【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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8歳の旅回り。

獣人自治領に向かう。

「…お前か、裏切り者は」

 アインスの声は低く、しかし確かな怒気を孕んでいた。火の民の兵士に押さえつけられているのは、領都の近隣拠点で働いていた男。火の民の古参の一人だが、裏で名の一団と繋がっていた。

「オグレルを逃がす段取りをつけていたのも貴様だったか」
「違う!俺はただ、ただ…!火の民の純血を守りたかっただけで…!」
「くだらねえ理由で、子供の命を狙うたァ許せねえでやすよ」

 アインスが目を細め、右手の短剣を抜いたが、僕が手で制した。

「待って。もう充分。火の民伯が戻るまで、この人はちゃんと拘束して」
「…了解でやす」

 その翌朝、僕たちは領都の拠点で報告書を整理していた。ナビは僕の膝に乗って丸まり、ミザーリは黙って窓際に立っていた。エメイラは書類をパラパラとめくりながら、ふと目を上げた。

「よく耐えたわね、リョウ…でも終わってない」
「うん。名の一団はまだ、どこかにいる。動いてる」
「だからこそ、今からが本番ってことか」

 その時、扉が勢いよく開いた。

「リョウエスト…!」

 入ってきたのは、火の民の重臣。そしてその後ろから、赤い法衣に身を包んだ堂々たる男が現れる。

「火の民伯…!」

僕が立ち上がると、伯爵は歩み寄り、膝をついて頭を下げた。

「…我が領内で、このような事態が起こったこと、重ね重ね謝罪する。リョウエスト…並びに同行の皆、本当に申し訳なかった」
「いえ、火の民の兵士たちはよくしてくれた。皆さんのおかげで、僕たちは生き延びた」
「しかし、領主としての責は私にある。そしてもう一つ、王より書状を託されている」

 伯爵が差し出した封書を受け取り、僕は封を切った。王の筆跡で綴られた文章がそこにあった。

『リョウエストよ。王都に戻るにはまだ時が必要だろう。名の一団の動きは未だ見えぬ部分が多い。しばし異種族伯爵たちを訪ねてくれ。君が動くことで、王国に真の融和の兆しが生まれる』

「……僕に、異種族の伯爵たちを?」
「その通り」

 と火の民伯。

「王も、君の存在が持つ意味をよく理解されておられる。今、王国の内と外には、不安が渦巻いている。だが、君が動けば、人々の目が未来を見るきっかけになる」

 僕は深く息を吸った。目を閉じ、そして開いた。

「わかりました。やります」

 伯爵は大きく頷き、次の命を告げた。

「君が次に向かうべきは、獣人の自治領です。既に我が家から、優秀な護衛隊を手配済みだ」

その言葉に、ストークが一歩前に出る。

「…こちらが、リョウエスト様のご護衛を務めさせていただく、『陽炎隊』でございます」

 火の民の重臣の言葉と共に、並び立ったのは十人の精鋭兵士たち。火の民特有の赤銅色の肌と炎のような瞳を持ち、それぞれの装備は実戦を重ねた者にしか醸せない『気』を纏っていた。

「光栄であります、リョウエスト様。陽炎隊、隊長エルグナです。以後、命を賭してお守りいたします」
「ありがとう、頼りにしてるよ」
「冗談は無用にございます。リョウエスト様。これよりは敵地の中を進む覚悟を」

 その表情に、周囲の空気がピリリと引き締まる。

「……ふふ。相変わらず火の民の女兵は硬いわね」

 エメイラが微笑を浮かべて一歩前に出る。

「でも、それがいい。リョウエストには、口だけでない強さを持った者が必要なのよ」
「口だけとは失礼でやすな。うちのお坊っちゃまは、口も身体も立派に育ってきてやすよ」
「アインス…褒めてるのか、からかってるのか、どっち?」
「どっちもでさぁ」

 そんなやり取りに、護衛の中に小さく笑みが漏れた。エルグナもわずかに目を細めると、ふっと姿勢を崩して話す。

「獣人の領地は、火の民とはまた違う気風を持ちます。荒々しいが、心のある者たち。リョウエスト様のようなお方をどう迎えるか……それは彼らの『目』を見ていただくのが一番です」
「わかった。まずは行って、話してみるよ」

火の民伯爵が前に出て、僕の肩に手を置いた。

「……私は、王命が下されたとはいえ、君にすべてを託した訳ではない。君が自ら歩む意思を見せたからこそ、送り出せる。どうか、炎を灯し続けてくれ『炎を灯すもの』よ」
「炎を灯すもの?」
「ああ。我々は君をそう呼んでいる」
「ありがとう。そう呼んでもらってなんか照れます。また戻ってきますよ」

 ストークがそっと僕にマントをかけ、ナビが肩に飛び乗る。

 エルグナが腕を上げ、陽炎隊がすぐに動き出す。火の民の出発の儀礼に則って、馬車と騎兵が整列し、炎色の旗が掲げられた。

ミザーリが御者のアレクに声をかける。

「無事に獣人の領地まで、頼んだ」
「はいよ、姉御。ボルクと一緒に、命がけで送り届けますとも!」

 馬車が揺れ始め、火の民の町並みが少しずつ遠ざかっていく。僕は座席に座り、手にした王の手紙を読み返していた。

『王国は、まだ未熟である。異種族の手を取る覚悟も、理解する力も。だが、お前がその扉を開く鍵となる』

「…僕にできることは限られてる。でも」

僕は空を見上げた。あの日、ナーディル神と稽古をした神殿の空。

「やってみせるよ。名の一団にも、王国にも、『僕の名前』がどういう意味を持つかを」
「ふふ。背伸びした顔、してるよ。…でも、似合ってきた」
「…それって褒めてる?」
「もちろん。私が褒めるなんて、珍しいんだから」

 エメイラと笑い合う。
 僕たちを乗せた馬車は、次の地へと、揺れながら進んでいった。

 3日目。王都から遠く離れた道を、僕たちはゆっくりと進んでいた。

「この辺りは獣人たちの哨戒区域です。無断で踏み入ると、容赦なく狩られますので」

 陽炎隊のエルグナが馬を寄せ、淡々と説明する。

「うん。あらかじめ書状を送ってくれてありがとう」
「当然の義務です、リョウエスト様。異種族と対話するなら、まずは『礼節』から」
「…そうだね。気をつけるよ。」

 獣人の自治領の木造の門が見えてきた。門の上には、巨大な骨の装飾と旗…牙と爪を模した紋章。
 門の前に立つ獣人の兵士たちは、大柄で、毛並みも豊か。狼や熊の特徴を持つ者が多く、どこか神秘的な気配もあった。

「通行目的を述べよ!」

 前に出たのは、白い毛の狼獣人。鋭い黄色の目がこちらを射抜く。

「王命により、リョウエスト様が貴殿ら獣人領を訪れました。異種族融和の証人としての旅であり、いかなる干渉も受けぬよう、王命の文書を携えております」

 エルグナが巻物を差し出す。獣人兵士はそれを読み、深く息を吐いた。

「…この者が『リョウエスト』か?」

 僕は馬車から降り、彼の前に立った。背筋を伸ばし、視線をそらさないようにして言う。

「僕が、リョウエスト。王国の民であり、異種族の友だ。どうか、会って話をさせてほしい」



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