5番目の王子

Moma

文字の大きさ
28 / 61

ルブテールズ祭①

しおりを挟む
「はーい!こちらカフェご利用の方、最後尾になりまーす!メニューをお渡ししますので、オーダー表にご注文と、もし給仕のご指名があればお名前の記入もお願いしまーす!給仕の名前はメニューの下部に記載してます!指名料は別途かかりますのでご注意くださーい!」
生徒の声が食堂の外まで響いていた。

ルブテールズ祭初日、朝から好天に恵まれ、学園の敷地内は大勢の来場者で溢れかえっていた。その中でも、ひときわ注目を集めているのが学内食堂を使った特設カフェだ。

普段は生徒たちの憩いの場である広々とした食堂が、今日は白と金を基調に装飾された華やかなカフェへと姿を変え、列は建物の外まで続いている。最後尾担当の生徒はすでに何度も案内を繰り返し、声がかすれ始めていた。
それもそのはず。この混雑の理由は明白だ。

「アルステルス様の婚約者が給仕をしているらしい」

そんな噂が学園内外を駆け巡り、あっという間に来場者の注目の的となった。中でも特に女性客の割合が多く、目当ての給仕を指名するシステムに歓声が絶えない。

しかも、Bクラスだけでなく、他のクラスもこの機にとイケメン生徒を揃えて対抗してきたため、競争は熾烈を極めていた。
――そんな中。

「リューネ君、生きてる? 息してる?はい、水、飲んで!今ちょっとだけ手が空いたから!」

マリールウが厨房から駆け寄り、慣れた手つきで冷たい水の入ったグラスを差し出す。フロア全体の指揮を任されている彼女も、さすがに目が回りそうだ。

「ありがとう……。ふぅ……。お水が美味しい……。こんなに、カフェの給仕って、体力使うんだね」

リューネは額にうっすらと汗を浮かべながらも、笑みを絶やさずグラスを口に運んだ。

「これ、リューネ君効果だよ……。ごめんね、もう少しだけ!あと一刻くらいだけど、新規のリューネ君指名はストップかけたから!アルステルス様がお迎えに来るんでしょ?」

「うん。一緒にお祭りまわろうって約束してるんだ。そろそろ来る頃だと思う。……あ、あのテーブル、札が上がった。行ってきます」

食堂のテーブルごとに立てられた小さな色付き札。来客は札を上げることで給仕を呼ぶシステムになっており、それぞれの給仕には担当カラーが割り振られている。リューネの担当は『蒼』。

給仕エリアへと向かうリューネの姿は、誰が見ても様になっていた。

後ろでひとつに束ねたピンクブロンド、白いシャツにネクタイ、黒のベストとスラックス、そして足元まで届くロングエプロン。きびきびとした動きと所作の美しさは、まるで貴族の執事を彷彿とさせる。普段の柔らかく控えめな印象とはまるで違うそのギャップが、客たちの心を撃ち抜いていた。

「いらっしゃいませ。本日は当カフェをご利用いただき、誠にありがとうございます。ご指名いただきました給仕、リューネと申します。よろしくお願いいたします」

優雅に一礼し、微笑を浮かべて対応する姿は、もはや“王族スマイル”の異名を持つに相応しい。

「こちら、ご注文のお品のアールグレイでございます。失礼いたします」

トレイを持つ手に一切の乱れはなく、丁寧に紅茶を提供するリューネの仕草ひとつひとつに、周囲の客たちは見惚れていた。

そんな最中、外からざわめきが起こる。

「アルステルス様がいらっしゃったわ…」

カフェの扉が開き、強い日差しの中から、長身の青年が静かに歩を進めてきた。その登場に、店内の空気が一瞬で変わる。彼の姿を見つけたリューネが、思わず手を止めた。
アルステルスの到着に、また一段と熱を帯びるカフェ。

けれどリューネは、深呼吸をひとつ。客席へ向き直り、微笑を崩さず、次の一杯を丁寧に運んでいく。
こうして、ルブテールズ祭のカフェ初日は、喧騒と熱気、そしてリューネの奮闘に彩られて幕を開けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

処理中です...