【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
432 / 806
9歳の記す者。

感じるルステインの変化。

 僕は今、初等学校に通っている。あれこれ忙しいけど、できる限り登校するようにしている。だって、大事なことは学校でたくさん学べるから。知識だけじゃなくて、友達との時間や遊びの大切さも。

「リョウエスト、今日の課題ってこれで合ってると思う?」

 隣の席のナミリアが、ノートを僕に見せる。几帳面に書かれた文字に僕はうなずいた。

「うん、ばっちり。先生も褒めると思うよ」

 前の席のヤルスくんは、ちょっと首をかしげながら定規で線を引いていた。最近、図形の問題に夢中らしい。

「なあリョウエスト、もし円が動いたら、その影ってどこに落ちると思う?」
「……それは、光の角度によるかな。試してみようか」

 僕はニッと笑って、窓から差す光に紙をかざした。子どもたちはわっと集まり、影の形を覗き込む。

 放課後、僕たちはよく僕の工房でお菓子を食べながら宿題を片付ける。

「今日はクッキーある?」

 とナミリア。

「あるよ。メディルが焼いてくれたやつ。甘さ控えめ」
「やった!」

 ドワーヴンベースにある中庭には、ドワーフの子、獣人の子、水竜人の子……色々な種族の子供たちが集まってくる。以前は、親御さんの中に少し距離を置いていた人もいた。でも、今はすっかり様変わりした。

 親同士の交流も増えてきて、今では誰もが自然と「じゃあ家で遊ばせましょう」と言うようになっていた。小さなことかもしれないけれど、それは確かな変化だ。

 ある日、僕たちは学校の社会見学で公会堂に行った。初めて訪れるナミリアはきょろきょろしながら僕に囁いた。

「…こんなところで、いろんな人が話し合ってるんだね」
「うん。ルステインの未来を決める大事な場所だよ。ここはマックスさんが作ったんだ」
「そうなの?嬉しい」

 会議の場では、エルフの代表とドワーフの長老が水の供給ルートについて真剣に意見を交わしていた。すぐ隣では、小人族と火の民が街灯の設置場所で小声ながら熱く討論している。

 ナミリアがぽつりとつぶやく。

「私たちも、こういう風に一緒に話し合える大人になれるのかな」

 僕は黙ってうなずいた。そうなる未来を、僕たちがつくるんだ。

 社会見学を終えても、ナミリアはずっと公会堂の話をしていた。

「ねえ、今日の会議、私……ちょっと感動しちゃった」

 帰り道の小道で、彼女はぽつりとつぶやいた。

「それぞれ違う考えがあって、でも誰も怒鳴らない。ちゃんと話して、理解しようとしてた」
「うん、そうだね。異種族同士の話し合いって、時間もかかるし、正解がひとつじゃないことも多い。でも、それでも対話をやめないんだ」

 僕は自分の通ってきた道を思い出しながら、言葉を選んだ。

「僕も、最初は分からないことだらけだった。でも、理解しようとする気持ちがあれば、変えられることがある」

 その時、向こうから市場帰りの小人族の商人が通りかかり、にこにこと笑って手を振ってきた。

「おお、リョウエスト様。今日も立派に勉強してるね。ほら、よかったらお菓子でも」

 そう言って、小さな袋に入った干し果物の詰め合わせを差し出す。

「ありがとう」

 僕が受け取ると、ナミリアがそっとささやいた。

「なんだか…すごいね、リョウ。歩くだけで、誰かが挨拶して、感謝してくれる」

 でも僕は首を振った。

「それは僕だけじゃないよ。この街が変わってきたから、みんなが誰かを大事に思うようになったんだと思う」

 公園のベンチで、休憩している年配の方々が僕たちに気づいて、手を振ってくれた。
「おや、リョウエスト坊や。ナミリア様もご一緒かい? こっちにおいで、少し昔話でも聞かせてあげようかね」
「うん、ぜひ」

 僕たちは喜んで並んで座った。

 話は、戦争の爪痕が色濃く残る時代のこと、干ばつと飢饉で苦しんだ年のこと、人と異種族が対立していた頃のこと。

「昔はね、火の民が市場に来ると、近くの人がさっと道を開けたもんさ」
「え、どうして?」

 ナミリアが聞くと、おじいさんは苦笑いを浮かべた。

「熱を持ってるし、火を使うからって怖がってね。話もろくにしないで、追い返したりしてた」
「でも、今はみんな普通にお店で並んでるよ」
「そう、今はね。…君たちが生きてる時代は、もう随分と違うんだな」

 おばあさんが手を重ねて言う。

「私たちの若い頃は、希望ってものがほとんどなかった。でも今は、こうして異種族の子供たちが一緒に遊んで、学んで、未来のことを話してる…それだけでね、本当に幸せだよ」

 ナミリアが小さな声で言った。

「なんか…すごいことだね、これって」

 僕はうなずいた。そして、決意を込めて言った。

「このまま、もっと素敵なルステインにしていきたい。誰もが笑っていられるような、そんな街に」

 お年寄りたちは静かにうなずき、ひとりが涙ぐんだ瞳で言った。

「君みたいな子がいてくれるなら、安心だよ」

 日が暮れかけた頃、僕たちは家に戻った。玄関に入ると、アニナが優しい笑顔で迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。お嬢様方は中庭でお茶を」

 中庭に行くと、お母さんとお父さんとエメイラが並んで座っていて、ティーセットの香りが漂っていた。

「おかえり。学校はどうだった?」

 とエメイラ。
 僕はベンチに座って、今日あったことを一気に話し出した。
 お父さんがティーカップを持ち上げ、口元に笑みを浮かべながら僕を見た。

「ずいぶん熱心に話していたようだが、リョウ。街の変化、目に見えるか?」
「うん…お年寄りたちが教えてくれた昔の話、ナミリアも一緒に聞いててね。それが、今と全然違ってて…びっくりしたよ。でも、すごく嬉しかった。ちゃんと『変われた』んだって思えて」

 母が紅茶を注ぎながら、少し目を細めて微笑んだ。

「そうね。あなたがやってきたことが、少しずつみんなの暮らしになっている…でもね」
「うん?」
「がんばりすぎないこと。人のために動くのは立派なことだけど、自分のことも忘れちゃだめよ。疲れたら、ちゃんと頼ってね」
「…うん。ありがとう、お母さん」

 エメイラがその横で、そっと僕の肩に手を置いた。

「昔のあなたも、今のあなたも素敵よ。でも、何かに無理して変わる必要はないわ。そのままのあなたが、きっとみんなを幸せにするんだから」

 僕は照れくさくなって、カップを持ち上げながら小さくうなずいた。

「…うん。でも、これからはもっとちゃんと、勉強も遊びも大事にする。ナミリアやヤルス君、他の子たちとも一緒に。僕が変わってく街を作ってるなら…みんなにも、ちゃんと見てもらいたい」

 父が深くうなずきながら、低く穏やかな声で言った。

「人のためになることは、結局、自分のためにもなるんだ。自分で考え、動き、責任を持つ。…それを続けていけば、きっと何者にだってなれる」
「はい」

 僕は素直に答えた。空を見上げると、ルステインの空は今日も澄んでいた。あの日、誰も見向きもしなかった工房。偏見だらけだった市場。閉ざされた邸宅。

 けれど今は……。
 そこに笑顔があって、出会いがあって、未来の話がある。







感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…