に小さな装置を設置し、魔法瘤一つでどれだけ持つかを試す。
「最初の夜から、違ったよ。冷えが消えて、空気が柔らかい」
老夫婦は目を細め、そう話してくれた。装置はそのまま十日間稼働し、魔法瘤はわずかに力を残していた。
「成功…ですね」
ストークの低く落ち着いた声が、静かに響いた。
けれど、これで終わりではない。量産体制の整備、価格の調整、革の安定供給…やるべきことは山積みだ。
「…ねえ、これで冬が苦手な子も、少しは楽になるかな」
僕の呟きに、ヂョウギがにやりと笑う。
「なるでしょう。温かいってのは、命を守るってことです。統領は良いことを考えました」
工房の作業場で、僕は椅子に座って頬杖をついていた。ストークが運んできてくれたお茶を飲みながら、僕の頭の中では『ある構想』が形をなしていた。
「魔法瘤の消費を抑えて、長時間動く熱源装置……」
それは、王都でも寒村でも、子どもやお年寄りが火を焚かなくても温かく過ごせるようにという願いから生まれた発想だった。
でも実現には問題がある。魔法瘤は便利だけどすぐに力を使い果たしてしまう。今の装置じゃ、毎日交換しなきゃならない。しかも魔法瘤は高価だ。消費を抑え、なおかつ強い熱を生み出す仕組みがいる。
そんな時だった。ボリビエさんが作業場にふらりと現れた。ボリビエさんにそんな話をすると良い話を教えてくれた。
「ねぇ、統領。火食いトカゲの革って、断熱と保温力すごいのよ。ドワーフの間じゃ、昔っから炭火袋に使ってたくらい」
「炭火袋?」
「うん。革袋に少しだけ炭火を入れて持ち歩くの。小さな魔法瘤でも温度が逃げないって、ヂョウギが言ってたわ」
ピンと来た。
熱を保ち、逃がさず、少しの魔力でずっと温かい。そんな素材があるなら……それを『装置』にできる!
その夜、僕は興奮して眠れなかった。すぐにヂョウギとブルッグを呼び、革の加工技術と、魔法瘤の安定供給について相談を始めた。
「できると思うぜ、統領」
ブルッグの笑顔は、いつも少し不敵だけど頼りになる。
「革の厚みを均一にすれば、放熱率もコントロールできるはずです」
ヂョウギの言葉に、僕は大きくうなずいた。
さらに翌日、小人族の代表クルムさんがやってきた。
「ねぇ、内装の断熱はわたし達に任せてくれる? 断熱性のある革で中敷を作ってあげるわ」
「本当に? すごい……!」
クルム達の仕事は緻密で、美しく、そしてとても丈夫だ。
そして執事のストークも、開発の補佐に名乗り出た。
「リョウ様、部材管理と組み立て段階の工程表は私が作成いたします。すでに革の在庫と供給状況は調べてあります」
まるで僕が何も言わずとも、周囲が動いてくれる…そんな信頼がうれしかった。
ここからが本番だ。問題は、どうやって魔法瘤の熱を効率よく使い、それを革で包み込む構造に落とし込むか。
「いっそ、魔法瘤の熱を芯にして、その周りを革と魔獣糸で包んだ層にすれば…」
そう僕がつぶやくと、ヂョウギが腕を組み、うなった。
「…それだと統領の言う通り、たった一個の魔法瘤で十日は保つかもしれないですね」
僕は口元が緩むのを抑えられなかった。
初期の設計図が完成したのはそれから三日後のことだった。
僕は作業机に広げた図面に目を通しながら、革の厚みや魔法瘤の位置、空気の流れなどを指でなぞっていく。魔法石の発する熱を逃さず、なおかつ一定の温度に保つ…このバランスが難しかった。
「リョウエスト様、試作一号機の組み立て、完了しました」
ストークが恭しく報告する。僕はドワーヴンベースの奥にある作業場へ向かった。
そこには、手のひら大の丸い装置が置かれていた。外側は火食いトカゲの革で、内部はボリビエさんとクルムさんが仕上げた断熱素材。中央部に魔法瘤のカートリッジをはめ込み、装置のスイッチを入れると…。
「…温かい!」
手をかざすと、まるで春の日差しのような柔らかな熱が手のひらを包んだ。すぐそばにいたブルッグが、鼻を鳴らす。
「悪くねえ。これでどれだけ持つか、テストが要るな」
「さっき入れた魔法瘤、3日前に採れたばかりです。正確な消費量が測れますぞ」
ヂョウギの準備の良さに、思わず頬が緩む。
温度の安定性、持続時間、耐久性。それらを一つ一つ確認していく日々が始まった。
とくにクルムの断熱素材は驚異的で、革の外側がほんのりと温かい程度で中の熱を閉じ込めることができた。これは大きな成果だった。
だが、問題はすぐに表面化する。熱の持続はするが、外気温が低すぎると内外の温度差で結露が起き、内部の部材が傷みやすくなるのだ。
「このままじゃ、寒冷地では使えないかもしれない」
僕が眉をひそめると、ブルッグがポンと胸を叩く。
「なら、空気の流れを工夫しろ。換気口を付けて、一定時間ごとに結露を飛ばすんだ」
「なるほど…タイマー式のモビーを利用した風魔法機構を組み合わせれば…!」
さっそく僕は部材を取り寄せ、新しい設計に取りかかった。これはスージーに手伝ってもらった。忙しいのにありがとう。
一週間後。試作二号機は完成しついにフィールドテストに出すことになった。
テストは、ルステインの中山間地の農村に暮らす老夫婦の家で行った。甜菜農家だ。冷たい石造りの家屋に小さな装置を設置し、魔法瘤一つでどれだけ持つかを試す。
「最初の夜から、違ったよ。冷えが消えて、空気が柔らかい」
老夫婦は目を細め、そう話してくれた。装置はそのまま十日間稼働し、魔法瘤はわずかに力を残していた。
「成功…ですね」
ストークの低く落ち着いた声が、静かに響いた。
けれど、これで終わりではない。量産体制の整備、価格の調整、革の安定供給…やるべきことは山積みだ。
「…ねえ、これで冬が苦手な子も、少しは楽になるかな」
僕の呟きに、ヂョウギがにやりと笑う。
「なるでしょう。温かいってのは、命を守るってことです。統領は良いことを考えました」
155
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
ペットになった
ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる