5番目の王子

Moma

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デート②

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最初に訪れたのは、街はずれに広がる≪野鳥の森≫木漏れ日の下、リューネは手のひらに餌をのせて静かに差し出す。すると、どこからともなく鳥たちが飛来し、一羽、また一羽と増えていき、あっという間に彼の周りを取り囲んだ。小さなくちばしがつつくたびに、餌がみるみる減っていく。

「あ…待って、待って…もっとゆっくり…」

けれど鳥たちは待ってなどくれない。次々と餌を奪い去り、数秒後にはすっかり空っぽになってしまった。傍らで肩を揺らして笑うアルに、リューネは可愛らしくむくれながら「もう!」と小さく抗議する。
野鳥の森を抜けると、光を反射する静かな湖面が広がっていた。

「中心街からそれほど離れていない場所なのに、とても自然がいっぱいなんだね」

「ここは自然保護区なんだ。人の手は入ってるが、市民の憩いの場所……というか定番のデートスポットだな」

ふたりは手を繋ぎながら、ゆっくりと湖畔へと歩を進める。
木造の小さな船着き場には、いくつかのボートが静かに浮かんでいた。

「ボートがあるな……乗ってみるか?」

アルが提案すると、リューネは少し不安げにしながらも、好奇心に目を輝かせて頷く。
ゆらゆらと揺れるボートに慎重に足を踏み入れると、アルが手慣れた様子でオールを握り、ボートは滑るように水面を進んでいった。そのスムーズな動きを見て、リューネも挑戦してみたくなった。

「ね。アル。僕も漕いでみたい。」

そう言って手を伸ばし、オールを握る。アルが何かを察したように口元だけで笑っていたが、リューネは気にせず、意気揚々と漕ぎ始めた。――が。

「……ん?……あれ?」

ボートは進むどころか、くるくるとその場で回り続ける。困惑したリューネの背側へと回り込んだアルが、オールの動きをじっくりと観察する。

「そっちじゃない、逆だ。力の入れ方を……よし、こうして――まっすぐ行く」

アルがそっと手を添え、ふたりの動きが重なった瞬間、ボートは滑るように進み始めた。水面にはゆるやかな波紋が広がり、湖の静けさのなかに、ふたりの笑い声が心地よく響く。

ボート乗りを穏やかに楽しんだふたりは、黄金色の木漏れ日がやさしく降り注ぐ森の中を、手をつないでゆっくりと歩いていった。やがて森を抜け、賑やかな商業街区へと足を向ける。「少しお腹が空いてきたね」そんな会話を交わしていたちょうどその時、甘く、心をくすぐるような香りが風に乗って漂ってきた。香りの先を辿ると、温かな灯りをともした可愛らしいクレープの屋台が見えてきた。

「クレープ屋か……お前、食べたことあるか?」

アルが尋ねると、リューネは首を横に振った。

「初めて見る……美味しそう!」

期待に目を輝かせるリューネを見て、アルは「なら決まりだな」と言いながら、二つのクレープを注文する。“フルーツクッキークリーム”と、“チーズチキンチップサラダ”。甘いのとしょっぱいの、両方試せるように。

「どっちがいい?」

「どっちも食べてみたい!」

ふたりでお互いの口に運んでみる。

「ん、これ……美味しい……!」

市井でこうして食べ歩きをするのはリューネにとって初めてのこと。

「……僕ね、好きな人とこうやってでデートするの、ずっと夢だったんだ」

そう言って、リューネはふと視線を落とす。

「あのね。あのカフェでいつも読んでた本、あれって……恋愛小説なんだ。初めて市井に降りて、一番最初に買った大切な本」

そして、照れたようにはにかみながら、アルに小さく囁く。

「誰にも言っちゃダメだよ?」

可愛い。

「なんでまた恋愛小説を選んだんだ?」

自然とこぼれた疑問に、リューネは少し困ったように笑った。

「えっと……これも恥ずかしいんだけど……。本屋さんに入ったまではよかったの。でもね、初めての市井、初めて一人で買い物をするっていうだけで、すごく緊張しちゃって……それで、目についた本を、深く考えずに……ぱって、手に取っちゃった」

その理由はあまりにも彼らしく、純粋で、どこまでも無垢だった。アルは思わず、柔らかく微笑んだ。

「じゃあ次のデートは本屋もコースに入れておこう」

そう提案すると、リューネは嬉しそうに頷いて、すぐ近くの雑貨店のウィンドウに目をとめた。可愛い動物の置物が並ぶのを見つけて、ぱっと手を引かれる。

「アル、ここ入りたい!ちょっとだけ!」

リューネは、あれもこれもと小さな雑貨を手に取っては「これ、可愛い」「こっちも可愛い」と、楽しげな声をあげて店内を巡る。その横顔を見つめながら、アルは思う。
――可愛いのは、お前のほうだ。

気づけば夕暮れ。街はオレンジ色に染まり、すれ違うひとびとの視線は二人に向けられ、どこか微笑ましげに目を細める。いつの間にか、この街で“公認のカップル”になっていたらしい。アルステルスと寄り添い合いながら歩くリューネは、どこからどう見ても、恋人そのものだった。

「最後に、どうしても行きたい場所がある」

そう言いアルは転移を発動し、リューネを新たな場所へと連れていく。
転移した先は、高くそびえる時計塔だった。ふたりはその頂上へと上り、息を呑むほど美しい景色を目にする。

「わあ……すごい……」

リューネは眼下に広がる街並みを見渡した。夕陽に染まった屋根がオレンジと金色の輝きを帯び、遠くまで続く街道はまるで光の筋のようだ。

「ここは時計塔。街全体を一望できる。お前の国と違って、この国は国土が狭いからな。それに――これからの時間が、一番夕陽が綺麗なんだ」

アルは背後からそっとリューネを抱き込み、屈んで肩に顔を乗せる。

「あれを見ろ。街外れに広がる大きな敷地――あそこが魔道学園だ」
リューネは視線を向け、壮大な敷地に目を奪われる。そこはまるで別世界のように静寂が漂い、整然とした建物が並んでいた。

「この国の子供は、基本的に全員が学園に入学する。しかも全寮制で、俺も5年間そこで過ごした」

「全員が勉学を学べるの?すごい……」

「同性婚が多い国だから、子供はこの国にとって宝物なんだよ。平民も貴族も王族も関係なく学べるし、学園では身分の区別もない。だからこそ、みんな仲が良い」

アルの声には、どこか懐かしさと誇りが滲んでいた。

「街の人間がみんな俺に気軽に声をかけてただろ?」

リューネは頷いた。

「王族なのに、街の人々と随分身近な関係なんだなって、不思議に思ってた」

「学園の影響が大きいんだ。生徒の間で身分差がないから、そのまま街に出ても、みんな昔の友人みたいに話しかけてくる。俺が王子だとか関係なく、ただのアルとして親しまれてるんだよ」

そう語るアルの顔は、どこか穏やかで優しい。

「だから、お前のことも、俺の大切な人として街の皆に知ってほしい。俺の可愛い婚約者としてな。もう、市井に降りる時は変装する必要なんてない」

リューネはアルの言葉に胸がじんわりと温かくなるのを感じた。

「アルは、この国の皆に愛されてるんだね」

アルの顔をまっすぐに見つめ――柔らかく微笑む。
ふたりの間を、静かに黄昏の風が通り抜けていった――。


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