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8歳の旅回り。
お爺さんと王都行。
「おじいさんも、一緒に行くの?」
「たまたまタイミングが合っただけだよ。学園の講義があるんでな。ちょうど王都行きだったろ?」
おじいさん…ラジュラエンが、ひょいと肩をすくめた。荷物はもう荷車に積まれていて、屋敷の門前には馬車が二台。前の一台には僕とおじいさん、そして護衛や執事たち。後ろの荷車には、今年の新製品発表会で使う品々が入っている。
「準備は整っております、リョウ様」
ストークが一礼し、僕の乗り込みを促す。黒いスーツ姿は相変わらず整っている。
「ナビは…いた」
「にゃー」
僕の足元から、翼のある猫がひょっこりと現れる。
馬車の横では、槍を背負ったミザーリが静かに立っている。目が合うと、かすかにうなずいた。
「主よ。ご無事な旅路となるようお守りいたします」
「ありがとう、ミザーリ」
「青の技」たちは、いつの間にか馬車の周囲にそれぞれの持ち場を取っている。こういう時は軍仕込みの規律の良さが出るね。
「出発いたします!」
御者の獣人耳がぴくぴく動く狼の青年が口笛を吹きヤク牛が動き出す。4泊5日の始まりだ。
馬車がゆっくりと動き出すと、荷車の中で何かがカチャリと揺れた音がした。
「中、壊れてないよね……」
「新製品か? 今年のは何を仕掛けた?」
「うん…色々だけど。遠くを見る物なんかだね」
「ほう。ハッセルエンの方で取り組んでるのは発表しないのか?」
「あれはスサン商会が発表する物だから」
「リョウが発表すれば良いのに」
「スサン商会がやっぱり名前と生産能力あるからね」
「そうか、色々と考えているんだな」
「うん。一応これでも商会長だからね」
「小さい商会長か。でも素晴らしいぞ」
「ありがと」
おじいさんが目を細める。馬車の窓から外を見ながら、静かに言った。
「私も商会長をやってた頃色々と考えたものだ。いかに儲けようかとな」
「そうなの?」
「そうだ。だがリョウは儲けより王国の未来を見てるように見える」
「うーん。そうかも知れない」
「だが理想だけでなく、実利も得るように立ち回るのが良いぞ」
「気をつける」
「それで、王都の社交は今年で三年目か」
「うん。大舞踏会と自分の昼食会。ルステインの夜会。他の貴族の家の夜会やお茶会が何回だろ?結構行った。あとは去年は王族のイベントもあったね」
「十分働いているな。それで給金は出るのか?」
「…それ、聞かないで」
旅が始まって二日目の昼過ぎ。王都まではまだ三分の一というところ。
馬車の中は穏やかだった。おじいさんは古い歴史書を読み、僕はナビの羽を指で撫でて遊んでいた。
「…なんか、前方が騒がしいな」
ミザーリが目を細めてそっと槍に手を添えた。
馬車が止まり、御者のボルクが前方から小走りでやってくる。
「リョウ様、前方で…馬車同士の、ええと、貴族の小競り合いが…」
「またか…去年も、商会の誰がどれだけ招待されたかで揉めてたよね」
「どうせくだらん意地の張り合いだ」
おじいさんがばさっと本を閉じて言った。
「貴族というのはな。地位と虚栄で顔ができている。小競り合いしないと死ぬ病にでもかかっているのかもしれん」
「それって病気なの?」
「精神的なな。伝染するから近づくな」
前方を警戒していた『青の技』のフュンフが馬車の扉に近づき、声を潜めて報告した。
「先方、ナンベル男爵家とリーテ子爵家の車列が、互いに道を譲れぬと口論に。道幅が狭いため、通過できません」
「…いつものだ」
「押し通ってもいいが、それなりの混乱が起こります。どうされますか」
僕はおじいさんの顔をちらりと見る。彼はあきれたようにため息をついた。
「どうせ埒が明かん。横を山越えでもして進めるか?」
「ナビ、飛んで偵察行ける?」
「にゃ」
ナビがひらりと飛び立つ。数分後、空から戻ってきて、翼をパタパタと揺らした。
「にやー。にゃっにゃっ」
「ナビが言うには、先頭の馬車がどかないと進めないって。完全に塞いでる」
「交渉するか、強行突破するか、だな…」
「待って。それ、今年の新製品が壊れたら困る」
「……なら、第三の選択肢だな」
僕は馬車の窓を開け、大きな声で叫んだ。
「ナンベル男爵様!リーテ子爵様!スサン商会の王様への献上品を載せた荷車が後ろに続いております!破損した場合、損害申請の対象はどちらでしょうかー!」
…三分後。道は開いた。
王都の門が見えた時、おじいさんがふうっと息をついた。
「…やっと門に来たわ。ここに来たら王都っていう感じがするの」
「僕も」
門を抜けると、城壁の内側に広がる倉庫通りと門前町。まだ王都の賑わいには遠い。馬車はそこから王立学園の方へ向かい学園前で停まる。
「さて、私はここで降りるとしよう」
「学園前でいい?」
「うむ。新学期の準備がある」
馬車が止まり、ストークが扉を開ける。
「では、リョウエスト。王都の空気に飲まれるなよ」
「おじいさんも、生徒に飲まれないようにね」
「ふっ。飲まれたら、お前に助けを求めようか」
そう言って笑ったおじいさんは、ゆっくりと学園の門をくぐっていった。相変わらず、背筋はぴんとしていた。
馬車は再び動き出す。今度の行き先は、貴族街。貴族門を抜け目的地に到着した。
「…ただいま、か」
ルステイン伯爵家のタウンハウスだ。僕のための社交の場、今月を過ごす家。
「ナビ、頑張ろうね」
「にゃー」
また、忙しい一か月が始まる。
「たまたまタイミングが合っただけだよ。学園の講義があるんでな。ちょうど王都行きだったろ?」
おじいさん…ラジュラエンが、ひょいと肩をすくめた。荷物はもう荷車に積まれていて、屋敷の門前には馬車が二台。前の一台には僕とおじいさん、そして護衛や執事たち。後ろの荷車には、今年の新製品発表会で使う品々が入っている。
「準備は整っております、リョウ様」
ストークが一礼し、僕の乗り込みを促す。黒いスーツ姿は相変わらず整っている。
「ナビは…いた」
「にゃー」
僕の足元から、翼のある猫がひょっこりと現れる。
馬車の横では、槍を背負ったミザーリが静かに立っている。目が合うと、かすかにうなずいた。
「主よ。ご無事な旅路となるようお守りいたします」
「ありがとう、ミザーリ」
「青の技」たちは、いつの間にか馬車の周囲にそれぞれの持ち場を取っている。こういう時は軍仕込みの規律の良さが出るね。
「出発いたします!」
御者の獣人耳がぴくぴく動く狼の青年が口笛を吹きヤク牛が動き出す。4泊5日の始まりだ。
馬車がゆっくりと動き出すと、荷車の中で何かがカチャリと揺れた音がした。
「中、壊れてないよね……」
「新製品か? 今年のは何を仕掛けた?」
「うん…色々だけど。遠くを見る物なんかだね」
「ほう。ハッセルエンの方で取り組んでるのは発表しないのか?」
「あれはスサン商会が発表する物だから」
「リョウが発表すれば良いのに」
「スサン商会がやっぱり名前と生産能力あるからね」
「そうか、色々と考えているんだな」
「うん。一応これでも商会長だからね」
「小さい商会長か。でも素晴らしいぞ」
「ありがと」
おじいさんが目を細める。馬車の窓から外を見ながら、静かに言った。
「私も商会長をやってた頃色々と考えたものだ。いかに儲けようかとな」
「そうなの?」
「そうだ。だがリョウは儲けより王国の未来を見てるように見える」
「うーん。そうかも知れない」
「だが理想だけでなく、実利も得るように立ち回るのが良いぞ」
「気をつける」
「それで、王都の社交は今年で三年目か」
「うん。大舞踏会と自分の昼食会。ルステインの夜会。他の貴族の家の夜会やお茶会が何回だろ?結構行った。あとは去年は王族のイベントもあったね」
「十分働いているな。それで給金は出るのか?」
「…それ、聞かないで」
旅が始まって二日目の昼過ぎ。王都まではまだ三分の一というところ。
馬車の中は穏やかだった。おじいさんは古い歴史書を読み、僕はナビの羽を指で撫でて遊んでいた。
「…なんか、前方が騒がしいな」
ミザーリが目を細めてそっと槍に手を添えた。
馬車が止まり、御者のボルクが前方から小走りでやってくる。
「リョウ様、前方で…馬車同士の、ええと、貴族の小競り合いが…」
「またか…去年も、商会の誰がどれだけ招待されたかで揉めてたよね」
「どうせくだらん意地の張り合いだ」
おじいさんがばさっと本を閉じて言った。
「貴族というのはな。地位と虚栄で顔ができている。小競り合いしないと死ぬ病にでもかかっているのかもしれん」
「それって病気なの?」
「精神的なな。伝染するから近づくな」
前方を警戒していた『青の技』のフュンフが馬車の扉に近づき、声を潜めて報告した。
「先方、ナンベル男爵家とリーテ子爵家の車列が、互いに道を譲れぬと口論に。道幅が狭いため、通過できません」
「…いつものだ」
「押し通ってもいいが、それなりの混乱が起こります。どうされますか」
僕はおじいさんの顔をちらりと見る。彼はあきれたようにため息をついた。
「どうせ埒が明かん。横を山越えでもして進めるか?」
「ナビ、飛んで偵察行ける?」
「にゃ」
ナビがひらりと飛び立つ。数分後、空から戻ってきて、翼をパタパタと揺らした。
「にやー。にゃっにゃっ」
「ナビが言うには、先頭の馬車がどかないと進めないって。完全に塞いでる」
「交渉するか、強行突破するか、だな…」
「待って。それ、今年の新製品が壊れたら困る」
「……なら、第三の選択肢だな」
僕は馬車の窓を開け、大きな声で叫んだ。
「ナンベル男爵様!リーテ子爵様!スサン商会の王様への献上品を載せた荷車が後ろに続いております!破損した場合、損害申請の対象はどちらでしょうかー!」
…三分後。道は開いた。
王都の門が見えた時、おじいさんがふうっと息をついた。
「…やっと門に来たわ。ここに来たら王都っていう感じがするの」
「僕も」
門を抜けると、城壁の内側に広がる倉庫通りと門前町。まだ王都の賑わいには遠い。馬車はそこから王立学園の方へ向かい学園前で停まる。
「さて、私はここで降りるとしよう」
「学園前でいい?」
「うむ。新学期の準備がある」
馬車が止まり、ストークが扉を開ける。
「では、リョウエスト。王都の空気に飲まれるなよ」
「おじいさんも、生徒に飲まれないようにね」
「ふっ。飲まれたら、お前に助けを求めようか」
そう言って笑ったおじいさんは、ゆっくりと学園の門をくぐっていった。相変わらず、背筋はぴんとしていた。
馬車は再び動き出す。今度の行き先は、貴族街。貴族門を抜け目的地に到着した。
「…ただいま、か」
ルステイン伯爵家のタウンハウスだ。僕のための社交の場、今月を過ごす家。
「ナビ、頑張ろうね」
「にゃー」
また、忙しい一か月が始まる。
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