悠久の蹄跡-Eternal Hoofprints-

こおえい

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第2章:現代の息吹

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現代の日本。都市の喧騒から離れた、緑豊かな丘陵地帯に、蒼真はいた。彼は乗馬クラブの厩舎で、古びた馬具の手入れをしながら、どこか遠い目をして窓の外を眺めていた。彼の指先は、馬の毛並みを撫でるように繊細で、その瞳には、常に深い憂いが宿っていた。幼い頃から、蒼真は奇妙な夢を見ていた。広大な草原を、風のように駆け抜ける夢。隣にはいつも、漆黒の毛並みを持つ、気高き馬がいた。目覚めれば、その夢の残像は薄れていくが、胸に残る切ないほどの郷愁だけは、決して消えることはなかった。彼は言葉少なで、人との交流を避ける傾向があったが、馬と向き合う時だけは、その表情が和らぎ、まるで彼らと直接言葉を交わしているかのように見えた。彼の周りの人々は、それを「馬への深い愛情」と解釈したが、蒼真自身は、もっと根源的な、説明のつかない繋がりを感じていた。

詩織
同じ乗馬クラブで働く詩織は、蒼真とは対照的に、情熱的で、常に明るい笑顔を絶やさない女性だった。彼女の行動は常に馬への深い愛情に裏打ちされており、どんなに疲れていても、馬たちの世話を怠ることはなかった。詩織もまた、幼い頃から馬に特別な感情を抱いていた。初めて馬の背に乗った時、まるで自分の居場所を見つけたかのような、強い安堵感を覚えたのだ。彼女は、馬の僅かな仕草や表情から、その感情を読み取ることができた。しかし、時折、彼女の心に、漠然とした焦燥感が湧き上がることがあった。何か大切なものを忘れているような、あるいは、何か大きな使命が自分を待っているような、そんな感覚だった。

運命的な再会
蒼真と詩織は、同じ職場で働きながらも、互いに深く関わることはなかった。蒼真は自ら壁を作り、詩織もまた、彼の内向的な性格を尊重していた。しかし、運命は彼らを、否応なく引き合わせようとしていた。

ある日の夕暮れ時、クラブの最も古株の馬、老いたサラブレッド「アース」が、突然体調を崩した。長年多くの人々に愛されてきたアースは、獣医も首を傾げるほどの原因不明の衰弱を見せていた。誰もが諦めかけたその時、蒼真はアースの傍らに膝をつき、その首筋に額を押し当てた。すると、アースの荒い息遣いが、少しずつ穏やかになっていく。その光景を、詩織は息を呑んで見つめていた。蒼真の手から、まるで温かい光がアースへと注ぎ込まれているかのようだった。アースの瞳が、蒼真を見つめ、そして、その視線は詩織へと向けられた。その瞬間、詩織の胸に、激しいデジャヴュが走った。まるで、遠い昔に見た光景が、目の前で再現されているかのような感覚。そして、アースの瞳の奥に、見覚えのある、しかし決して思い出せない、懐かしい光が宿っているように感じた。

前世の記憶の片鱗
アースの回復をきっかけに、蒼真と詩織は、互いに心を開き始めた。共にアースの世話をする中で、彼らは奇妙な共通点に気づく。同じ夢、同じデジャヴュ、そして、特定の馬たちに抱く、説明のつかない親近感。特に、アースは、彼らが共にいる時にだけ、まるで何かを語りかけるかのように、特別な反応を見せた。

ある日、詩織は乗馬クラブの古い書庫で、埃を被った一冊の古文書を見つけた。それは、馬の家畜化の歴史と、それを巡る太古の儀式について記された、奇妙なシンボルが描かれたものだった。古文書の記述は断片的で、理解しがたいものだったが、詩織はそこに、夢で見た草原の情景と、アースの瞳の光が繋がっているような、漠然とした感覚を覚えた。

詩織は古文書を蒼真に見せた。蒼真は、そのシンボルを見た瞬間、頭の中に激しい痛みが走るのを感じた。それは、まるで閉ざされた記憶の扉が、無理やりこじ開けられようとしているかのような感覚だった。彼の脳裏に、広大な草原を駆ける二頭の馬の姿が鮮明に浮かび上がった。一頭は漆黒、もう一頭は栗毛。そして、その二頭の馬の魂が、自分と詩織の魂と重なるような、不思議な感覚に襲われた。

覚醒と使命の予兆
古文書の解読を進めるうちに、彼らは驚くべき事実に直面する。そこに記されていたのは、太古の昔、馬がまだ野生であった頃の記述。そして、その時代に、特別な絆で結ばれた二頭の馬がいたこと。さらに、その二頭の馬の魂が、時を超えて転生を繰り返しているという、信じがたい内容だった。

「…まさか、私たちが…?」詩織の声が震えた。

蒼真は、古文書に描かれたシンボルと、夢で見た情景、そしてアースの瞳の光が、全て繋がっていることを確信した。彼らは、前世で特別な絆で結ばれた馬であったのだ。そして、古文書の最後のページには、遠い未来に訪れる地球の危機と、それを救う鍵が「馬の魂」にあることが示唆されていた。

彼らの心に、漠然とした使命感が芽生えた。それは、単なる偶然の出会いではなかった。悠久の時を超えて、彼らは再び巡り合った。そして、その再会は、地球の未来を左右する、壮大な物語の始まりを告げるものだった。彼らの魂は、今、静かに覚醒の時を迎えていた。
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