9 / 26
9
しおりを挟む
「おつかれー!乾杯!!」
ジョッキが軽くぶつかり合う音と、ビールの泡のはじける音が混ざった。
テーブルを囲む五人――柊・楓・リナ・シンヤ・カズキは、久々の“夜の外”に少しだけ浮かれていた。
「いやあ…修復作業、本当お疲れ様でした、柊、楓!」
シンヤが勢いよく頭を下げると、横でカズキが笑う。
「いやいや、俺らがやらかした分、全力で巻き返させていただきますんで!」
「次から気をつけてくれればいいよ」
柊は静かに答えた。グラスの端に口をつけ、炭酸の刺激をやや鬱陶しげに受け止める。
「それにしても、やっぱ楓の対応、神だったわ…。あんな状況で冷静に構造掘り起こすとか…」
リナが感嘆を漏らすと、当の楓はにやにやと笑いながら指を立てる。
「ほらな、俺ってやればできる子なんよ。しかも、見た目も中身も優秀とか困っちゃうよね~?」
「そういうとこ」
柊がぼそっと吐き捨てるように呟くと、カズキたちが吹き出した。
「んで、楓。久々の飲み会、どうなん? 女っ気足りなかったりする?」
「えー俺、研究室で十分楽しいよ~?」
と、その時。
「――あれ?ねえ、楓じゃない?」
ふと、少し離れたテーブルから声が飛ぶ。
振り返ると、大学のサークルらしき団体がこちらを見ていた。
「あ、うわ、まじ?あれ楓先輩じゃん!」
「わっ、久しぶりー!え、こっちおいでよ~!」
女子たちの笑い声、賑やかな声、手を振る仕草。
その中心には、以前楓が所属していたサークル仲間たち――顔立ちのいい男子と、可愛らしい女子たちの姿があった。
「おー、やっべ!ちょっと行ってくるわ、顔出さないと殺される!」
楓はあっけらかんと笑い、立ち上がる。
「おい、殺されるって…物騒な…」
「そういうサークルなんだよ~。すぐ戻るから待っててね、柊ちゃーん?」
軽くウインクなんて飛ばして、楓は足早に向こうのテーブルに合流する。
歓声、笑い声、名前を呼ばれる声。女の子のひとりが楓の袖を引っ張っている。
一人がジョッキを持って、無邪気に「一口ちょうだい」なんて言っている。
さらには――
「ねえ楓先輩、今彼女いないってほんとですか?」
「えーうそでしょ! だったら私でもチャンスあるってこと?」
「先輩、今日の服ちょっと反則ですよ。かっこよすぎ!」
わいわいと賑やかなサークルの後輩たちが、楓を囲むようにして笑いかけている。
冗談半分、本気半分。
けれどその中心にいる楓は、誰に対しても軽やかに笑っていた。
それを、柊は――黙って見ていた。
「うわ、さすが楓、なにあの人気っぷり…」
シンヤが感心したように呟いたが、柊は反応しない。
ただグラスの中を見つめながら、氷の音だけが耳に残っていた。
(知ってた。あいつが女子にモテるのなんて。…いまさら、見慣れてるはずだったのに)
けれど、なぜか今日は、胸の奥がちくちくと痛んだ。
あの笑顔が、自分の前で見せるものと違って見える。
声のトーンも、表情も、触れ合う距離さえ――全部、他人に向けられているのが嫌だった。
(俺、…なんで)
理由なんて、わからない。
ただ、湧き上がってくるざらついた感情が、頭の中でノイズのように鳴っている。
「…柊?飲みすぎた?」
隣のリナが心配そうに覗き込んできて、柊は一瞬で表情を戻す。
「…いや、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
そう言って、グラスを口に運ぶ。
「でもさ、楓って昔よりかなり落ち着いたよね」
リナが、空になりかけたジョッキの縁を指でなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。
「院に上がる前は、女の子と一緒にいるとこ、しょっちゅう見かけたけど最近は全然だし」
「ほんとそれ。週替わりで彼女いるのかってくらいだったのに、今はまったく見かけないし」
カズキが笑いながら同意すると、シンヤも面白がるように頷いた。
「しかも、今まで楓が女の子以外でこんなに気にかけてる所、見たことないし」
「ねえ柊、もしかして気づいてない?楓って柊にだけやたら優しいんだけど?」
リナが身を乗り出し、意味ありげににやりと笑う。
「…は?」
素っ気なく返す柊に、シンヤは肩をすくめながらも真顔で続けた。
「いやマジで、俺ら、結構前から気づいてたよ。楓って、柊のことずっと気にしてる」
「そんなわけ……」
反射的に否定する柊に、カズキが首を傾げてみせる。
「いやいや、逆に何でわかんないの?あんなわかりやすい態度で、よく鈍感でいられるなってレベルだよ?」
「ま、柊が一番、楓の気持ちに鈍いよね」
柊は返す言葉を探しながら、視線を落とした。
胸の奥に、何かが引っかかる。
それが何なのか、まだうまく言葉にできなかった。
ジョッキが軽くぶつかり合う音と、ビールの泡のはじける音が混ざった。
テーブルを囲む五人――柊・楓・リナ・シンヤ・カズキは、久々の“夜の外”に少しだけ浮かれていた。
「いやあ…修復作業、本当お疲れ様でした、柊、楓!」
シンヤが勢いよく頭を下げると、横でカズキが笑う。
「いやいや、俺らがやらかした分、全力で巻き返させていただきますんで!」
「次から気をつけてくれればいいよ」
柊は静かに答えた。グラスの端に口をつけ、炭酸の刺激をやや鬱陶しげに受け止める。
「それにしても、やっぱ楓の対応、神だったわ…。あんな状況で冷静に構造掘り起こすとか…」
リナが感嘆を漏らすと、当の楓はにやにやと笑いながら指を立てる。
「ほらな、俺ってやればできる子なんよ。しかも、見た目も中身も優秀とか困っちゃうよね~?」
「そういうとこ」
柊がぼそっと吐き捨てるように呟くと、カズキたちが吹き出した。
「んで、楓。久々の飲み会、どうなん? 女っ気足りなかったりする?」
「えー俺、研究室で十分楽しいよ~?」
と、その時。
「――あれ?ねえ、楓じゃない?」
ふと、少し離れたテーブルから声が飛ぶ。
振り返ると、大学のサークルらしき団体がこちらを見ていた。
「あ、うわ、まじ?あれ楓先輩じゃん!」
「わっ、久しぶりー!え、こっちおいでよ~!」
女子たちの笑い声、賑やかな声、手を振る仕草。
その中心には、以前楓が所属していたサークル仲間たち――顔立ちのいい男子と、可愛らしい女子たちの姿があった。
「おー、やっべ!ちょっと行ってくるわ、顔出さないと殺される!」
楓はあっけらかんと笑い、立ち上がる。
「おい、殺されるって…物騒な…」
「そういうサークルなんだよ~。すぐ戻るから待っててね、柊ちゃーん?」
軽くウインクなんて飛ばして、楓は足早に向こうのテーブルに合流する。
歓声、笑い声、名前を呼ばれる声。女の子のひとりが楓の袖を引っ張っている。
一人がジョッキを持って、無邪気に「一口ちょうだい」なんて言っている。
さらには――
「ねえ楓先輩、今彼女いないってほんとですか?」
「えーうそでしょ! だったら私でもチャンスあるってこと?」
「先輩、今日の服ちょっと反則ですよ。かっこよすぎ!」
わいわいと賑やかなサークルの後輩たちが、楓を囲むようにして笑いかけている。
冗談半分、本気半分。
けれどその中心にいる楓は、誰に対しても軽やかに笑っていた。
それを、柊は――黙って見ていた。
「うわ、さすが楓、なにあの人気っぷり…」
シンヤが感心したように呟いたが、柊は反応しない。
ただグラスの中を見つめながら、氷の音だけが耳に残っていた。
(知ってた。あいつが女子にモテるのなんて。…いまさら、見慣れてるはずだったのに)
けれど、なぜか今日は、胸の奥がちくちくと痛んだ。
あの笑顔が、自分の前で見せるものと違って見える。
声のトーンも、表情も、触れ合う距離さえ――全部、他人に向けられているのが嫌だった。
(俺、…なんで)
理由なんて、わからない。
ただ、湧き上がってくるざらついた感情が、頭の中でノイズのように鳴っている。
「…柊?飲みすぎた?」
隣のリナが心配そうに覗き込んできて、柊は一瞬で表情を戻す。
「…いや、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
そう言って、グラスを口に運ぶ。
「でもさ、楓って昔よりかなり落ち着いたよね」
リナが、空になりかけたジョッキの縁を指でなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。
「院に上がる前は、女の子と一緒にいるとこ、しょっちゅう見かけたけど最近は全然だし」
「ほんとそれ。週替わりで彼女いるのかってくらいだったのに、今はまったく見かけないし」
カズキが笑いながら同意すると、シンヤも面白がるように頷いた。
「しかも、今まで楓が女の子以外でこんなに気にかけてる所、見たことないし」
「ねえ柊、もしかして気づいてない?楓って柊にだけやたら優しいんだけど?」
リナが身を乗り出し、意味ありげににやりと笑う。
「…は?」
素っ気なく返す柊に、シンヤは肩をすくめながらも真顔で続けた。
「いやマジで、俺ら、結構前から気づいてたよ。楓って、柊のことずっと気にしてる」
「そんなわけ……」
反射的に否定する柊に、カズキが首を傾げてみせる。
「いやいや、逆に何でわかんないの?あんなわかりやすい態度で、よく鈍感でいられるなってレベルだよ?」
「ま、柊が一番、楓の気持ちに鈍いよね」
柊は返す言葉を探しながら、視線を落とした。
胸の奥に、何かが引っかかる。
それが何なのか、まだうまく言葉にできなかった。
19
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる