【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
437 / 689
9歳の記す者。

ルステインが見ている。

しおりを挟む
 青の技のアインスが、薄暗い仕事部屋で僕に深刻な報告をしていた。

「リョウ様…ちとまずい話でやす。隣のフェキア王国の者が、どうもルステインに潜り込んできてるでやす」
「…スパイか?」
「おそらく。ウチらが尾行してるが、動きが慎重すぎて尻尾を掴めやせん。ただ…どうも、旦那のことを探ってるようで」

 ツヴァイが静かに言葉を継ぐ。

「先週から、妙に街で『あの少年がどんな人物か』を探る奴が何人かいた。最初はただの好奇心かと思ったが、調べが深すぎる」
「…わかった。僕も動くよ」

 僕は机の上のメモ帳をめくりながら考え込んだ。

「街の人たちに、『僕のことを不自然に探る者がいたら注意して』と、直接伝えておく。ここまで育ってきたルステインを、変な奴らに好き勝手はさせたくない」

 ドライがニヤリと笑った。

「いいですね。街の人間と一緒に守る『この街らしいやり方』だ」

 こうして、僕は町を歩きながら、顔を知ってる人たち一人ひとりに声をかけていった。

「ねぇ、最近僕のことを聞き回ってる変な人を見かけなかった?」

 野菜屋の女将が首を傾げた。

「ああ、いたよ。変な言葉遣いの旅人風の男。昨日、うちの旦那のとこにも来てた」
「ありがとう。何かあったら青の技のアインスに伝えて。絶対に自分で追おうとしないで」
「任せときな。あんたのためなら皆、耳も目も貸すよ」

 ルステインの人々が、まるで僕自身の延長であるかのように動いてくれた。青の技の六人はそれぞれ暗躍しつつ、僕を前に出して街の『共同防衛網』を作り始めた。

 それは、かつてのようなただの情報対策ではなく『新しいルステインらしい迎撃の仕方』だった。

「リョウ様、報告でやす。パン屋の親父が『妙に身なりが綺麗すぎる旅人』が今朝通ったって話してやした」

 アインスが息を整えながら言った。街の朝市に来ていた僕のもとへ、まるで風のように現れる。

「『綺麗すぎる』って、どんな?」
「革のブーツが雨の跡ひとつなく、指先も爪もぴっかぴか…旅人のくせにね」

 フィアが後ろからひょっこり現れて笑った。

「あと、街角で『あの少年って貴族なの?どんな武術が得意?』なんて訊いてたそうよ。妙に細かくね」
「…僕の能力も探ってるのか。やっぱり、ただの偵察じゃない」

 街の露店のあちこちからも声がかかる。

「リョウエスト様、昨日『幼いころからあの子を見てきた者はいないか』って探ってるやつがいたぞ!」
「うちの小僧が声かけられたってさ、『あの屋敷に入ってどれくらい経った?』って!」

 僕は一人ひとりに頭を下げながら、声を返した。

「ありがとう。すぐ青の技が対応してくれるから、下手に近づかないで。何か変なことがあったら、アインスかツヴァイに言ってね」
「任せなさいって。あんたはルステインの坊ちゃんなんだから」
「僕は…もう坊ちゃんじゃないさ。皆と一緒に、この街を守る一人だから」

 その言葉に周囲がちょっと笑い、でも誰も否定しなかった。そういうところが、僕はこの街を好きなのだ。

 その夜、青の技の作戦会議が開かれた。六人がテーブルを囲み、壁には街の地図と、出没地点が赤い印で記されている。

「…やはり、狙いは『リョウエスト』の過去と現在。武術と魔術の素養、成長過程、周囲との関係性、つまり、『王国が育てようとしてる要』を潰すための情報を集めてやがる」

 フュンフが真顔で言い、ゼクスがうなずく。

「奴らが一番嫌がるのは、『情報が漏れてないこと』だ。逆に、こちらから偽情報を流す手もある」
「それには…」

 僕はゆっくり言った。

「街の人たちにも協力してもらおう。『間違った僕の噂』を、それっぽく広めてもらうんだ。僕が最近剣術に夢中だとか、王都に恋人ができたとか…」
「…あー、それ街の婆様たちが盛り上がりそうでやすな…」

 アインスが苦笑した。

 けれど、これもひとつの『情報戦』。スパイたちがどれだけ街に紛れても、街全体が一つの巨大な防衛網になっていれば、むしろこっちの手のひらの上だ。

 僕は地図を見ながらつぶやいた。

「僕たちで、守ろう。ルステインを。みんなで」
「坊、広場の老婆連が噂を流しはじめてます。『あの子、最近誰かと恋文のやり取りしてるらしいわよ』だってよ」

 アインスが苦笑しながら言うと、僕はお茶を吹きそうになった。

「…それ、尾ひれがついて広がってないか?」
「ついてまさぁね。青い目の王都の美少女騎士とか、北の商人の娘とか……誰が言い出したのやら」
「もう止めてくれ…!」

 ツヴァイとフィアがくすくす笑う。

「けど、効果は出てきてますわよ。スパイが紛れ込んでいた宿屋で、『そんな情報どこから?』って焦ってた様子を見た者もおります」
「武術や魔術訓練ばかりしてると思われるより、『どこにでもいる年頃の貴族の少年』って誤解されるほうが、狙われにくいからな」

 ドライが静かに頷いた。
 その頃には街の空気も変わりつつあった。
 市場の魚売りがこう言ったのだ。

「若に会いたがってる変な旅人がいたんでね。『そいつは昨日は鍛冶屋、今日は宿屋』って足取りを教えてやったさ」

 僕が驚いて聞き返した。

「わざと教えたの? それって危険じゃ…」
「『わざと』だよ。あんたに気安く近づこうとするなら、俺たちが見てやる。そう思ってな」

 そう言って胸を叩いて笑う職人に、僕は返す言葉が見つからなかった。

 別の日には、野菜売りの少女が僕の袖を引いた。

「ねえ、『旅人の男が私に話しかけてきた』ってお母さんに言ったら、『若様に近づくなんて百年早い!』って怒鳴ったの。あれ、合ってたの?」
「…うん、大正解だよ。お母さん、良い判断してる」
「やった!」

 少女はぴょんぴょん跳ねながら去っていった。

 スパイたちは依然として潜んでいた。けれど、もはやこの街のどこにも『安全な隠れ場所』はなかった。情報は青の技に吸い上げられ、すぐに対処される。

 ゼクスが最後にこうまとめた。

「ルステインの町人は、リョウ様に対して『見ている』んじゃねぇ。『守っている』んでさ」
「…僕が守るつもりだったのに、逆になってるな」
「坊が街を想ってるから、街が坊を想う。それでいいんじゃねぇか」

 その言葉に、誰も反論しなかった。

 静かに、そして確かに、スパイの包囲網は崩れていった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...