融けないΩに触れたくて

Moma

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「おつかれー!乾杯!!」

ジョッキが軽くぶつかり合う音と、ビールの泡のはじける音が混ざった。
テーブルを囲む五人――柊・楓・リナ・シンヤ・カズキは、久々の“夜の外”に少しだけ浮かれていた。

「いやあ…修復作業、本当お疲れ様でした、柊、楓!」

シンヤが勢いよく頭を下げると、横でカズキが笑う。

「いやいや、俺らがやらかした分、全力で巻き返させていただきますんで!」

「次から気をつけてくれればいいよ」

柊は静かに答えた。グラスの端に口をつけ、炭酸の刺激をやや鬱陶しげに受け止める。

「それにしても、やっぱ楓の対応、神だったわ…。あんな状況で冷静に構造掘り起こすとか…」

リナが感嘆を漏らすと、当の楓はにやにやと笑いながら指を立てる。

「ほらな、俺ってやればできる子なんよ。しかも、見た目も中身も優秀とか困っちゃうよね~?」

「そういうとこ」

柊がぼそっと吐き捨てるように呟くと、カズキたちが吹き出した。

「んで、楓。久々の飲み会、どうなん? 女っ気足りなかったりする?」

「えー俺、研究室で十分楽しいよ~?」

と、その時。

「――あれ?ねえ、楓じゃない?」

ふと、少し離れたテーブルから声が飛ぶ。
振り返ると、大学のサークルらしき団体がこちらを見ていた。

「あ、うわ、まじ?あれ楓先輩じゃん!」

「わっ、久しぶりー!え、こっちおいでよ~!」

女子たちの笑い声、賑やかな声、手を振る仕草。
その中心には、以前楓が所属していたサークル仲間たち――顔立ちのいい男子と、可愛らしい女子たちの姿があった。

「おー、やっべ!ちょっと行ってくるわ、顔出さないと殺される!」

楓はあっけらかんと笑い、立ち上がる。

「おい、殺されるって…物騒な…」

「そういうサークルなんだよ~。すぐ戻るから待っててね、柊ちゃーん?」

軽くウインクなんて飛ばして、楓は足早に向こうのテーブルに合流する。
歓声、笑い声、名前を呼ばれる声。女の子のひとりが楓の袖を引っ張っている。
一人がジョッキを持って、無邪気に「一口ちょうだい」なんて言っている。

さらには――

「ねえ楓先輩、今彼女いないってほんとですか?」

「えーうそでしょ! だったら私でもチャンスあるってこと?」

「先輩、今日の服ちょっと反則ですよ。かっこよすぎ!」

わいわいと賑やかなサークルの後輩たちが、楓を囲むようにして笑いかけている。
冗談半分、本気半分。
けれどその中心にいる楓は、誰に対しても軽やかに笑っていた。

それを、柊は――黙って見ていた。

「うわ、さすが楓、なにあの人気っぷり…」

シンヤが感心したように呟いたが、柊は反応しない。
ただグラスの中を見つめながら、氷の音だけが耳に残っていた。

(知ってた。あいつが女子にモテるのなんて。…いまさら、見慣れてるはずだったのに)

けれど、なぜか今日は、胸の奥がちくちくと痛んだ。

あの笑顔が、自分の前で見せるものと違って見える。
声のトーンも、表情も、触れ合う距離さえ――全部、他人に向けられているのが嫌だった。

(俺、…なんで)

理由なんて、わからない。
ただ、湧き上がってくるざらついた感情が、頭の中でノイズのように鳴っている。

「…柊?飲みすぎた?」

隣のリナが心配そうに覗き込んできて、柊は一瞬で表情を戻す。

「…いや、大丈夫。ちょっと疲れただけ」

そう言って、グラスを口に運ぶ。

「でもさ、楓って昔よりかなり落ち着いたよね」

リナが、空になりかけたジョッキの縁を指でなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。

「院に上がる前は、女の子と一緒にいるとこ、しょっちゅう見かけたけど最近は全然だし」

「ほんとそれ。週替わりで彼女いるのかってくらいだったのに、今はまったく見かけないし」

カズキが笑いながら同意すると、シンヤも面白がるように頷いた。

「しかも、今まで楓が女の子以外でこんなに気にかけてる所、見たことないし」

「ねえ柊、もしかして気づいてない?楓って柊にだけやたら優しいんだけど?」

リナが身を乗り出し、意味ありげににやりと笑う。

「…は?」

素っ気なく返す柊に、シンヤは肩をすくめながらも真顔で続けた。

「いやマジで、俺ら、結構前から気づいてたよ。楓って、柊のことずっと気にしてる」

「そんなわけ……」

反射的に否定する柊に、カズキが首を傾げてみせる。

「いやいや、逆に何でわかんないの?あんなわかりやすい態度で、よく鈍感でいられるなってレベルだよ?」

「ま、柊が一番、楓の気持ちに鈍いよね」

柊は返す言葉を探しながら、視線を落とした。
胸の奥に、何かが引っかかる。
それが何なのか、まだうまく言葉にできなかった。

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