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8歳の旅回り。
森の最高知識者会議。
エルフ伯の館に隣接する円形のホールにて、エルフたちの最高知識層が集まっていた。議長代行は知を司る長老セリス。歴史学者、錬金術師、族長などが並ぶ。
「…本日、議題は妊娠促進剤の扱いについて。人間から持ち込まれた薬を、我らが採用すべきかどうかを検討する」
セリスが巻物を揺らしつつ前置きする。僕は見学者として奥の席で静かに見守っていた。エメイラが隣に座り、軽く膝を叩いた。
「緊張するね…聞いていていいのかしら」
「うん。どんな意見が出るか、聞いておきたいから」
最初に発言したのは、歴史長老だった。
「我らエルフは千年の歴史の中で子を少なく養ってきたが、それこそが森との調和と種の神聖さを保つ約束でもありました。この薬の全体使用は歴史に反するのでは?」
続いて、錬金術師が穏やかに応じる。
「しかし出生数が著しく減り、将来の担い手がいないとすれば、種としてそうはいかぬ。必要な者だけが使用するという選択肢は、倫理を損なわぬ策でもあるはずです」
新しい意見に、僕はエメイラの手をギュッと握った。長老たちの顔つきが少しずつゆらぎ始める。
その時、エメイラが立ち上がった。
「私からも一言、よろしいでしょうか?」
歴史長老が頷く。
「私は、リョウエストと共に旅を続けてきました。異種族と共存する可能性を、現実として見ました。子を持ちたいと願う者に手を差し伸べることは、未来を紡ぐ優しい選択だと信じます」
その言葉に、会場は静まり返った。しばらく沈黙が流れた後、知識層の一人が口を開いた。
「…つまりこの薬は、統一的に施策としてではなく、『個々の意思を尊重する選択肢』として持つべきだ、ということか」
「賛同します」
他の長老や族長たちもうなずき始めた。
議長セリスが慎重な声でまとめにかかる。
「では本決議として、使用したいと意思表明した者には提供する。ただしレシピはエルフ伯のみが管理し、必要時に調合する。薬を安易に流布せぬよう厳重管理とする。これに異論ある者は?」
沈黙の後、異論は出ず。場の空気が緩む。
「よし、決定だ。そして次議題は、人間や他種族との今後の関わり方についてだ」
セリスが巻物を開いた。
僕は深呼吸し、新たな議論を覚悟した。
長老会議は妊娠剤の件の次、第2議題へ入った。
「エルフの立ち位置、今後の異種族との関わり方について。これを議論します」
セリスが切り出す。
族長が静かに口を開いた。
「他種族との商、共闘、婚姻…無論、利点はある。しかしそれは我らの伝統を壊さぬ範囲で行われねばならぬ」
錬金術の老研究者が割って入る。
「しかし今や他種族は、技術や知識でも我らを凌ぎつつある。拒絶するより、混じり合うことで森の智慧も広がるのでは?」
場は活発な意見交換へ移る。僕は静かに、だが確かな緊張をもって見つめていた。
その時、議長が僕に視線を送った。
「リョウエスト殿。あなたは『未来を記す者』として、いまここに呼ばれています。異種族との交わりをどう記録し、導くつもりか。あなたの言葉を聞かせてください」
僕は息を整え、立ち上がった。
「知と歴史は、ただ守るものではなく、活かすものであると思う。異種族の力や文化を拒むことは、防御のようでいて、実は自らを閉じ込める鎖」
会場が静まり返る。僕は続けた。
「この王国にはエルフ、人、小人族、水竜人、獣人、火の民、ドワーフ…多様性がある。それを無視して進む未来は、狭く、暗い未来。僕は窓口になりたい。異種族の技と文化を紹介し、橋渡しをしたい」
その言葉に、エメイラは深く頷いた。ナビが静かに肩にいる。
エルフ伯が僕を見つめ、しばらく沈黙の後、満面の笑みを浮かべた。
「その通りだ。君のような者が必要だと、森は私に囁いた気がする」
ラシェルアルテがすっと立ち上がる。
「リョウエスト殿が窓口となり、他種族との交渉や交流の任をお願いしたい。我らエルフは、君と共に歩もう」
知識層も柔らかく頷き、族長が微笑んだ。
「これからの時代を、共に築かせてもらおう」
そして、非公式ながら拍手が起こった。
セリスが締めに入る。
「正式な役職として『異種族連携監理官』の設立を提案します。君がその窓口となり、他種族との対話と記録の中心を担ってください」
僕は胸に手を当て、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。責任を胸に、使命として果たしていきます」
会場は静かに拍手に包まれた。
その後、決議に続いて質疑応答が続いた。他族との婚姻の規定、ドワーフ族や火の民族や獣人族や小人族との貿易の枠組み、教育や言語の共有方法など、議論は深まっていった。
僕は終始、補助席で見守っていたが、議長に促されて再び言葉を求められた。
「エルフ社会として、文化を守りつつ他種族と融合していく。そのバランスをどう保持していくと思いますか?」
僕は答えた。
「防御と開放は両立可能です。伝統は尊重しつつ、新しい技術や価値観を選択的に取り入れる『開かれた盾』を作るべきだと思う」
その言葉に、会場には静かな納得が広がった。族長が言葉を重ねた。
「君の言う『開かれた盾』こそが、新時代の象徴となろう。エルフとしても、それを育てていきたい」
議長セリスが正式に宣言した。
「本会議は、妊娠促進剤の個別使用の承認、『異種族連携監理官』の設置、文化保存と交流の両立に関する基本指針の採択を、全会一致で可決します」
深い拍手とともに議会が閉じられた。エルフたちの瞳には真剣な輝きが宿っていた。
僕は立ち上がり、胸に手を置いて深く頭を下げた。
「皆さま、本日はありがとうございました。僕はこれからも、未来を記し、異種族と共に歩む窓口として、誠実に務めます」
エルフ伯が穏やかに笑いかけた。
「リョウエスト。君が森に示した光は小さなものではない。どこにいても、君の名と道は忘れられぬだろう」
エメイラが僕の隣で目を潤ませる。
「ねえ、本当に……よかったね」
「うん、小さな声がこんな大きな決定に繋がるなんて、信じられないね」
館を出る前、族長がそっと僕に渡した。
「森の結び紐。これは異種族連携の印として君に授ける。どうか大切に携えてくれ」
僕はそれを包み込み、静かに頷いた。
館を出ると、窓辺にはナビが佇み、エメイラが微笑む。
僕は胸の奥に、新たな責務と希望を抱きしめながら、エルフの森を後にする準備を始めたのだった。
「…本日、議題は妊娠促進剤の扱いについて。人間から持ち込まれた薬を、我らが採用すべきかどうかを検討する」
セリスが巻物を揺らしつつ前置きする。僕は見学者として奥の席で静かに見守っていた。エメイラが隣に座り、軽く膝を叩いた。
「緊張するね…聞いていていいのかしら」
「うん。どんな意見が出るか、聞いておきたいから」
最初に発言したのは、歴史長老だった。
「我らエルフは千年の歴史の中で子を少なく養ってきたが、それこそが森との調和と種の神聖さを保つ約束でもありました。この薬の全体使用は歴史に反するのでは?」
続いて、錬金術師が穏やかに応じる。
「しかし出生数が著しく減り、将来の担い手がいないとすれば、種としてそうはいかぬ。必要な者だけが使用するという選択肢は、倫理を損なわぬ策でもあるはずです」
新しい意見に、僕はエメイラの手をギュッと握った。長老たちの顔つきが少しずつゆらぎ始める。
その時、エメイラが立ち上がった。
「私からも一言、よろしいでしょうか?」
歴史長老が頷く。
「私は、リョウエストと共に旅を続けてきました。異種族と共存する可能性を、現実として見ました。子を持ちたいと願う者に手を差し伸べることは、未来を紡ぐ優しい選択だと信じます」
その言葉に、会場は静まり返った。しばらく沈黙が流れた後、知識層の一人が口を開いた。
「…つまりこの薬は、統一的に施策としてではなく、『個々の意思を尊重する選択肢』として持つべきだ、ということか」
「賛同します」
他の長老や族長たちもうなずき始めた。
議長セリスが慎重な声でまとめにかかる。
「では本決議として、使用したいと意思表明した者には提供する。ただしレシピはエルフ伯のみが管理し、必要時に調合する。薬を安易に流布せぬよう厳重管理とする。これに異論ある者は?」
沈黙の後、異論は出ず。場の空気が緩む。
「よし、決定だ。そして次議題は、人間や他種族との今後の関わり方についてだ」
セリスが巻物を開いた。
僕は深呼吸し、新たな議論を覚悟した。
長老会議は妊娠剤の件の次、第2議題へ入った。
「エルフの立ち位置、今後の異種族との関わり方について。これを議論します」
セリスが切り出す。
族長が静かに口を開いた。
「他種族との商、共闘、婚姻…無論、利点はある。しかしそれは我らの伝統を壊さぬ範囲で行われねばならぬ」
錬金術の老研究者が割って入る。
「しかし今や他種族は、技術や知識でも我らを凌ぎつつある。拒絶するより、混じり合うことで森の智慧も広がるのでは?」
場は活発な意見交換へ移る。僕は静かに、だが確かな緊張をもって見つめていた。
その時、議長が僕に視線を送った。
「リョウエスト殿。あなたは『未来を記す者』として、いまここに呼ばれています。異種族との交わりをどう記録し、導くつもりか。あなたの言葉を聞かせてください」
僕は息を整え、立ち上がった。
「知と歴史は、ただ守るものではなく、活かすものであると思う。異種族の力や文化を拒むことは、防御のようでいて、実は自らを閉じ込める鎖」
会場が静まり返る。僕は続けた。
「この王国にはエルフ、人、小人族、水竜人、獣人、火の民、ドワーフ…多様性がある。それを無視して進む未来は、狭く、暗い未来。僕は窓口になりたい。異種族の技と文化を紹介し、橋渡しをしたい」
その言葉に、エメイラは深く頷いた。ナビが静かに肩にいる。
エルフ伯が僕を見つめ、しばらく沈黙の後、満面の笑みを浮かべた。
「その通りだ。君のような者が必要だと、森は私に囁いた気がする」
ラシェルアルテがすっと立ち上がる。
「リョウエスト殿が窓口となり、他種族との交渉や交流の任をお願いしたい。我らエルフは、君と共に歩もう」
知識層も柔らかく頷き、族長が微笑んだ。
「これからの時代を、共に築かせてもらおう」
そして、非公式ながら拍手が起こった。
セリスが締めに入る。
「正式な役職として『異種族連携監理官』の設立を提案します。君がその窓口となり、他種族との対話と記録の中心を担ってください」
僕は胸に手を当て、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。責任を胸に、使命として果たしていきます」
会場は静かに拍手に包まれた。
その後、決議に続いて質疑応答が続いた。他族との婚姻の規定、ドワーフ族や火の民族や獣人族や小人族との貿易の枠組み、教育や言語の共有方法など、議論は深まっていった。
僕は終始、補助席で見守っていたが、議長に促されて再び言葉を求められた。
「エルフ社会として、文化を守りつつ他種族と融合していく。そのバランスをどう保持していくと思いますか?」
僕は答えた。
「防御と開放は両立可能です。伝統は尊重しつつ、新しい技術や価値観を選択的に取り入れる『開かれた盾』を作るべきだと思う」
その言葉に、会場には静かな納得が広がった。族長が言葉を重ねた。
「君の言う『開かれた盾』こそが、新時代の象徴となろう。エルフとしても、それを育てていきたい」
議長セリスが正式に宣言した。
「本会議は、妊娠促進剤の個別使用の承認、『異種族連携監理官』の設置、文化保存と交流の両立に関する基本指針の採択を、全会一致で可決します」
深い拍手とともに議会が閉じられた。エルフたちの瞳には真剣な輝きが宿っていた。
僕は立ち上がり、胸に手を置いて深く頭を下げた。
「皆さま、本日はありがとうございました。僕はこれからも、未来を記し、異種族と共に歩む窓口として、誠実に務めます」
エルフ伯が穏やかに笑いかけた。
「リョウエスト。君が森に示した光は小さなものではない。どこにいても、君の名と道は忘れられぬだろう」
エメイラが僕の隣で目を潤ませる。
「ねえ、本当に……よかったね」
「うん、小さな声がこんな大きな決定に繋がるなんて、信じられないね」
館を出る前、族長がそっと僕に渡した。
「森の結び紐。これは異種族連携の印として君に授ける。どうか大切に携えてくれ」
僕はそれを包み込み、静かに頷いた。
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