11 / 101
第1章 弟子の魔法使いは魔法学校を受験する(普通科だけど)
第10話 帰省最後は決別の言葉(そして弟子はテンプレを……)。
しおりを挟む
「逃したか。まぁ、しょうがないか」
戦いが終わったのを確認して、『融合武器』であるライフルを解除。
さらに『魔力・融合化』も解除すると、加速していた思考や五感が元に戻る。
活性化していた魔力も二つに分離して、代償として体力が急激に消耗するが、そこは『気』で補うのでどうにかなっている。
「けど、まだまだか」
やはり『気』に関しては、肉体と少なからず比例されてしまう。
異世界ダンジョンの時は肉体も鍛えてたから『気』も自由に使えたが、こちらに戻った際に師匠に施された『封印』の影響で、肉体が元に戻った際に『気』もある程度弱まってしまった。
「封印を解けば使えるが、まだまだ難しいラインか。時間を掛けて他の封印と一緒にいつでも解けるようにしないと……」
その為にはやはり『ダンジョン』。
想定外な事態が起きたが、無事に親父からカードを手に入れた。
あとは受験だが、俺が受けるのはあくまで普通科。筆記が重視だと聞いているから、まず落とすことはない。
魔法使いからしたら自慢にもならないが、一般学に関しては優等生の自信があった。
「さっさと家に帰りたい。ところだが……」
「見つけた!」
「はぁ……もう来たのか桜香」
追いかけて来た桜香を見て、思わず溜息を吐く。
遠くからマドカの意図を読んで、長距離から援護射撃をしようとしたが、近くにいた桜香や緋奈が邪魔過ぎた。
なので“風魔”の超速移動で場所を移して、適当な建物の屋上から狙ったが、もう嗅ぎ付けたらしい。
まだ緋奈はいないが、アイツの『派生属性』、『特殊魔法』を考えるならいつ来てもおかしくない。神出鬼没とは違うが……。
「さぁ刃! 全部話してもら……っ」
「そうだな。俺も少しだけ話そうか」
こいつを黙らせればいい。なんて思ったからか、振り返った俺を見た桜香の表情が凍り付いた。
「なぁ桜香。お前の中じゃ俺は……まだあの頃のままなのか?」
「え……?」
「魔法もロクに使えない。弱者でしかない。幼馴染であることが恥ずかしいくらいの存在か?」
「──っ」
別に睨んでいないし殺気も発していないが、少し話をして出て行く俺を今度は止めようとしなかった。
「で、別れの挨拶は済ませましたか?」
「挨拶かどうかは置いといて、決別はハッキリ言ってきた」
先に駅で待っていたマドカと合流した。
あの騒ぎの所為で少し遅れていたようだが、今は正常に運転していた。
「終わったようですね」
「遅くなった。押し付けた感じで悪いかったなマドカ」
「いえ、勝手に出た私の責任です。そちらも大分手こずったようですが……」
「……」
特に返答は返さず、目的の電車が来ると一緒に街を後にした。
「あ、お土産を買い忘れました」
「駅の店を利用すれば大抵はある。適当に饅頭でも買って帰ろう」
地元の駅前の店を思い出してマドカに告げる。
既に外は夕日が出ており、眩しい赤い故郷が視界に映り込む中、マドカにも聞こえない声で刃は小さく呟いた。
「……もう何でもない。俺にとって、アイツ等もこの景色と同じ……ただの背景でしかない」
思ったよりも過去の絆とは脆いのだと痛感した。
既に壊れてただけかもしれないが……。
『だ、だって貴方は、貴方には魔法の才能が無い筈なのに、こんなこと……出来るわけが……』
……同じだ。こいつはずっと同じ事しか言ってない。過去の俺の事と現在の俺の事をただグルグル見て回っているだけだ。
別に否定して欲しかった訳じゃない。今さら否定されても困るだけだ。
寧ろ強く肯定された方が未練も何も残らないと思った。いつもの強気な発言でもしてくれたらバッサリと切り捨てれた。なのに……。
『なんでハッキリ言えないんだよ。ちゃんと言えよ。殺気も出してないのに、俺なんかに何ビビってんだよ……! アレから五年も経ってんるんだぞ。魔法抜きにしても、俺だって色々変わるに決まってるだろうが……!』
『……っ!』
怯えたような桜香の反応が無性に腹が立った。
たとえ相手が格上でも決して怯まない。あんなに芯の強かった筈の女が見る影もない。
昔とは違う。ただ俺が向き合っただけでこいつは臆した。
昔とは違う。睨まれても反応を示さない俺を別人でも見る目で驚く。
『才能が無いことくらいとっく昔に分かっていた事実だろう。それを別の方法で補っただけで戦闘中に一々驚くなよ。非常事態中に一々訊こうとするなよ。警務部隊のエースがなんてザマだっ!』
認めたくない。俺なんかの存在で臆してしまう不甲斐ない桜香の姿なんか……。
気付きたくない。桜香の中で未だに過去の俺が邪魔をしているのかもしれないことを……。
『五年間も何してたんだよ……! お前の中じゃ俺はまだ無力なガキのままなのか……?』
そっちから決別したのに、なんでまだお前の中に俺が居るんだよ。なんの為に離れたんだよ。
頼むからもう忘れてくれよ。前を向いて進んでくれよ。
『いつまでも過去にこだわる奴らに用はない』
俺が憧れて、そして諦めた道を……。
こんなところで挫いている場合じゃないだろう。
俺の事なんか、俺の事なんかもう……。
『もう俺が進む道はお前たちとは違う。また邪魔するなら今度こそは容赦しない』
最後に忠告しておいたが、果たしてちゃんとアイツの耳に届いたか。
途中から真っ青になった桜香の顔を思い出して、俺はまだ面倒な波乱は続きそうだと暗雲漂う未来にそっと目を閉じた。
「あの、桜香姉さん……?」
「大丈夫、心配しないで……」
あとの始末は父の部下が請け負うことになり、流石に疲れていた緋奈と桜香は一緒に帰宅の途中であった。
(絶対に何かあったんだ。私が到着する前に……)
一応父から車を用意すると言われたが、丁重に断った桜香を見て、少し心配になり自分も付いていた。
目立った外傷は見られないが、追い掛けた兄の刃と何かあったのだろうと、内心想像は付いていた。
(お父様の話じゃ証明カードが目的で、あの場所に駆け付けたのもお父様への連絡を隣で聞いたからかもしれないけど。……どうして兄さんがあの魔物と?)
疑問はそれだけじゃない。伝説級の魔物二体を圧倒した桁外れな剛力、初級魔法だけで撃ち落として、武器へ形態変化させる高等技術。謎だらけで本当にあの兄なのかと疑ってしまった程だ。
(電話で報告した際の反応からして、お父様は知らなかったみたいだけど、何か引っ掛かる……。お父様も桜香姉さんも何か隠してる)
少し遅れて緋奈が駆け付けた頃には、兄の姿はなかった。
代わりに呆然と立ち尽くしていた桜香の姿があったが、その表情は青ざめて見るからに暗く、普段の活発な彼女の面影が欠片もなかった。
「ご苦労。では安全が確認出来次第、避難勧告も解除していい。ああ、それで任せる」
部下への電話を切ると、刃の父である拳は椅子の背もたれに身を預けた。
疲れたように息を吐いてテーブルのお茶を味わう。視線の端でモグモグと街でも高い饅頭を食べている四条尊へ目を向けた。
「それで君は見ているだけか、尊君?」
「オレが手を出さなくても、今のジンなら誰にも負けないと思ったからですよ。魔物でも人でも」
口の中の饅頭をお茶で流し込んで答える。最初は刃を追い掛けようとしたのに何故か戻って来た。
拳も不思議そうに思いながら連絡しないといけない事が山のようにあった為、仕方なく放置して今に至るが……。
「どうしてそう思ったか、参考までに訊いてもいいかな? もしかして刃自身から何か聞かされている?」
「受験先を聞かされただけですよ。大広間の時に少しだけ小競り合いに巻き込んでしまいましたが、異様な頑丈な手だと思った程度ですし。オレが確信したのは、飛んで立ち去った時のアイツの輝きの色……」
昔からそうだった。
火の神を祀る神社の生まれが影響したか、尊の瞳は『心眼』のようなチカラが宿るようになっていた。
人の真奥を見極める瞳。幼少期から過度に人見知りだったのもこれが原因だったが、そのお陰で刃のことをいっそう信頼出来るようになった切っ掛けとも言えたが……。
「受験先? 何の話だそれは?」
拳が耳を疑ったのは最初の発言である。
大広間での件は途中から見て聞いたので知っているが、受験の話は拳も初耳である。
「あれ? さっき聞いたんじゃないんですか? 魔法学園に受験したいからジンはカードを求めたんですよ?」
一言も聞いてないぞ。そんな重大な話は……と不満を口にしなかったのは、魔物襲来などの非常事態が重なった所為だと理解しているからだ。いや、それがあっても刃が正直に話したか疑わしいところであるが。
「その話、もう少し詳しく聞いてもいいかい?」
どちらにしても、無視していい事案ではなかった。
既にカードを渡した後で祖父からの忠告もあるが、それでも最低限何処の魔法学園を狙っているかだけは知る必要があった。
そして魔物の調査の裏で、密かに刃の事を調べていたが、しばらくして思わぬ事件が舞い込んで来る。
あの『ダメージ・管理センター』の関係者の事情を聞いている中、何故か行方不明になっていた人物。
正月の大広間で騒ぎを起こして、逃げたままであった佐野の死体が発見された。
場所は廃墟のビルの中、外傷は殆どなかったが、心臓が破壊されており、犯人の手掛かりは魔法使いということしか分からなかった。
*作者のコメント*
帰還の際、刃は師匠にいくつか封印を施されて戻って来ている。
修業期間中に元々宿していた魔力だけじゃなく、異世界の魔力も宿すようになったことで、彼の肉体や魔力体が大きく変化したのが切っ掛けである。
その内の一つが『融合』のスキル。
初めは師匠の融合魔法を覚えていたが、いつしか『スキル』としてその技法を会得して、師匠とは別種の融合技法を会得した。
別種と言っても師匠の技術が使えない訳ではないが、さらに精密的に『魔法融合』『魔力・融合化』が使えるようになって、帰還直後では反動が大きい為に封印対象となった。
二つ目が『継承された神ノ刃』の白金の聖剣。
師匠の愛用する伝説級の聖剣の欠片から作られた物だが、余りに危険過ぎるために普段は特殊な異次元の中に収納されている。
白金の刃には三つのSランクの魔石が埋め込まれて、派生属性の【聖属性】【天地属性】、【時空属性】の順に入っている。
強力なチカラが宿っているが、展開時間や発動回数に限りがあるので、上手く使い分ける必要がある。
三つ目は肉体の若返り、異世界に行く前に戻すこと。
帰還の際に混乱を避ける為に施された時を戻すタイプの封印魔法である。
解除されると本来の姿に戻ることができるだけでなく、鍛えられた『気』も復活する。
こちらも他の封印の悪影響になる恐れがあるので、不用意の封印は控えている。
戦いが終わったのを確認して、『融合武器』であるライフルを解除。
さらに『魔力・融合化』も解除すると、加速していた思考や五感が元に戻る。
活性化していた魔力も二つに分離して、代償として体力が急激に消耗するが、そこは『気』で補うのでどうにかなっている。
「けど、まだまだか」
やはり『気』に関しては、肉体と少なからず比例されてしまう。
異世界ダンジョンの時は肉体も鍛えてたから『気』も自由に使えたが、こちらに戻った際に師匠に施された『封印』の影響で、肉体が元に戻った際に『気』もある程度弱まってしまった。
「封印を解けば使えるが、まだまだ難しいラインか。時間を掛けて他の封印と一緒にいつでも解けるようにしないと……」
その為にはやはり『ダンジョン』。
想定外な事態が起きたが、無事に親父からカードを手に入れた。
あとは受験だが、俺が受けるのはあくまで普通科。筆記が重視だと聞いているから、まず落とすことはない。
魔法使いからしたら自慢にもならないが、一般学に関しては優等生の自信があった。
「さっさと家に帰りたい。ところだが……」
「見つけた!」
「はぁ……もう来たのか桜香」
追いかけて来た桜香を見て、思わず溜息を吐く。
遠くからマドカの意図を読んで、長距離から援護射撃をしようとしたが、近くにいた桜香や緋奈が邪魔過ぎた。
なので“風魔”の超速移動で場所を移して、適当な建物の屋上から狙ったが、もう嗅ぎ付けたらしい。
まだ緋奈はいないが、アイツの『派生属性』、『特殊魔法』を考えるならいつ来てもおかしくない。神出鬼没とは違うが……。
「さぁ刃! 全部話してもら……っ」
「そうだな。俺も少しだけ話そうか」
こいつを黙らせればいい。なんて思ったからか、振り返った俺を見た桜香の表情が凍り付いた。
「なぁ桜香。お前の中じゃ俺は……まだあの頃のままなのか?」
「え……?」
「魔法もロクに使えない。弱者でしかない。幼馴染であることが恥ずかしいくらいの存在か?」
「──っ」
別に睨んでいないし殺気も発していないが、少し話をして出て行く俺を今度は止めようとしなかった。
「で、別れの挨拶は済ませましたか?」
「挨拶かどうかは置いといて、決別はハッキリ言ってきた」
先に駅で待っていたマドカと合流した。
あの騒ぎの所為で少し遅れていたようだが、今は正常に運転していた。
「終わったようですね」
「遅くなった。押し付けた感じで悪いかったなマドカ」
「いえ、勝手に出た私の責任です。そちらも大分手こずったようですが……」
「……」
特に返答は返さず、目的の電車が来ると一緒に街を後にした。
「あ、お土産を買い忘れました」
「駅の店を利用すれば大抵はある。適当に饅頭でも買って帰ろう」
地元の駅前の店を思い出してマドカに告げる。
既に外は夕日が出ており、眩しい赤い故郷が視界に映り込む中、マドカにも聞こえない声で刃は小さく呟いた。
「……もう何でもない。俺にとって、アイツ等もこの景色と同じ……ただの背景でしかない」
思ったよりも過去の絆とは脆いのだと痛感した。
既に壊れてただけかもしれないが……。
『だ、だって貴方は、貴方には魔法の才能が無い筈なのに、こんなこと……出来るわけが……』
……同じだ。こいつはずっと同じ事しか言ってない。過去の俺の事と現在の俺の事をただグルグル見て回っているだけだ。
別に否定して欲しかった訳じゃない。今さら否定されても困るだけだ。
寧ろ強く肯定された方が未練も何も残らないと思った。いつもの強気な発言でもしてくれたらバッサリと切り捨てれた。なのに……。
『なんでハッキリ言えないんだよ。ちゃんと言えよ。殺気も出してないのに、俺なんかに何ビビってんだよ……! アレから五年も経ってんるんだぞ。魔法抜きにしても、俺だって色々変わるに決まってるだろうが……!』
『……っ!』
怯えたような桜香の反応が無性に腹が立った。
たとえ相手が格上でも決して怯まない。あんなに芯の強かった筈の女が見る影もない。
昔とは違う。ただ俺が向き合っただけでこいつは臆した。
昔とは違う。睨まれても反応を示さない俺を別人でも見る目で驚く。
『才能が無いことくらいとっく昔に分かっていた事実だろう。それを別の方法で補っただけで戦闘中に一々驚くなよ。非常事態中に一々訊こうとするなよ。警務部隊のエースがなんてザマだっ!』
認めたくない。俺なんかの存在で臆してしまう不甲斐ない桜香の姿なんか……。
気付きたくない。桜香の中で未だに過去の俺が邪魔をしているのかもしれないことを……。
『五年間も何してたんだよ……! お前の中じゃ俺はまだ無力なガキのままなのか……?』
そっちから決別したのに、なんでまだお前の中に俺が居るんだよ。なんの為に離れたんだよ。
頼むからもう忘れてくれよ。前を向いて進んでくれよ。
『いつまでも過去にこだわる奴らに用はない』
俺が憧れて、そして諦めた道を……。
こんなところで挫いている場合じゃないだろう。
俺の事なんか、俺の事なんかもう……。
『もう俺が進む道はお前たちとは違う。また邪魔するなら今度こそは容赦しない』
最後に忠告しておいたが、果たしてちゃんとアイツの耳に届いたか。
途中から真っ青になった桜香の顔を思い出して、俺はまだ面倒な波乱は続きそうだと暗雲漂う未来にそっと目を閉じた。
「あの、桜香姉さん……?」
「大丈夫、心配しないで……」
あとの始末は父の部下が請け負うことになり、流石に疲れていた緋奈と桜香は一緒に帰宅の途中であった。
(絶対に何かあったんだ。私が到着する前に……)
一応父から車を用意すると言われたが、丁重に断った桜香を見て、少し心配になり自分も付いていた。
目立った外傷は見られないが、追い掛けた兄の刃と何かあったのだろうと、内心想像は付いていた。
(お父様の話じゃ証明カードが目的で、あの場所に駆け付けたのもお父様への連絡を隣で聞いたからかもしれないけど。……どうして兄さんがあの魔物と?)
疑問はそれだけじゃない。伝説級の魔物二体を圧倒した桁外れな剛力、初級魔法だけで撃ち落として、武器へ形態変化させる高等技術。謎だらけで本当にあの兄なのかと疑ってしまった程だ。
(電話で報告した際の反応からして、お父様は知らなかったみたいだけど、何か引っ掛かる……。お父様も桜香姉さんも何か隠してる)
少し遅れて緋奈が駆け付けた頃には、兄の姿はなかった。
代わりに呆然と立ち尽くしていた桜香の姿があったが、その表情は青ざめて見るからに暗く、普段の活発な彼女の面影が欠片もなかった。
「ご苦労。では安全が確認出来次第、避難勧告も解除していい。ああ、それで任せる」
部下への電話を切ると、刃の父である拳は椅子の背もたれに身を預けた。
疲れたように息を吐いてテーブルのお茶を味わう。視線の端でモグモグと街でも高い饅頭を食べている四条尊へ目を向けた。
「それで君は見ているだけか、尊君?」
「オレが手を出さなくても、今のジンなら誰にも負けないと思ったからですよ。魔物でも人でも」
口の中の饅頭をお茶で流し込んで答える。最初は刃を追い掛けようとしたのに何故か戻って来た。
拳も不思議そうに思いながら連絡しないといけない事が山のようにあった為、仕方なく放置して今に至るが……。
「どうしてそう思ったか、参考までに訊いてもいいかな? もしかして刃自身から何か聞かされている?」
「受験先を聞かされただけですよ。大広間の時に少しだけ小競り合いに巻き込んでしまいましたが、異様な頑丈な手だと思った程度ですし。オレが確信したのは、飛んで立ち去った時のアイツの輝きの色……」
昔からそうだった。
火の神を祀る神社の生まれが影響したか、尊の瞳は『心眼』のようなチカラが宿るようになっていた。
人の真奥を見極める瞳。幼少期から過度に人見知りだったのもこれが原因だったが、そのお陰で刃のことをいっそう信頼出来るようになった切っ掛けとも言えたが……。
「受験先? 何の話だそれは?」
拳が耳を疑ったのは最初の発言である。
大広間での件は途中から見て聞いたので知っているが、受験の話は拳も初耳である。
「あれ? さっき聞いたんじゃないんですか? 魔法学園に受験したいからジンはカードを求めたんですよ?」
一言も聞いてないぞ。そんな重大な話は……と不満を口にしなかったのは、魔物襲来などの非常事態が重なった所為だと理解しているからだ。いや、それがあっても刃が正直に話したか疑わしいところであるが。
「その話、もう少し詳しく聞いてもいいかい?」
どちらにしても、無視していい事案ではなかった。
既にカードを渡した後で祖父からの忠告もあるが、それでも最低限何処の魔法学園を狙っているかだけは知る必要があった。
そして魔物の調査の裏で、密かに刃の事を調べていたが、しばらくして思わぬ事件が舞い込んで来る。
あの『ダメージ・管理センター』の関係者の事情を聞いている中、何故か行方不明になっていた人物。
正月の大広間で騒ぎを起こして、逃げたままであった佐野の死体が発見された。
場所は廃墟のビルの中、外傷は殆どなかったが、心臓が破壊されており、犯人の手掛かりは魔法使いということしか分からなかった。
*作者のコメント*
帰還の際、刃は師匠にいくつか封印を施されて戻って来ている。
修業期間中に元々宿していた魔力だけじゃなく、異世界の魔力も宿すようになったことで、彼の肉体や魔力体が大きく変化したのが切っ掛けである。
その内の一つが『融合』のスキル。
初めは師匠の融合魔法を覚えていたが、いつしか『スキル』としてその技法を会得して、師匠とは別種の融合技法を会得した。
別種と言っても師匠の技術が使えない訳ではないが、さらに精密的に『魔法融合』『魔力・融合化』が使えるようになって、帰還直後では反動が大きい為に封印対象となった。
二つ目が『継承された神ノ刃』の白金の聖剣。
師匠の愛用する伝説級の聖剣の欠片から作られた物だが、余りに危険過ぎるために普段は特殊な異次元の中に収納されている。
白金の刃には三つのSランクの魔石が埋め込まれて、派生属性の【聖属性】【天地属性】、【時空属性】の順に入っている。
強力なチカラが宿っているが、展開時間や発動回数に限りがあるので、上手く使い分ける必要がある。
三つ目は肉体の若返り、異世界に行く前に戻すこと。
帰還の際に混乱を避ける為に施された時を戻すタイプの封印魔法である。
解除されると本来の姿に戻ることができるだけでなく、鍛えられた『気』も復活する。
こちらも他の封印の悪影響になる恐れがあるので、不用意の封印は控えている。
10
あなたにおすすめの小説
(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。
人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。
それからおよそ20年。
ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。
ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。
そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。
ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。
次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。
そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。
ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。
採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。
しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。
そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。
そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。
しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。
そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。
本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。
そうして始まった少女による蹂躙劇。
明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。
こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような……
※カクヨムにて先行公開しています。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる