【BL】婚約破棄された薄幸令息、大公子の教育係になって今は幸せです

縁堂幸

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◆ 嫌いにならないで

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 ノエルは夢うつつの中、ノックの音を聞いた。

「ただいまノエル君。入っていい?」

 続いて聞こえてきたジョスランの声にはっと目を開く。帰ってくるまで待つはずがいつの間にか眠ってしまっていたらしい。ノエルは慌てて体を起こし、内扉に向かって返事した。

「駄目です! 入らないでください」
「どうして? 発情期で倒れたと聞いたんだけど」
「今は薬で落ち着いてますので。どうぞ王宮にお戻りください」
「大丈夫ならいいんだ。じゃあ私は戻るから、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

 ジョスランがあっさり王宮に戻ってくれたことに、ノエルは胸を撫でおろした。

 もしかするとグレアム医師が呼びに来た手前、婚約者を放置したと周囲から思われないように帰宅せざるを得なかっただけで、ジョスランもノエルより晩餐会のほうを優先すべきだと思っていたのかもしれない。「薬で抑えたから問題ないと本人に言われて戻ってきた」と説明すれば、ジョスランが薄情な婚約者だと誤解されることもないだろう。

 おかげでゆっくり考える時間ができた。まだ抑制剤も効いている。ひと眠りして頭もすっきりしたことだしと、ノエルはベッドから出て机の上に紙とペンを出した。今のうちに、突発的な発情を阻止するための契約書を作ってしまおう。

 手を繋ぐのは可。ハグも可だが、服を脱ぐのは不可。キスも口の中に侵入してこなければ可。ベッドには座らない寝かさない押し倒さない。同様にソファーの使用も禁止する。

「どこにも抜け道はないよね……?」

 ノエルは契約書の草案を入念に確認した。

 契約書の期限は挙式する日の午前中まで。結婚式が終わるまでは絶対に、ジョスランが好ましいと思ってくれている慎ましやかな自分でいよう。ジョスランに隠し事をするのは気が進まないが、婚約破棄を回避する方法が他に思いつかない。

 もし初夜で早々に本性がばれてしまっても、その時はもう大丈夫。離婚は婚約破棄ほど容易ではない。つまり結婚さえしてしまえばこっちのものなのだ。

 ノエルはいよいよ詐欺師にでもなった気分だ。しかし卑怯な手を使って軽蔑されたとしても、ジョスランの傍に居られなくなるよりずっといい。途端に鼓動が早まって、ノエルは胸に手をあてた。こんなに恋い慕っているのに、自覚がなかったのが今となっては不思議でならない。

――残る問題は、今回の発情期をどう乗り切るかだな。

 本能に負けてジョスランを襲ったらおしまいだと思うと、やはり足りない分の抑制剤を他のバース医師に処方してもらうしかないだろうか。

 でも高位貴族のオメガは数が少なすぎる。ノエル・カルリエだと名乗ればジョスランの婚約者だとばれて、グレアム医師と同じ対応をされるだろう。そうなると偽名を使って町医者にかかるしか……いや。そもそも発情期中にひとりで外出すると言ったら止められてしまう。

 侍従や護衛の目を盗んで屋敷を抜け出すのは無理があるよなと頭を捻るうちに、だんだんと呼吸が苦しくなってきた。注射してもらった抑制剤の効果が切れてしまったらしい。まずは前回余った薬から飲もうと思いながら、ノエルはベッド横の引き出しを開けた。

 しかし中にしまってあるはずの薬瓶はなく、代わりに薬瓶と同じサイズのグレアム医師がノエルを見上げている。

「グレアム先生? ここに抑制剤が入ってませんでした?」
「私のほうで処分させていただきました。バース医師会はパートナーを持つオメガの抑制剤使用を推奨しておりませんので」
「そ、そんな……!」

 抑制剤を処分されてしまった焦りも相まって、呼吸が急激に乱れていく。胸を抑えながらノエルはベッドに倒れ、仰向けに転がった。何故グレアム医師の体が引き出しに入るほど縮んでいるのか。しかしそんなことより、体が重くて熱い。

 ぜいぜいと胸を上下させていたが、ついには口を塞がれているように息ができなくなった。ノエルは酸素を求めて身を捩った。

「――ぷはっ!」

 藻掻もがいた末に突然息が吸えるようになって、ノエルはパッと目を開いた。仰向けに倒れていたノエルに見えるのはベッドの天蓋のはずなのに、視界が銀色の髪で埋め尽くされている。

「あれ……?」
「ああ、ごめんね。君が起きるのを待ちきれなくて」

 つい唇を貪ってしまったのだと、すぐ目の前で顔をあげたのはジョスランだった。

 唾液で湿った唇を指で拭われ、ノエルはしばらくの間呆然とした。ジョスランは貴族会議に出かけるのを見送った時の、礼服をきっちり着込んだままの姿でノエルの上に覆い被さっている。

 なるほど。どうもおかしいと思ったら、引き出しにグレアム医師が入っていたのは夢。急に息苦しくなったのは、ジョスランの唇で口を塞がれたかららしい。

「ただいま婿殿。具合はどうかな?」
「あっ、あの……ノックしました?」
「何度かしたよ? でも反応がなかったから、返事ができないほど苦しんでるのかと思って」

 無事を確認するためのやむを得ない入室だったと言われては、ノエルも納得するしかない。しかし夢の中と違って、幸いにもまだ抑制剤が効いている。

 息苦しさが治まったノエルは、ジョスランの体を押しのけるようにして上体を起こした。

「ジョスラン様。このとおり、私は大丈夫ですので。王宮にお戻りください」
「……おかしいな。歓迎されていると思ったんだけど」

 ジョスランの視線がくるりと辺りを見渡すのを見て、ノエルも同じようにする。そして思い出した。まだ明かりを落としていない部屋で、白いシーツの上には淡いピンク色の花びらが撒かれ、自分が着ているのは買った覚えのない丈の短い寝間着だ。

「あぅ……こ、これは違うんです! 私は何の指示もしていなくて……!」

 ノエルは寝間着の裾を伸ばしながら否定したが、そばにあった花びらを手に取るジョスランは幸いにも機嫌よさそうだ。

「じゃあ誰が準備してくれたのか後で教えて。良い働きをした者には相応の手当てを出さないと」
「は、はい……」

 こんな有様を見たら嫌がられるのではないかと思っていたノエルはほっと息を吐いたが、次の瞬間にはジョスランの手元に釘付けになった。ジョスランが拾った花びらに口づけをしている。

「とても気に入ったよ。この花びら、君の唇の色にそっくりだね」

 そう言われてみると確かに、自分の唇に色が似ている気がする。でも自分がキスされる時は唇が触れあっているので、顔が近すぎてこんなふうにジョスランを視界に収めることはできない。

 銀色の長い睫毛が伏せられ、唇の端は嬉しそうに上を向いている。自分に口づけする時もこんな表情をしているのだろうか。そしてジョスランの首から下は、普段より一段と正式な装い。銀糸の刺繍で彩られた濃紺の礼服に白いマントを纏った姿は、王族の銀髪と相まって絵画から抜け出した王子様のようだ。

 うっとりした気分で眺めていると、ジョスランが唇をつけた花びらを手のひらに乗せ、ふっと息をかけて飛ばしてしまった。

 ノエルはひらりと落ちていく花びらを追って、ジョスランの下を抜け出した。傷つけないようそっと拾って、ベッド横の棚に置く。

「取っておくの?」
「あっ、後で押し花にしようと思って……」

 後ろから抱きついてきたジョスランに、ノエルはふにゃふにゃと説明した。ジョスランが唇をつけた花びらなので、これをしっかり乾かしてしおりを作れば、好きな時にジョスランとキスできるのだと。

 自分にめずらしく良いアイデアだとノエルは思ったのだが、ジョスランの腕に力が入ったのを感じてふと我に返った。ジョスランのことが好きだと自覚してしまったからなのか、それとも抑制剤の効果が薄れてきたのか。今一瞬、本能に負けてとんでもないことをしてしまった気がする。

 ノエルは胸の前で両手を強く握りしめ、手のひらに爪を食い込ませた。痛みで少し頭がはっきりして、やはりおかしくなっていたのだと認識する。ジョスランがキスした花びらを押し花に? しかもそれで栞を作って間接的に口づけを楽しむ? そんなことを本人に言ったら気持ち悪がられるだろう。

 これ以上同じ部屋に居ると危険だと思うも、ジョスランは後ろからさらに強く抱きしめてくる。

「私の婿殿は本当にかわいいね。すぐそばに本物の唇があるのに、そんなもので満足?」
「は、はい。なのでジョスラン様はもう、王宮に……」

 ノエルはジョスランの腕を解こうとして、礼服の袖を掴んだ。その瞬間、覚えのある匂いが辺りを漂った。ベッドに撒かれた花びらの淡い香りとは明らかに違う、薔薇を煮詰めたような匂い。

――これ……アロイスのフェロモンだ。

 ノエルは頭が真っ白になった。ジョスランの服にアロイスのフェロモンが付着している。それはつまり、自分が知らないところで、アロイスの体に触れるような出来事があったということだ。

 そういえば倒れる前、アロイスからの手紙にもジョスランの匂いが微かについていた。あの手紙は何か、ジョスランに関することが書かれていたのだろうか。

 読む前に倒れてしまったので、内容はわからない。しかしノエルは手紙を探そうとは思わなかった。

「⋯⋯やっぱり駄目です。王宮には戻らないでください」

 ジョスランの腕の中で、ノエルは体の向きをくるりと変えた。今すべきことは手紙を探すことではない。アロイスに奪われる前に、ジョスランを自分のものにしなければ。

 ノエルはジョスランのマントを留めている紐をほどいた。そのままてきぱきと飾紐やブローチを外す手際の良さに、ジョスランが軽く目を見開いている。

「おや……婿殿には私の知らない特技があったようだね」
「婿教育で習いましたので」

 返事しながらも、ノエルの手はよどみなく動く。王族や高位貴族の令息ともなると着替えはすべて侍従に任せるものだが、ノエルは王太子婿教育の一環で、侍従の手を借りずとも王太子を素早く着替えさせられるよう指導を受けている。なのでこういう礼服を着せるのも、もちろん脱がせることも得意なのだ。

 礼服の前を開け、その中にあるシャツのボタンも上から順にすべて外す。しかしトラウザーズにのばした手を、ジョスランに掴まれた。

「ねぇノエル君。元の婚約者にも、こういうことをしてあげたの?」
「いえ……」

 返事しながら顔をあげて、ノエルは戦慄した。ジョスランの口元は笑っているが、ノエルを見下ろす双眸は凍るようだ。熱くなっていた頭が一瞬で冷却され、ノエルは自分が何をしたのか速やかに反芻した。

 ジョスランが肩から掛けていたはずの白いマントは畳みもせずベッドの外に放り出され、前をきっちり閉じられていた礼服は下のシャツまでボタンが全部外されている。その隙間からジョスランの胸板と腹筋がのぞき、ノエルの手があるのはさらに下。ジョスランのトラウザーズにかけられている。

 前立てのホックを外そうとしたところをジョスランに止められたのだと理解して、ノエルは真っ青になりながら手を放した。

「ごめんなさい……! 今すぐ、元に戻します」
「質問に答えて。こういうことを私以外にもしたことがあるの?」
「い、いいえ。練習はトルソーで……」

 生身の人間に実践したのは初めてだと弁明しながら、ノエルはジョスランのシャツに手をのばした。

 早く元に戻さないと。でも指が上手く動いてくれない。せっかく途中まで脱がせたのに、どうしてまた服を着せるのか。このアルファを逃す手はないぞと、ノエルの中でオメガの本能が抗議しているのだ。

 ボタンのひとつも満足に閉じられず、ノエルの視界が涙で滲む。

「ご、ごめんなさい……嫌いに、ならないで」

 ノエルはやっとのことで口を動かした。オメガに纏わりつかれるのを嫌うジョスランが、何の断りもなく服を脱がされていい気分になるはずがない。

 おそるおそるジョスランを見上げてみれば思ったとおり、顔に残っていた笑みは消え、新しく眉間に刻まれた皺がいかに不愉快かを物語っている。

「よくわからないよ。どうして私が、君を嫌いになるなんて思うの?」
「だって、こんなはしたないことをしたら……」

 絶対に嫌われてしまう。ジョスランの顔を見ていられずノエルが睫毛を伏せると、目の端からぽろぽろと涙がこぼれた。

 もう取り返しがつかない。こんな人だとは思わなかったよ、結婚する前に本性がわかってよかった、君との婚約は破棄するなんて言われてしまうのだ。

 ノエルは震えながらその時を待ったが、しばしの静寂の後、なぜかくすくすと笑う声が聞こえてきた。どういうことか気になって、ノエルがそろりとまぶたを持ち上げる。

「あの……」
「ああ、ごめんね。君が急に面白いことを言うから」

 くくと喉を鳴らすジョスランは、先程までの冷たさが嘘のように目を細めている。何も面白いことを言ったつもりはないのだがとノエルが理解できないでいると、ジョスランがおもむろにノエルの手を掴んだ。

「君のしたことがはしたないなら、私は君に働いた数々の淫らな行いで王都を追放されてしまうだろうね」

 そう言ったかと思うと、ジョスランはノエルの手を自分の胸板に押し付けた。

「えっ? あの……えっ?」

 急にジョスランの胸を触らされ、ノエルは繰り返し首を傾げた。しかしジョスランはお構いなしにノエルの手を掴んだまま、素肌を撫でさせるように下へ、下へと導いていく。

 平らに盛り上がった胸筋が手のひらに吸いつくような感触。そして腹筋の溝をなぞるようにしてさらに下へ。へそを通り過ぎても、ジョスランはまだ手を止めようとしない。ノエルは自分の手が先程外そうとしたトラウザーズのホックに差しかかるのを見て、ジョスランに訴えた。

「だっ、駄目! こんなの駄目です……!」
「大丈夫。私は嫌がっていないよ。ほら」

 ジョスランはノエルが狼狽うろたえるのを明らかに楽しんでいる。次の瞬間、ぐいと引っ張られたノエルの手は、ジョスランの足の間に押し付けられた。

 トラウザーズ越しに感じるジョスランの熱に、ノエルは驚きではくはくと口を動かすばかりだ。

 これはさすがに、何の経験もないノエルでもわかる。ジョスランの雄はこの状況に期待を膨らませていて、その脈動が手のひらを突きあげるようにして伝わってくる。嫌がっていないどころか、むしろ喜ばれているのだ。

 ノエルの頬が真っ赤に染まっていくのを見て、ジョスランは得意げな顔だ。

「これでわかったかな? 服を脱がせた程度で謝ることはないって」
「ひゃい……大変、わかりやすいご説明で」

 ありがとうございましたとノエルが頭を下げてようやく、ジョスランが手を放してくれた。しかしノエルの手にはまだ、ジョスランの雄が熱くたぎっていた感触が貼りついているようだ。

「まったく。どうして私が嫌がるなんて思ったのかな」
「だ、だって、ジョスラン様は私の控えめな性格がお好みだと……」
「ああそういうことか。私のことを押し倒して、嫌われたと思ったんだね? それで抑制剤に浮気したわけだ」
「えっ?」
「れっきとした浮気だよ。私以外のものを選んだんだから」
「えっと……」

 浮気というのは果たして、薬に対しても成立するのか。しかしノエルが疑問を投げかける間もなく、ジョスランが話を続ける。

「この際だからはっきり言わせてもらうけどね。確かに私は、君の慎ましやかな性格が好きだよ。私が何かする度に驚いて逃げようとするところも可愛い。でもそれがもどかしい時もあるんだ」
「そっ……そうですか……」
「ああ。だから正直言って、今朝の件はとても残念だったよ。せっかく君が誘惑してくれたのに、一旦断るしかなかった。ローランをひとりにしたら、後で君に怒られてしまうだろう?」

 良き父親でいるには耐えがたい苦痛を伴うこともあるのだと話すジョスランは、ノエルが今朝見たのと同じ、苦々しい顔をしている。

「ローランを見送ったら続きをしてもらえると思っていたところに、普通に仕事できると言われてどれほど落胆したか。その時の私の気持ちを、婿殿にもご理解いただきたいよ」
「……はい。理解、しました」

 ノエルが頷いた拍子に、止まっていた涙がまた溢れ出した。

 今朝ジョスランに拒まれたのは、嫌がられたからではなかった。険しい顔をしていたのは、ローランのためにアルファの本能を抑えていただけ。実は続きを期待されていたのだとわかったら、すっかり気が抜けてしまったのだ。

 ジョスランがハンカチで頬を甲斐甲斐しく拭ってくれても、ノエルの涙はなかなか止まらない。

「ごめんね。私が言い過ぎたよ」
「いえ……私が勝手に、勘違いして……」

 迷惑をかけて申し訳ない。こんなふうに泣いて面倒に思われていないだろうかとノエルは様子をうかがったが、どういうわけかジョスランの機嫌はますます良さそうだ。

「嬉しいよ。婿殿はこんなに私のことが好きだったんだね」
「えっ? えっと……」
「好きなんだよね?」
「あの……」
「好きなんだよ。私のことで涙が止まらなくなる程度にはね」

 だから無理して泣き止まなくていいよと、ジョスランがノエルの背中を撫でた。

 本当に不思議だ。嫌われたくないと思って涙が出るのに、嫌われていないとわかったらそれはそれで、安堵の涙が流れるものなのだ。

「……そうなんです。私はジョスラン様のことが好き、なんです」

 わざわざ言わずとも、ジョスランはもう察してくれている。それでもノエルは、口に出して伝えたいと思った。ジョスランが普段、そうしてくれているように。

 しかしいざ好きだと言ってみると思いの外恥ずかしく、照れて目を伏せてしまう。こんなことを真っ直ぐに言えてしまうジョスランに新たな尊敬を覚えていると、ノエルの耳に柔らかいものがちゅっと触れた。

「ありがとう。言葉にしてもらえて、私も安心したよ」

 ジョスランの優しい声に、ノエルの胸の奥がじわりと温まる。目を開ければいつの間にか涙が止まっていた。

「もう大丈夫そうだね」
「はい⋯⋯」

 涙のほうはおさまったのだが、今度は体がそわそわし始めた。今すぐジョスランに触れたくてたまらない。けれど先程まで恐ろしかった本能も、もう怖くない。相手が喜んでいるのだから早く続きをしてやらなくてどうするのだと、背中をぐいぐいと押されている心地だ。

 ノエルの熱い視線を感じ取ったのか、ジョスランはノエルの体をひょいと抱き上げて、自分の膝に跨がらせた。

「君が次にすべきことはわかる? 私は今朝、婿殿の可愛い誘惑に打ち勝って父親の務めを果たした英雄なんだけど」

 何かしらの褒美を与えられて然りだとジョスランが誇らしそうな顔で言うので、ノエルは思わず笑ってしまった。

「うふふ……今朝の続きをするのはご褒美になりますか?」
「さすが私の婿殿。私が何よりも欲しかったものを授けてくれるんだね」

 もう拒まれることはないのだと、ノエルはジョスランの両肩に手をやって、そっと押した。ジョスランの体がベッドに沈んだ反動で、シーツに撒かれた花びらがふわりと宙を舞う。

 ちょうど今朝、ノエルが押し倒したのと同じ格好。ジョスランが待ちかねた様子で、ノエルに向かって両腕を広げる。

「さあどうぞ。婿殿の好きなように」

 私の体は君のものだよと言われて、ノエルは迷うことなくジョスランの胸に飛び込んだのだった。
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