【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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8歳の旅回り。

カカオの森。

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 獣人伯の館から馬車に乗り込み、僕たちは領地内部を巡る旅に出た。朝靄の中、荒野と森と岩場が交互に現れた道の先には、小さな村や集落が点在している。

「ここは狩猟以外にも、交易路として発展しているんだ」

 陽炎隊の隊長エルグナが説明してくれた。

「獣人たちは移動しながら採集し、石や薬草、そして毛皮などを交易してきた。今後は貴方のアイデアも力になるでしょう」

 僕は頷きながら窓の外を見つめた。森の奥で火を使って乾燥させる匂い、川辺で水面を見つめる子供たちの姿、鼻先に擦り寄る狐族の子犬まで。異種族融合の象徴として、この旅は意味深かった。

 しばらく進むと、木製の小橋を渡って小さな村に入った。そこでは、かつて繁栄していたらしいが、今は獣が減って狩が難しくなっていると聞く。

 村の長、灰毛の鹿族の女性が出迎えてくれた。

「狩猟が減って、子供たちに肉を与えることが難しくなった……」

 彼女の眼には、困惑と諦念が混じっている。

 僕は自分の胸の内を押さえ、穏やかに言葉をかけた。

「この地でも、農業ができたらいいと思いませんか? 稲に続いて、根菜や薬草――見込みのある植物があるかもしれません」

 鹿族長は視線を上げた。
「若者よ……でも、獣人は狩ることに誇りがある。農業だなんて……」 
「農業は『狩らずに得る』こと。獣人の経験と力もいきる。例えば、僕の商会から指導員を派遣して方法を伝えることもできます。落ち着いたら、ルステインから専門家を送ります」

鹿族長は少し考えた後、周囲に視線を巡らせた。

「…ルステインの商会…新しい産業か…」

 静かな声だが、その言葉には希望が宿っていた。

「ご協力します。まずは小さな畑から始めましょう」

 そのとき、村の少女が差し出してきた茶色い実が入った袋を手にした。

「これは…薬草と言われたものですが…気取ってなくてすみません」

封を開けると、中には茶色い種子と皮ばかり。僕が鑑定で調べた結果、カカオだと知った。

「…これはカカオですね。珍しいですが、新しい産業になります。ぜひ、育ててみてください」

 鹿族長は驚いた表情を浮かべたが、小さく笑って袋を返してくれた。

「…ありがとう、若者。まずは大事に育ててみよう」

 馬車がゆっくり動き出した後、僕はカカオの袋をそっと収納にしまいながら、仲間たちに告げた。

「獣人領に新しい可能性が見えてきた気がするよ」

 エメイラが微笑み、ナビも小さく目を細めた。
 獣人領を巡る旅は、さらに深い対話と挑戦へと続いている。

「それでどうだった? あの鹿族の村は」

 館に戻る途中、エメイラがとなりの座席から声をかけてきた。まだ馬車の揺れに体が馴染んでいなかったらしく、肩を支えながらも表情は明るい。

「最初は『狩りこそが誇り』って感じだったけど話せばなんとかなったね」
「そうね。いい経験になったでしょ?」
「うん。確かに」

 僕は手にした袋…カカオの実が入ったそれを見せながら微笑んだ。

「それ、例の『薬草』?」
「そう。たぶんカカオ。世界ではまだ『食べ物』って認識されてないけど、これ、絶対に価値あるものになる。使い方を伝えれば、産業にもなると思う」

 ナビが膝に飛び乗ってきて、くんくんと匂いを嗅いだ。

「チョコレートっていうお菓子になる実だよ。ちゃんと加工すれば」
「甘くなるの?」
「なる。たぶん王妃様たちにも喜ばれる味に」

 馬車が揺れながら坂を下ると、視界の先に獣人伯の館が見えてきた。背の高い石塔が、夕暮れの金色を背に静かに影を伸ばしている。

 館に戻ると、すぐに獣人伯へ報告することになった。広間には、伯爵だけでなく、前に難癖をつけてきた連中の姿もあった。どうやら村での話がすでに耳に入っていたらしい。

「ふむ……農業、か」

 獣人伯は長い尻尾を静かに揺らしながら、僕の話に耳を傾けていた。

「狩りが難しい土地であれば、無理に誇りを守るよりも生きる道を広げた方がいい。しかも、この『カカオ』とやら……面白い香りだ」

伯爵の側にいた熊族の男が鼻を鳴らす。

「そんな甘ったるい匂いで民が満足するかよ。狩りで得る肉と血こそ、我らの伝統だ」

 エメイラがくすっと笑って一歩前へ出る。

「ねえ、あなたさ。この前、私に模擬戦で眠らされたの、忘れたの?」
「ぐっ……」
「『ただ強いだけ』じゃ、生きていけない。時代が変わってきてる。強さも、育む力も、支える技も全部、同じくらい大事なの」

 その言葉に、伯爵が手を叩いた。

「まったくその通りだ。かつての我らは狩りこそ至高と信じてきた。しかし、いま我らが向き合うべきは『民をどう生かすか』だ。若き客人の言葉は、まさに新時代の風」

 僕は伯爵の視線を正面から受け止めながら、もう一歩前へ出て頭を下げた。

「ルステインに戻ったあと、必ず農業指導の手配をします。そして、このカカオを加工して、皆さんにもお届けしたい。森の実りが、王都の甘味になる日も近いかもしれません」
「ふはは、それは面白い!」

 伯爵が笑い、側近たちも少しずつ表情を和らげた。

 その晩、僕たちは広間でささやかな祝宴を開いた。エメイラは地元の果実酒を口にして頬を赤らめ、ナビは食卓の上で丸まって眠り始めた。

「リョウエスト君」

 獣人伯が僕の隣に座り直すと、静かに言った。

「明日、もう一度、例の村を訪ねよう。カカオ畑の候補地を、一緒に見に行きたい」

 僕は驚いたが、すぐに笑顔で頷いた。

「はい。ぜひ、お願いします」

 異種族の地に、新しい風が吹いていた。狩りに生きる者たちが、育てる誇りと共に、未来を描きはじめていたのだ。
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