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王都騎士学校
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王宮の客室に泊まらせて貰うようになった。
あたしの足枷は全て外されて、最初に目覚めた部屋よりも格段に広い部屋に案内された。
着替えも新しいドレスのような物を与えられて、落ち着かないから、制服みたいなデザインに見える服を選んだ。
出来れば動きやすい服がいい、元々の前世のあたしの趣味と、現世では何が起こるかまだ分からないから、警戒しての服装だ。
驚いたことにここにはルディもカルラもいて、ルディに至ってはあたしと同じように、杖を調べられたり、取り調べを受けたり散々な目に合ったらしい。
カルラはルークのお陰なのか、昔受けた呪いが解かれたようで、体調が良くなっていた。
それでも体が弱いのに変わりはなく、宮廷の医者の術士に診て貰い、昔一緒に働いていた侍女仲間と再会したりと、案外楽しそうに過ごしていた。
毎日王宮のご馳走が振る舞われ、客人としてもてなされて落ち着かない日々を過ごしていた。
最初のうちは王都の観光や散歩をして過ごし、すぐに飽きてしまい、ジークフリートに案内されて、とうとう今日、王都騎士学校に見学に行くことになったんだ。
本当は真っ先に行きたかったけど、いきなり行くとあやしまれたら困るから、観光的にさりげなく連れて行って貰うことにしたんだ。
王都騎士学校は王宮からは割りと近くにある。
王宮にいる王に何かあった場合は王宮騎士団がいる訳だが、
それだけじゃなく、国の存続に関わる大災害や魔族の侵略に備えていざという時に、
騎士学校の学生も守りを固める為だそうだ。
ジークフリートの説明を受けて、ルディと一緒に騎士学校に行く道のりを歩いた。
「どうでもいいけど、王宮騎士団の団長さんは、僕達の案内をするほどは暇じゃないでしょう」
ルディが冷たい視線を、ジークフリートに投げて寄越した。
久しぶりに見る、ルディの大人げない態度に微笑ましくなった。
ルディは産まれた時からのあたしの幼馴染み。
子供の頃からいつも一緒に遊んでいたけど、昔からあたしにできる新しい友達が、女の子でも男の子でも分かりやすいヤキモチを焼く。
あたしの前ではにこにこ笑ってほんわかしてるのに、あたし以外の人間には固い表情をしている。
村の住人とも大して仲良くしてない様子だ。
いつもあたしと一緒に居すぎるから、敢えて他の人を交えて友達になろうとするのに、逆効果になってしまう。
「悪いがこれはれっきとした仕事なんでな、王子のご命令だ、断れる訳がない」
アレクサンダー王の話を直接聞いたから、慌ててルディを宥める為に口添えする。
「そうなんだルディ、あたしがアレクサンダー様と一緒に約束したからしょうがないんだ」
チラリとあたしを見る視線も不服そうに揺れている、栗色の瞳が寂しそうに陰っていた。
「僕は騎士団の団長じゃなくても、騎士団の人なら誰でもいいんじゃないかと思っただけだ、僕だって見張られてることくらい知っている」
いつも持ち歩いている杖を奪われてるせいか、ルディの機嫌はいっそう悪く見える。
白魔法使いの杖は特別な力が宿る、いつも持ち歩いて神力を高め続けて、気を研ぎ澄ます訓練をしているそうだ。
取り巻く空気さえも清涼なモノに変える、ましてはここは王都だ、小さな村と違って人口も多い。
一緒に歩いていても、ふとした仕草で杖がないことを思い出すようで、その度に渋い顔をしている。
「お前は杖がなく不安かもしれんが、王宮には竜の血を受け継ぐ王がいらっしゃる、心配しなくてもお前の力は村にいるよりも高まってる筈だ」
ん?そういうモノなんだろうか?
竜の血を受け継ぐ王がいると、王宮は神力が高まるとかそういうことかな?
あたしには全く分からないんだけど、相変わらずルークはあたしの中で眠ったきりみたいだし。
ただ王宮に来てから、何だか良く分からない夢を見るような気がする。
内容は覚えてないんだけど。
ジークフリートに言われて思い当たる感じがするのか、ルディはぐっと言葉に詰まる。
「これから行く騎士学校には白魔法使いも一緒に訓練する神殿がある、お前も見学して見れば勉強になる」
「そんなこと言われなくても知っている、父さんと何度か来たことあるから」
「えっ?そうなの?」
びっくりしてルディの顔を覗き込むと、照れたように頬を赤らめて、ふいと顔を反らされた。
「ユリカも一緒に昔来たことあるでしょ?覚えてない?」
「あ…っ、あはは…っ」
誤魔化すように笑うあたし、前世の記憶を取り戻してからは、何故だか現世の記憶が曖昧になってる気がする。
別に覚えててもしょうもない、乙女ゲームの記憶なんて……。
現実には役に立たない、村を救えただけで、それでいいし、それ以上のことは必要ない。
そこまで考えながら歩いて、見覚えのある風景に懐かしくなった。
王都騎士学校。
まるでお城のような尖った屋根が何本も聳え立つ、断崖絶壁の真上に建つ学園。
尖った屋根の先には金粉のような黄金の輝きが散りばめられて、太陽の光に反射してきらきらと輝いている。
王都騎士学校には平民から貴族、自国や滅びた国の王子様から誰でも平等に多額のお金があれば入学出来るようになっている。
成績優秀で実力があればすぐに飛び級で卒業できるシステムで、王宮騎士団に入団できるようになる。
逆に成績が悪く実力がないモノはお金を積めば、何年掛かってでも卒業して実力をつけることが出来る。
基本的には王宮騎士団に配属されるが、他国にも入団できる場合もある。
だから王都騎士学校の生徒には様々な人達がいる。
王家の血を引く家柄の人もいるが、騎士学校に通う間は悪魔でも平等、基本的に実力社会だ。
そうはいってもやはり、竜の血を受け継ぐ王家の人などがやはり強い為、どうしても上流階級が威張り散らしている。
まぁ、これは乙女ゲームの話なんだけどね。
概ね当たっているだろう。
あたしは意気揚々と王都騎士学校に足を踏み入れた。
リントヴルム騎士学校、大きな門の前には黄竜の紋章があり、視線を上げれば尖った屋根の上に、はためく旗にも、黄竜の絵が描かれている。
『我の姿はこんなに弱そうじゃないわ』
乙女ゲームではルークが怒っていたけど、やっぱり今も静かで眠ったままみたいだ。
ジークフリートに案内されて学園の中に入って行く。
ここから長い階段を上って行くと、実技授業が行われる広場へと行く。
実技の授業も見たいと思って、目を凝らして見ると、タイミング良くまさに授業中だったようだ。
さすがに真剣は使ってない、木の剣を振り回している生徒の姿が視界に入った。
その中でひときわ目立つ生徒がいた。
身長は2メートルくらいはありそうな体躯、がっちりとしたむき出しの筋肉、浅黒い肌、この国特有の金髪は短髪でツンツンしてて、瞳の色は深い緑色。
あれは…っ、あのお姿は…っ、間違いない…っ。
イェルク…!
相変わらずの男っぷりに惚れ惚れしてしまう。
彼こそはあたしが前世で乙女ゲームにはまってた時の、一番大好きなキャラだ。
そう、筋肉ムキムキの濃い顔立ちが、あの当時のあたしにはまさにタイプの人。
性格も筋肉バカ系で猪突猛進、運動神経は抜群だけど勉学はまるでダメ。
それなのに女の子にはまるで免疫がなく、子供の頃に妹の世話をして骨折させてしまったせいで、女の子に触れるのもびくびくなギャップに、やられてしまったんだ。
「ちょうどいい、課外授業中のようだ、二人一組になって対戦してるようだな」
ジークフリートが説明してくれて、ルディがあたしの顔を見て驚いたように目を見開き、おそるおそるというように声を掛けられる。
「……?ユリカ……?」
あたしの目はイェルクの華麗な剣技に釘ずけで、ふらりと広場の方へと近付いて行く。
「おい、ユリカ、あんまり近付くなよ、邪魔になるだろ、…って、おい」
ジークフリートも怪訝な様子で声を掛けられた。
木の剣が交わる激しい音が響く中、イェルクと一緒に手合わせしている人を見て、息を飲んだ。
エリアスだ……。
スラリとした長身、黒髪に黒い瞳はこの国には珍しく、東の青龍が昔守護していた国の末裔だそうだ。
プライドが高く自信過剰で無愛想で無口、掴みにくい性格をしていて、苦手なタイプだと思っていた。
でも剣の腕は確かだった。
イェルクは力が強いから、やっぱりエリアスは押されてるように見えるけど、素早さとテクニックでカバーしているようだ。
思わず真剣に見入ってると、ルディにまた名前を小さく呼ばれてしまう。
「うん…?」
二人から目を離せずに返事だけすると、ルディの溜め息が聞こえた。
「やっぱりヴィリーみたいなタイプが好きなんだ……」
「ヴィリーてユリカの父親の村の守り人か?王宮騎士出身の英雄だな、彼に憧れて騎士団に入団したモノもいる」
あたしの背後でジークフリートと二人でひそひそと小声で会話しているのが聞こえてしまう。
「あんな父親がいつも一緒だと、男の基準が麻痺してしまうんだろうな…」
「まぁ、お前も鍛えればそれなりにはなるだろう、身長も高いし悪くない、何なら俺がしごいてやろうか?」
「あんな筋肉つけたくないな、お断りするよ、僕は詠唱を唱える方が向いてるんだから」
「そうか、まぁ、頑張れ」
ごちゃごちゃ言ってる二人の会話は筒抜けで、あたしは思わず振り返って一言言ってやろうと口を開きかけた。
その時だった、ジークフリートの赤い瞳がぎらりと輝いて、急に周囲に目を光らせた。
「……ユリカ!」
ピリッと空気が張り詰めた感覚がして、咄嗟に空を見上げた。
木の剣が飛ばされて、こちらの方に飛んで来るのが視界に入る。
咄嗟に左手を上げて、スルリと光の剣が姿を表して、飛んで来た剣を鋭く跳ね返した。
右手でしっかりと剣の鞘を握りしめて、首を傾げて刀身をじっと見つめる。
……今の感じ、上から何かが来ると感じてしまった。
なんなんだろう。
周囲にいた生徒達の視線が集まり、課外授業中だったのに、皆、木の剣を下ろしてこちらの方に近付いて来た。
「大丈夫か、ユリカ、びっくりしたな、怪我はない?」
ルディがあたしの体に怪我がないか、点検するように見てくれる。
「あの…すいません…っ、僕のせいで、その…手が滑ってしまって…っ」
おどおどした様子の男の子が、小走りにあたしに近付いて来た。
黒髪のショートボブに紺色の瞳は大きめで、一見女の子と間違いそうな程に可愛い顔立ち、身長は低めで170センチあるかないかくらい。
見覚えのあるキャラ……。
エストだ。
実はなよっちいタイプだから、あたしの好みじゃなくて、ほとんど攻略してなかったような気がする。
騎士学校ではいつも落ちこぼれタイプで、剣の腕もいまいちで勉学の方が得意だった。
平民で田舎の村の出身、遠い国から村の代表として送り出されたようで、家族も多く、この国の騎士学校の学生でありながらも、合間にバイトをしていた。
生徒達がざわつきながら、こちらに近付いて来たようだ。
みんなからの注目を浴びて、申し訳なさそうにしている。
その中でジークフリートはやけに警戒した態度で、油断なく周囲に視線を配り、あたしを庇うように隣に立つ。
ルディはあたしに怪我がないと見て、安心したようだ。
あたしは乙女ゲーム好きの友達が、エストについて何か言っていたのが思い出せなくてモヤモヤしながらじっと彼を見つめていた。
「すいません、あの…、大丈夫ですか?怪我はないですか?僕のせいで剣が弾かれてしまって…、あなたのその剣は…?」
エストに剣を見られてしまい、はっとして手で押さえると、あたしの腕の中にスルリと消えていく。
う~ん、ビジュアル的に心臓が持たない。
その様子に驚いたように大きく目を見開くエスト、ジークフリートがはっとしてエストをじろりと見つめてる。
あたしの足枷は全て外されて、最初に目覚めた部屋よりも格段に広い部屋に案内された。
着替えも新しいドレスのような物を与えられて、落ち着かないから、制服みたいなデザインに見える服を選んだ。
出来れば動きやすい服がいい、元々の前世のあたしの趣味と、現世では何が起こるかまだ分からないから、警戒しての服装だ。
驚いたことにここにはルディもカルラもいて、ルディに至ってはあたしと同じように、杖を調べられたり、取り調べを受けたり散々な目に合ったらしい。
カルラはルークのお陰なのか、昔受けた呪いが解かれたようで、体調が良くなっていた。
それでも体が弱いのに変わりはなく、宮廷の医者の術士に診て貰い、昔一緒に働いていた侍女仲間と再会したりと、案外楽しそうに過ごしていた。
毎日王宮のご馳走が振る舞われ、客人としてもてなされて落ち着かない日々を過ごしていた。
最初のうちは王都の観光や散歩をして過ごし、すぐに飽きてしまい、ジークフリートに案内されて、とうとう今日、王都騎士学校に見学に行くことになったんだ。
本当は真っ先に行きたかったけど、いきなり行くとあやしまれたら困るから、観光的にさりげなく連れて行って貰うことにしたんだ。
王都騎士学校は王宮からは割りと近くにある。
王宮にいる王に何かあった場合は王宮騎士団がいる訳だが、
それだけじゃなく、国の存続に関わる大災害や魔族の侵略に備えていざという時に、
騎士学校の学生も守りを固める為だそうだ。
ジークフリートの説明を受けて、ルディと一緒に騎士学校に行く道のりを歩いた。
「どうでもいいけど、王宮騎士団の団長さんは、僕達の案内をするほどは暇じゃないでしょう」
ルディが冷たい視線を、ジークフリートに投げて寄越した。
久しぶりに見る、ルディの大人げない態度に微笑ましくなった。
ルディは産まれた時からのあたしの幼馴染み。
子供の頃からいつも一緒に遊んでいたけど、昔からあたしにできる新しい友達が、女の子でも男の子でも分かりやすいヤキモチを焼く。
あたしの前ではにこにこ笑ってほんわかしてるのに、あたし以外の人間には固い表情をしている。
村の住人とも大して仲良くしてない様子だ。
いつもあたしと一緒に居すぎるから、敢えて他の人を交えて友達になろうとするのに、逆効果になってしまう。
「悪いがこれはれっきとした仕事なんでな、王子のご命令だ、断れる訳がない」
アレクサンダー王の話を直接聞いたから、慌ててルディを宥める為に口添えする。
「そうなんだルディ、あたしがアレクサンダー様と一緒に約束したからしょうがないんだ」
チラリとあたしを見る視線も不服そうに揺れている、栗色の瞳が寂しそうに陰っていた。
「僕は騎士団の団長じゃなくても、騎士団の人なら誰でもいいんじゃないかと思っただけだ、僕だって見張られてることくらい知っている」
いつも持ち歩いている杖を奪われてるせいか、ルディの機嫌はいっそう悪く見える。
白魔法使いの杖は特別な力が宿る、いつも持ち歩いて神力を高め続けて、気を研ぎ澄ます訓練をしているそうだ。
取り巻く空気さえも清涼なモノに変える、ましてはここは王都だ、小さな村と違って人口も多い。
一緒に歩いていても、ふとした仕草で杖がないことを思い出すようで、その度に渋い顔をしている。
「お前は杖がなく不安かもしれんが、王宮には竜の血を受け継ぐ王がいらっしゃる、心配しなくてもお前の力は村にいるよりも高まってる筈だ」
ん?そういうモノなんだろうか?
竜の血を受け継ぐ王がいると、王宮は神力が高まるとかそういうことかな?
あたしには全く分からないんだけど、相変わらずルークはあたしの中で眠ったきりみたいだし。
ただ王宮に来てから、何だか良く分からない夢を見るような気がする。
内容は覚えてないんだけど。
ジークフリートに言われて思い当たる感じがするのか、ルディはぐっと言葉に詰まる。
「これから行く騎士学校には白魔法使いも一緒に訓練する神殿がある、お前も見学して見れば勉強になる」
「そんなこと言われなくても知っている、父さんと何度か来たことあるから」
「えっ?そうなの?」
びっくりしてルディの顔を覗き込むと、照れたように頬を赤らめて、ふいと顔を反らされた。
「ユリカも一緒に昔来たことあるでしょ?覚えてない?」
「あ…っ、あはは…っ」
誤魔化すように笑うあたし、前世の記憶を取り戻してからは、何故だか現世の記憶が曖昧になってる気がする。
別に覚えててもしょうもない、乙女ゲームの記憶なんて……。
現実には役に立たない、村を救えただけで、それでいいし、それ以上のことは必要ない。
そこまで考えながら歩いて、見覚えのある風景に懐かしくなった。
王都騎士学校。
まるでお城のような尖った屋根が何本も聳え立つ、断崖絶壁の真上に建つ学園。
尖った屋根の先には金粉のような黄金の輝きが散りばめられて、太陽の光に反射してきらきらと輝いている。
王都騎士学校には平民から貴族、自国や滅びた国の王子様から誰でも平等に多額のお金があれば入学出来るようになっている。
成績優秀で実力があればすぐに飛び級で卒業できるシステムで、王宮騎士団に入団できるようになる。
逆に成績が悪く実力がないモノはお金を積めば、何年掛かってでも卒業して実力をつけることが出来る。
基本的には王宮騎士団に配属されるが、他国にも入団できる場合もある。
だから王都騎士学校の生徒には様々な人達がいる。
王家の血を引く家柄の人もいるが、騎士学校に通う間は悪魔でも平等、基本的に実力社会だ。
そうはいってもやはり、竜の血を受け継ぐ王家の人などがやはり強い為、どうしても上流階級が威張り散らしている。
まぁ、これは乙女ゲームの話なんだけどね。
概ね当たっているだろう。
あたしは意気揚々と王都騎士学校に足を踏み入れた。
リントヴルム騎士学校、大きな門の前には黄竜の紋章があり、視線を上げれば尖った屋根の上に、はためく旗にも、黄竜の絵が描かれている。
『我の姿はこんなに弱そうじゃないわ』
乙女ゲームではルークが怒っていたけど、やっぱり今も静かで眠ったままみたいだ。
ジークフリートに案内されて学園の中に入って行く。
ここから長い階段を上って行くと、実技授業が行われる広場へと行く。
実技の授業も見たいと思って、目を凝らして見ると、タイミング良くまさに授業中だったようだ。
さすがに真剣は使ってない、木の剣を振り回している生徒の姿が視界に入った。
その中でひときわ目立つ生徒がいた。
身長は2メートルくらいはありそうな体躯、がっちりとしたむき出しの筋肉、浅黒い肌、この国特有の金髪は短髪でツンツンしてて、瞳の色は深い緑色。
あれは…っ、あのお姿は…っ、間違いない…っ。
イェルク…!
相変わらずの男っぷりに惚れ惚れしてしまう。
彼こそはあたしが前世で乙女ゲームにはまってた時の、一番大好きなキャラだ。
そう、筋肉ムキムキの濃い顔立ちが、あの当時のあたしにはまさにタイプの人。
性格も筋肉バカ系で猪突猛進、運動神経は抜群だけど勉学はまるでダメ。
それなのに女の子にはまるで免疫がなく、子供の頃に妹の世話をして骨折させてしまったせいで、女の子に触れるのもびくびくなギャップに、やられてしまったんだ。
「ちょうどいい、課外授業中のようだ、二人一組になって対戦してるようだな」
ジークフリートが説明してくれて、ルディがあたしの顔を見て驚いたように目を見開き、おそるおそるというように声を掛けられる。
「……?ユリカ……?」
あたしの目はイェルクの華麗な剣技に釘ずけで、ふらりと広場の方へと近付いて行く。
「おい、ユリカ、あんまり近付くなよ、邪魔になるだろ、…って、おい」
ジークフリートも怪訝な様子で声を掛けられた。
木の剣が交わる激しい音が響く中、イェルクと一緒に手合わせしている人を見て、息を飲んだ。
エリアスだ……。
スラリとした長身、黒髪に黒い瞳はこの国には珍しく、東の青龍が昔守護していた国の末裔だそうだ。
プライドが高く自信過剰で無愛想で無口、掴みにくい性格をしていて、苦手なタイプだと思っていた。
でも剣の腕は確かだった。
イェルクは力が強いから、やっぱりエリアスは押されてるように見えるけど、素早さとテクニックでカバーしているようだ。
思わず真剣に見入ってると、ルディにまた名前を小さく呼ばれてしまう。
「うん…?」
二人から目を離せずに返事だけすると、ルディの溜め息が聞こえた。
「やっぱりヴィリーみたいなタイプが好きなんだ……」
「ヴィリーてユリカの父親の村の守り人か?王宮騎士出身の英雄だな、彼に憧れて騎士団に入団したモノもいる」
あたしの背後でジークフリートと二人でひそひそと小声で会話しているのが聞こえてしまう。
「あんな父親がいつも一緒だと、男の基準が麻痺してしまうんだろうな…」
「まぁ、お前も鍛えればそれなりにはなるだろう、身長も高いし悪くない、何なら俺がしごいてやろうか?」
「あんな筋肉つけたくないな、お断りするよ、僕は詠唱を唱える方が向いてるんだから」
「そうか、まぁ、頑張れ」
ごちゃごちゃ言ってる二人の会話は筒抜けで、あたしは思わず振り返って一言言ってやろうと口を開きかけた。
その時だった、ジークフリートの赤い瞳がぎらりと輝いて、急に周囲に目を光らせた。
「……ユリカ!」
ピリッと空気が張り詰めた感覚がして、咄嗟に空を見上げた。
木の剣が飛ばされて、こちらの方に飛んで来るのが視界に入る。
咄嗟に左手を上げて、スルリと光の剣が姿を表して、飛んで来た剣を鋭く跳ね返した。
右手でしっかりと剣の鞘を握りしめて、首を傾げて刀身をじっと見つめる。
……今の感じ、上から何かが来ると感じてしまった。
なんなんだろう。
周囲にいた生徒達の視線が集まり、課外授業中だったのに、皆、木の剣を下ろしてこちらの方に近付いて来た。
「大丈夫か、ユリカ、びっくりしたな、怪我はない?」
ルディがあたしの体に怪我がないか、点検するように見てくれる。
「あの…すいません…っ、僕のせいで、その…手が滑ってしまって…っ」
おどおどした様子の男の子が、小走りにあたしに近付いて来た。
黒髪のショートボブに紺色の瞳は大きめで、一見女の子と間違いそうな程に可愛い顔立ち、身長は低めで170センチあるかないかくらい。
見覚えのあるキャラ……。
エストだ。
実はなよっちいタイプだから、あたしの好みじゃなくて、ほとんど攻略してなかったような気がする。
騎士学校ではいつも落ちこぼれタイプで、剣の腕もいまいちで勉学の方が得意だった。
平民で田舎の村の出身、遠い国から村の代表として送り出されたようで、家族も多く、この国の騎士学校の学生でありながらも、合間にバイトをしていた。
生徒達がざわつきながら、こちらに近付いて来たようだ。
みんなからの注目を浴びて、申し訳なさそうにしている。
その中でジークフリートはやけに警戒した態度で、油断なく周囲に視線を配り、あたしを庇うように隣に立つ。
ルディはあたしに怪我がないと見て、安心したようだ。
あたしは乙女ゲーム好きの友達が、エストについて何か言っていたのが思い出せなくてモヤモヤしながらじっと彼を見つめていた。
「すいません、あの…、大丈夫ですか?怪我はないですか?僕のせいで剣が弾かれてしまって…、あなたのその剣は…?」
エストに剣を見られてしまい、はっとして手で押さえると、あたしの腕の中にスルリと消えていく。
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