【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
391 / 806
8歳の旅回り。

カカオの森。

 獣人伯の館から馬車に乗り込み、僕たちは領地内部を巡る旅に出た。朝靄の中、荒野と森と岩場が交互に現れた道の先には、小さな村や集落が点在している。

「ここは狩猟以外にも、交易路として発展しているんだ」

 陽炎隊の隊長エルグナが説明してくれた。

「獣人たちは移動しながら採集し、石や薬草、そして毛皮などを交易してきた。今後は貴方のアイデアも力になるでしょう」

 僕は頷きながら窓の外を見つめた。森の奥で火を使って乾燥させる匂い、川辺で水面を見つめる子供たちの姿、鼻先に擦り寄る狐族の子犬まで。異種族融合の象徴として、この旅は意味深かった。

 しばらく進むと、木製の小橋を渡って小さな村に入った。そこでは、かつて繁栄していたらしいが、今は獣が減って狩が難しくなっていると聞く。

 村の長、灰毛の鹿族の女性が出迎えてくれた。

「狩猟が減って、子供たちに肉を与えることが難しくなった……」

 彼女の眼には、困惑と諦念が混じっている。

 僕は自分の胸の内を押さえ、穏やかに言葉をかけた。

「この地でも、農業ができたらいいと思いませんか? 稲に続いて、根菜や薬草――見込みのある植物があるかもしれません」

 鹿族長は視線を上げた。
「若者よ……でも、獣人は狩ることに誇りがある。農業だなんて……」 
「農業は『狩らずに得る』こと。獣人の経験と力もいきる。例えば、僕の商会から指導員を派遣して方法を伝えることもできます。落ち着いたら、ルステインから専門家を送ります」

鹿族長は少し考えた後、周囲に視線を巡らせた。

「…ルステインの商会…新しい産業か…」

 静かな声だが、その言葉には希望が宿っていた。

「ご協力します。まずは小さな畑から始めましょう」

 そのとき、村の少女が差し出してきた茶色い実が入った袋を手にした。

「これは…薬草と言われたものですが…気取ってなくてすみません」

封を開けると、中には茶色い種子と皮ばかり。僕が鑑定で調べた結果、カカオだと知った。

「…これはカカオですね。珍しいですが、新しい産業になります。ぜひ、育ててみてください」

 鹿族長は驚いた表情を浮かべたが、小さく笑って袋を返してくれた。

「…ありがとう、若者。まずは大事に育ててみよう」

 馬車がゆっくり動き出した後、僕はカカオの袋をそっと収納にしまいながら、仲間たちに告げた。

「獣人領に新しい可能性が見えてきた気がするよ」

 エメイラが微笑み、ナビも小さく目を細めた。
 獣人領を巡る旅は、さらに深い対話と挑戦へと続いている。

「それでどうだった? あの鹿族の村は」

 館に戻る途中、エメイラがとなりの座席から声をかけてきた。まだ馬車の揺れに体が馴染んでいなかったらしく、肩を支えながらも表情は明るい。

「最初は『狩りこそが誇り』って感じだったけど話せばなんとかなったね」
「そうね。いい経験になったでしょ?」
「うん。確かに」

 僕は手にした袋…カカオの実が入ったそれを見せながら微笑んだ。

「それ、例の『薬草』?」
「そう。たぶんカカオ。世界ではまだ『食べ物』って認識されてないけど、これ、絶対に価値あるものになる。使い方を伝えれば、産業にもなると思う」

 ナビが膝に飛び乗ってきて、くんくんと匂いを嗅いだ。

「チョコレートっていうお菓子になる実だよ。ちゃんと加工すれば」
「甘くなるの?」
「なる。たぶん王妃様たちにも喜ばれる味に」

 馬車が揺れながら坂を下ると、視界の先に獣人伯の館が見えてきた。背の高い石塔が、夕暮れの金色を背に静かに影を伸ばしている。

 館に戻ると、すぐに獣人伯へ報告することになった。広間には、伯爵だけでなく、前に難癖をつけてきた連中の姿もあった。どうやら村での話がすでに耳に入っていたらしい。

「ふむ……農業、か」

 獣人伯は長い尻尾を静かに揺らしながら、僕の話に耳を傾けていた。

「狩りが難しい土地であれば、無理に誇りを守るよりも生きる道を広げた方がいい。しかも、この『カカオ』とやら……面白い香りだ」

伯爵の側にいた熊族の男が鼻を鳴らす。

「そんな甘ったるい匂いで民が満足するかよ。狩りで得る肉と血こそ、我らの伝統だ」

 エメイラがくすっと笑って一歩前へ出る。

「ねえ、あなたさ。この前、私に模擬戦で眠らされたの、忘れたの?」
「ぐっ……」
「『ただ強いだけ』じゃ、生きていけない。時代が変わってきてる。強さも、育む力も、支える技も全部、同じくらい大事なの」

 その言葉に、伯爵が手を叩いた。

「まったくその通りだ。かつての我らは狩りこそ至高と信じてきた。しかし、いま我らが向き合うべきは『民をどう生かすか』だ。若き客人の言葉は、まさに新時代の風」

 僕は伯爵の視線を正面から受け止めながら、もう一歩前へ出て頭を下げた。

「ルステインに戻ったあと、必ず農業指導の手配をします。そして、このカカオを加工して、皆さんにもお届けしたい。森の実りが、王都の甘味になる日も近いかもしれません」
「ふはは、それは面白い!」

 伯爵が笑い、側近たちも少しずつ表情を和らげた。

 その晩、僕たちは広間でささやかな祝宴を開いた。エメイラは地元の果実酒を口にして頬を赤らめ、ナビは食卓の上で丸まって眠り始めた。

「リョウエスト君」

 獣人伯が僕の隣に座り直すと、静かに言った。

「明日、もう一度、例の村を訪ねよう。カカオ畑の候補地を、一緒に見に行きたい」

 僕は驚いたが、すぐに笑顔で頷いた。

「はい。ぜひ、お願いします」

 異種族の地に、新しい風が吹いていた。狩りに生きる者たちが、育てる誇りと共に、未来を描きはじめていたのだ。
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…