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8歳の旅回り。
久しぶりなナーディルさんとの修行。
「この絵を見てください。こういう植物なんです。これ、見たことありますか?」
僕は紙に描いた稲の絵を、火の民自治領の領主代理に差し出した。緊張していたけれど、彼女は真剣にそれを見つめ、眉をひそめた。
「……穂の先が垂れていますね。麦でもない、キビでもない。けど……どこかで見た気もする」
「見たことあるってことは、育ってる可能性があるってことですよね?」
「可能性はあります。ですがこの辺りでは…よし、各町村に確認を取ってみましょう」
「ありがとうございます!」
この世界では『稲』は知られていない。けれど、天啓で僕は『米』が火の民領にあるのを知っていた。調査依頼を終えた僕は、もうひとつの目的地へと向かった。火の民の守護神であるナーディル神殿である。
神殿は溶岩の地熱を利用した円形構造で、堂内に入るとすぐ、意識が一瞬、白く弾けた。
気がつくと、僕は炎に包まれた石床の上に立っていた。遠くから、雄々しくも親しげな声が響く。
「久しいな、リョウよ!」
「ナーディルさん…!」
現れたのは、全身を黄金の鎧で包んだ男神。ナーディル様は六大神の一柱であり、火の民の主神であり、僕にとっては武の師でもある。
「槍の型、崩れてきたぞ」
「え……わかるんですか?」
「槍を手にすればわかる。振るえば、なおさらだ。槍を出せ」
僕は収納から槍を出し構えた。
「よいか、踏み込みが浅いと、どんな神槍でも『戯れ』になる」
「稽古お願いします!」
僕は大地を蹴って槍を構えた。
「構え直せ、腰が浮いている」
ナーディル様の指摘は鋭く、でもどこかあたたかい。僕は言われた通りに膝を少し落とし、重心を整えた。
「……こう?」
「うむ、だがそれでは『鋭さ』が足りぬ。お前が学んでいるのは『神速』の系譜。槍は斬るのではなく、貫くためにある」
ナーディル様は自身の大槍を軽く振り、炎の軌跡を空中に描いた。一本の直線、それが地を穿つ神意。
「『間』を詰め、意識を一点に集中せよ。心に雑念があれば、槍は道具でしかなくなる」
「うん、わかってきた。……前より、すごく」
「お前は、成長が早すぎる。だが、鍛錬を怠れば『脆さ』も早く育つぞ」
「はい!」
僕は渾身の気力をこめて一撃を放つ。大地が震え、空気が一瞬だけ焦げる匂いを帯びた。
ナーディル様は満足そうに頷いた。
「それでよい。だが今日の稽古はここまでだ」
「えっ、もう? もっとやりたいのに!」
「お前の魂はまだ『人の子』だ。長くここにいれば、帰り道を見失う」
「……また来ます。槍、もっと上手になって見せるから!」
「楽しみにしておるぞ」
その言葉を最後に、僕の意識はゆっくりと現実に戻りはじめた。
「お目覚めですか、リョウ様?」
ストークの声で目を開けると、神殿の石の床に寝かされていた。
「……うん。ちゃんと帰ってこれた」
ナビがぴょんと膝の上に乗り、「にゃ」と鳴く。ミザーリは背後で腕を組んでいた。
「体調に問題はありませんか?」
「ちょっと汗かいたけど、元気」
「天啓ですか?」
「そう」
その時、神殿の外から兵士が駆け込んできた。
「リョウ様、領主代理より急ぎのご報告です!」
「……何かあった?」
「はっ、先ほど各町村に“稲”についての聞き込みを行った結果…」
「えっ、もう?」
「はい、一つの村にて、似た植物があるとの報告が届きました!」
僕はぱっと顔を輝かせた。
「やった!場所は?案内してもらえる?」
「はい、既に馬車の用意がされております」
「ありがとう!ストーク、行こう!」
ストークが微笑む。その時、さらにもう一人、使者が駆け込んでくる。
「ルステインからの急報です!ご家族からの手紙を預かっております!」
僕の目が見開かれる。
「えっ、本当に!? 誰から?」
「ご尊父様より。そして…ご母堂様、ロイックエン様からも」
手紙を受け取り、僕はその封を胸に抱きしめた。
「……よかった。ちゃんと、届いたんだ」
僕は家族からの手紙をゆっくりと開いた。
それぞれ心配していた事、無事で生きていた事の喜びを書いていた。こちらの事は心配しないようにと書かれている。良かった。家族にはまだ危害を与えられていない。
僕はすべての手紙を読み終えて、しばし沈黙した。
「…僕、もっと強くならなくちゃ」
つぶやくと、隣にいたストークが静かに微笑んだ。
「強くあらねばと思うその心が、既に強さの証です」
エメイラがぽんと僕の肩に手を置いた。
「あなたの背中には、きっと誰よりも大きな炎が宿ってるわよ。ナーディル様も、それを見ていたからこそ、天啓をくれたのでしょ?」
「…うん、そうだね」
ふと、ナビが膝の上に乗ってくる。くるんと丸くなって「にゃ」と小さく鳴いた。
みんなで領主館に戻る。戻ると早速兵士がやってきた。
「リョウ様。例の『稲』について、報告がございます」
「うん!」
「ご報告いたします。稲と見られる植物が確認されたのは、領の西部に位置する『フェルナ村』。湿地帯に広がる畑の一角にて、見慣れぬ植物として代々育てられていたとのこと。……ただ、食用ではなく『奇妙な草』として扱われていたようです」
「やっぱり……あったんだ」
僕は思わず身を乗り出した。
「見に行ってみたい。案内してもらえる?」
「もちろんでございます」
「ありがとう。じゃあ…」
僕は立ち上がり、周囲を見渡す。
「明日、フェルナ村へ出発。目的は『米』の発見と、育成の可能性の調査。そして…将来的な栽培・調理法の確立」
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