5番目の王子

Moma

文字の大きさ
47 / 61

魔石②

しおりを挟む
「アル、連れて来てくれてサンキュ。スイ、おかえり」

最上階へ到着すると、テスは書類片手に珈琲を飲みながら、二人を見つけて笑みを深めた。

「こいつ、落石に遭った癖に働いてた。休暇取らせるぞ」

「そうなんだよね。さっきクスラウドから使者が来て、スイの安否確認をして戻ったよ。事前に万が一のことがあっても転移できるようにしておいたのが幸いしたな。鉱山は安全確認のため、最深部はしばらく閉鎖するってさ」

「ええと…アルステルス様が二人?」

スイは髪を切ったテスと初対面だったため、絶賛混乱中だ。

「使者の話によると、スイは全く休暇も取らず、毎日鉱山に通い詰めていたらしい。クスラウドにも魔石の研究者はいるけど、スイと鉱山に同行するとなかなか帰れないからって最近は誰もついて行かなかったらしい。不幸中の幸いってところだね」

「デュラテス様、最深部でなければ鉱山に入る許可はいただけますでしょうか。まだ研究の途中で…」

テスの髪よりも魔石研究が優先され、スイは混乱からすっかり立ち直っていた。
テスもアルも王族であり、魔道塔で最も権力を持つ存在だが、スイにとっては”失礼さえしなければ問題なし”という認識らしい。
早い話が、どちらがどっちであろうと関係ない。ただちょっと驚いただけで。

「休暇をちゃんと取って、服も何着か揃えて、身なりも整えて…あ、眼鏡もいくつか新調するんだよ。経費で落としてあげるから。それが全部終わってからなら、またクスラウドに渡ってもいいよ♪」

テスがバチンとウインクを一つ投げかけると、スイは絶望的な表情でがっくりと項垂れた。
いくら学園の後輩として目をかけてもらっていたとしても、王族であり魔道塔の最高権力者に逆らう術など持ち合わせていない。

「転移の護符も新しいのを渡しておくから、自分の魔力を最大まで込めて馴染ませておくんだよ。またいつ必要になるかわからないからね」

スイは礼を述べると、大切そうに護符をポケットにしまう――と、その奥底の小袋に指が触れた。

「アルステルス様、頼まれていた魔石をお渡ししなければ。ご覧ください、きっとご満足いただける物だと思います!」

スイは小袋の中から、小指の先ほどのキラキラと光る魔石を取り出した。
数にして30粒ほどだろうか。パッと見では魔石か色付きのガラスか判別がつかないようなものだ。

「魔力のない方にしてみれば、ただのガラスの石にしか見えないと思いますが、試しに魔力を注いでみてください。驚くほど吸収されていくのがわかります」

アルとテスはそれぞれ適当に魔石を一つ取り上げ、魔力を注ぐ。

「「おっ」」

二人とも同じ表情で、同じ反応をした。

「どうです?このサイズで魔力を多大に吸収する魔石は、相当希少です。ただ、残念なことに同じような色や形のものは少ないんです。なので、このように全て不揃いになってしまって…」

「充分だよ、スイ。これらの魔石は有効利用させてもらう。精査してから研究用にもいくつか分けておくね。ありがとう」

スイは満足げに頷いたが、ふと何かを思い出したように、少し躊躇ためらいながら口を開いた。

「あ、あの…。厚かましいお願いだとは分かっているのですが…その中の一番小さな翠の魔石を譲っていただくことは可能でしょうか…?最初に見つけた魔石で…その…」

「個人的に欲しいってこと?」

「やっぱりダメですよね…我儘言ってすみません、アルステルス様…」

「俺、テスね?スイは正直だな。いくらでも隠しておくことだってできたのに。いいよ、今回だけ特別にそれはスイが所有していいから。ただし、他の研究員には絶対口外しないこと。OK?」

「あ、ありがとうございます!」

スイはぱっと顔を上げ、満面の笑みで礼を告げると、両手で小さな翠の魔石を受け取り、胸の前でぎゅっと握りしめた。
余程思い入れがある魔石なのだろう。

「それじゃ、スイはこの休暇届けの書類と、クスラウドへ送る報告書――“無事に帰還しているので何の問題もありません”的なやつね。ちゃんと全部目を通してからサインするように。アルは魔石を一度持って帰っていいよ。アルが必要のない魔石は、魔道塔と魔法騎士団で活用するから」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おい、帰ったぞ」

「アル?おかえりなさい。今日は早かったんだね」

キッチンの奥からひょいと顔を出したのは、エプロン姿のリューネだった。
部屋中にふわりと甘い香りが広がっている。どうやら焼き菓子を作っていたらしい。
ミトンを外したリューネは軽やかに近づくと、アルの胸に手を添え、背伸びして唇を重ねた。

「……あっま」

口元を押さえて顔をしかめるアルに、リューネがくすりと笑う。

「エッグタルトを焼いてたの。ちゃんとアル用には甘さ控えめのを作ってあるから大丈夫だよ。さっき味見したけど、とっても美味しくできたんだ。楽しみにしててね」

そう言って微笑むリューネの頬に、今度はアルがそっとキスを落とす。
そのまま手を引いてソファへと促すと、小袋を取り出し、テーブルの上に中身を広げた。

「ガラスの石?何に使うの?綺麗だね」

リューネは一つ手に取ると、光に透かしながら様々な角度から眺める。

「それ、魔石。お前は黒い岩みたいな魔石しか見たことないだろうけどな。魔石研究員がクスラウドから今日持ち帰ってきた」

「こんな綺麗な魔石があるんだね。小さくても使い道はあるの?」

「魔力を増幅させたり、魔力を込めたりだな。小さくても普通の魔石よりずっと魔力を込められる。で、お前に護身用にいくつか装飾品をオーダーするつもりだ」

「護身用?」

リューネは魔石を見つめながら首を傾げる。魔法が使えない彼にとってはピンとこない話なのも無理はない。

「まず俺の魔力を込めた物を身につけていれば、魔力を辿ってどんなに遠くてもお前の場所を特定できる。少し時間はかかるがな。それと、防御魔法を常に掛けた状態にできる」

「魔法って何でもできるんだね。むしろ、できないことって何なのかなって思うくらい」

「万能ってわけじゃねぇよ。この魔石だって、どれか一つのことしかできない。魔力を込めるだけ、増幅させるだけ、防御魔法をかけるだけ——とかだな」

「…ひょっとして、僕が一人で街に出たり、色々な場所に行っても心配しなくてもいいように?」

「そんなとこ。魔道具研究の連中に作ってもらうのに、少し時間かかるかもしれないが…で、何にする?ピアス、指輪、ネックレス、バングル、アンクレット…全部でもいいぞ」

リューネのことになると、ときどき思考が暴走するアルに、リューネは苦笑を漏らす。

「アル、僕あまり装飾にこだわりも興味もないの知ってるでしょ?」

「まあ…」

「常に身につけていられる方がいいよね…いっそ体のどこかに埋め込んだら…」

「ダメに決まってるだろ」

呆れたようにリューネを見つめる。

”わかってるー”と軽く笑いながらアルに寄りかかると、手に取った魔石をじっと見つめ、考え込む。

「指輪かピアスかな…他はなくしてしまいそう」

「最低二つの魔石を身につけてほしい。一つは防御魔法をかける魔石。もう一つは、防御魔法が攻撃されて掛け直した場合に俺に知らせる魔石」

「知らせるってどうやって?」

「俺も同じ魔石を身につける。何かあったときに共鳴する仕掛けを作れるらしい。研究員がその方法を考えてる。あいつらの腕の見せ所だな」

「アルとお揃いってこと?!」

リューネの顔がぱっと輝き、”嬉しい!”と抱きつく。
装飾品に興味はなくても、アルと揃いの物を持てるというだけで嬉しいらしい。
なんとも可愛らしいことだ。

二人で話し合った結果、リューネは両耳にピアスを、アルは片耳にピアスを身につけることになった。
装飾品に興味のないリューネも”待ち遠しいなぁ”と毎日のように呟き、出来上がりを心待ちにしている。

魔道具研究員のプレッシャーは計り知れない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ
BL
BLです。 11月のBL大賞用の作品です。 10/31に全話公開予定です。 宜しくお願いします。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない

結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。 人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。 その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。 無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。 モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。 灰銀の狼と金灰の文官―― 異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。

処理中です...