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9歳の記す者。
ルステインが見ている。
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青の技のアインスが、薄暗い仕事部屋で僕に深刻な報告をしていた。
「リョウ様…ちとまずい話でやす。隣のフェキア王国の者が、どうもルステインに潜り込んできてるでやす」
「…スパイか?」
「おそらく。ウチらが尾行してるが、動きが慎重すぎて尻尾を掴めやせん。ただ…どうも、旦那のことを探ってるようで」
ツヴァイが静かに言葉を継ぐ。
「先週から、妙に街で『あの少年がどんな人物か』を探る奴が何人かいた。最初はただの好奇心かと思ったが、調べが深すぎる」
「…わかった。僕も動くよ」
僕は机の上のメモ帳をめくりながら考え込んだ。
「街の人たちに、『僕のことを不自然に探る者がいたら注意して』と、直接伝えておく。ここまで育ってきたルステインを、変な奴らに好き勝手はさせたくない」
ドライがニヤリと笑った。
「いいですね。街の人間と一緒に守る『この街らしいやり方』だ」
こうして、僕は町を歩きながら、顔を知ってる人たち一人ひとりに声をかけていった。
「ねぇ、最近僕のことを聞き回ってる変な人を見かけなかった?」
野菜屋の女将が首を傾げた。
「ああ、いたよ。変な言葉遣いの旅人風の男。昨日、うちの旦那のとこにも来てた」
「ありがとう。何かあったら青の技のアインスに伝えて。絶対に自分で追おうとしないで」
「任せときな。あんたのためなら皆、耳も目も貸すよ」
ルステインの人々が、まるで僕自身の延長であるかのように動いてくれた。青の技の六人はそれぞれ暗躍しつつ、僕を前に出して街の『共同防衛網』を作り始めた。
それは、かつてのようなただの情報対策ではなく『新しいルステインらしい迎撃の仕方』だった。
「リョウ様、報告でやす。パン屋の親父が『妙に身なりが綺麗すぎる旅人』が今朝通ったって話してやした」
アインスが息を整えながら言った。街の朝市に来ていた僕のもとへ、まるで風のように現れる。
「『綺麗すぎる』って、どんな?」
「革のブーツが雨の跡ひとつなく、指先も爪もぴっかぴか…旅人のくせにね」
フィアが後ろからひょっこり現れて笑った。
「あと、街角で『あの少年って貴族なの?どんな武術が得意?』なんて訊いてたそうよ。妙に細かくね」
「…僕の能力も探ってるのか。やっぱり、ただの偵察じゃない」
街の露店のあちこちからも声がかかる。
「リョウエスト様、昨日『幼いころからあの子を見てきた者はいないか』って探ってるやつがいたぞ!」
「うちの小僧が声かけられたってさ、『あの屋敷に入ってどれくらい経った?』って!」
僕は一人ひとりに頭を下げながら、声を返した。
「ありがとう。すぐ青の技が対応してくれるから、下手に近づかないで。何か変なことがあったら、アインスかツヴァイに言ってね」
「任せなさいって。あんたはルステインの坊ちゃんなんだから」
「僕は…もう坊ちゃんじゃないさ。皆と一緒に、この街を守る一人だから」
その言葉に周囲がちょっと笑い、でも誰も否定しなかった。そういうところが、僕はこの街を好きなのだ。
その夜、青の技の作戦会議が開かれた。六人がテーブルを囲み、壁には街の地図と、出没地点が赤い印で記されている。
「…やはり、狙いは『リョウエスト』の過去と現在。武術と魔術の素養、成長過程、周囲との関係性、つまり、『王国が育てようとしてる要』を潰すための情報を集めてやがる」
フュンフが真顔で言い、ゼクスがうなずく。
「奴らが一番嫌がるのは、『情報が漏れてないこと』だ。逆に、こちらから偽情報を流す手もある」
「それには…」
僕はゆっくり言った。
「街の人たちにも協力してもらおう。『間違った僕の噂』を、それっぽく広めてもらうんだ。僕が最近剣術に夢中だとか、王都に恋人ができたとか…」
「…あー、それ街の婆様たちが盛り上がりそうでやすな…」
アインスが苦笑した。
けれど、これもひとつの『情報戦』。スパイたちがどれだけ街に紛れても、街全体が一つの巨大な防衛網になっていれば、むしろこっちの手のひらの上だ。
僕は地図を見ながらつぶやいた。
「僕たちで、守ろう。ルステインを。みんなで」
「坊、広場の老婆連が噂を流しはじめてます。『あの子、最近誰かと恋文のやり取りしてるらしいわよ』だってよ」
アインスが苦笑しながら言うと、僕はお茶を吹きそうになった。
「…それ、尾ひれがついて広がってないか?」
「ついてまさぁね。青い目の王都の美少女騎士とか、北の商人の娘とか……誰が言い出したのやら」
「もう止めてくれ…!」
ツヴァイとフィアがくすくす笑う。
「けど、効果は出てきてますわよ。スパイが紛れ込んでいた宿屋で、『そんな情報どこから?』って焦ってた様子を見た者もおります」
「武術や魔術訓練ばかりしてると思われるより、『どこにでもいる年頃の貴族の少年』って誤解されるほうが、狙われにくいからな」
ドライが静かに頷いた。
その頃には街の空気も変わりつつあった。
市場の魚売りがこう言ったのだ。
「若に会いたがってる変な旅人がいたんでね。『そいつは昨日は鍛冶屋、今日は宿屋』って足取りを教えてやったさ」
僕が驚いて聞き返した。
「わざと教えたの? それって危険じゃ…」
「『わざと』だよ。あんたに気安く近づこうとするなら、俺たちが見てやる。そう思ってな」
そう言って胸を叩いて笑う職人に、僕は返す言葉が見つからなかった。
別の日には、野菜売りの少女が僕の袖を引いた。
「ねえ、『旅人の男が私に話しかけてきた』ってお母さんに言ったら、『若様に近づくなんて百年早い!』って怒鳴ったの。あれ、合ってたの?」
「…うん、大正解だよ。お母さん、良い判断してる」
「やった!」
少女はぴょんぴょん跳ねながら去っていった。
スパイたちは依然として潜んでいた。けれど、もはやこの街のどこにも『安全な隠れ場所』はなかった。情報は青の技に吸い上げられ、すぐに対処される。
ゼクスが最後にこうまとめた。
「ルステインの町人は、リョウ様に対して『見ている』んじゃねぇ。『守っている』んでさ」
「…僕が守るつもりだったのに、逆になってるな」
「坊が街を想ってるから、街が坊を想う。それでいいんじゃねぇか」
その言葉に、誰も反論しなかった。
静かに、そして確かに、スパイの包囲網は崩れていった。
「リョウ様…ちとまずい話でやす。隣のフェキア王国の者が、どうもルステインに潜り込んできてるでやす」
「…スパイか?」
「おそらく。ウチらが尾行してるが、動きが慎重すぎて尻尾を掴めやせん。ただ…どうも、旦那のことを探ってるようで」
ツヴァイが静かに言葉を継ぐ。
「先週から、妙に街で『あの少年がどんな人物か』を探る奴が何人かいた。最初はただの好奇心かと思ったが、調べが深すぎる」
「…わかった。僕も動くよ」
僕は机の上のメモ帳をめくりながら考え込んだ。
「街の人たちに、『僕のことを不自然に探る者がいたら注意して』と、直接伝えておく。ここまで育ってきたルステインを、変な奴らに好き勝手はさせたくない」
ドライがニヤリと笑った。
「いいですね。街の人間と一緒に守る『この街らしいやり方』だ」
こうして、僕は町を歩きながら、顔を知ってる人たち一人ひとりに声をかけていった。
「ねぇ、最近僕のことを聞き回ってる変な人を見かけなかった?」
野菜屋の女将が首を傾げた。
「ああ、いたよ。変な言葉遣いの旅人風の男。昨日、うちの旦那のとこにも来てた」
「ありがとう。何かあったら青の技のアインスに伝えて。絶対に自分で追おうとしないで」
「任せときな。あんたのためなら皆、耳も目も貸すよ」
ルステインの人々が、まるで僕自身の延長であるかのように動いてくれた。青の技の六人はそれぞれ暗躍しつつ、僕を前に出して街の『共同防衛網』を作り始めた。
それは、かつてのようなただの情報対策ではなく『新しいルステインらしい迎撃の仕方』だった。
「リョウ様、報告でやす。パン屋の親父が『妙に身なりが綺麗すぎる旅人』が今朝通ったって話してやした」
アインスが息を整えながら言った。街の朝市に来ていた僕のもとへ、まるで風のように現れる。
「『綺麗すぎる』って、どんな?」
「革のブーツが雨の跡ひとつなく、指先も爪もぴっかぴか…旅人のくせにね」
フィアが後ろからひょっこり現れて笑った。
「あと、街角で『あの少年って貴族なの?どんな武術が得意?』なんて訊いてたそうよ。妙に細かくね」
「…僕の能力も探ってるのか。やっぱり、ただの偵察じゃない」
街の露店のあちこちからも声がかかる。
「リョウエスト様、昨日『幼いころからあの子を見てきた者はいないか』って探ってるやつがいたぞ!」
「うちの小僧が声かけられたってさ、『あの屋敷に入ってどれくらい経った?』って!」
僕は一人ひとりに頭を下げながら、声を返した。
「ありがとう。すぐ青の技が対応してくれるから、下手に近づかないで。何か変なことがあったら、アインスかツヴァイに言ってね」
「任せなさいって。あんたはルステインの坊ちゃんなんだから」
「僕は…もう坊ちゃんじゃないさ。皆と一緒に、この街を守る一人だから」
その言葉に周囲がちょっと笑い、でも誰も否定しなかった。そういうところが、僕はこの街を好きなのだ。
その夜、青の技の作戦会議が開かれた。六人がテーブルを囲み、壁には街の地図と、出没地点が赤い印で記されている。
「…やはり、狙いは『リョウエスト』の過去と現在。武術と魔術の素養、成長過程、周囲との関係性、つまり、『王国が育てようとしてる要』を潰すための情報を集めてやがる」
フュンフが真顔で言い、ゼクスがうなずく。
「奴らが一番嫌がるのは、『情報が漏れてないこと』だ。逆に、こちらから偽情報を流す手もある」
「それには…」
僕はゆっくり言った。
「街の人たちにも協力してもらおう。『間違った僕の噂』を、それっぽく広めてもらうんだ。僕が最近剣術に夢中だとか、王都に恋人ができたとか…」
「…あー、それ街の婆様たちが盛り上がりそうでやすな…」
アインスが苦笑した。
けれど、これもひとつの『情報戦』。スパイたちがどれだけ街に紛れても、街全体が一つの巨大な防衛網になっていれば、むしろこっちの手のひらの上だ。
僕は地図を見ながらつぶやいた。
「僕たちで、守ろう。ルステインを。みんなで」
「坊、広場の老婆連が噂を流しはじめてます。『あの子、最近誰かと恋文のやり取りしてるらしいわよ』だってよ」
アインスが苦笑しながら言うと、僕はお茶を吹きそうになった。
「…それ、尾ひれがついて広がってないか?」
「ついてまさぁね。青い目の王都の美少女騎士とか、北の商人の娘とか……誰が言い出したのやら」
「もう止めてくれ…!」
ツヴァイとフィアがくすくす笑う。
「けど、効果は出てきてますわよ。スパイが紛れ込んでいた宿屋で、『そんな情報どこから?』って焦ってた様子を見た者もおります」
「武術や魔術訓練ばかりしてると思われるより、『どこにでもいる年頃の貴族の少年』って誤解されるほうが、狙われにくいからな」
ドライが静かに頷いた。
その頃には街の空気も変わりつつあった。
市場の魚売りがこう言ったのだ。
「若に会いたがってる変な旅人がいたんでね。『そいつは昨日は鍛冶屋、今日は宿屋』って足取りを教えてやったさ」
僕が驚いて聞き返した。
「わざと教えたの? それって危険じゃ…」
「『わざと』だよ。あんたに気安く近づこうとするなら、俺たちが見てやる。そう思ってな」
そう言って胸を叩いて笑う職人に、僕は返す言葉が見つからなかった。
別の日には、野菜売りの少女が僕の袖を引いた。
「ねえ、『旅人の男が私に話しかけてきた』ってお母さんに言ったら、『若様に近づくなんて百年早い!』って怒鳴ったの。あれ、合ってたの?」
「…うん、大正解だよ。お母さん、良い判断してる」
「やった!」
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スパイたちは依然として潜んでいた。けれど、もはやこの街のどこにも『安全な隠れ場所』はなかった。情報は青の技に吸い上げられ、すぐに対処される。
ゼクスが最後にこうまとめた。
「ルステインの町人は、リョウ様に対して『見ている』んじゃねぇ。『守っている』んでさ」
「…僕が守るつもりだったのに、逆になってるな」
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