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9歳の記す者。
疾風の獣人隊商完成。
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「もう一日、いや、半日。あと半日だけでも早くなれば、どれほど助かるか……」
虎族の獣人、ジレイガが腕を組み、ドワーフと小人の前で唸るように呟いた。
ここはルステインの南端、獣人隊商の荷車整備拠点。今日も隊商たちが次なる出発に備え、ヤク牛の世話や馬車の整備に余念がない。
「速度の限界はヤク牛じゃなくて、この足回りですな。車輪があっという間に擦り減ってしまう」
ドワーフの工房長ヂョウギが低い声で言った。
「構造的に無理が出てきてるです。特に車軸まわりの負担が…もう一段階軽くて強い材で作らなきゃ」
小人のクルムが図面をくるくると巻きながら呟く。
「……うむ、それなら一案ある」
後方で静かに話を聞いていたエルフのアコンキットが、ふと顔を上げた。
「一年ほど前、飛行機開発のために使った特殊素材がある。軽量で強度もあり、魔力への反応も良い。残っていれば、それを車体に応用できるはずだ」
「そりゃ朗報だ。あの飛行機開発、結局失敗だったが…素材はまだ倉庫に眠っとるぞ」
ボリビエが真顔で頷く。
その場の空気が一気に活気づく。
「そして、もう一つ。……ゴノドンという魔獣を覚えているか?」
アコンキットが話を続ける。
「ゴノドン? あの大型の四足獣……矢が弾かれたって噂の?」
ジレイガが目を細めた。
「あれの血液を思い出してな。あれ、常温では粘性が高く、加熱すると柔らかくなり、冷えると弾性が上がる。つまり…サテラージャに生えてるゴムのような特性を持っている。タイヤに応用できる」
「ほおおおお…!!」
ブルッグが声を上げ、周囲もどよめいた。
「すげぇぞそれ! 軽くて強くて、ゴムのような弾力のあるタイヤ…道がどれだけ荒れても進めるんじゃねぇか?」
「それに加えてアシスト機構の再設計をすれば、馬車の速度も安全性も段違いになる」
ヂョウギが図面にすばやく描き加えながら言う。
「よし、やろう。おれは本気で、この隊商を『王都とルステインを結ぶ最速』にしたい」
ジレイガの言葉に、一同が頷く。
こうして、新たな『獣人隊商高速化改良計画』が始動したのだった。
「この車輪、ほんとに跳ね返ったわ…!」
小人のクルムが試作荷車のタイヤに棒を叩きつけ、目をまん丸にして叫んだ。
試験用に貼り付けた赤黒いゴム状の素材。それはゴノドンの血液を特殊処理して生成した『弾性血ゴム』だった。
「冷えた状態で弾性が最大か…これはほんとにタイヤ向きだわ」
ドワーフのボリビエがにやりと笑い、エルフのアコンキットが頷く。
「試作時は懸念もあったが、温度管理さえうまくいけば安定して使える。これを金属骨格のホイールに巻き付け、接地部分だけ交換可能にすれば実用性は高い」
「完璧です!」
クルムが大きく手を上げた。
「素材自体は特殊だけど、火の民が加工方法を工夫してくれてさ、意外と量産もいけそうなんだって」
ブルッグが言うと、遠くから赤い頭巾を被った火の民の作業員たちが手を振ってきた。
「おーい! 柔らかくする温度、5度下げたら耐久10%上がったでー!」
「おう! よくやってくれましたぁ!」
ヂョウギががっはっはと豪快に笑い返す。
一方、その間にエルフたちは『森の魔道標』の再設置と再整備を急いでいた。ショートカットルートをさらにショートカットできるよう道を組み直したのだ。主にアコンキットが担当したが、今までのノウハウを活かして更に進化した道筋は、今までよりもかなり距離が短くなっていた。
数週間後、試作一号が完成した。
「おおおおお……軽っ!」
ジレイガが素手で荷車を押しながら叫ぶ。
「馬車の感覚じゃねえ…これ、乗っててもわかる! タイヤの衝撃吸収が尋常じゃねぇ!」
「推進アシストも調整済みです。上り坂でもぐいぐい引きますぞ」
ヂョウギが胸を張る。
荷車の構造は従来の半分の重さ。フレームは飛行機開発用の軽量硬質合金。外装にはエルフ魔法技師による対震魔法道具が積まれ、足回りには『弾性血ゴム』を巻いたハイブリッドホイール。さらには、ヤク牛と意思疎通しやすくするための魔法装置も強化された。
そして、森を突き抜ける新しい魔法のショートカットルート。
それらすべてを活かし、ついに──
「出発するぞッッ!」
ジレイガが獣人隊商の号令をかけた。
ヤク牛が唸るように雄叫びをあげ、真紅の車体を引きながら森の道を駆け抜けていく。
魔道標が次々と青白く光り、ヤク牛たちはまるでレールを滑るように進む。
「すげぇ……ほんとに風を切ってるぞ…!」
「ルステイン~王都、2泊3日…達成可能、いや、それ以上いけるかもしれない」
その走りを見届けながら、アコンキットは呟いた。
「──到着しました」
王都の南門。衛兵が目を丸くして言ったのは、予定より一日も早く現れた隊商の姿を見たときだった。
旗印は見覚えのあるルステインの紋章、そしてその中心に立つのは――
「虎族の…ジレイガ殿か!? いや、こんなに早く…信じられん…!」
「ま、信じられなくてもいい。俺たちは来たんだ、予定より早くな」
ジレイガが歯を見せて笑う。ヤク牛たちは疲れも見せず、むしろ誇らしげに鼻息を荒くしていた。
「ホイール、傷ひとつねぇ……」
馬車の整備士が呟いた。
そこに駆けつけてきたのは、王都の調達部の役人たち。
「ジレイガ殿、何ということでしょう! 王都~ルステイン間、2泊3日での到着とは……っ!」
「へへっ。俺たちの力でやってやった」
ジレイガが帰ってきた夜、ドワーヴンベースの集会場で祝賀会が開かれた。
参加者はドワーフ、小人、エルフ、火の民、獣人の代表たち。大量の酒と肉と音楽と笑い声が満ちる中、ジレイガが声を上げた。
「おい、お前ら! 俺たち、最速になったぞーッ!!」
「おおおおおおおおお!!」
「じゃが、満足すなよ。次はこれにもっと積載量も追加して…」
「待てブルッグ、それは馬が潰れる!」
「次は風の魔法道具との併用を…」
「またそれやるのかよ、やめろアコンキット、ヤク牛が空飛んだら俺ら降りられねぇ!」
笑い声が響く中で、アコンキットが静かに杯を上げた。
「……ルステインから始まったこの隊商が、王国の物流を変えるなら。それは、きっと誰かの夢を届ける道になるだろう」
誰もが頷いた。
……疾風の獣人隊商、ここに完成。
虎族の獣人、ジレイガが腕を組み、ドワーフと小人の前で唸るように呟いた。
ここはルステインの南端、獣人隊商の荷車整備拠点。今日も隊商たちが次なる出発に備え、ヤク牛の世話や馬車の整備に余念がない。
「速度の限界はヤク牛じゃなくて、この足回りですな。車輪があっという間に擦り減ってしまう」
ドワーフの工房長ヂョウギが低い声で言った。
「構造的に無理が出てきてるです。特に車軸まわりの負担が…もう一段階軽くて強い材で作らなきゃ」
小人のクルムが図面をくるくると巻きながら呟く。
「……うむ、それなら一案ある」
後方で静かに話を聞いていたエルフのアコンキットが、ふと顔を上げた。
「一年ほど前、飛行機開発のために使った特殊素材がある。軽量で強度もあり、魔力への反応も良い。残っていれば、それを車体に応用できるはずだ」
「そりゃ朗報だ。あの飛行機開発、結局失敗だったが…素材はまだ倉庫に眠っとるぞ」
ボリビエが真顔で頷く。
その場の空気が一気に活気づく。
「そして、もう一つ。……ゴノドンという魔獣を覚えているか?」
アコンキットが話を続ける。
「ゴノドン? あの大型の四足獣……矢が弾かれたって噂の?」
ジレイガが目を細めた。
「あれの血液を思い出してな。あれ、常温では粘性が高く、加熱すると柔らかくなり、冷えると弾性が上がる。つまり…サテラージャに生えてるゴムのような特性を持っている。タイヤに応用できる」
「ほおおおお…!!」
ブルッグが声を上げ、周囲もどよめいた。
「すげぇぞそれ! 軽くて強くて、ゴムのような弾力のあるタイヤ…道がどれだけ荒れても進めるんじゃねぇか?」
「それに加えてアシスト機構の再設計をすれば、馬車の速度も安全性も段違いになる」
ヂョウギが図面にすばやく描き加えながら言う。
「よし、やろう。おれは本気で、この隊商を『王都とルステインを結ぶ最速』にしたい」
ジレイガの言葉に、一同が頷く。
こうして、新たな『獣人隊商高速化改良計画』が始動したのだった。
「この車輪、ほんとに跳ね返ったわ…!」
小人のクルムが試作荷車のタイヤに棒を叩きつけ、目をまん丸にして叫んだ。
試験用に貼り付けた赤黒いゴム状の素材。それはゴノドンの血液を特殊処理して生成した『弾性血ゴム』だった。
「冷えた状態で弾性が最大か…これはほんとにタイヤ向きだわ」
ドワーフのボリビエがにやりと笑い、エルフのアコンキットが頷く。
「試作時は懸念もあったが、温度管理さえうまくいけば安定して使える。これを金属骨格のホイールに巻き付け、接地部分だけ交換可能にすれば実用性は高い」
「完璧です!」
クルムが大きく手を上げた。
「素材自体は特殊だけど、火の民が加工方法を工夫してくれてさ、意外と量産もいけそうなんだって」
ブルッグが言うと、遠くから赤い頭巾を被った火の民の作業員たちが手を振ってきた。
「おーい! 柔らかくする温度、5度下げたら耐久10%上がったでー!」
「おう! よくやってくれましたぁ!」
ヂョウギががっはっはと豪快に笑い返す。
一方、その間にエルフたちは『森の魔道標』の再設置と再整備を急いでいた。ショートカットルートをさらにショートカットできるよう道を組み直したのだ。主にアコンキットが担当したが、今までのノウハウを活かして更に進化した道筋は、今までよりもかなり距離が短くなっていた。
数週間後、試作一号が完成した。
「おおおおお……軽っ!」
ジレイガが素手で荷車を押しながら叫ぶ。
「馬車の感覚じゃねえ…これ、乗っててもわかる! タイヤの衝撃吸収が尋常じゃねぇ!」
「推進アシストも調整済みです。上り坂でもぐいぐい引きますぞ」
ヂョウギが胸を張る。
荷車の構造は従来の半分の重さ。フレームは飛行機開発用の軽量硬質合金。外装にはエルフ魔法技師による対震魔法道具が積まれ、足回りには『弾性血ゴム』を巻いたハイブリッドホイール。さらには、ヤク牛と意思疎通しやすくするための魔法装置も強化された。
そして、森を突き抜ける新しい魔法のショートカットルート。
それらすべてを活かし、ついに──
「出発するぞッッ!」
ジレイガが獣人隊商の号令をかけた。
ヤク牛が唸るように雄叫びをあげ、真紅の車体を引きながら森の道を駆け抜けていく。
魔道標が次々と青白く光り、ヤク牛たちはまるでレールを滑るように進む。
「すげぇ……ほんとに風を切ってるぞ…!」
「ルステイン~王都、2泊3日…達成可能、いや、それ以上いけるかもしれない」
その走りを見届けながら、アコンキットは呟いた。
「──到着しました」
王都の南門。衛兵が目を丸くして言ったのは、予定より一日も早く現れた隊商の姿を見たときだった。
旗印は見覚えのあるルステインの紋章、そしてその中心に立つのは――
「虎族の…ジレイガ殿か!? いや、こんなに早く…信じられん…!」
「ま、信じられなくてもいい。俺たちは来たんだ、予定より早くな」
ジレイガが歯を見せて笑う。ヤク牛たちは疲れも見せず、むしろ誇らしげに鼻息を荒くしていた。
「ホイール、傷ひとつねぇ……」
馬車の整備士が呟いた。
そこに駆けつけてきたのは、王都の調達部の役人たち。
「ジレイガ殿、何ということでしょう! 王都~ルステイン間、2泊3日での到着とは……っ!」
「へへっ。俺たちの力でやってやった」
ジレイガが帰ってきた夜、ドワーヴンベースの集会場で祝賀会が開かれた。
参加者はドワーフ、小人、エルフ、火の民、獣人の代表たち。大量の酒と肉と音楽と笑い声が満ちる中、ジレイガが声を上げた。
「おい、お前ら! 俺たち、最速になったぞーッ!!」
「おおおおおおおおお!!」
「じゃが、満足すなよ。次はこれにもっと積載量も追加して…」
「待てブルッグ、それは馬が潰れる!」
「次は風の魔法道具との併用を…」
「またそれやるのかよ、やめろアコンキット、ヤク牛が空飛んだら俺ら降りられねぇ!」
笑い声が響く中で、アコンキットが静かに杯を上げた。
「……ルステインから始まったこの隊商が、王国の物流を変えるなら。それは、きっと誰かの夢を届ける道になるだろう」
誰もが頷いた。
……疾風の獣人隊商、ここに完成。
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