【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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9歳の記す者。

ミザーリの進化。

「…役立たずだった…主のそばにいながら、何もできなかった」

 アトリエの裏庭、ひと気のない薬草園の陰で、ミザーリは声を落とした。槍を背負ったまま、膝を抱えている。

 フェキア王国との外交戦…リョウエストが主導し、国を動かしたあの件。その中で、ミザーリは諜報にも防衛にも、貢献できなかった。

 彼女の視界は赤外線によって敵の気配を察知する。しかし今回の敵は影の中にいた。文書、策略、交渉。刃も槍も意味を持たない情報の戦場で、彼女はただ見守ることしかできなかった。

「ミザーリ」

背後から、ストークの声がした。

「護衛としての任務に不備はなかった。リョウ様は無事だった。君の役目は果たされている」

「…でも、それでは…ただ隣に立っていただけで」
「それでも、守ったのだ。君は殿下の影に立つ者。戦うだけが護衛ではない」

その言葉をミザーリは心の奥で受け止めた。けれど、自分自身の納得には届かなかった。


数日後、訓練場。

「主よ、今日は…模擬戦をお願いしたく思います。制限なしで。槍も術も、薬も、全部」

 リョウエストがきょとんとした顔で首をかしげる。

「なんでもありって…いいの?」
「ええ。私の『足りなさ』を見極めたいのです」
「うん、わかった。じゃあ……全力でいくよ」

 そして、模擬戦が始まった。

 アトリエの訓練地。ミザーリが飛び出し、槍が唸り、一直線にリョウエストへ向かう…が。

恐怖テラー

リョウエストの小さな声とともに、空気が揺れる。

「っ…!」

 ミザーリの視界が歪み、足が止まった。彼の姿が巨大な怪物に見える。“幻”だとわかっていても、足が動かない。

 その隙に、リョウエストの木槍が首元へ。

「一本、だね」

 ミザーリは、沈黙のまま膝をついた。

 主は、魔術も、知恵も、心も強い。自分は…ただの、槍使いだ。

その夜、ミザーリはエメイラのもとを訪れた。

「…私は、主の隣に立つには…力不足か?」

 エメイラは、柔らかく目を細めた。

「ううん。あなたには、まだ『やれること』があるわ」
「…やれること?」
「あなた、火の民よね? 赤外線視覚もあるし、体温調整も得意。なのに、『火』の魔法には手をつけてない」
「…え…私が、魔法を?」
「火の民は火魔法の素質が生まれつきあるの。しかもあなた、集中力もあるし、感覚も鋭い。素質、十分よ」

 ミザーリの表情に、かすかな光が差した。

「教えてもらえるか……火を。主のために」
「ええ。主のため、でも、自分の誇りのためにもね」
「火を扱うには、まず『熱』を感じること。あなたなら、わかるはずよ。赤外線の感覚を、もっと内側に向けて」

 エメイラの声が、乾いた土の稽古場に響く。ミザーリは膝をつき、両手を前に出していた。指先の間に、小さな熱が集まるのを感じている。

「…確かに、温度の変化が…掌の奥で震えてる。でも、制御が…」
「焦らなくていい。火は激しいけど、導けば従う」

 ミザーリの周囲の空気が微かに揺れる。火の種が、存在を主張し始めていた。


 その日から、ミザーリは毎朝、日の出より早く起きて、火の感覚に集中する時間を作った。薬草の知識を応用し、身体を緩める香を焚き、集中力を高めていく。

 槍術の訓練後は、指先に熱を集める練習。うまくいけば、火花が生まれる。けれど失敗すれば、指が黒くなる。

「大丈夫…主に見せられるようになるまで、やる」

 赤外線視覚で見える『自分の体温』すらも利用して、火の流れを読む。

 数日が経ち、ようやく…。

「……出たっ」

 彼女の手のひらに、小さな火の球が浮かんだ。燃えるというより、光る。生まれたばかりの命のように、頼りなく、それでも確かに在る。

 エメイラが微笑んだ。

「やっと、火があなたに答えたね」
「…まだ不安定。でも、見えた」
「じゃあ、次は『戦いの中で使う』こと。実戦でしか身につかない感覚があるの。わたしが相手になる」


 数日後。訓練場にて、エメイラとの模擬戦。

「いくわよ、ミザーリ」
「はい…参る」

 ミザーリは槍を構える。エメイラは素手だが、周囲の空気がぴりぴりする。油断できない。
 まずは槍の間合いで突きを放つ。だがエメイラはその流れを読むかのように、体を捻って躱す。

「…なら!」

ミザーリは指を弾く。

「『火刃』!」

 槍の穂先に火の魔力が走り、一瞬だけ蒼く光る。エメイラの動きが止まった。

「…っ、これは!」

 その隙を逃さず、槍がエメイラの肩に軽く触れる。一本。

「…やった…!」

 エメイラが笑った。

「ちゃんと『使える火』にしたじゃない。やればできるのよ、ミザーリ」

 ミザーリは息を切らしながら、火の名残が消える穂先を見つめた。

「主のためにと思って、でも…今は、自分のために、火を使いたいと思った。あたいの力を、あたい自身の意思で強くしたいと」
「その意志こそが、魔法には一番大事なの。あなたは、もう十分に『強い』わよ」



「……主、少しお時間をいただけますか?」

 アトリエの中庭。いつものように研究器具に囲まれていたリョウエストのもとへ、ミザーリは静かに歩み寄った。

「うん、もちろん。どうしたの、ミザーリ?」

 リョウエストは筆を止めて、首を傾げた。その仕草が、以前と変わらず優しくて、ミザーリは少しだけ胸が熱くなった。

「主に……見ていただきたいものがあります」


 再び訓練場。だが、今日は違う。

 ミザーリは、いつもより軽い装備に身を包んでいた。肩当てと脚甲だけ、槍も通常より短めの物を選んでいた。

「模擬戦の申し出? この前、僕が勝っちゃったやつ、またやるの?」
「ええ。今回は『今の私』を、主に見ていただきたいのです」

 リョウエストがにっこり笑って構える。

「じゃあ、遠慮しないよ」

「光栄です、主」

 合図とともに、ミザーリは地を蹴った。風が切れ、槍が走る。

 だが今回は、違う。

槍の動きが読みにくい。先端にわずかに魔力の火が灯っているせいだ。視覚を揺らす『陽炎』のようなそれは、リョウエストの視覚を惑わせる。

「……!」

 リョウエストがとっさに距離を取る。ミザーリは追う。槍を引いて、手を返す。次の瞬間、指先から飛んだ火の線

「《火球・小》!」

 爆ぜた火花に気を取られた一瞬の隙を突き、彼女の槍がリョウエストの胸当てに軽く触れた。

「……一本」

 ミザーリが、そっと呟いた。

 リョウエストはぽかんとした顔で、それから…。

「……わぁ、負けた」

 笑った。

「すごいよミザーリ! 火魔法まで使えるようになったの!? いつの間に!」
「主の…いえ、リョウ様のために、強くなりたかったのだ」
「ううん、それは違うと思う」

リョウエストは真剣な目で彼女を見る。

「ミザーリは、ミザーリの意思で強くなったんだ。僕のためじゃなくて、自分の誇りのために。僕はそれが嬉しいんだよ」
「…主…」


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