【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
373 / 806
8歳の旅回り。

お爺さんとお爺様。

 ルステインのスサン商会、午後。窓から射す光が、木目の床を柔らかく照らしていた。

「…ずいぶんと、骨太になったな。昔はもう少し細面だったが」

 深く刻まれた笑い皺の間から、カイスル・ナフェル騎士爵は静かに声を漏らした。目の前の男…ラジュラエン・スサンは、白髪の老学者。だがその瞳には、かつて商会を率いた時代と変わらぬ鋭さが宿っていた。

「お互いさまだ。まさかまだ鎧を着て現場に立っているとは思わなかったぞ。もう引退しているかと思っていたが」

 ラジュラエンが笑うと、ナフェルも喉の奥で笑った。

「引退なんぞしたら、体が鈍る。騎士は剣を置いた時が死に時だ」
「教師も同じさ。口を閉じたら終わりだよ。私もまだ講壇に立っている」

 ふたりは同時に小さく息をつき、長い沈黙のあと、机の間を隔てて座った。

 ラジュラエンがふと思い出したように口を開く。

「カイスル。あの時は、本当にありがとう。ハッセルエンのことだ」

ナフェルの眉がわずかに動く。

「……結婚の話か?」
「そうだ。あの時、そちらの娘さんと結婚したいと息子が言い出してね…当時は私も止めようかと思ったんだ。だが彼の覚悟を見て、あなたはせめて剣の修行をさせてくれと頼みに来た」

 ナフェルは静かに頷いた。

「俺はあの時、甘えを捨てさせたかった。爵位や商会の後ろ盾に頼ってほしくなかったんだ。あいつには血の滲む修行を与えた」
「地獄の特訓だったな」
「泣き言も言わず、歯を食いしばって剣を振った。骨が折れても立ち上がった」

 ふたりの間に、かすかな誇りが立ち上る。ラジュラエンは続けた。

「…あの時、あなたが教えてくれなければ、うちの息子は今ほど芯のある男にはなっていなかった。感謝してもしきれないよ」

 ナフェルは腕を組み、目を細める。

「育てたのはあんたの教育だ。俺は剣を教えただけだ」
「いや、根っこを鍛えてくれたのはあなたの剣だよ」

 そして、ふたりはまた静かに笑った。若かりし頃の思い出が、今も生きていることを噛み締めるように。

「覚えているか? あいつが最初に持ってきた剣、鍛え直さねばならんほど曲がっていてな」
「覚えてるとも。柄を握る手が震えていて、まともに構えられなかった。なのに、どこか目だけは強かったな」

 ラジュラエンは懐かしげに笑った。

「あれはたぶん、娘さんに一目惚れした時の目だな」

 ナフェルも鼻を鳴らして笑う。

「初日の訓練で膝を砕いた。だが二日目にはもう立っていた。根性だけは一級品だった」
「三日目には、血を吐いて倒れたと聞いたぞ」
「それでも四日目に来た。お前さんの息子、意地の塊だったよ」

 ラジュラエンは少し目を伏せ、言葉を続けた。

「…その意地を、ただの頑固さにせず、剣に変えてくれたのはあなたのおかげだ。感情に流されず、覚悟を持って教えてくれた。だからこそ今、あいつは立派な父親で、商会をまとめる男になっている」

 ナフェルは椅子にもたれながら、真っ直ぐにラジュラエンを見た。

「お前の子育ての賜物だ。あれほど素直に礼が言える若者は、今どきそういない」
「…父親としては、やはり迷いはあったよ」
「それでもお前は、彼を信じていたんだろう?」
「そうだな」

 沈黙が再び訪れた。しかし今度は、それは気まずいものではなく、互いの信頼が生む落ち着いた間だった。

 やがてナフェルが、ふと思い出したように言う。

「そういえば、孫のリョウ…あいつ、またとんでもない事考えているらしいな」
「はは、聞いてるのか」
「ハッセルエンから概要は聞いている。今までのものはかなり使える物であったから、今度の物も期待してるよ…あいつも、芯の強さを受け継いでる」
「孫の代になっても、まだあなたとこうして語れるとは思わなかったよ」

ふたりは深く息をつき、そして頷き合った。

「お前さん、もう講義からは退いたのかと思っていたが…今も教壇に?」
「週に三度ほど。今は考古学の基礎を教えている。年寄りの話もな、聞く子がいれば意味がある」

ナフェルは口角を上げる。

「ふん、同じだ。老いた身でも、やるべき仕事があるならやる。それだけだ」
「…だが、身体は気をつけろよ。騎士爵として現役とはいえ、若い頃のようにはいかんだろう」
「そういうお前も、夜中まで論文を読んでいると聞いたが?」

 ラジュラエンは肩をすくめた。

「どっこいどっこい、だな」

 ふたりは同時に吹き出した。

「年寄りが無理をすると、若い連中が後ろから慌てる。だが……」

 ナフェルはまっすぐにラジュラエンを見て言った。

「王国の未来のためだ。手は抜けん」
「まったくだ。次の世代が何かを創り出すなら、土台は我々が守らねば」

 ふたりは立ち上がった。椅子が軽くきしむ。

 ナフェルがゆっくりと右手を差し出す。

「ラジュラエン。これからも、頼むぞ」

 ラジュラエンも、しっかりとその手を握った。

「こちらこそ、カイスル。互いにもうひと踏ん張り、やっていこうじゃないか」

…老いてなお、燃えるものがある。

 それを分かち合える相手がいる限り、彼らは戦う。教壇で、剣の道で、子や孫たちの背を支えるために。

 ルステインの午後は、静かに続いていた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます! 七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。 しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。 食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。 孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。 これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。