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9歳の記す者。
ナミリアと双子と遊ぶ。
「リョウエスト、いらっしゃい!」
庭先で元気に駆け寄ってきたのは、マックスさんの娘、ナミリアだ。9歳で僕と同じ学年、今年から王都に同行している。
「ナミリア、久しぶりだね。背がまた伸びた?」
「うん!お母様が『リョウエスト様より背が伸びちゃだめよ』って言ってるけど、私、負けてないよ!」
「それは負けられないなあ」
彼女の笑顔にほっとしながら、ふと振り返ると双子のアルフォンスとアメリアが僕の足元でじゃれ合っている。
「おにいちゃん、おそとであそぼう!」
「アメリアもアルフォンスも、こんにちは。今日はお兄ちゃんがいっぱい遊んであげるよ」
抱き上げると、3歳の双子は「キャッキャ」と笑いながら手足をばたつかせた。
「ナミリアはお兄ちゃんと何して遊ぶ?」
「うーん、かくれんぼ?それともお絵描き?」
「じゃあ、先にかくれんぼしようか。双子はその間、こっちで一緒にボール投げしよう」
「わーい!」
笑い声が庭いっぱいに響く。
「ねえリョウエスト、今年の社交シーズンはどう?」
「なかなか楽しいよ。でも君たちと遊ぶのが一番好きだけど」
ナミリアがにっこりと頬を染める。
「そうだ、王子のことどう思う?」
「ウルリッヒ王子か。とても頼もしいし、優しいよ。王太子としてみんなの期待を一身に背負っている」
「私、ちょっと緊張しちゃうけど、あの人がいると安心する」
「そうだね。僕も彼とはいい友達だ」
「また一緒に遊びたいな」
「もちろんだよ」
そのとき、庭の奥から深い声が聞こえた。
「あれはお爺様かな」
「そう、リョウのお爺様と叔父さん、レウフォおじ様がいるよ」
「会いに行こう!」
ふたりの笑顔に僕も自然と頬が緩む。
ルステイン伯爵家のタウンハウスは、外観こそ控えめながら、中に入れば格調高い石造りの廊下と、落ち着いた装飾の応接間が出迎えてくれる。庭からナミリアと手をつないで戻ってくると、奥の書斎の扉が開いていた。
「お爺様、失礼します。リョウエストです」
「おう、よう来たなあ」
大きな椅子に深く腰かけていたのは、ルステイン騎士爵…僕の母方の祖父、カイスル・ナフェル。白髪交じりの髪と深い皺、それでいて背筋はまっすぐだった。
「王都入りの挨拶、済ませてきたか?」
「うん。スサン商会のエアコンが快適すぎると笑ってた」
「はは、それは良かった。あれを考えたのもお前か?」
「うん。基本設計は僕」
「年端もいかぬ子供が、貴族の間で話題の品を作るとは……こいつぁ痛快だな」
そう言ったのは、後ろから歩いてきた叔父――レウフォ・ナフェルだ。母の兄で、騎士ながら気さくで陽気な人。
「叔父様。久しぶり」
「背が少し伸びたな、リョウ。ナミリアとは、うまくやってるか?」
「うん。今日は一緒に双子の子守りもした」
「はは、将来有望な婿候補ってとこか?」
「そ、それは…まだ早い!」
レウフォ叔父が豪快に笑うと、祖父も目を細めた。
「タウンハウスにも慣れたか? ここは元々、名の一団に関係した貴族の持ち物だったろう。王が手配してくれたとはいえ、気を使うだろうと思ってな」
「ううん。七種族の人が働いてくれている。本当にありがたい」
「そうか。そう言ってくれると我々も安心できる」
祖父の声が、少しだけ柔らかくなった。
「お爺様、僕は…未来を記す者として、あらゆる種族と共に進むと決めたの。差別も偏見も、できるだけ小さくしていきたいの」
「…お前の母が、そう願っていた。わしも、あの子の志を誇りに思うておる。リョウエスト、お前もだ」
「ありがとう…」
扉の外から、ナミリアの声が響いた。
「リョウ!お茶の用意ができたって!」
「今行く!」
立ち上がると、祖父が微笑む。
「行ってこい。若者は、よく食い、よく遊び、よく笑うことだ」
「うん!」
応接間に戻ると、すでにお茶の準備が整っていた。丸テーブルには焼きたてのクッキーや小さなケーキ、香ばしい香りの紅茶が並べられ、双子のアルフォンスとアメリアが椅子にちょこんと座っていた。
「リョウ!ここ、となり空いてるよ!」
ナミリアがにこにこと手を振っている。
「ありがとう、ナミリア」
僕は彼女の隣に座り、まずはアルフォンスにスプーンを渡した。
「ほら、これでプリンをすくってみて」
「ぷ、ぷりん…やるーっ!」
「アメリアは…うん、おしぼり使えたね。えらい!」
「えへへー」
「リョウエストくん、子守うまくなったね」
ナミリアが横目で笑う。
「訓練済みだからね。訓練よりこっちの方が大変かもしれないけど」
「ふふっ。ナビちゃんも、ちゃんと見てるよ」
足元では翼猫のナビがふさふさと尻尾を揺らしながら見守っていた。
そのとき、マックスさんが部屋に入ってきた。
「やあ、ティータイムに混ぜてもらっても?」
「もちろんです、マックスさん」
「おじいさまはお話終わったの?」
ナミリアが聞くと、
「おうとも。レオニス卿もレウフォも、お前の相手が大仕事だったって笑ってたぞ」
「もうっ、失礼しちゃう!」
一同が和やかに笑う中、レイアム夫人がふんわりと紅茶を注ぎながら話しかけた。
「リョウ、王都の暮らしは慣れてきたかしら?」
「うん。新しくもらったタウンハウスにも七種族のひとがいて、本当に心強い」
「それはよかったわ。エメイラさんもご一緒なんでしょう?」
「はい。彼女は女主人のつもりで振る舞っていて、毎日笑わされてます」
「なんだか微笑ましいな」
マックスさんが目を細める。
「ねえリョウ、今度わたし、あなたのタウンハウスに行ってもいい?」
ナミリアが少し照れたように言った。
「もちろん。双子も一緒に来てよ」
「やったー!」
ふと、アルフォンスが小さく呟いた。
「りょうくん、おとうさんになって……」
「お、お父さんじゃなくて、友達だからね!?」
ナミリアは顔を真っ赤にして、思わずアルフォンスの頭をぺちんと叩いた。
「ふえ~…いたいぃ…」
「よしよし、泣かない泣かない。クッキー、もう一枚あげようか」
僕がそう言うと、アメリアも小さく手を伸ばしてきた。
「…ふふっ、リョウくんって、やっぱりお兄ちゃんだね」
ナミリアが、ちょっとだけ嬉しそうに呟いた。
午後の陽光が窓から差し込み、紅茶の香りがふわりと立ちのぼる。
笑いと温もりに包まれたこの場所で、僕の社交シーズンは、またひとつ優しい思い出を刻んでいったのだった。
庭先で元気に駆け寄ってきたのは、マックスさんの娘、ナミリアだ。9歳で僕と同じ学年、今年から王都に同行している。
「ナミリア、久しぶりだね。背がまた伸びた?」
「うん!お母様が『リョウエスト様より背が伸びちゃだめよ』って言ってるけど、私、負けてないよ!」
「それは負けられないなあ」
彼女の笑顔にほっとしながら、ふと振り返ると双子のアルフォンスとアメリアが僕の足元でじゃれ合っている。
「おにいちゃん、おそとであそぼう!」
「アメリアもアルフォンスも、こんにちは。今日はお兄ちゃんがいっぱい遊んであげるよ」
抱き上げると、3歳の双子は「キャッキャ」と笑いながら手足をばたつかせた。
「ナミリアはお兄ちゃんと何して遊ぶ?」
「うーん、かくれんぼ?それともお絵描き?」
「じゃあ、先にかくれんぼしようか。双子はその間、こっちで一緒にボール投げしよう」
「わーい!」
笑い声が庭いっぱいに響く。
「ねえリョウエスト、今年の社交シーズンはどう?」
「なかなか楽しいよ。でも君たちと遊ぶのが一番好きだけど」
ナミリアがにっこりと頬を染める。
「そうだ、王子のことどう思う?」
「ウルリッヒ王子か。とても頼もしいし、優しいよ。王太子としてみんなの期待を一身に背負っている」
「私、ちょっと緊張しちゃうけど、あの人がいると安心する」
「そうだね。僕も彼とはいい友達だ」
「また一緒に遊びたいな」
「もちろんだよ」
そのとき、庭の奥から深い声が聞こえた。
「あれはお爺様かな」
「そう、リョウのお爺様と叔父さん、レウフォおじ様がいるよ」
「会いに行こう!」
ふたりの笑顔に僕も自然と頬が緩む。
ルステイン伯爵家のタウンハウスは、外観こそ控えめながら、中に入れば格調高い石造りの廊下と、落ち着いた装飾の応接間が出迎えてくれる。庭からナミリアと手をつないで戻ってくると、奥の書斎の扉が開いていた。
「お爺様、失礼します。リョウエストです」
「おう、よう来たなあ」
大きな椅子に深く腰かけていたのは、ルステイン騎士爵…僕の母方の祖父、カイスル・ナフェル。白髪交じりの髪と深い皺、それでいて背筋はまっすぐだった。
「王都入りの挨拶、済ませてきたか?」
「うん。スサン商会のエアコンが快適すぎると笑ってた」
「はは、それは良かった。あれを考えたのもお前か?」
「うん。基本設計は僕」
「年端もいかぬ子供が、貴族の間で話題の品を作るとは……こいつぁ痛快だな」
そう言ったのは、後ろから歩いてきた叔父――レウフォ・ナフェルだ。母の兄で、騎士ながら気さくで陽気な人。
「叔父様。久しぶり」
「背が少し伸びたな、リョウ。ナミリアとは、うまくやってるか?」
「うん。今日は一緒に双子の子守りもした」
「はは、将来有望な婿候補ってとこか?」
「そ、それは…まだ早い!」
レウフォ叔父が豪快に笑うと、祖父も目を細めた。
「タウンハウスにも慣れたか? ここは元々、名の一団に関係した貴族の持ち物だったろう。王が手配してくれたとはいえ、気を使うだろうと思ってな」
「ううん。七種族の人が働いてくれている。本当にありがたい」
「そうか。そう言ってくれると我々も安心できる」
祖父の声が、少しだけ柔らかくなった。
「お爺様、僕は…未来を記す者として、あらゆる種族と共に進むと決めたの。差別も偏見も、できるだけ小さくしていきたいの」
「…お前の母が、そう願っていた。わしも、あの子の志を誇りに思うておる。リョウエスト、お前もだ」
「ありがとう…」
扉の外から、ナミリアの声が響いた。
「リョウ!お茶の用意ができたって!」
「今行く!」
立ち上がると、祖父が微笑む。
「行ってこい。若者は、よく食い、よく遊び、よく笑うことだ」
「うん!」
応接間に戻ると、すでにお茶の準備が整っていた。丸テーブルには焼きたてのクッキーや小さなケーキ、香ばしい香りの紅茶が並べられ、双子のアルフォンスとアメリアが椅子にちょこんと座っていた。
「リョウ!ここ、となり空いてるよ!」
ナミリアがにこにこと手を振っている。
「ありがとう、ナミリア」
僕は彼女の隣に座り、まずはアルフォンスにスプーンを渡した。
「ほら、これでプリンをすくってみて」
「ぷ、ぷりん…やるーっ!」
「アメリアは…うん、おしぼり使えたね。えらい!」
「えへへー」
「リョウエストくん、子守うまくなったね」
ナミリアが横目で笑う。
「訓練済みだからね。訓練よりこっちの方が大変かもしれないけど」
「ふふっ。ナビちゃんも、ちゃんと見てるよ」
足元では翼猫のナビがふさふさと尻尾を揺らしながら見守っていた。
そのとき、マックスさんが部屋に入ってきた。
「やあ、ティータイムに混ぜてもらっても?」
「もちろんです、マックスさん」
「おじいさまはお話終わったの?」
ナミリアが聞くと、
「おうとも。レオニス卿もレウフォも、お前の相手が大仕事だったって笑ってたぞ」
「もうっ、失礼しちゃう!」
一同が和やかに笑う中、レイアム夫人がふんわりと紅茶を注ぎながら話しかけた。
「リョウ、王都の暮らしは慣れてきたかしら?」
「うん。新しくもらったタウンハウスにも七種族のひとがいて、本当に心強い」
「それはよかったわ。エメイラさんもご一緒なんでしょう?」
「はい。彼女は女主人のつもりで振る舞っていて、毎日笑わされてます」
「なんだか微笑ましいな」
マックスさんが目を細める。
「ねえリョウ、今度わたし、あなたのタウンハウスに行ってもいい?」
ナミリアが少し照れたように言った。
「もちろん。双子も一緒に来てよ」
「やったー!」
ふと、アルフォンスが小さく呟いた。
「りょうくん、おとうさんになって……」
「お、お父さんじゃなくて、友達だからね!?」
ナミリアは顔を真っ赤にして、思わずアルフォンスの頭をぺちんと叩いた。
「ふえ~…いたいぃ…」
「よしよし、泣かない泣かない。クッキー、もう一枚あげようか」
僕がそう言うと、アメリアも小さく手を伸ばしてきた。
「…ふふっ、リョウくんって、やっぱりお兄ちゃんだね」
ナミリアが、ちょっとだけ嬉しそうに呟いた。
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