【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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9歳の記す者。

王様と龍と蒸留酒。

 その日、ルステインに再び緊張が走った。

 王都より王様自ら、手勢を率いて来訪するというのだ。

「……まさか、陛下がご自身でいらっしゃるなんて」

 マクシミリアンが騎士の一団を迎えるため門前に立つ。

 やがて、陽光を背に黄金の鎧をまとった壮年の男が現れた。コリント王国国王、ドナハルト陛下である。

「うむ。騒がせてすまぬな。だが、我もどうしても見ておきたかったのだ。酒で懐柔されたという、伝説の龍をな」


 その頃アトリエでは、リディアが瓶を開けていた。

「ふぅ~。わらわ、今日の酒は『あの三回蒸留した青いの』がいいのう」
「はいはい、もう準備してありますよ、リディアさん」

 と、そのとき。ストークが扉を開けて告げた。

「陛下がいらっしゃいました」

リディアの手が止まる。

「ほほう、王直々に? ……さては、わらわの酒を呑みに来たか?」

 広間に王が現れた瞬間、空気が変わる。
 だが、リディアは微笑んだままだった。

「お主がドナハルトか。わらわが龍と知っても、直に来るとは豪胆じゃな」
「我が王としてすべきは『国を見極めること』。伝説の龍が住むと言えば、見ぬわけにはいかん」
「ふふ、面白い男じゃ。そこのリョウエストが作った酒を一緒に呑もうではないか、ドナハルトよ」
「……呼び捨てか? まあ、よい。我もそなたを『リディア』と呼ぼう」

 数杯の蒸留酒を酌み交わすうちに、二人はどんどん打ち解けていった。

「む……この香り、複雑だが後味はまろやか。これは、単なる酒ではないな?」
「ほほほ、それが『リョウエスト特製蒸留酒』じゃ。わらわが気に入っておる理由も、ようわかったじゃろ?」
「うむ。これは……酒を通じて友になるということか」

 リディアが、立ち上がりふわりと手を振ると、背中のうろこが数枚外れ、宙を舞った。

「わらわの鱗じゃ。ドナハルト、お主の鎧にでも使うがよい。焼いても魔力が残る、極上の一枚ぞ」

 王は目を細めてうなずいた。

「ありがたくいただこう。これは……戦より、信の証だな」

 杯が進むうち、リディアがふと真顔になった。

「……なあ、ドナハルト。わらわ、お主にひとつだけお願いがあるのじゃ」
「申してみよ」
「わらわがもっと、蒸留酒を学びたい。研究所のような場所を、王の名で許してくれんか?」

 ドナハルトは笑って、肩をすくめた。

「飲み友達の頼みじゃ。断れんな」

 こうして、王と龍の出会いは、まさかの『酒』によって最良の形を迎えた。


 翌朝、アトリエにはいつになく多くの人間が集まっていた。

「リディアさんの『蒸留酒研究所』をどこに建てるかの話し合いですね」

 僕が小さくつぶやくと、リディアがグラスを手に立ち上がる。

「ふむ、城門の近くも考えたが……酒は静けさと熟成が命じゃ。林のふもと、あの小川沿いがええ。水も綺麗じゃしの」
「確かに、あの土地なら蒸留にも適していますな。同じ酒好きとして協力しましょう」

 ヂョウギが前に出た。

「設備設計は我らドワーフが行います。加えて……燃料供給と香りの研究、味の調整にも私たちの技術が役立つでしょう」
「素晴らしいのう。さすがはリョウエストのアトリエ、技術者の巣じゃな」

 リディアがグラスを掲げると、皆が少し笑った。


 会議が終わった後。

 王様とリディアは縁側に並んで、昼間から酒を呑んでいた。

「……ふむ、この一本は少し強いな」
「わらわの『寝酒』じゃ。ドナハルトも呑んでみぃ」
「呼び捨てがすっかり板についたな」
「そちらも、『リディア』と呼んどるではないか」
「確かに」

 二人は見つめ合って、腹の底から笑った。

 そこへ僕が顔を出す。

「お二人とも……昼間から酔っぱらってませんか?」
「坊や、これも『外交』というやつじゃ。心を通わせるには肝臓の忍耐も要る」
「そうそう。私の時代には、酒が語らせることも多かったのだ」

 リディアはご機嫌で首を傾げた。

「そうじゃリョウエスト。あの『蜜香蒸留』の小さな樽、もう一つくれぬか? わらわ、あれで新しいブレンドを試してみたいのじゃ」
「もちろん。でも研究所ができるまでは、ここで作ってください。僕のアトリエですけど、もう住人が一人増えてるようなものですし」
「ふふ、じゃあわらわ、ゲストではなく『主』として、ここで酒造りを始めようかのう」

 日が暮れるころ、マックス領主がやってきた。

「陛下、リディア殿。研究所建設の許可が文書で正式に下りました」
「おお、はやいのう! これぞ王国の力じゃ!」

 王様が笑いながら立ち上がる。

「お前のためなら、多少無理も通すとも…だが、一つだけ忠告しておこう。お前の蒸留酒がうますぎて、私の仕事がはかどらなくなったら責任を取ってもらうぞ?」
「わらわに責任を取らせるなど、物好きな男よ、ドナハルト」
「なに、相手が龍ともなれば……悪くない」

 王と龍は、肩を並べて歩いて行く。その背中に、僕は少しだけ未来の希望を見た。

 数日後。ルステイン郊外、小川のほとり。

 建設予定地では、王家の使者や職人たちが集まり、簡素ながら晴れやかな『蒸留酒研究所・起工式』が開かれていた。

「ここが、わらわの酒の聖域となるのじゃな」

 リディアが金色の瞳を細め、小川を見下ろして言う。

「蒸留酒の香りを邪魔せぬよう、木材の選定は済んでいます。湿度調整も国家錬金術師の技術で……」

 と、説明を始めたのはヂョウギだったが、すでにリディアは耳を半分だけ傾けていた。

「……ようは、うまい酒が造れれば良いのじゃ」
「それでいいのか……まあ、いいか……」

 僕はそっとため息をつきながら、祝杯用の酒瓶を並べる。

 その時、姿を現したのは、豪奢な外套を着た王ドナハルト陛下だった。

「おお、間に合ったな。おいリディア、酒はまだあるか?」
「あるとも、ドナハルト。祝い酒は、余らせるために作るものじゃろ?」
「ふふ、それは聞いたことのない理屈だが……いい響きだ」

 乾杯の後、王は公の前で宣言した。

「ここに、リディアの蒸留酒研究所を設立する。龍と人とが共に知を探求し、味を磨き、酔いを分かち合う場とすることを、我ドナハルトが認める!」

 ざわめきが一瞬あって、すぐに大きな拍手が起きた。

「やったね、リディアさん」
「ふふふ、わらわが人の国に家を持つとはのう……夢のようじゃ。これも坊やのおかげじゃな、リョウエスト」

 その夜、アトリエの庭。王と龍が縁側で杯を傾けていた。

「のう、ドナハルト。そなたの“王”としての苦労、ようわかる気がするぞ……そなたが酒を求めたのも当然じゃ」
「そなたが『人』としてアトリエに住むと言った時、私は少しだけうらやましく思ったよ」
「ならば来れば良い。いつでも、な?」
「いや、それでは国が回らぬ。だが……時折、酒を呑みに来てもよいか?」
「わらわの酒を呑みたければ、名前で呼ぶがよい。形だけの『そなた』では、うまさも半分じゃ」
「……わかったよ、リディア」
「よろしい、ドナハルト」
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