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9歳の記す者。
感じるルステインの変化。
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僕は今、初等学校に通っている。あれこれ忙しいけど、できる限り登校するようにしている。だって、大事なことは学校でたくさん学べるから。知識だけじゃなくて、友達との時間や遊びの大切さも。
「リョウエスト、今日の課題ってこれで合ってると思う?」
隣の席のナミリアが、ノートを僕に見せる。几帳面に書かれた文字に僕はうなずいた。
「うん、ばっちり。先生も褒めると思うよ」
前の席のヤルスくんは、ちょっと首をかしげながら定規で線を引いていた。最近、図形の問題に夢中らしい。
「なあリョウエスト、もし円が動いたら、その影ってどこに落ちると思う?」
「……それは、光の角度によるかな。試してみようか」
僕はニッと笑って、窓から差す光に紙をかざした。子どもたちはわっと集まり、影の形を覗き込む。
放課後、僕たちはよく僕の工房でお菓子を食べながら宿題を片付ける。
「今日はクッキーある?」
とナミリア。
「あるよ。メディルが焼いてくれたやつ。甘さ控えめ」
「やった!」
ドワーヴンベースにある中庭には、ドワーフの子、獣人の子、水竜人の子……色々な種族の子供たちが集まってくる。以前は、親御さんの中に少し距離を置いていた人もいた。でも、今はすっかり様変わりした。
親同士の交流も増えてきて、今では誰もが自然と「じゃあ家で遊ばせましょう」と言うようになっていた。小さなことかもしれないけれど、それは確かな変化だ。
ある日、僕たちは学校の社会見学で公会堂に行った。初めて訪れるナミリアはきょろきょろしながら僕に囁いた。
「…こんなところで、いろんな人が話し合ってるんだね」
「うん。ルステインの未来を決める大事な場所だよ。ここはマックスさんが作ったんだ」
「そうなの?嬉しい」
会議の場では、エルフの代表とドワーフの長老が水の供給ルートについて真剣に意見を交わしていた。すぐ隣では、小人族と火の民が街灯の設置場所で小声ながら熱く討論している。
ナミリアがぽつりとつぶやく。
「私たちも、こういう風に一緒に話し合える大人になれるのかな」
僕は黙ってうなずいた。そうなる未来を、僕たちがつくるんだ。
社会見学を終えても、ナミリアはずっと公会堂の話をしていた。
「ねえ、今日の会議、私……ちょっと感動しちゃった」
帰り道の小道で、彼女はぽつりとつぶやいた。
「それぞれ違う考えがあって、でも誰も怒鳴らない。ちゃんと話して、理解しようとしてた」
「うん、そうだね。異種族同士の話し合いって、時間もかかるし、正解がひとつじゃないことも多い。でも、それでも対話をやめないんだ」
僕は自分の通ってきた道を思い出しながら、言葉を選んだ。
「僕も、最初は分からないことだらけだった。でも、理解しようとする気持ちがあれば、変えられることがある」
その時、向こうから市場帰りの小人族の商人が通りかかり、にこにこと笑って手を振ってきた。
「おお、リョウエスト様。今日も立派に勉強してるね。ほら、よかったらお菓子でも」
そう言って、小さな袋に入った干し果物の詰め合わせを差し出す。
「ありがとう」
僕が受け取ると、ナミリアがそっとささやいた。
「なんだか…すごいね、リョウ。歩くだけで、誰かが挨拶して、感謝してくれる」
でも僕は首を振った。
「それは僕だけじゃないよ。この街が変わってきたから、みんなが誰かを大事に思うようになったんだと思う」
公園のベンチで、休憩している年配の方々が僕たちに気づいて、手を振ってくれた。
「おや、リョウエスト坊や。ナミリア様もご一緒かい? こっちにおいで、少し昔話でも聞かせてあげようかね」
「うん、ぜひ」
僕たちは喜んで並んで座った。
話は、戦争の爪痕が色濃く残る時代のこと、干ばつと飢饉で苦しんだ年のこと、人と異種族が対立していた頃のこと。
「昔はね、火の民が市場に来ると、近くの人がさっと道を開けたもんさ」
「え、どうして?」
ナミリアが聞くと、おじいさんは苦笑いを浮かべた。
「熱を持ってるし、火を使うからって怖がってね。話もろくにしないで、追い返したりしてた」
「でも、今はみんな普通にお店で並んでるよ」
「そう、今はね。…君たちが生きてる時代は、もう随分と違うんだな」
おばあさんが手を重ねて言う。
「私たちの若い頃は、希望ってものがほとんどなかった。でも今は、こうして異種族の子供たちが一緒に遊んで、学んで、未来のことを話してる…それだけでね、本当に幸せだよ」
ナミリアが小さな声で言った。
「なんか…すごいことだね、これって」
僕はうなずいた。そして、決意を込めて言った。
「このまま、もっと素敵なルステインにしていきたい。誰もが笑っていられるような、そんな街に」
お年寄りたちは静かにうなずき、ひとりが涙ぐんだ瞳で言った。
「君みたいな子がいてくれるなら、安心だよ」
日が暮れかけた頃、僕たちは家に戻った。玄関に入ると、アニナが優しい笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。お嬢様方は中庭でお茶を」
中庭に行くと、お母さんとお父さんとエメイラが並んで座っていて、ティーセットの香りが漂っていた。
「おかえり。学校はどうだった?」
とエメイラ。
僕はベンチに座って、今日あったことを一気に話し出した。
お父さんがティーカップを持ち上げ、口元に笑みを浮かべながら僕を見た。
「ずいぶん熱心に話していたようだが、リョウ。街の変化、目に見えるか?」
「うん…お年寄りたちが教えてくれた昔の話、ナミリアも一緒に聞いててね。それが、今と全然違ってて…びっくりしたよ。でも、すごく嬉しかった。ちゃんと『変われた』んだって思えて」
母が紅茶を注ぎながら、少し目を細めて微笑んだ。
「そうね。あなたがやってきたことが、少しずつみんなの暮らしになっている…でもね」
「うん?」
「がんばりすぎないこと。人のために動くのは立派なことだけど、自分のことも忘れちゃだめよ。疲れたら、ちゃんと頼ってね」
「…うん。ありがとう、お母さん」
エメイラがその横で、そっと僕の肩に手を置いた。
「昔のあなたも、今のあなたも素敵よ。でも、何かに無理して変わる必要はないわ。そのままのあなたが、きっとみんなを幸せにするんだから」
僕は照れくさくなって、カップを持ち上げながら小さくうなずいた。
「…うん。でも、これからはもっとちゃんと、勉強も遊びも大事にする。ナミリアやヤルス君、他の子たちとも一緒に。僕が変わってく街を作ってるなら…みんなにも、ちゃんと見てもらいたい」
父が深くうなずきながら、低く穏やかな声で言った。
「人のためになることは、結局、自分のためにもなるんだ。自分で考え、動き、責任を持つ。…それを続けていけば、きっと何者にだってなれる」
「はい」
僕は素直に答えた。空を見上げると、ルステインの空は今日も澄んでいた。あの日、誰も見向きもしなかった工房。偏見だらけだった市場。閉ざされた邸宅。
けれど今は……。
そこに笑顔があって、出会いがあって、未来の話がある。
「リョウエスト、今日の課題ってこれで合ってると思う?」
隣の席のナミリアが、ノートを僕に見せる。几帳面に書かれた文字に僕はうなずいた。
「うん、ばっちり。先生も褒めると思うよ」
前の席のヤルスくんは、ちょっと首をかしげながら定規で線を引いていた。最近、図形の問題に夢中らしい。
「なあリョウエスト、もし円が動いたら、その影ってどこに落ちると思う?」
「……それは、光の角度によるかな。試してみようか」
僕はニッと笑って、窓から差す光に紙をかざした。子どもたちはわっと集まり、影の形を覗き込む。
放課後、僕たちはよく僕の工房でお菓子を食べながら宿題を片付ける。
「今日はクッキーある?」
とナミリア。
「あるよ。メディルが焼いてくれたやつ。甘さ控えめ」
「やった!」
ドワーヴンベースにある中庭には、ドワーフの子、獣人の子、水竜人の子……色々な種族の子供たちが集まってくる。以前は、親御さんの中に少し距離を置いていた人もいた。でも、今はすっかり様変わりした。
親同士の交流も増えてきて、今では誰もが自然と「じゃあ家で遊ばせましょう」と言うようになっていた。小さなことかもしれないけれど、それは確かな変化だ。
ある日、僕たちは学校の社会見学で公会堂に行った。初めて訪れるナミリアはきょろきょろしながら僕に囁いた。
「…こんなところで、いろんな人が話し合ってるんだね」
「うん。ルステインの未来を決める大事な場所だよ。ここはマックスさんが作ったんだ」
「そうなの?嬉しい」
会議の場では、エルフの代表とドワーフの長老が水の供給ルートについて真剣に意見を交わしていた。すぐ隣では、小人族と火の民が街灯の設置場所で小声ながら熱く討論している。
ナミリアがぽつりとつぶやく。
「私たちも、こういう風に一緒に話し合える大人になれるのかな」
僕は黙ってうなずいた。そうなる未来を、僕たちがつくるんだ。
社会見学を終えても、ナミリアはずっと公会堂の話をしていた。
「ねえ、今日の会議、私……ちょっと感動しちゃった」
帰り道の小道で、彼女はぽつりとつぶやいた。
「それぞれ違う考えがあって、でも誰も怒鳴らない。ちゃんと話して、理解しようとしてた」
「うん、そうだね。異種族同士の話し合いって、時間もかかるし、正解がひとつじゃないことも多い。でも、それでも対話をやめないんだ」
僕は自分の通ってきた道を思い出しながら、言葉を選んだ。
「僕も、最初は分からないことだらけだった。でも、理解しようとする気持ちがあれば、変えられることがある」
その時、向こうから市場帰りの小人族の商人が通りかかり、にこにこと笑って手を振ってきた。
「おお、リョウエスト様。今日も立派に勉強してるね。ほら、よかったらお菓子でも」
そう言って、小さな袋に入った干し果物の詰め合わせを差し出す。
「ありがとう」
僕が受け取ると、ナミリアがそっとささやいた。
「なんだか…すごいね、リョウ。歩くだけで、誰かが挨拶して、感謝してくれる」
でも僕は首を振った。
「それは僕だけじゃないよ。この街が変わってきたから、みんなが誰かを大事に思うようになったんだと思う」
公園のベンチで、休憩している年配の方々が僕たちに気づいて、手を振ってくれた。
「おや、リョウエスト坊や。ナミリア様もご一緒かい? こっちにおいで、少し昔話でも聞かせてあげようかね」
「うん、ぜひ」
僕たちは喜んで並んで座った。
話は、戦争の爪痕が色濃く残る時代のこと、干ばつと飢饉で苦しんだ年のこと、人と異種族が対立していた頃のこと。
「昔はね、火の民が市場に来ると、近くの人がさっと道を開けたもんさ」
「え、どうして?」
ナミリアが聞くと、おじいさんは苦笑いを浮かべた。
「熱を持ってるし、火を使うからって怖がってね。話もろくにしないで、追い返したりしてた」
「でも、今はみんな普通にお店で並んでるよ」
「そう、今はね。…君たちが生きてる時代は、もう随分と違うんだな」
おばあさんが手を重ねて言う。
「私たちの若い頃は、希望ってものがほとんどなかった。でも今は、こうして異種族の子供たちが一緒に遊んで、学んで、未来のことを話してる…それだけでね、本当に幸せだよ」
ナミリアが小さな声で言った。
「なんか…すごいことだね、これって」
僕はうなずいた。そして、決意を込めて言った。
「このまま、もっと素敵なルステインにしていきたい。誰もが笑っていられるような、そんな街に」
お年寄りたちは静かにうなずき、ひとりが涙ぐんだ瞳で言った。
「君みたいな子がいてくれるなら、安心だよ」
日が暮れかけた頃、僕たちは家に戻った。玄関に入ると、アニナが優しい笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。お嬢様方は中庭でお茶を」
中庭に行くと、お母さんとお父さんとエメイラが並んで座っていて、ティーセットの香りが漂っていた。
「おかえり。学校はどうだった?」
とエメイラ。
僕はベンチに座って、今日あったことを一気に話し出した。
お父さんがティーカップを持ち上げ、口元に笑みを浮かべながら僕を見た。
「ずいぶん熱心に話していたようだが、リョウ。街の変化、目に見えるか?」
「うん…お年寄りたちが教えてくれた昔の話、ナミリアも一緒に聞いててね。それが、今と全然違ってて…びっくりしたよ。でも、すごく嬉しかった。ちゃんと『変われた』んだって思えて」
母が紅茶を注ぎながら、少し目を細めて微笑んだ。
「そうね。あなたがやってきたことが、少しずつみんなの暮らしになっている…でもね」
「うん?」
「がんばりすぎないこと。人のために動くのは立派なことだけど、自分のことも忘れちゃだめよ。疲れたら、ちゃんと頼ってね」
「…うん。ありがとう、お母さん」
エメイラがその横で、そっと僕の肩に手を置いた。
「昔のあなたも、今のあなたも素敵よ。でも、何かに無理して変わる必要はないわ。そのままのあなたが、きっとみんなを幸せにするんだから」
僕は照れくさくなって、カップを持ち上げながら小さくうなずいた。
「…うん。でも、これからはもっとちゃんと、勉強も遊びも大事にする。ナミリアやヤルス君、他の子たちとも一緒に。僕が変わってく街を作ってるなら…みんなにも、ちゃんと見てもらいたい」
父が深くうなずきながら、低く穏やかな声で言った。
「人のためになることは、結局、自分のためにもなるんだ。自分で考え、動き、責任を持つ。…それを続けていけば、きっと何者にだってなれる」
「はい」
僕は素直に答えた。空を見上げると、ルステインの空は今日も澄んでいた。あの日、誰も見向きもしなかった工房。偏見だらけだった市場。閉ざされた邸宅。
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