【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
439 / 689
9歳の記す者。

外交戦の一手。

しおりを挟む
「…つまり、正式な抗議を王都に送ると?」

 僕の報告を聞き終えたマックスさんが、少し目を細めた。マックスさんは温和だけど、こういう時は鋭くなる。

「はい。スパイ行為は明確な敵対です。僕個人で裁くことではないです。国家の判断を仰ぎます」
「…リョウの方が、よほど領主らしいな」
「僕は未来を記す者です。領主権はありませんし、命令もできません。あくまで、ここにいる料理家で発明家で、調整役です」

 マックスさんが笑った。

「それでも、この街はお前を中心に動いている。わかった、報告の書簡はこちらで添えよう」
「ありがとうございます」

 僕は深く礼をして、部屋を出た。すぐに手紙と証拠を王都の兄嫁マリカさんの父…マリエンティ伯爵に送る。外務副大臣で、外交の実務を担う重鎮だ。獣人隊商が今回は急いでくれるようだ。2日で届けると息巻いていた。

『フェキアの不当な諜報活動に関し、ルステインより抗議を行います。僕自身の立場からも、コリント王国の威信を守る必要があると考えます』

  3日後、速文が届く。

『よくやったリョウエスト君。国王陛下もこの件に関心を持っておられる。正式な外交ルートで抗議文を送る。君自身は動かなくていい』

 …よかった。

 僕は王都へ行かない。9歳の僕が直接交渉するには立場が足りない。でも、発明品と経済の力が僕にはある。

 お父さんとお兄さん達と相談して、その夜、僕は新しい命令書を出した。

「ルステインからフェキア王国への全てのレシピ・技術の輸出禁止を発令します。例外は一切なし」

 フィアが真っ青になって聞き返した。

「フェキアって、ワインの半分以上をこっちに頼ってるでしょ?」
「うん。でも、その依存こそが、こちらの交渉力」

 缶詰、蒸留酒、発酵パン、印刷機、調理器具、スサン商会の製品…全部、僕とお父さんとお兄さんと仲間たちが築いてきた。

 僕はフェキアに「怒り」を示す。

 これは、剣でなく、技術で戦う戦争だ。




「陛下!コリント王国からの通告が届きました!」

 フェキア王国の外務官僚が駆け込んできたのは、国王レオナード三世の謁見室だった。書簡には、はっきりこう書かれていた。

『ルステインにおける一連の諜報活動を非難し、王国として正式に抗議する。我が国はフェキアとのあらゆる技術協力、文化交流、物品輸出を凍結する』

「なにぃ…!」

 国王の顔が怒りよりも、焦りに歪んだ。

「まさか本当に禁輸するとは…っ!?」

 横にいた老練な宰相が言った。

「陛下、これはリョウエスト坊――いや、あのルステインの未来を記す者の発案です。奴は技術と人材をまとめ、発明で国を動かす子どもです」
「九歳の小僧に、この王国がっ…!」

 フェキア王国は豊かだ。しかしワインはコリント産。パンの発酵技術も、缶詰製品も、印刷も、酒も、軒並みルステイン製の技術が入ってきている。特に今ようやくルステインからこちらに技術が入り革新が起こり始めた所だ。今止められるのはまずい。

「…技術が止まれば、商人は反発し、都市の供給は乱れる。しかもこの国のワインの八割がコリント産を使っている」
「では、どうすれば…?」
「詫びるしかありますまい」

 その言葉に、王は奥歯を噛み締めた。


 一方、ルステイン。

 僕は、書類を整理しながら、エメイラに言った。

「これで少しは、フェキアに誤魔化しや謀略が通じないってわかってもらえるかな」
「うん。リョウ、あなたすごいわ。戦わずして勝つ、ってやつね」
「ううん、僕は怖かったよ。ほんとは…王都に行くのも嫌だった」
「でも、ちゃんと怒ったわ。誰も怪我しない形で、国に怒りを伝えた。立派だわ」

 エメイラの言葉が胸に染みた。

 子どもでも怒っていい。自分の言葉で、やってきたことを守っていい。そう、父さんにも教わってきたんだ。

 そこへ、マックスさんが書簡を手にしてアトリエに来た。

「王都から続報だ。フェキアから正式に『謝罪の意向あり』。今後の通商再開を協議したいとのことだ」
「…謝罪、か」

 僕は小さく息を吐いた。まだ終わりじゃない。けれど、まずは勝った。

 小さな街の、小さな発明家でも、国家の嘘を暴き、正しく怒りを伝えられるんだ。



 フェキアからの謝罪文は、上質な羊皮紙に金の縁取りが施されていた。文面は丁寧だが、明らかに屈辱の跡が滲んでいる。

『一部の過激な諜報担当者による軽率な行為があったことを認めます。コリント王国とルステインに深く謝意を表明し、今後の協力体制の維持を希望いたします』

 署名は、フェキア王国・宰相のものだった。

 マリエンティ伯爵からも新たな速文が届いた。

『よくやった、リョウエスト。国王陛下もご覧になった。君の発明は今や王国の柱だ。今回の外交勝利は、完全に君の手柄とする』

 僕は肩の力が抜けて、椅子に沈んだ。

「やっと…終わった」

 マックスさんが笑う。「いや、これは始まりさ。お前の技術が国の安全保障にも繋がると証明された」
「そうですね…だから、もう少し整理したい。各種技術の国外提供基準、技術保護法…なんかを」
「えらいな、リョウ。こんなときに次のことを考えるなんて」
「フェキアに勝ったからって、いつまでも怒ってばかりじゃいけませんし」

 僕はそう言いながら、ふと笑った。


 数日後。ルステインの広場では小さな祝賀会が開かれた。町のパン屋もワイン屋も、鍛冶屋も、皆が僕を讃えてくれた。

「坊っちゃん、あんたのおかげでパンの値が下がらずにすんだよ!」
「リョウ様!これ、新しい干し葡萄入り缶詰っす!」
「次はコリント王国内限定ブランドで高級品作ろうよ!」

 でも、僕は言う。

「みんなのおかげです。僕はきっかけを作っただけです」

 異種族たち…ヒト、獣人、小人、ドワーフ、エルフ…そのすべてが今、笑っていた。

 僕が作りたかったのは、国を動かす偉大な発明じゃない。『みんなが安心して暮らせる《土台》』だった。


 夜。アトリエの机で、僕は静かに筆を取った。

『技術は剣よりも強い』
『怒りは暴力ではなく、信念として伝えるもの』
『年齢ではなく、信じた道が人を動かす』

 これは、僕自身の記録だ。

 まだ九歳。けれど、僕は国家を一つ、『戦わずして動かした』。

 ルステインの名誉伯爵として。未来を記す者として。そして、一人の子どもとして。

 僕は誇りを持って、今日も次の発明を考える。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...