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魔道学園にて
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リューネが魔道学園の門をくぐったその瞬間から、彼の存在は学園中の注目の的となった。
アルの婚約者としてその名はすでに知れ渡っており、しかも王族の身分でありながら普通科に在籍するということで、興味と驚きの視線が一斉に彼へと注がれた。
案内されたのは、普通科のBクラス。教室に足を踏み入れたリューネを、クラスメイトたちはそわそわと落ち着かない様子で迎えた。誰もが好奇心を抑えきれず、それでも礼を欠かぬよう気を遣っているのがわかる。
「初めまして、リューネ様。私はBクラスの委員長、マリールゥと申します。あの、放課後にでも学園内をご案内できればと思うのですが……ご予定など、ありますか?」
授業の合間に、リューネの席までやって来た少女がにこりと微笑む。どこか緊張がにじんでいたが、それでも丁寧に挨拶する様子は真面目な性格を感じさせた。
「えっと……案内、よろしくお願いします。できれば、皆と同じように接してもらえたら嬉しいです。敬語とかも、あんまり気にしないで……」
リューネは、かつてアルと街を歩いたときのことを思い出していた。人々がアルと親しく言葉を交わし、楽しげに笑い合っていた光景。自分もあんな風に、この場所に溶け込めたら――そう思っての言葉だった。
「……あ~、良かったぁ!」
マリールゥはぱっと顔を輝かせる。先ほどまでの堅苦しい空気がふっと消え、彼女本来の明るさが教室に広がった。
「王族の方って、私たちの年代にはいないから、どう接すればいいか分からなくて。私のことは“マリー”って呼んでね。えっと、よかったらお昼ごはん一緒にどうかな? クラスのみんなも、リューネ様と仲良くなりたくてうずうずしているの!」
「……その“様”もやめてくれると嬉しいな」
「うん、分かった。じゃあ、“リューネ君”だね!」
そのやりとりを遠巻きに見ていたクラスメイトたちも、どこかほっとしたような笑顔を浮かべる。リューネが特別な存在であることは間違いないが、同じ教室で学ぶ“仲間”であることに変わりはなかった。
それからというもの、マリールゥは何かとリューネのことを気にかけてくれた。
昼食のときにはいつも隣に座り、授業で分からないところがあれば、優しく分かりやすく教えてくれる。移動の合間には、学園のちょっと変わった習慣や、先生のちょっとした癖までこっそり教えてくれた。
そしてリューネが一人でいる時には、さりげなく声をかけてグループに誘い入れてくれる。そんなマリールゥの気遣いに、リューネは何度も救われた。
クラスメイトたちもまた特別扱いせず、自然にリューネを受け入れてくれていた。
最初こそ緊張した面持ちだったリューネも、日が経つにつれ表情は柔らかくなり、笑顔の数も増えていった。王族であることも、アルの婚約者という立場も、今ではあまり壁になっていないように感じられる。それは、リューネ自身の誠実で穏やかな人柄が、周囲の心を少しずつ解いていったからだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ある午後の陽光が傾きかけた頃――
学園の中庭にある木造の東屋では、柔らかな風が緑の香りを運び、葉擦れの音が静かに響いていた。
リューネとマリールゥは向かい合って腰かけ、木製の小さな卓上には、湯気の立つティーポットと二つのカップが並んでいた。
「リューネ君の淹れた紅茶、美味しい……」
ほぅっとため息をもらしながら、カップを両手で包み込むように持ち、マリールゥは至福の表情で紅茶を味わっている。
彼女はリューネが留学してきてからというもの、何かと気にかけこうしてたびたび面倒を見てくれている存在だ。
「本当?今まで家族にしか淹れたことがなかったから、自信がなかったんだけれど……」
リューネはそう言いながらも、照れたように目を伏せて微笑んだ。褒められることにまだ慣れていないらしい。
「これなら、ルブテールズ祭のカフェの給仕もバッチリだよ!是非お願いしたいな。リューネ君なら、ルックスも申し分ないし!」
「僕で務まるかな?働いたこともないし……来てくれた人を不快にさせたりしないか、ちょっと不安で」
「何言ってるの!リューネ君の佇まいだけでも、ヨダレ…じゃなくて、神々…いや、尊いよ!!」
マリールゥは勢いよく手を合わせて拝み始める。目はきらきらと輝き、まるで何かの聖者でも拝むかのような勢いだった。
「それにね、カフェの収益は学園の運営費に充てられるの。私たちがこうして無料で学べるのも、そういう取り組みのおかげなんだよ。チップも貰えるし、それは各自の自由に使っていいし!」
「学園の運営費か……そうだね。僕も何不自由なく留学させてもらっているし。協力させてもらうよ、マリーさん」
「ほんと?!ありがとう、リューネ君!Bクラス全員で全力サポートするからね!他のクラスからも給仕役が参加するから、一人じゃないし。時間交代制になる予定だから安心して。お祭りの三日間、よろしくお願いします!」
「できる限り頑張るよ。……ところで、そのお祭りって他にはどんなことが行われるの?」
「ん~、街中では音楽隊のパレードや、大道芸、たくさんの露店が出店されるの。それに、今年は魔道塔の方々が街の外に巨大迷路も作ってるって話。学園内ではね、魔導士科主催の戦闘魔術トーナメントがあって、これがまた盛り上がるのよ!」
「戦闘魔術のトーナメント?」
「うん!優勝者は、なんと筆頭魔導士のデュラテス様と試合ができるの。みんな本気で挑んでくるから、かなりの見応えだよ。しかも、今年はアルステルス様が帰ってきてるから、エキシビジョンマッチが開催されるかもしれないの」
「アルが帰ってきてると、何か特別なの?」
「ルブテールズ祭ではね、毎年恒例でデュラテス様とアルステルス様の一騎打ちがあるの。二人が在学してた頃からの伝統なのよ。ここ数年はアルステルス様が国外に行ってたから見られなかったんだけど……ちなみに、今のところはデュラテス様が全勝中!」
「アルとデュラテス様の対決…」
リューネの脳裏に、あの日――カフェで襲われたとき、目の前に幾重にも展開された複雑な魔法陣がよみがえる。
(ん?アルは攻撃魔法は使えないって?あれ?でも…?)
ふとした違和感に眉を寄せるリューネ。
「マリーさんは、アルが戦ってるところを見たことあるの?」
「あるある!魔法騎士団に私の兄がいるんだけどね、兄はアルステルス様とデュラテス様と同学年だったの。だから昔からよく一緒に行動してて、二人の対決の時は毎回見に行ってたの。あの二人が並んでるだけで圧巻なのに、戦いなんてもう……感動ものよ!リューネ君も、アルステルス様の戦ってる姿を見たら、惚れ直しちゃうかもよ?」
「アルが戦ってる姿か……なんだか、想像がつかないな」
「ふふ、じゃあ、もし今年対決があるなら一緒に応援しようね。その時間にはカフェも閉まってるし、リューネ君にもぜひ見てほしいな」
その後の二人は、Bクラスの仲間たちと共に、ルブテールズ祭のカフェでの仕事について具体的に話し合い始めた。
アルの婚約者としてその名はすでに知れ渡っており、しかも王族の身分でありながら普通科に在籍するということで、興味と驚きの視線が一斉に彼へと注がれた。
案内されたのは、普通科のBクラス。教室に足を踏み入れたリューネを、クラスメイトたちはそわそわと落ち着かない様子で迎えた。誰もが好奇心を抑えきれず、それでも礼を欠かぬよう気を遣っているのがわかる。
「初めまして、リューネ様。私はBクラスの委員長、マリールゥと申します。あの、放課後にでも学園内をご案内できればと思うのですが……ご予定など、ありますか?」
授業の合間に、リューネの席までやって来た少女がにこりと微笑む。どこか緊張がにじんでいたが、それでも丁寧に挨拶する様子は真面目な性格を感じさせた。
「えっと……案内、よろしくお願いします。できれば、皆と同じように接してもらえたら嬉しいです。敬語とかも、あんまり気にしないで……」
リューネは、かつてアルと街を歩いたときのことを思い出していた。人々がアルと親しく言葉を交わし、楽しげに笑い合っていた光景。自分もあんな風に、この場所に溶け込めたら――そう思っての言葉だった。
「……あ~、良かったぁ!」
マリールゥはぱっと顔を輝かせる。先ほどまでの堅苦しい空気がふっと消え、彼女本来の明るさが教室に広がった。
「王族の方って、私たちの年代にはいないから、どう接すればいいか分からなくて。私のことは“マリー”って呼んでね。えっと、よかったらお昼ごはん一緒にどうかな? クラスのみんなも、リューネ様と仲良くなりたくてうずうずしているの!」
「……その“様”もやめてくれると嬉しいな」
「うん、分かった。じゃあ、“リューネ君”だね!」
そのやりとりを遠巻きに見ていたクラスメイトたちも、どこかほっとしたような笑顔を浮かべる。リューネが特別な存在であることは間違いないが、同じ教室で学ぶ“仲間”であることに変わりはなかった。
それからというもの、マリールゥは何かとリューネのことを気にかけてくれた。
昼食のときにはいつも隣に座り、授業で分からないところがあれば、優しく分かりやすく教えてくれる。移動の合間には、学園のちょっと変わった習慣や、先生のちょっとした癖までこっそり教えてくれた。
そしてリューネが一人でいる時には、さりげなく声をかけてグループに誘い入れてくれる。そんなマリールゥの気遣いに、リューネは何度も救われた。
クラスメイトたちもまた特別扱いせず、自然にリューネを受け入れてくれていた。
最初こそ緊張した面持ちだったリューネも、日が経つにつれ表情は柔らかくなり、笑顔の数も増えていった。王族であることも、アルの婚約者という立場も、今ではあまり壁になっていないように感じられる。それは、リューネ自身の誠実で穏やかな人柄が、周囲の心を少しずつ解いていったからだろう。
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ある午後の陽光が傾きかけた頃――
学園の中庭にある木造の東屋では、柔らかな風が緑の香りを運び、葉擦れの音が静かに響いていた。
リューネとマリールゥは向かい合って腰かけ、木製の小さな卓上には、湯気の立つティーポットと二つのカップが並んでいた。
「リューネ君の淹れた紅茶、美味しい……」
ほぅっとため息をもらしながら、カップを両手で包み込むように持ち、マリールゥは至福の表情で紅茶を味わっている。
彼女はリューネが留学してきてからというもの、何かと気にかけこうしてたびたび面倒を見てくれている存在だ。
「本当?今まで家族にしか淹れたことがなかったから、自信がなかったんだけれど……」
リューネはそう言いながらも、照れたように目を伏せて微笑んだ。褒められることにまだ慣れていないらしい。
「これなら、ルブテールズ祭のカフェの給仕もバッチリだよ!是非お願いしたいな。リューネ君なら、ルックスも申し分ないし!」
「僕で務まるかな?働いたこともないし……来てくれた人を不快にさせたりしないか、ちょっと不安で」
「何言ってるの!リューネ君の佇まいだけでも、ヨダレ…じゃなくて、神々…いや、尊いよ!!」
マリールゥは勢いよく手を合わせて拝み始める。目はきらきらと輝き、まるで何かの聖者でも拝むかのような勢いだった。
「それにね、カフェの収益は学園の運営費に充てられるの。私たちがこうして無料で学べるのも、そういう取り組みのおかげなんだよ。チップも貰えるし、それは各自の自由に使っていいし!」
「学園の運営費か……そうだね。僕も何不自由なく留学させてもらっているし。協力させてもらうよ、マリーさん」
「ほんと?!ありがとう、リューネ君!Bクラス全員で全力サポートするからね!他のクラスからも給仕役が参加するから、一人じゃないし。時間交代制になる予定だから安心して。お祭りの三日間、よろしくお願いします!」
「できる限り頑張るよ。……ところで、そのお祭りって他にはどんなことが行われるの?」
「ん~、街中では音楽隊のパレードや、大道芸、たくさんの露店が出店されるの。それに、今年は魔道塔の方々が街の外に巨大迷路も作ってるって話。学園内ではね、魔導士科主催の戦闘魔術トーナメントがあって、これがまた盛り上がるのよ!」
「戦闘魔術のトーナメント?」
「うん!優勝者は、なんと筆頭魔導士のデュラテス様と試合ができるの。みんな本気で挑んでくるから、かなりの見応えだよ。しかも、今年はアルステルス様が帰ってきてるから、エキシビジョンマッチが開催されるかもしれないの」
「アルが帰ってきてると、何か特別なの?」
「ルブテールズ祭ではね、毎年恒例でデュラテス様とアルステルス様の一騎打ちがあるの。二人が在学してた頃からの伝統なのよ。ここ数年はアルステルス様が国外に行ってたから見られなかったんだけど……ちなみに、今のところはデュラテス様が全勝中!」
「アルとデュラテス様の対決…」
リューネの脳裏に、あの日――カフェで襲われたとき、目の前に幾重にも展開された複雑な魔法陣がよみがえる。
(ん?アルは攻撃魔法は使えないって?あれ?でも…?)
ふとした違和感に眉を寄せるリューネ。
「マリーさんは、アルが戦ってるところを見たことあるの?」
「あるある!魔法騎士団に私の兄がいるんだけどね、兄はアルステルス様とデュラテス様と同学年だったの。だから昔からよく一緒に行動してて、二人の対決の時は毎回見に行ってたの。あの二人が並んでるだけで圧巻なのに、戦いなんてもう……感動ものよ!リューネ君も、アルステルス様の戦ってる姿を見たら、惚れ直しちゃうかもよ?」
「アルが戦ってる姿か……なんだか、想像がつかないな」
「ふふ、じゃあ、もし今年対決があるなら一緒に応援しようね。その時間にはカフェも閉まってるし、リューネ君にもぜひ見てほしいな」
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