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8歳の旅回り。
ありがたい忠告。
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王都の小ホールは、今年も例年通りの華やかさに包まれていた。
季節の花々が飾られ、緑を基調とした室内には清涼な香りが漂う。今年も華やかになるようがんばった。
「皆様、本日はお越しくださり、誠にありがとう、ございます」
僕は8歳になったばかり。だが、3年前からこの昼食会を主催している。
参加者は全員、王国を支える上級貴族たち。今回も派閥長が全員そろっていた。
最初に現れたのは、中立派のエフェルト公爵。
例年と変わらぬ穏やかな表情で、頷いて入ってきた。
「今年の飾り付けも趣味が良いな。君のところの職人か?」
「はい。ルステインから花飾り職人を呼びました。季節の色を重視しているの」
続いて、王党派のスクワンジャー公爵夫妻。
氷菓が大好きな夫人は、すでに料理表に目を走らせていた。
「今年も氷菓はございますか?」
「はい。今年は桃と乳のソルベを二層仕立てでご用意したの」
「ふふ、楽しみにしておるよ」
最後に、貴族派のゼローキア侯爵が到着。目を細めながら僕を見下ろした。
「貴様の成長も早いものだな。三年前は声が裏返っていたのに」
「その節は失礼したの。でも、成長してる証ですから」
会場が落ち着いたところで、フルコースの提供が始まった。
前菜は柑橘とスモークチーズのパイ包み。
スープは冷製の豆乳ポタージュ、魚はタイとハーブのオイル焼き。
アバーンの肉は、今回はあえて使わず、熟成牛の赤ワイン煮をメインに据えた。
会話は和やかで、各貴族の夫人たちもリラックスしていた。
だが、どこかその空気に、違和感が混じっていた。
その時、侍従の一人がそっと僕の袖を引いた。
小さな羊皮紙を差し出し、囁く。
「…先ほど、異種族の領主様から渡されたとのことです」
僕はそっと開く。
『我々が調べたところ、目的は……リョウエスト君を『消す』ことではなく、『曖昧化』し、記録から消すことだった。記録の改ざんや噂の操作を通じ、君を『無名』に落とし、王国や貴族の記録から消す…そうすることで、彼らは君の『名』を奪い、未来の可能性を潰すつもりだったようだ。我々は君を守る。安心してくれ 6人の同志』
一瞬、手が震えた。
「どうか…ご注意を」
僕はうなずいた。そして羊皮紙を懐にしまい、笑顔を取り戻した。
昼食会はまだ、始まったばかりだ。
「ところでリョウエスト君、近ごろはどのような書物を読んでいるのかな?」
ゼローキア侯爵がワインを口にしながら、鋭く問いかけてくる。
「王国史のほかに、文献整理と記録保全について学んでいる」
「記録…ふむ、面白い選択だ」
「記録を残すことは、未来にとって何よりも大事ですから」
僕はあえてそう言った。目の奥でゼローキア侯爵の目が細くなる。
一方で、エフェルト公爵が僕に小声で話しかけてくる。
「……少し、君の周囲に怪しい動きがある。記録や文書の管理部署に、妙な人事異動がね」
「はい、察しています。情報、ありがとうございます」
「私も少し調べてみよう。中立であることは、時に利点になるからな」
肉料理のあと、氷菓が出された。スクワンジャー公爵夫人が目を輝かせる。
「美味……これは、やはり君の開発か?」
「はい。季節ごとに試作を繰り返しています」
「王妃様にも届けたい味だわ」
その瞬間、僕はひらめいた。
僕を消そうとする者たちは、「人々の記憶」「文献」「影響力」を狙っている。
だが、味や香り、体験…記録には残せない『感情』までは消せない。
僕は会話を続けながら、心の中で決意を固めていた。
誰かが僕を“無名”にしようとするなら、それ以上に、人の心に“記憶”を刻みつけてやれば良いと。
昼食会が終わりに近づく頃、派閥の三人は互いに目を合わせていた。
誰もが気づいていた。…何かが、この会の裏で動いている。
「君には、王国を超えて視野を広げてほしい」
エフェルト公爵が最後にそう言い残し、礼儀正しく立ち去る。
「真っ直ぐな道を行け、少年」
スクワンジャー公爵も続いた。夫人が名残惜しそうに氷菓おかわりして食べてたのが、印象深かった。
そして、ゼローキア侯爵は僕のそばに最後まで残った。
「リョウエスト君。君の“名”を消す手法は、古くからあるが、実に効果的だ」
「それは……あなたの知見ですか?」
「ふふ、あくまで歴史としての話だよ。だが、気をつけることだ。記録が消えれば、どれだけ偉業を成しても、それは『なかったこと』になる」
僕はうなずいた。
「その通りです。だから、僕は書き続けます。残し続けます。人と人の間に、出来事と記憶を、強く深く」
侯爵は短く笑い、マントを翻して去っていった。
その夜、僕はヤートからの追加報告を受けた。
『名の一団』と呼ばれる謎の集団が、情報と記録を操作し、要人の痕跡を社会から『無名』へと落とす隠密組織であること。
僕は羊皮紙を握りしめ、つぶやいた。
「僕の名を消したいのか……なら、その名で誰よりも人を笑顔にしてみせる」
この日の会は、今後の王国を左右する大きな分岐点となった。
だがそれは、誰の記録にも、どこにも残っていない。
季節の花々が飾られ、緑を基調とした室内には清涼な香りが漂う。今年も華やかになるようがんばった。
「皆様、本日はお越しくださり、誠にありがとう、ございます」
僕は8歳になったばかり。だが、3年前からこの昼食会を主催している。
参加者は全員、王国を支える上級貴族たち。今回も派閥長が全員そろっていた。
最初に現れたのは、中立派のエフェルト公爵。
例年と変わらぬ穏やかな表情で、頷いて入ってきた。
「今年の飾り付けも趣味が良いな。君のところの職人か?」
「はい。ルステインから花飾り職人を呼びました。季節の色を重視しているの」
続いて、王党派のスクワンジャー公爵夫妻。
氷菓が大好きな夫人は、すでに料理表に目を走らせていた。
「今年も氷菓はございますか?」
「はい。今年は桃と乳のソルベを二層仕立てでご用意したの」
「ふふ、楽しみにしておるよ」
最後に、貴族派のゼローキア侯爵が到着。目を細めながら僕を見下ろした。
「貴様の成長も早いものだな。三年前は声が裏返っていたのに」
「その節は失礼したの。でも、成長してる証ですから」
会場が落ち着いたところで、フルコースの提供が始まった。
前菜は柑橘とスモークチーズのパイ包み。
スープは冷製の豆乳ポタージュ、魚はタイとハーブのオイル焼き。
アバーンの肉は、今回はあえて使わず、熟成牛の赤ワイン煮をメインに据えた。
会話は和やかで、各貴族の夫人たちもリラックスしていた。
だが、どこかその空気に、違和感が混じっていた。
その時、侍従の一人がそっと僕の袖を引いた。
小さな羊皮紙を差し出し、囁く。
「…先ほど、異種族の領主様から渡されたとのことです」
僕はそっと開く。
『我々が調べたところ、目的は……リョウエスト君を『消す』ことではなく、『曖昧化』し、記録から消すことだった。記録の改ざんや噂の操作を通じ、君を『無名』に落とし、王国や貴族の記録から消す…そうすることで、彼らは君の『名』を奪い、未来の可能性を潰すつもりだったようだ。我々は君を守る。安心してくれ 6人の同志』
一瞬、手が震えた。
「どうか…ご注意を」
僕はうなずいた。そして羊皮紙を懐にしまい、笑顔を取り戻した。
昼食会はまだ、始まったばかりだ。
「ところでリョウエスト君、近ごろはどのような書物を読んでいるのかな?」
ゼローキア侯爵がワインを口にしながら、鋭く問いかけてくる。
「王国史のほかに、文献整理と記録保全について学んでいる」
「記録…ふむ、面白い選択だ」
「記録を残すことは、未来にとって何よりも大事ですから」
僕はあえてそう言った。目の奥でゼローキア侯爵の目が細くなる。
一方で、エフェルト公爵が僕に小声で話しかけてくる。
「……少し、君の周囲に怪しい動きがある。記録や文書の管理部署に、妙な人事異動がね」
「はい、察しています。情報、ありがとうございます」
「私も少し調べてみよう。中立であることは、時に利点になるからな」
肉料理のあと、氷菓が出された。スクワンジャー公爵夫人が目を輝かせる。
「美味……これは、やはり君の開発か?」
「はい。季節ごとに試作を繰り返しています」
「王妃様にも届けたい味だわ」
その瞬間、僕はひらめいた。
僕を消そうとする者たちは、「人々の記憶」「文献」「影響力」を狙っている。
だが、味や香り、体験…記録には残せない『感情』までは消せない。
僕は会話を続けながら、心の中で決意を固めていた。
誰かが僕を“無名”にしようとするなら、それ以上に、人の心に“記憶”を刻みつけてやれば良いと。
昼食会が終わりに近づく頃、派閥の三人は互いに目を合わせていた。
誰もが気づいていた。…何かが、この会の裏で動いている。
「君には、王国を超えて視野を広げてほしい」
エフェルト公爵が最後にそう言い残し、礼儀正しく立ち去る。
「真っ直ぐな道を行け、少年」
スクワンジャー公爵も続いた。夫人が名残惜しそうに氷菓おかわりして食べてたのが、印象深かった。
そして、ゼローキア侯爵は僕のそばに最後まで残った。
「リョウエスト君。君の“名”を消す手法は、古くからあるが、実に効果的だ」
「それは……あなたの知見ですか?」
「ふふ、あくまで歴史としての話だよ。だが、気をつけることだ。記録が消えれば、どれだけ偉業を成しても、それは『なかったこと』になる」
僕はうなずいた。
「その通りです。だから、僕は書き続けます。残し続けます。人と人の間に、出来事と記憶を、強く深く」
侯爵は短く笑い、マントを翻して去っていった。
その夜、僕はヤートからの追加報告を受けた。
『名の一団』と呼ばれる謎の集団が、情報と記録を操作し、要人の痕跡を社会から『無名』へと落とす隠密組織であること。
僕は羊皮紙を握りしめ、つぶやいた。
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