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暗躍③
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「これだけ簡単に自白してくれたのに、肝心のヴィクターの素性が分からないなんて厄介だね。さて、次はどうしよっか、アル?」
アルは腕を組み、わずかに視線を落とす。
「こちらから接触できない以上、あちらから接触してくるように仕向けるしかないだろう。捕えた者たちを人質にしたところで、奴にとっては痛手にはならないだろうな。いなくなれば、また新たな駒を用意するだけだ」
「じゃあ、やっぱり一度泳がすしかないか~」
デュラテスは面倒そうに肩をすくめながら続ける。
「連中の記憶を消去して、ヴィクターからの次の指示を待つしかない…かな?」
「……お前、記憶なんて消せるのか?」
アルは驚きの色を隠せず、デュラテスを見つめた。自分の知る限り、そんな魔術は存在しない。
「アルが旅に出た後の3年間、俺がどれだけ魔術の研究をやったと思ってんの?」
デュラテスは悪戯っぽく笑った
「まぁ、記憶を消す魔術はまだ実験段階だけどね。とは言え、完成度は高い。いい被験者が手に入ったなぁ…ふふ」
アルは訝しげに目を細めるが、デュラテスは意に介さない。むしろ、思わぬ形で実験の機会が得られたことに心を躍らせている。
――その後、デュラテスは直ぐに記憶消去の魔術を施した
捕えられた者たちは、回復術師の手によって戦闘で負傷した傷も回復させ、何事もなかったかのように元の生活へ戻っていた。勿論廃墟もデュラテスの魔術で修復済み。
翌朝、目覚めた彼らは、いつもの見慣れた寝室のベッドにいた。
その事実に疑問を抱く者はいない。
(違和感すらない――記憶は完璧に消去されている)
もちろん、彼らをただ野放しにしているわけではない。彼らが普段の生活を送る中で、一人一人にドールの監視がつけられている。昼夜を問わず、彼らの行動を無言でただひたすら見守っている。
薄暗い空の下、湿った空気が重く漂う夜が、二月あまりも繰り返されていた。ドールによる監視は途切れることなく続いていたが、肝心のヴィクターからの接触は、依然として途絶えたままだった。
(一時的に捕縛したことが、勘づかれたのか?郊外とはいえ派手に暴れちまったからな…)
アルの胸には、焦燥と苛立ちが黒い渦のように広がっていく。次の手がまるで思い浮かばないまま、時間だけが過ぎていく。焦りを振り払うように、アル自身も単独で事件の糸口を探っていた。王都の裏路地を歩き回り、影の商人たちに話を聞き、古い記録を漁ったが、得られるのは情報の断片ばかりだった。
そんな監視の日々に、変化が訪れた。ドールからの、魔力による危険信号がアルに届けられる。
(ヴィクターが姿を現したのか?)
思考が追いつくよりも早くドールからの微かな魔力の座標を捉え、アルは即座に転移を発動させる。
次の瞬間、人気のない夜の通りに音もなく姿を現した。
ドールの額に手をかざすと、魔力の流れを通じて映像が流れ込んでくる。
映像には、黒いフードの男が以前密談していた指示役の一人と接触する姿がはっきりと映っていた。
その男は捕縛した者たちが語っていた特徴と一致する。ヴィクターである可能性が高い、と、映像は示していた。
さりげなく夜の闇に紛れるその男をすぐにでも捕縛したい衝動が、アルの心の中を激しく揺さぶる。
(あの男が本物のヴィクターと仮定して、背後にまだ別の隠された勢力が存在する可能性も捨てきれない…今すぐに行動を起こすのは最悪のシナリオに繋がりかねない)
アルはドールに引き続き監視をするように指示をし、暗闇に溶けるように消えるフードの男の背中を見つめ続けた。
それから数日。
アルはドールの額に手を重ね、流れ込む魔力の映像に連日目を凝らした。
ヴィクターの動きを逐一捉えるが、その周囲に協力者の影は依然として見えず、昼夜を問わぬ監視の中で常に単独で行動していた。
ある日ヴィクターは人気のない廃区画、崩れた旧市街の教会跡へと足を踏み入れた。周囲に人影はなく、ドールの視界にも協力者と思しき者の姿は一切ない。
(今しかない)
空気がわずかに震えた次の刹那――ヴィクターの真正面に、アルの姿があった。
ヴィクターの顔には、深い驚愕の色が瞬時に浮かんだ。が、すぐに、左手の指輪に触れる――瞬間、周囲の空気は冷たく重みを増し、指輪に埋め込まれた黒い魔石が不吉な光を放ち始めた。
黒い瘴気のようなエネルギーが渦巻き、形を成し静寂をゆっくりと侵食していく。
――それは、高さ五メートルを超える、多数の腕と鋭い爪を持つ恐るべき魔獣――赤く輝く瞳が飢えたように燃え、冷酷にアルを狙い定めた。
アルは、その異形の存在に一瞬眉をひそめたものの、すぐに戦闘態勢に入った。
空気中の魔力を素早く収束し、魔獣の動きを冷静に観察する。
その圧倒的な質量、周囲の空間を歪ませるほどの強大な魔力――容易な相手ではないことをアルは瞬時に理解した。
その時、空間を切り裂くように、強力な魔力の奔流が近くの空間に走った。
「おまたせ~。随分と楽しそうなの相手にしてんじゃん」
緊迫した状況とは裏腹に、デュラテスはいつも通りの呑気さでアルに合流する。
「ね、アル。アイツの持ってる指輪、めっちゃ欲しいんだけど。あれ、魔道具じゃない?」
デュラテスはヴィクターの左手に嵌められた金の指輪をじっと見つめる。
「魔獣の殲滅が先」
デュラテスの参戦にアルは短く応え、魔獣との攻防を開始する。
魔獣の鋭い爪が凶悪な光を放ち、アルを目標として襲いかかる。
アルは最小限の動きでそれを回避し、魔力を凝縮して防御壁を瞬時に展開する。と同時に、デュラテスは魔力の奔流を魔獣へと撃ち込み、巨大な体をゆっくり後方へと押しやった。
一方、ヴィクターは当初指輪から溢れ続ける強大な魔力に満足するような表情を見せていたが、次第にその力を完全には制御できずに焦り始めている。
魔獣は、デュラテスやアルだけでなく、自らの召喚主であるヴィクターにも牙を剥き始める。
ヴィクターの顔に苛立ちの色が濃く滲んだ。
「くそっ、思い通りにならん……!」
魔獣は咆哮を上げ、巨大な尾で空気を切り裂き、ヴィクターへとに襲いかかる。
「ヤバ!暴走してる!」
二人は瞬時に防御魔法を展開し、魔獣の攻撃からヴィクターを守ろうとするが――魔獣の巨大な爪がヴィクターの胸を貫き、その身体が宙を舞って崩れ落ちる。
鮮血が地に広がり、ヴィクターの身体から生命の輝きが急速に消えていく。
黒幕と思われる男を生け捕りにできなかった悔しさが、アルの胸に強くのしかかった。
「魔獣が主の命令を無視するほど、無理な召喚だったんだろうな…アル、来るよ!」
魔獣は赤く輝く瞳を爛々と光らせ、飢えに駆られるように吠え赤く輝く瞳で二人を睨みつけ、無数の腕を貪欲に振り回しながら突進してきた。
デュラテスは即座に魔力を放ち、燃え盛る輪のように魔獣を包囲した。
「コイツ倒してもあの指輪消滅しないよね?」
いつも通りの呑気な声。しかし、放つ魔力は容赦がない。
魔獣の爪が空を裂き、床に深い亀裂を刻む。
アルは紙一重でかわし、デュラテスの魔法陣の中へ飛び込んだ。
「足止めするね!」
炎が渦を巻き、魔獣を包囲する。しかし、拘束されながらも魔獣は咆哮し、黒い瘴気を放つ。
炎が食われ、空気が重く歪んだ。
魔獣の腕がアルを狙う。だが、彼は瞬時に転移し、背後へ回り込んだ。氷の刃が生まれ、一閃――しかし、魔獣の硬い皮膚に阻まれる。
「くそっ、硬すぎる!」
即座にデュラテスの足元に展開された魔法陣が閃光を放ち、雷の奔流が迸る。瞬く間に紫電が魔獣へと走り、腕へと突き刺さる。雷鳴が轟き、焼け焦げる匂いが立ち込める。しかし、魔獣は怯むどころか咆哮を上げ、炎のごとき魔力を逆流させて雷をかき消した。
「しつけぇんだよ!」
アルが再び転移し、魔獣の腹部へ氷の槍を突き立てる。瞬間――黒い血が噴き出し、空間を染めた。
魔獣の咆哮が響き、狂乱した腕がデュラテスを狙う。
「おっとあぶない」
寸前で転移し、横へ飛び退く。
アルとデュラテスは視線を交わし、同時に魔力を解放する。氷と炎が混ざり合い、嵐となって魔獣を包み込む。
灼熱と極寒が交錯し、魔獣は咆哮と共に崩れ落ちた。最後の叫びが響き、そして沈黙――。
二人は息をつき、倒れた魔獣を見下ろした。
「あ、見て、アル!」
デュラテスは地に降り立つと、ヴィクターの亡骸にから指輪を拾い上げ、満足そうに微笑んだ。
アルは腕を組み、わずかに視線を落とす。
「こちらから接触できない以上、あちらから接触してくるように仕向けるしかないだろう。捕えた者たちを人質にしたところで、奴にとっては痛手にはならないだろうな。いなくなれば、また新たな駒を用意するだけだ」
「じゃあ、やっぱり一度泳がすしかないか~」
デュラテスは面倒そうに肩をすくめながら続ける。
「連中の記憶を消去して、ヴィクターからの次の指示を待つしかない…かな?」
「……お前、記憶なんて消せるのか?」
アルは驚きの色を隠せず、デュラテスを見つめた。自分の知る限り、そんな魔術は存在しない。
「アルが旅に出た後の3年間、俺がどれだけ魔術の研究をやったと思ってんの?」
デュラテスは悪戯っぽく笑った
「まぁ、記憶を消す魔術はまだ実験段階だけどね。とは言え、完成度は高い。いい被験者が手に入ったなぁ…ふふ」
アルは訝しげに目を細めるが、デュラテスは意に介さない。むしろ、思わぬ形で実験の機会が得られたことに心を躍らせている。
――その後、デュラテスは直ぐに記憶消去の魔術を施した
捕えられた者たちは、回復術師の手によって戦闘で負傷した傷も回復させ、何事もなかったかのように元の生活へ戻っていた。勿論廃墟もデュラテスの魔術で修復済み。
翌朝、目覚めた彼らは、いつもの見慣れた寝室のベッドにいた。
その事実に疑問を抱く者はいない。
(違和感すらない――記憶は完璧に消去されている)
もちろん、彼らをただ野放しにしているわけではない。彼らが普段の生活を送る中で、一人一人にドールの監視がつけられている。昼夜を問わず、彼らの行動を無言でただひたすら見守っている。
薄暗い空の下、湿った空気が重く漂う夜が、二月あまりも繰り返されていた。ドールによる監視は途切れることなく続いていたが、肝心のヴィクターからの接触は、依然として途絶えたままだった。
(一時的に捕縛したことが、勘づかれたのか?郊外とはいえ派手に暴れちまったからな…)
アルの胸には、焦燥と苛立ちが黒い渦のように広がっていく。次の手がまるで思い浮かばないまま、時間だけが過ぎていく。焦りを振り払うように、アル自身も単独で事件の糸口を探っていた。王都の裏路地を歩き回り、影の商人たちに話を聞き、古い記録を漁ったが、得られるのは情報の断片ばかりだった。
そんな監視の日々に、変化が訪れた。ドールからの、魔力による危険信号がアルに届けられる。
(ヴィクターが姿を現したのか?)
思考が追いつくよりも早くドールからの微かな魔力の座標を捉え、アルは即座に転移を発動させる。
次の瞬間、人気のない夜の通りに音もなく姿を現した。
ドールの額に手をかざすと、魔力の流れを通じて映像が流れ込んでくる。
映像には、黒いフードの男が以前密談していた指示役の一人と接触する姿がはっきりと映っていた。
その男は捕縛した者たちが語っていた特徴と一致する。ヴィクターである可能性が高い、と、映像は示していた。
さりげなく夜の闇に紛れるその男をすぐにでも捕縛したい衝動が、アルの心の中を激しく揺さぶる。
(あの男が本物のヴィクターと仮定して、背後にまだ別の隠された勢力が存在する可能性も捨てきれない…今すぐに行動を起こすのは最悪のシナリオに繋がりかねない)
アルはドールに引き続き監視をするように指示をし、暗闇に溶けるように消えるフードの男の背中を見つめ続けた。
それから数日。
アルはドールの額に手を重ね、流れ込む魔力の映像に連日目を凝らした。
ヴィクターの動きを逐一捉えるが、その周囲に協力者の影は依然として見えず、昼夜を問わぬ監視の中で常に単独で行動していた。
ある日ヴィクターは人気のない廃区画、崩れた旧市街の教会跡へと足を踏み入れた。周囲に人影はなく、ドールの視界にも協力者と思しき者の姿は一切ない。
(今しかない)
空気がわずかに震えた次の刹那――ヴィクターの真正面に、アルの姿があった。
ヴィクターの顔には、深い驚愕の色が瞬時に浮かんだ。が、すぐに、左手の指輪に触れる――瞬間、周囲の空気は冷たく重みを増し、指輪に埋め込まれた黒い魔石が不吉な光を放ち始めた。
黒い瘴気のようなエネルギーが渦巻き、形を成し静寂をゆっくりと侵食していく。
――それは、高さ五メートルを超える、多数の腕と鋭い爪を持つ恐るべき魔獣――赤く輝く瞳が飢えたように燃え、冷酷にアルを狙い定めた。
アルは、その異形の存在に一瞬眉をひそめたものの、すぐに戦闘態勢に入った。
空気中の魔力を素早く収束し、魔獣の動きを冷静に観察する。
その圧倒的な質量、周囲の空間を歪ませるほどの強大な魔力――容易な相手ではないことをアルは瞬時に理解した。
その時、空間を切り裂くように、強力な魔力の奔流が近くの空間に走った。
「おまたせ~。随分と楽しそうなの相手にしてんじゃん」
緊迫した状況とは裏腹に、デュラテスはいつも通りの呑気さでアルに合流する。
「ね、アル。アイツの持ってる指輪、めっちゃ欲しいんだけど。あれ、魔道具じゃない?」
デュラテスはヴィクターの左手に嵌められた金の指輪をじっと見つめる。
「魔獣の殲滅が先」
デュラテスの参戦にアルは短く応え、魔獣との攻防を開始する。
魔獣の鋭い爪が凶悪な光を放ち、アルを目標として襲いかかる。
アルは最小限の動きでそれを回避し、魔力を凝縮して防御壁を瞬時に展開する。と同時に、デュラテスは魔力の奔流を魔獣へと撃ち込み、巨大な体をゆっくり後方へと押しやった。
一方、ヴィクターは当初指輪から溢れ続ける強大な魔力に満足するような表情を見せていたが、次第にその力を完全には制御できずに焦り始めている。
魔獣は、デュラテスやアルだけでなく、自らの召喚主であるヴィクターにも牙を剥き始める。
ヴィクターの顔に苛立ちの色が濃く滲んだ。
「くそっ、思い通りにならん……!」
魔獣は咆哮を上げ、巨大な尾で空気を切り裂き、ヴィクターへとに襲いかかる。
「ヤバ!暴走してる!」
二人は瞬時に防御魔法を展開し、魔獣の攻撃からヴィクターを守ろうとするが――魔獣の巨大な爪がヴィクターの胸を貫き、その身体が宙を舞って崩れ落ちる。
鮮血が地に広がり、ヴィクターの身体から生命の輝きが急速に消えていく。
黒幕と思われる男を生け捕りにできなかった悔しさが、アルの胸に強くのしかかった。
「魔獣が主の命令を無視するほど、無理な召喚だったんだろうな…アル、来るよ!」
魔獣は赤く輝く瞳を爛々と光らせ、飢えに駆られるように吠え赤く輝く瞳で二人を睨みつけ、無数の腕を貪欲に振り回しながら突進してきた。
デュラテスは即座に魔力を放ち、燃え盛る輪のように魔獣を包囲した。
「コイツ倒してもあの指輪消滅しないよね?」
いつも通りの呑気な声。しかし、放つ魔力は容赦がない。
魔獣の爪が空を裂き、床に深い亀裂を刻む。
アルは紙一重でかわし、デュラテスの魔法陣の中へ飛び込んだ。
「足止めするね!」
炎が渦を巻き、魔獣を包囲する。しかし、拘束されながらも魔獣は咆哮し、黒い瘴気を放つ。
炎が食われ、空気が重く歪んだ。
魔獣の腕がアルを狙う。だが、彼は瞬時に転移し、背後へ回り込んだ。氷の刃が生まれ、一閃――しかし、魔獣の硬い皮膚に阻まれる。
「くそっ、硬すぎる!」
即座にデュラテスの足元に展開された魔法陣が閃光を放ち、雷の奔流が迸る。瞬く間に紫電が魔獣へと走り、腕へと突き刺さる。雷鳴が轟き、焼け焦げる匂いが立ち込める。しかし、魔獣は怯むどころか咆哮を上げ、炎のごとき魔力を逆流させて雷をかき消した。
「しつけぇんだよ!」
アルが再び転移し、魔獣の腹部へ氷の槍を突き立てる。瞬間――黒い血が噴き出し、空間を染めた。
魔獣の咆哮が響き、狂乱した腕がデュラテスを狙う。
「おっとあぶない」
寸前で転移し、横へ飛び退く。
アルとデュラテスは視線を交わし、同時に魔力を解放する。氷と炎が混ざり合い、嵐となって魔獣を包み込む。
灼熱と極寒が交錯し、魔獣は咆哮と共に崩れ落ちた。最後の叫びが響き、そして沈黙――。
二人は息をつき、倒れた魔獣を見下ろした。
「あ、見て、アル!」
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