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7歳の駈歩。
閑話・移住という選択。
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旅の終わりにようやく辿り着いたこの街…ルステイン。私たち一家は、国境を越えて長い道のりを歩いてきた。かつて住んでいた土地では、不景気でまともな職に就くことすら困難だった。子供たちには学校にも通わせてやれず、妻は読み書きができるにもかかわらず、働き口など一つも見つからなかった。
それが、この街では違った。
門をくぐった時、私を移住者だと見た案内人が私たちをすぐに『元紡績ギルド』だという建物へと連れていってくれた。今は仮設宿舎として使われており、移住してきたばかりの者たちが安心して寝泊まりできるよう整備されていた。広々とした木の床、日差しの入る窓、そして何より、誰もが『いらっしゃい』と言ってくれるのだ。
その壁に、ぎっしりと職業案内が貼られていた。驚いたことに、読みやすい文字で書かれており、横には簡単な絵まで添えてある。仕事に就くまで何週間もかかるのが普通だと覚悟していた私は、案内人に薦められるまま『スサン商会関連 ミスリ生産商会』という張り紙を指差した。
「魔法道具関連の軽作業です。技術がなくても、始められますよ」
受付でそう言われ、その日のうちに面接が行われ、なんと翌朝には雇用が決まった。
信じられなかった。妻の方も、読み書きができると伝えると、ある商会の帳簿整理や文書管理の仕事に採用された。彼女の目から、久しぶりに涙がこぼれたのを、私は今でも忘れない。
子供たちはまだ小さいが、仮設宿舎の前にある掲示板に『初等学校の入学案内』が貼ってあり、すぐに通えることがわかった。教科書も無料。あの子たちの笑顔が、ようやく戻ってきた。
ルステインの街には、笑い声が多い。市場には異種族が混ざって働き、店先では気さくに声をかけてくる。外食でもどこへ行っても料理が美味しく、思わず『ここは天国か』と呟いてしまうほどだ。
移住したばかりの者にここまで整った生活が与えられるなど、かつては想像もできなかった。
ルステインには『希望』がある。それは仕事でも、教育でも、食卓でも感じられる、人と人の間に生まれた温もりだ。
ミスリ生産商会での仕事は、私がこれまでに経験したどんな仕事よりも整っていた。初日には研修があり、道具の使い方から安全確認、作業手順まで丁寧に教えてくれる。技術がなくても、きちんと学べばそれを補える環境があるというのは、まるで夢のようだった。
私が配属されたのは、『魔法道具用の外装部品の成形工程』だ。型枠に素材を流し込み、冷やして硬化させ、磨き上げる。単純なようで繊細な作業だが、隣の年配の技師が気さくに声をかけ、コツを惜しげもなく教えてくれる。彼はドワーフ族だったが、偏見など一切なかった。
「腕で語れりゃ種族は関係ねぇ」
と笑ってくれたのが、嬉しかった。
妻の方は、帳簿の管理や受発注の確認を任されていた。もともと数字には強い人だったが、前の土地では女だというだけで相手にされなかった。それが今では、『書類の女王』と同僚にあだ名されるほど信頼されている。
「働くって、こんなに誇らしいことだったのね」
と、彼女がふとこぼした言葉に、私も目頭が熱くなった。
子供たちも元気だ。初等学校に通い始めてからというもの、毎日のように新しい知識を持ち帰ってくる。上の子は読み書きの練習帳を見せてくれ、下の子は数遊びの歌を歌ってくれる。あの子たちの将来が、ようやく開けた気がした。
食卓も変わった。給料が出るようになると、時折家族で外食を楽しむことができるようになった。ルステインの食堂は多彩で、異種族向けの料理も多いのに、どれも美味しい。初めて『エストン』という肉料理を食べたとき、あまりの旨さに皆が無言になった。
「父ちゃん、ぼくも大きくなったら料理作る人になる!」
と息子が言った時には、思わず吹き出してしまった。
この街の人々は、移住してきた私たちにも分け隔てなく接してくれる。ミスリ商会のミスリ代表は、ヒト族出身の男性で、一度商会が潰れそうになったがスサン商会と知り合ったおかげでルステインでも大手の生産商会になった話を聞いた。奥様もとても良い人だ。彼女は社員一人ひとりの誕生日を覚えていて、花束を用意するらしい。そんな人達の下で働けることが、誇らしかった。
かつての生活では、毎日が不安と隣り合わせだった。しかし、今の私は違う。朝起きて、仕事に行き、汗を流して家族の笑顔を見て眠る。この当たり前の営みが、どれほど尊く、幸せなものか。
ルステインは、ただの街ではない。
そこは生まれ変わる場所なのだ。
移住して三ヶ月が経った。
私たち家族は、ようやく『生きる』という実感を得ることができた。もう、日々をただ耐えるだけの暮らしではない。朝の空気を吸い込むと、胸の奥から力が湧いてくる。昨日より今日、今日より明日へと歩を進められる喜びが、確かにここにはあった。
ある日、ミスリ代表に呼び止められた。
「君、部品精製の仕事、ずいぶん丁寧で綺麗だね。職長から報告が来てるよ。人を教えるの、興味はないか?」
一瞬、耳を疑った。まさか自分にそんな声がかかるなんて。だが、あの代表の目は本気だった。仕事への真面目さが、こうして誰かに届いていたのだと知り、胸が熱くなった。
その日の夕食時、家族に話すと、妻は目を潤ませて「誇らしい」と言った。子どもたちは、私の手を掴んで「お父さん、すごい!」とはしゃいだ。泣いてしまうかと思った。
ルステインは、努力を見てくれる場所だ。異種族の間にも壁がなく、魔法が扱えずとも、知恵や手先の器用さで道が拓ける。差別も偏見も、ここではただの昔話のようだった。
初等学校では、子どもたちが色んな種族の先生に教わっている。異なる種族が共に学び、遊び、育ち合う光景は、まさに未来そのものだと思った。
ある日、通っていた食堂の主人が、私にこう言った。
「よう、あんた顔色よくなったな。最初に来た時とはえらい違いだ。いい生活してんだな、今」
その言葉が、何より嬉しかった。誰も見ていないようでいて、見てくれている人がいる。だからこそ、もっと頑張りたくなるのだ。
私のように移住してきた者は、この街には数えきれないほどいる。だが、皆が自分の足で立ち、家族を守り、未来を築こうとしている。その姿に、私はいつも勇気をもらっている。
時折、ふと昔を思い出すことがある。空腹と寒さと不安に震えていた日々。だが、もう戻らない。私はもう、この街の一員だ。
ルステインは、再出発の地であり、未来の地であり、私たちが生きるべき場所なのだ。
この街と共に、これからも歩いていこう。
家族の笑顔と共に——。
それが、この街では違った。
門をくぐった時、私を移住者だと見た案内人が私たちをすぐに『元紡績ギルド』だという建物へと連れていってくれた。今は仮設宿舎として使われており、移住してきたばかりの者たちが安心して寝泊まりできるよう整備されていた。広々とした木の床、日差しの入る窓、そして何より、誰もが『いらっしゃい』と言ってくれるのだ。
その壁に、ぎっしりと職業案内が貼られていた。驚いたことに、読みやすい文字で書かれており、横には簡単な絵まで添えてある。仕事に就くまで何週間もかかるのが普通だと覚悟していた私は、案内人に薦められるまま『スサン商会関連 ミスリ生産商会』という張り紙を指差した。
「魔法道具関連の軽作業です。技術がなくても、始められますよ」
受付でそう言われ、その日のうちに面接が行われ、なんと翌朝には雇用が決まった。
信じられなかった。妻の方も、読み書きができると伝えると、ある商会の帳簿整理や文書管理の仕事に採用された。彼女の目から、久しぶりに涙がこぼれたのを、私は今でも忘れない。
子供たちはまだ小さいが、仮設宿舎の前にある掲示板に『初等学校の入学案内』が貼ってあり、すぐに通えることがわかった。教科書も無料。あの子たちの笑顔が、ようやく戻ってきた。
ルステインの街には、笑い声が多い。市場には異種族が混ざって働き、店先では気さくに声をかけてくる。外食でもどこへ行っても料理が美味しく、思わず『ここは天国か』と呟いてしまうほどだ。
移住したばかりの者にここまで整った生活が与えられるなど、かつては想像もできなかった。
ルステインには『希望』がある。それは仕事でも、教育でも、食卓でも感じられる、人と人の間に生まれた温もりだ。
ミスリ生産商会での仕事は、私がこれまでに経験したどんな仕事よりも整っていた。初日には研修があり、道具の使い方から安全確認、作業手順まで丁寧に教えてくれる。技術がなくても、きちんと学べばそれを補える環境があるというのは、まるで夢のようだった。
私が配属されたのは、『魔法道具用の外装部品の成形工程』だ。型枠に素材を流し込み、冷やして硬化させ、磨き上げる。単純なようで繊細な作業だが、隣の年配の技師が気さくに声をかけ、コツを惜しげもなく教えてくれる。彼はドワーフ族だったが、偏見など一切なかった。
「腕で語れりゃ種族は関係ねぇ」
と笑ってくれたのが、嬉しかった。
妻の方は、帳簿の管理や受発注の確認を任されていた。もともと数字には強い人だったが、前の土地では女だというだけで相手にされなかった。それが今では、『書類の女王』と同僚にあだ名されるほど信頼されている。
「働くって、こんなに誇らしいことだったのね」
と、彼女がふとこぼした言葉に、私も目頭が熱くなった。
子供たちも元気だ。初等学校に通い始めてからというもの、毎日のように新しい知識を持ち帰ってくる。上の子は読み書きの練習帳を見せてくれ、下の子は数遊びの歌を歌ってくれる。あの子たちの将来が、ようやく開けた気がした。
食卓も変わった。給料が出るようになると、時折家族で外食を楽しむことができるようになった。ルステインの食堂は多彩で、異種族向けの料理も多いのに、どれも美味しい。初めて『エストン』という肉料理を食べたとき、あまりの旨さに皆が無言になった。
「父ちゃん、ぼくも大きくなったら料理作る人になる!」
と息子が言った時には、思わず吹き出してしまった。
この街の人々は、移住してきた私たちにも分け隔てなく接してくれる。ミスリ商会のミスリ代表は、ヒト族出身の男性で、一度商会が潰れそうになったがスサン商会と知り合ったおかげでルステインでも大手の生産商会になった話を聞いた。奥様もとても良い人だ。彼女は社員一人ひとりの誕生日を覚えていて、花束を用意するらしい。そんな人達の下で働けることが、誇らしかった。
かつての生活では、毎日が不安と隣り合わせだった。しかし、今の私は違う。朝起きて、仕事に行き、汗を流して家族の笑顔を見て眠る。この当たり前の営みが、どれほど尊く、幸せなものか。
ルステインは、ただの街ではない。
そこは生まれ変わる場所なのだ。
移住して三ヶ月が経った。
私たち家族は、ようやく『生きる』という実感を得ることができた。もう、日々をただ耐えるだけの暮らしではない。朝の空気を吸い込むと、胸の奥から力が湧いてくる。昨日より今日、今日より明日へと歩を進められる喜びが、確かにここにはあった。
ある日、ミスリ代表に呼び止められた。
「君、部品精製の仕事、ずいぶん丁寧で綺麗だね。職長から報告が来てるよ。人を教えるの、興味はないか?」
一瞬、耳を疑った。まさか自分にそんな声がかかるなんて。だが、あの代表の目は本気だった。仕事への真面目さが、こうして誰かに届いていたのだと知り、胸が熱くなった。
その日の夕食時、家族に話すと、妻は目を潤ませて「誇らしい」と言った。子どもたちは、私の手を掴んで「お父さん、すごい!」とはしゃいだ。泣いてしまうかと思った。
ルステインは、努力を見てくれる場所だ。異種族の間にも壁がなく、魔法が扱えずとも、知恵や手先の器用さで道が拓ける。差別も偏見も、ここではただの昔話のようだった。
初等学校では、子どもたちが色んな種族の先生に教わっている。異なる種族が共に学び、遊び、育ち合う光景は、まさに未来そのものだと思った。
ある日、通っていた食堂の主人が、私にこう言った。
「よう、あんた顔色よくなったな。最初に来た時とはえらい違いだ。いい生活してんだな、今」
その言葉が、何より嬉しかった。誰も見ていないようでいて、見てくれている人がいる。だからこそ、もっと頑張りたくなるのだ。
私のように移住してきた者は、この街には数えきれないほどいる。だが、皆が自分の足で立ち、家族を守り、未来を築こうとしている。その姿に、私はいつも勇気をもらっている。
時折、ふと昔を思い出すことがある。空腹と寒さと不安に震えていた日々。だが、もう戻らない。私はもう、この街の一員だ。
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この街と共に、これからも歩いていこう。
家族の笑顔と共に——。
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