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9歳の記す者。
未来を記し、創りあげる気概。
背中から懐かしい声。振り向けば、そこには制服の上着を軽く肩にかけた兄、ストラ兄さんがいた。
「ストラ兄さん!」
「よう。久しぶりだな。見ないうちに、少し背が伸びたか?」
兄の顔を見ると、不思議と安心する。兄は今、王立学園の生徒会副会長で、生徒内でもかなりの有名人だ。厳しくも優しく、誠実で、僕が尊敬する兄の一人。
僕はすぐに兄に駆け寄り、声を低くして尋ねた。
「ウルリッヒ様は…いらっしゃる?」
「ああ、今日は特別にね。社交の目玉として君を迎えるんだとさ。ほら、来たぞ」
兄の視線の先…人々が自然と道を空け、静まりかえった空気の中、彼が現れた。
第一王子、ウルリッヒ・ロ・コリント様。まだ17歳だけど、すでに王家の風格を纏っている。整った顔立ちに鋭い目。けれど、その口元には柔らかい笑みがあった。
「リョウエスト。久しいな。ずいぶん話題になっているようだ」
「ウルリッヒ様。お言葉、ありがとうございます。ですが、名誉伯爵として恥じぬよう務めます」
自然にひざを折る。王子は一瞬、満足げに微笑んで…。
「よろしい。だが今日は、友人として迎えたい。顔を上げてくれ」
…この人が、いずれ王になるんだ。僕は胸の奥で、そう確信した。
その後も、夜会が続いた。僕は『未来を記す者』として、多くの貴族たちに囲まれ、質問され、評価された。
エフェルト公爵夫人が言った。
「あなたのような子が未来を担うのなら、この国も安泰ですわね…どうか、お体にはお気をつけて」
そう言われたとき、胸が少しだけ熱くなった。
子どもだと思われていた僕が、ようやく一人の『担う者』として見られはじめた。
夜の王都は、昼よりも輝いて見える。
僕は、舞踏会の喧騒が去った後の王宮のテラスに立っていた。涼しい風が、髪をなでていく。手には、ほんの少しの果実酒…子どもでも許される程度のもの。
「静かですね、リョウ様」
ストークが囁いた。昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっている。
「うん…でも、うるさいよりは、こっちの方が好きかな。頭の中が、整理しやすい」
この日だけで、何人の貴族と話したのだろう。僕が持ち込んだ料理の話。数々の発明品の普及。蒸留酒の未来。異種族との未来。それぞれの思惑。賞賛も疑念も入り混じるなかで、僕の立場はただの『子ども』ではなくなっていた。
「…未来を記す者、か」
称号の重みを、今ようやく実感していた。
そこへ、足音が一つ。振り返ると、ウルリッヒ王子が一人、手ぶらで歩いてきた。
「夜風は好きか?」
「はい。静かで、気持ちが整います」
「…そうか。私もだ。父上は、未来を預けるにはまだ早いと言うが、私は思っている。そろそろ、担うべき時が来ているのではないかと」
王子の横顔は、十五歳とは思えぬほど硬く、遠くを見ていた。
「リョウエスト。君は名誉伯爵だ。だが、それは『王国の未来を試される者』でもある」
「…わかっています。未来は、僕が記す。ただ…記すだけでなく、創る責任も感じています」
「よく言った」
王子は肩を叩いて笑った。
「ストラからも聞いた。君は兄を心から尊敬しているそうだな」
「はい。…でも、追いつきたいんです。兄にも、王子にも」
王子の瞳が細められた。
「ならば記せ、リョウエスト。十年後の世界を、二十年後の民の暮らしを。記し、創り、それを背負う気概を持てば未来は必ず君に微笑む」
僕はしっかりと、うなずいた。
「はい。必ず…記してみせます」
その後、学園の敷地をストラ兄さんと二人で歩く時間があった。ストラ兄さんは落ち着いた様子で、僕を見下ろす。
「王子と、何を話した?」
「…未来の話。責任の話。あと、兄さんのことも少し」
「おいおい、変なこと言ってないだろうな」
「もちろん褒めたよ。僕が一番尊敬してる兄だって」
「…そうか」
ストラ兄さんはそれだけ言って、少しだけ頬を緩めた。
「なあ、リョウエスト。お前が背負ってるものは、もう俺と同じか、それ以上だ。けど、だからこそ忘れるな」
「何を?」
「『自分』だよ。国のため、未来のため、色々考えても…最後に選ぶのは自分の信じた道だ。迷ったときは、いつでも俺に相談しろ」
「うん…ありがとう、ストラ兄さん」
その夜、宿に戻る馬車の中で、ストークがぽつりと呟いた。
「リョウエスト様。あなたは、かつてない速度で成長しておられます」
「…成長、か。そうかもしれない。でも、まだ空は飛べないし、未来だって全部見えるわけじゃない」
「それでも、進まねばなりません」
「うん。進むよ、ストーク。僕は、止まらない」
名誉伯爵、未来を記す者。名は重く、誇りは高く。
でも、僕はただ、やりたいことをやってるだけだ。人の役に立つ物を作り、世界が少しでも良くなればと思って動いているだけ。
だけど、そう思っている僕に、王国は名前を与えてくれた。
ならば、その期待に応えよう。
「王都を離れたら、また仕事だな。新作の設計図、ドワーヴンベースに送って、蒸留所も回って…米の苗の経過報告もいるし…」
「私の記録によれば、あと八件の案件が待っています」
「…ストーク、あのさ。たまには休暇って言葉も知ろう?」
「それは『未来を記す者』の辞書には存在しません…嘘でございます。社交シーズンが終わったら慰安旅行が待っております」
やった!ようやく休める。そう思ったがその前にやる事が数多くある事に気づく。でも楽しんでやらなきゃな。
だってこれは僕が選んだ未来だから。
「ストラ兄さん!」
「よう。久しぶりだな。見ないうちに、少し背が伸びたか?」
兄の顔を見ると、不思議と安心する。兄は今、王立学園の生徒会副会長で、生徒内でもかなりの有名人だ。厳しくも優しく、誠実で、僕が尊敬する兄の一人。
僕はすぐに兄に駆け寄り、声を低くして尋ねた。
「ウルリッヒ様は…いらっしゃる?」
「ああ、今日は特別にね。社交の目玉として君を迎えるんだとさ。ほら、来たぞ」
兄の視線の先…人々が自然と道を空け、静まりかえった空気の中、彼が現れた。
第一王子、ウルリッヒ・ロ・コリント様。まだ17歳だけど、すでに王家の風格を纏っている。整った顔立ちに鋭い目。けれど、その口元には柔らかい笑みがあった。
「リョウエスト。久しいな。ずいぶん話題になっているようだ」
「ウルリッヒ様。お言葉、ありがとうございます。ですが、名誉伯爵として恥じぬよう務めます」
自然にひざを折る。王子は一瞬、満足げに微笑んで…。
「よろしい。だが今日は、友人として迎えたい。顔を上げてくれ」
…この人が、いずれ王になるんだ。僕は胸の奥で、そう確信した。
その後も、夜会が続いた。僕は『未来を記す者』として、多くの貴族たちに囲まれ、質問され、評価された。
エフェルト公爵夫人が言った。
「あなたのような子が未来を担うのなら、この国も安泰ですわね…どうか、お体にはお気をつけて」
そう言われたとき、胸が少しだけ熱くなった。
子どもだと思われていた僕が、ようやく一人の『担う者』として見られはじめた。
夜の王都は、昼よりも輝いて見える。
僕は、舞踏会の喧騒が去った後の王宮のテラスに立っていた。涼しい風が、髪をなでていく。手には、ほんの少しの果実酒…子どもでも許される程度のもの。
「静かですね、リョウ様」
ストークが囁いた。昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっている。
「うん…でも、うるさいよりは、こっちの方が好きかな。頭の中が、整理しやすい」
この日だけで、何人の貴族と話したのだろう。僕が持ち込んだ料理の話。数々の発明品の普及。蒸留酒の未来。異種族との未来。それぞれの思惑。賞賛も疑念も入り混じるなかで、僕の立場はただの『子ども』ではなくなっていた。
「…未来を記す者、か」
称号の重みを、今ようやく実感していた。
そこへ、足音が一つ。振り返ると、ウルリッヒ王子が一人、手ぶらで歩いてきた。
「夜風は好きか?」
「はい。静かで、気持ちが整います」
「…そうか。私もだ。父上は、未来を預けるにはまだ早いと言うが、私は思っている。そろそろ、担うべき時が来ているのではないかと」
王子の横顔は、十五歳とは思えぬほど硬く、遠くを見ていた。
「リョウエスト。君は名誉伯爵だ。だが、それは『王国の未来を試される者』でもある」
「…わかっています。未来は、僕が記す。ただ…記すだけでなく、創る責任も感じています」
「よく言った」
王子は肩を叩いて笑った。
「ストラからも聞いた。君は兄を心から尊敬しているそうだな」
「はい。…でも、追いつきたいんです。兄にも、王子にも」
王子の瞳が細められた。
「ならば記せ、リョウエスト。十年後の世界を、二十年後の民の暮らしを。記し、創り、それを背負う気概を持てば未来は必ず君に微笑む」
僕はしっかりと、うなずいた。
「はい。必ず…記してみせます」
その後、学園の敷地をストラ兄さんと二人で歩く時間があった。ストラ兄さんは落ち着いた様子で、僕を見下ろす。
「王子と、何を話した?」
「…未来の話。責任の話。あと、兄さんのことも少し」
「おいおい、変なこと言ってないだろうな」
「もちろん褒めたよ。僕が一番尊敬してる兄だって」
「…そうか」
ストラ兄さんはそれだけ言って、少しだけ頬を緩めた。
「なあ、リョウエスト。お前が背負ってるものは、もう俺と同じか、それ以上だ。けど、だからこそ忘れるな」
「何を?」
「『自分』だよ。国のため、未来のため、色々考えても…最後に選ぶのは自分の信じた道だ。迷ったときは、いつでも俺に相談しろ」
「うん…ありがとう、ストラ兄さん」
その夜、宿に戻る馬車の中で、ストークがぽつりと呟いた。
「リョウエスト様。あなたは、かつてない速度で成長しておられます」
「…成長、か。そうかもしれない。でも、まだ空は飛べないし、未来だって全部見えるわけじゃない」
「それでも、進まねばなりません」
「うん。進むよ、ストーク。僕は、止まらない」
名誉伯爵、未来を記す者。名は重く、誇りは高く。
でも、僕はただ、やりたいことをやってるだけだ。人の役に立つ物を作り、世界が少しでも良くなればと思って動いているだけ。
だけど、そう思っている僕に、王国は名前を与えてくれた。
ならば、その期待に応えよう。
「王都を離れたら、また仕事だな。新作の設計図、ドワーヴンベースに送って、蒸留所も回って…米の苗の経過報告もいるし…」
「私の記録によれば、あと八件の案件が待っています」
「…ストーク、あのさ。たまには休暇って言葉も知ろう?」
「それは『未来を記す者』の辞書には存在しません…嘘でございます。社交シーズンが終わったら慰安旅行が待っております」
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だってこれは僕が選んだ未来だから。
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