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9歳の記す者。
今年は鳥の…。
「今年も、よく来てくれたな。リョウエスト、マクシミリアン卿!」
エフェルト公爵が朗々とした声で出迎えてくれた。きらびやかな夜会の会場、天井のシャンデリアが金色の光を投げかけ、貴族たちの笑顔を照らしている。
「公爵閣下、お招きいただき光栄です」
僕は深く一礼し、隣に立つマックスさんも礼を取った。
「おや、そちらのご婦人は……もしかして、噂の?」
公爵の視線が僕の隣にいたエメイラに移った。
「はい。僕のパートナー、エメイラヒルデです」
「…これは、まことにお美しい。まるで月下の精霊のごとき」
公爵の目元に笑みが浮かぶと、周囲の女性客たちがざわつき始めた。
「えっ、あの方がリョウエスト様の…?」
「服装も完璧、あの紫髪…宝石みたい…!」
「ちょっと、あの女性に話しかけてきます!」
その瞬間、エメイラの周囲に女性陣が群れ始めた。ドレスの裾を引きずりながら、まるで久々の乙女会のような熱気だ。
「えっと、みなさん…あの、近い…!」
「髪はどんなお手入れを?」
「その刺繍、どこで縫われたの?」
「好きな香水は!?」
「お肌が透き通ってる…」
「エメイラ、大丈夫?混乱してない?」
「だ、だいじょうぶ…だと、おもう…」
一方、男性陣もエメイラを一目見てざわめいていた。
「…あれがリョウエストのパートナーか。いや、あれは反則では…?」
「どう口説けば…いや待て、あいつ名誉伯爵だぞ。下手に出たら命に関わる」
「くっ、くそっ。ぐうの音も出ない…!」
苦悶する声があちこちから聞こえ、僕は咳払いして話題を変えた。
「ええと、公爵閣下。今年の料理はウルリッヒスタイルと伺いましたが…」
「うむ、前菜、スープ、魚料理に肉料理、そして氷菓、メイン、サラダ、デザートまで。贅沢にいくぞ!」
公爵の笑顔は自信に満ちていた。
「…そして、リョウエスト恒例の『珍味』は、今年は何が出るのかな?」
僕は笑みを浮かべて答えた。
「『鳥軟骨の唐揚げ』を。少し香辛料を効かせてます」
「と、鳥軟骨!?あれは鶏の骨の端じゃないか。普通は捨てるぞ…?」
「でも、カリッと揚げると絶品です。エールにも合いますよ」
公爵は目を丸くしたあと、爆笑した。
「いやはや…リョウエスト君、君の目の付け所は相変わらず面白い!」
マックスさんが笑いながら僕の背中を叩いた。
「今年も一波乱ありそうだな、フフッ」
夜会の始まりは、熱気と驚きに満ちたものだった。
「皆さま、本日のコース料理がまもなく始まります。お席へどうぞ」
給仕長の声が響き、貴族たちがテーブルについた。僕もエメイラと並んで席に着く。マックスさん夫妻は公爵の隣席で、にこやかに談笑していた。
「さて…… 今年の目玉が来るぞ」
エフェルト公爵がわくわくと手を打つと、白銀の大皿を運んできた料理人が堂々と中央に立った。
「リョウエスト様による、特別料理『鳥軟骨の唐揚げ』でございます!」
「おぉ……!」
「これは……本当に骨?」
「いや、揚げ物だろ? 見た目は小さな金塊みたいだ」
ざわめく会場。試しにひとつ口に入れたグロッサム侯爵が、目を丸くした。
「ほ、ほおぉぉ!こ、これは…うまい!骨の歯ざわりが! いや、これぞ食感の革命じゃ!」
「香ばしい!」
「塩が効いてる!」
「エール…今すぐエールが欲しいわ!」
エフェルト公爵もひとつつまむと、目を細めて頷いた。
「やはりな…君は『宝の捨て場』を見つける天才だ。鳥軟骨とは!」
「本来は捨てられていた部位です。でも、それなら使い方を考えるだけ。もったいない精神ってやつですね」
「…よし、私は今年から鶏農家を奨励する! タウンガイドにも『軟骨対応農場』を載せるぞ!」
「公爵閣下、それは少し言葉を選ばれたほうが……」
側近が冷や汗を流して小声で止めていたけど、公爵は気にしていない様子だった。
「エメイラさん、これ……すごく美味しいです!」
「うふふ、リョウエストが揚げると、なんでも料理になるのね」
エメイラが優雅に笑い、貴族たちの視線が再び集まった。とくに女性陣の視線は…もはや羨望の嵐。
「エメイラ様、その髪は染めていらっしゃるのですか? それとも…ご生まれから?」
「いいえ。これは風の血を継いだ証です。私たちエルフの一族では、まれにこうした色が出るのです」
「まあ、なんて美しい!」
「妖精の末裔かしら…」
そして男性たちはというと…
「うぅ…隣に座りたい…が、名誉伯爵の
ご婦人…」
「近づいたら火の民に斬られるやも…」
遠巻きに僕を見ては目を逸らし、肩を落としていた。アインスたち青の技も、警戒を強めて無言で周囲を見張っている。
そんな空気をふわりと変えたのは、公爵の言葉だった。
「リョウエスト君。君の料理は人を結ぶ…我が領もな、ようやく他種族との共生を進めておる。ドワーフが鍛冶場を開き、エルフが森の管理を請け負い、水竜人は水路の設計に関わってくれてな」
「すごいですね、公爵様。それって、僕が見たルステインやドワーヴンベースと似てるかも」
「君の影響を、うけておるのだろう。素直に感謝しよう。ありがとう、リョウエスト君」
少し照れたように微笑む公爵の顔に、場の空気が和らいだ。
僕はただ、うなずいて言った。
「……これからも、少しでも誰かが笑える世界を作りたいです。料理も、そのひとつですから」
「良い答えだ。……さて、メインが来るぞ。舌を洗っておけよ」
公爵の豪快な声に、場が笑いに包まれた。
コースはついに終盤。メイン料理が運ばれた後、サラダ、そしてデザートへと続いた。
甘く香るベリーとナッツのタルト、ふわりと溶けるカスタードの香り。誰もが満ち足りた表情を浮かべていた。
「……まるで夢のような夜会だったわ」
「ほんとうに。まさか軟骨がこんな逸品になるなんて……!」
「ふふん、来年も期待されそうだな、リョウエスト」
エフェルト公爵がワイングラスを掲げて僕を見る。
「君が初めて我が夜会に参加した時から、毎年、驚かされっぱなしだ。珍味の選び方ひとつで、貴族の価値観を変えるとはな。…どこまで行くつもりだ?」
「どこまでって…うーん。きっと、どこまでも、です」
僕はそう言って、ワイングラスに葡萄ジュースを注ぎ、軽く掲げた。
「僕は、『未来を記す者』なんですから」
その一言に、公爵は肩を揺らして笑った。
「その肩書き、やはりお前にふさわしい。…しかし、名誉伯爵であるお前が、こうも平然と料理を作り、皆に振る舞うとは。いっそ我が家に婿入りしてくれんか?」
「やめてください、公爵閣下! 冗談でも冗談になりませんから!」
エメイラがクスクスと笑いながら僕の腕を取る。
「リョウエストはもう、私のものですよ。貴族にも、料理にも、風にも属しながら、自由でいるのが彼の魅力ですもの」
「ふむ…悔しいが、それもまた真実だな」
周囲の貴族たちも笑い、会場は和やかな空気に包まれた。
エフェルト公爵が朗々とした声で出迎えてくれた。きらびやかな夜会の会場、天井のシャンデリアが金色の光を投げかけ、貴族たちの笑顔を照らしている。
「公爵閣下、お招きいただき光栄です」
僕は深く一礼し、隣に立つマックスさんも礼を取った。
「おや、そちらのご婦人は……もしかして、噂の?」
公爵の視線が僕の隣にいたエメイラに移った。
「はい。僕のパートナー、エメイラヒルデです」
「…これは、まことにお美しい。まるで月下の精霊のごとき」
公爵の目元に笑みが浮かぶと、周囲の女性客たちがざわつき始めた。
「えっ、あの方がリョウエスト様の…?」
「服装も完璧、あの紫髪…宝石みたい…!」
「ちょっと、あの女性に話しかけてきます!」
その瞬間、エメイラの周囲に女性陣が群れ始めた。ドレスの裾を引きずりながら、まるで久々の乙女会のような熱気だ。
「えっと、みなさん…あの、近い…!」
「髪はどんなお手入れを?」
「その刺繍、どこで縫われたの?」
「好きな香水は!?」
「お肌が透き通ってる…」
「エメイラ、大丈夫?混乱してない?」
「だ、だいじょうぶ…だと、おもう…」
一方、男性陣もエメイラを一目見てざわめいていた。
「…あれがリョウエストのパートナーか。いや、あれは反則では…?」
「どう口説けば…いや待て、あいつ名誉伯爵だぞ。下手に出たら命に関わる」
「くっ、くそっ。ぐうの音も出ない…!」
苦悶する声があちこちから聞こえ、僕は咳払いして話題を変えた。
「ええと、公爵閣下。今年の料理はウルリッヒスタイルと伺いましたが…」
「うむ、前菜、スープ、魚料理に肉料理、そして氷菓、メイン、サラダ、デザートまで。贅沢にいくぞ!」
公爵の笑顔は自信に満ちていた。
「…そして、リョウエスト恒例の『珍味』は、今年は何が出るのかな?」
僕は笑みを浮かべて答えた。
「『鳥軟骨の唐揚げ』を。少し香辛料を効かせてます」
「と、鳥軟骨!?あれは鶏の骨の端じゃないか。普通は捨てるぞ…?」
「でも、カリッと揚げると絶品です。エールにも合いますよ」
公爵は目を丸くしたあと、爆笑した。
「いやはや…リョウエスト君、君の目の付け所は相変わらず面白い!」
マックスさんが笑いながら僕の背中を叩いた。
「今年も一波乱ありそうだな、フフッ」
夜会の始まりは、熱気と驚きに満ちたものだった。
「皆さま、本日のコース料理がまもなく始まります。お席へどうぞ」
給仕長の声が響き、貴族たちがテーブルについた。僕もエメイラと並んで席に着く。マックスさん夫妻は公爵の隣席で、にこやかに談笑していた。
「さて…… 今年の目玉が来るぞ」
エフェルト公爵がわくわくと手を打つと、白銀の大皿を運んできた料理人が堂々と中央に立った。
「リョウエスト様による、特別料理『鳥軟骨の唐揚げ』でございます!」
「おぉ……!」
「これは……本当に骨?」
「いや、揚げ物だろ? 見た目は小さな金塊みたいだ」
ざわめく会場。試しにひとつ口に入れたグロッサム侯爵が、目を丸くした。
「ほ、ほおぉぉ!こ、これは…うまい!骨の歯ざわりが! いや、これぞ食感の革命じゃ!」
「香ばしい!」
「塩が効いてる!」
「エール…今すぐエールが欲しいわ!」
エフェルト公爵もひとつつまむと、目を細めて頷いた。
「やはりな…君は『宝の捨て場』を見つける天才だ。鳥軟骨とは!」
「本来は捨てられていた部位です。でも、それなら使い方を考えるだけ。もったいない精神ってやつですね」
「…よし、私は今年から鶏農家を奨励する! タウンガイドにも『軟骨対応農場』を載せるぞ!」
「公爵閣下、それは少し言葉を選ばれたほうが……」
側近が冷や汗を流して小声で止めていたけど、公爵は気にしていない様子だった。
「エメイラさん、これ……すごく美味しいです!」
「うふふ、リョウエストが揚げると、なんでも料理になるのね」
エメイラが優雅に笑い、貴族たちの視線が再び集まった。とくに女性陣の視線は…もはや羨望の嵐。
「エメイラ様、その髪は染めていらっしゃるのですか? それとも…ご生まれから?」
「いいえ。これは風の血を継いだ証です。私たちエルフの一族では、まれにこうした色が出るのです」
「まあ、なんて美しい!」
「妖精の末裔かしら…」
そして男性たちはというと…
「うぅ…隣に座りたい…が、名誉伯爵の
ご婦人…」
「近づいたら火の民に斬られるやも…」
遠巻きに僕を見ては目を逸らし、肩を落としていた。アインスたち青の技も、警戒を強めて無言で周囲を見張っている。
そんな空気をふわりと変えたのは、公爵の言葉だった。
「リョウエスト君。君の料理は人を結ぶ…我が領もな、ようやく他種族との共生を進めておる。ドワーフが鍛冶場を開き、エルフが森の管理を請け負い、水竜人は水路の設計に関わってくれてな」
「すごいですね、公爵様。それって、僕が見たルステインやドワーヴンベースと似てるかも」
「君の影響を、うけておるのだろう。素直に感謝しよう。ありがとう、リョウエスト君」
少し照れたように微笑む公爵の顔に、場の空気が和らいだ。
僕はただ、うなずいて言った。
「……これからも、少しでも誰かが笑える世界を作りたいです。料理も、そのひとつですから」
「良い答えだ。……さて、メインが来るぞ。舌を洗っておけよ」
公爵の豪快な声に、場が笑いに包まれた。
コースはついに終盤。メイン料理が運ばれた後、サラダ、そしてデザートへと続いた。
甘く香るベリーとナッツのタルト、ふわりと溶けるカスタードの香り。誰もが満ち足りた表情を浮かべていた。
「……まるで夢のような夜会だったわ」
「ほんとうに。まさか軟骨がこんな逸品になるなんて……!」
「ふふん、来年も期待されそうだな、リョウエスト」
エフェルト公爵がワイングラスを掲げて僕を見る。
「君が初めて我が夜会に参加した時から、毎年、驚かされっぱなしだ。珍味の選び方ひとつで、貴族の価値観を変えるとはな。…どこまで行くつもりだ?」
「どこまでって…うーん。きっと、どこまでも、です」
僕はそう言って、ワイングラスに葡萄ジュースを注ぎ、軽く掲げた。
「僕は、『未来を記す者』なんですから」
その一言に、公爵は肩を揺らして笑った。
「その肩書き、やはりお前にふさわしい。…しかし、名誉伯爵であるお前が、こうも平然と料理を作り、皆に振る舞うとは。いっそ我が家に婿入りしてくれんか?」
「やめてください、公爵閣下! 冗談でも冗談になりませんから!」
エメイラがクスクスと笑いながら僕の腕を取る。
「リョウエストはもう、私のものですよ。貴族にも、料理にも、風にも属しながら、自由でいるのが彼の魅力ですもの」
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