神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜

ルド

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第1章 弟子の魔法使いは魔法学校を受験する(普通科だけど)

第10話 帰省最後は決別の言葉(そして弟子はテンプレを……)。

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「逃したか。まぁ、しょうがないか」

 戦いが終わったのを確認して、『融合武器』であるライフルを解除。
 さらに『魔力・融合化』も解除すると、加速していた思考や五感が元に戻る。
 活性化していた魔力も二つに分離して、代償として体力が急激に消耗するが、そこは『気』で補うのでどうにかなっている。

「けど、まだまだか」

 やはり『気』に関しては、肉体と少なからず比例されてしまう。
 異世界ダンジョンの時は肉体も鍛えてたから『気』も自由に使えたが、こちらに戻った際に師匠に施された『封印』の影響で、肉体が元に戻った際に『気』もある程度弱まってしまった。

「封印を解けば使えるが、まだまだ難しいラインか。時間を掛けて他の封印と一緒にいつでも解けるようにしないと……」

 その為にはやはり『ダンジョン』。
 想定外な事態が起きたが、無事に親父からカードを手に入れた。
 あとは受験だが、俺が受けるのはあくまで普通科。筆記が重視だと聞いているから、まず落とすことはない。
 魔法使いからしたら自慢にもならないが、一般学に関しては優等生の自信があった。

「さっさと家に帰りたい。ところだが……」
「見つけた!」
「はぁ……もう来たのか桜香」

 追いかけて来た桜香を見て、思わず溜息を吐く。
 遠くからマドカの意図を読んで、長距離から援護射撃をしようとしたが、近くにいた桜香や緋奈が邪魔過ぎた。
 なので“風魔”の超速移動で場所を移して、適当な建物の屋上から狙ったが、もう嗅ぎ付けたらしい。

 まだ緋奈はいないが、アイツの『派生属性』、『特殊魔法』を考えるならいつ来てもおかしくない。神出鬼没とは違うが……。

「さぁ刃! 全部話してもら……っ」
「そうだな。俺も少しだけ話そうか」

 こいつを黙らせればいい。なんて思ったからか、振り返った俺を見た桜香の表情が凍り付いた。

「なぁ桜香。お前の中じゃ俺は……まだあの頃のままなのか?」
「え……?」
「魔法もロクに使えない。弱者でしかない。幼馴染であることが恥ずかしいくらいの存在か?」
「──っ」

 別に睨んでいないし殺気も発していないが、少し話をして出て行く俺を今度は止めようとしなかった。




「で、別れの挨拶は済ませましたか?」
「挨拶かどうかは置いといて、決別はハッキリ言ってきた」

 先に駅で待っていたマドカと合流した。
 あの騒ぎの所為で少し遅れていたようだが、今は正常に運転していた。

「終わったようですね」
「遅くなった。押し付けた感じで悪いかったなマドカ」
「いえ、勝手に出た私の責任です。そちらも大分手こずったようですが……」
「……」

 特に返答は返さず、目的の電車が来ると一緒に街を後にした。

「あ、お土産を買い忘れました」
「駅の店を利用すれば大抵はある。適当に饅頭でも買って帰ろう」

 地元の駅前の店を思い出してマドカに告げる。
 既に外は夕日が出ており、眩しい赤い故郷が視界に映り込む中、マドカにも聞こえない声で刃は小さく呟いた。

「……もう何でもない。俺にとって、アイツ等もこの景色と同じ……ただの背景でしかない」

 思ったよりも過去の絆とは脆いのだと痛感した。
 既に壊れてただけかもしれないが……。

『だ、だって貴方は、貴方には魔法の才能が無い筈なのに、こんなこと……出来るわけが……』

 ……同じだ。こいつはずっと同じ事しか言ってない。過去の俺の事と現在の俺の事をただグルグル見て回っているだけだ。

 別に否定して欲しかった訳じゃない。今さら否定されても困るだけだ。
 寧ろ強く肯定された方が未練も何も残らないと思った。いつもの強気な発言でもしてくれたらバッサリと切り捨てれた。なのに……。

『なんでハッキリ言えないんだよ。ちゃんと言えよ。殺気も出してないのに、俺なんかに何ビビってんだよ……! アレから五年も経ってんるんだぞ。魔法抜きにしても、俺だって色々変わるに決まってるだろうが……!』
『……っ!』

 怯えたような桜香の反応が無性に腹が立った。
 たとえ相手が格上でも決して怯まない。あんなに芯の強かった筈の女が見る影もない。

 昔とは違う。ただ俺が向き合っただけでこいつは臆した。
 昔とは違う。睨まれても反応を示さない俺を別人でも見る目で驚く。

『才能が無いことくらいとっく昔に分かっていた事実だろう。それを別の方法で補っただけで戦闘中に一々驚くなよ。非常事態中に一々訊こうとするなよ。警務部隊のエースがなんてザマだっ!』

 認めたくない。俺なんかの存在で臆してしまう不甲斐ない桜香の姿なんか……。
 気付きたくない。桜香の中で未だに過去の俺が邪魔をしているのかもしれないことを……。

『五年間も何してたんだよ……! お前の中じゃ俺はまだ無力なガキのままなのか……?』

 そっちから決別したのに、なんでまだお前の中に俺が居るんだよ。なんの為に離れたんだよ。
 頼むからもう忘れてくれよ。前を向いて進んでくれよ。

『いつまでも過去にこだわる奴らに用はない』

 俺が憧れて、そして諦めた道を……。
 こんなところで挫いている場合じゃないだろう。
 俺の事なんか、俺の事なんかもう……。

『もう俺が進む道はお前たちとは違う。また邪魔するなら今度こそは容赦しない』

 最後に忠告しておいたが、果たしてちゃんとアイツの耳に届いたか。
 途中から真っ青になった桜香の顔を思い出して、俺はまだ面倒な波乱は続きそうだと暗雲漂う未来にそっと目を閉じた。
 



「あの、桜香姉さん……?」
「大丈夫、心配しないで……」

 あとの始末は父の部下が請け負うことになり、流石に疲れていた緋奈と桜香は一緒に帰宅の途中であった。

(絶対に何かあったんだ。私が到着する前に……)

 一応父から車を用意すると言われたが、丁重に断った桜香を見て、少し心配になり自分も付いていた。
 目立った外傷は見られないが、追い掛けた兄の刃と何かあったのだろうと、内心想像は付いていた。

(お父様の話じゃ証明カードが目的で、あの場所に駆け付けたのもお父様への連絡を隣で聞いたからかもしれないけど。……どうして兄さんがあの魔物と?)
 
 疑問はそれだけじゃない。伝説級の魔物二体を圧倒した桁外れな剛力、初級魔法だけで撃ち落として、武器へ形態変化させる高等技術。謎だらけで本当にあの兄なのかと疑ってしまった程だ。

(電話で報告した際の反応からして、お父様は知らなかったみたいだけど、何か引っ掛かる……。お父様も桜香姉さんも何か隠してる)

 少し遅れて緋奈が駆け付けた頃には、兄の姿はなかった。
 代わりに呆然と立ち尽くしていた桜香の姿があったが、その表情は青ざめて見るからに暗く、普段の活発な彼女の面影が欠片もなかった。




「ご苦労。では安全が確認出来次第、避難勧告も解除していい。ああ、それで任せる」

 部下への電話を切ると、刃の父である拳は椅子の背もたれに身を預けた。
 疲れたように息を吐いてテーブルのお茶を味わう。視線の端でモグモグと街でも高い饅頭を食べている四条尊へ目を向けた。

「それで君は見ているだけか、尊君?」
「オレが手を出さなくても、今のジンなら誰にも負けないと思ったからですよ。魔物でも人でも」

 口の中の饅頭をお茶で流し込んで答える。最初は刃を追い掛けようとしたのに何故か戻って来た。
 拳も不思議そうに思いながら連絡しないといけない事が山のようにあった為、仕方なく放置して今に至るが……。

「どうしてそう思ったか、参考までに訊いてもいいかな? もしかして刃自身から何か聞かされている?」
「受験先を聞かされただけですよ。大広間の時に少しだけ小競り合いに巻き込んでしまいましたが、異様な頑丈な手だと思った程度ですし。オレが確信したのは、飛んで立ち去った時のアイツの輝きの色……」

 昔からそうだった。
 火の神を祀る神社の生まれが影響したか、尊の瞳は『心眼』のようなチカラが宿るようになっていた。
 人の真奥を見極める瞳。幼少期から過度に人見知りだったのもこれが原因だったが、そのお陰で刃のことをいっそう信頼出来るようになった切っ掛けとも言えたが……。

「受験先? 何の話だそれは?」

 拳が耳を疑ったのは最初の発言である。
 大広間での件は途中から見て聞いたので知っているが、受験の話は拳も初耳である。

「あれ? さっき聞いたんじゃないんですか? 魔法学園に受験したいからジンはカードを求めたんですよ?」

 一言も聞いてないぞ。そんな重大な話は……と不満を口にしなかったのは、魔物襲来などの非常事態が重なった所為だと理解しているからだ。いや、それがあっても刃が正直に話したか疑わしいところであるが。

「その話、もう少し詳しく聞いてもいいかい?」

 どちらにしても、無視していい事案ではなかった。
 既にカードを渡した後で祖父からの忠告もあるが、それでも最低限何処の魔法学園を狙っているかだけは知る必要があった。
 


 そして魔物の調査の裏で、密かに刃の事を調べていたが、しばらくして思わぬ事件が舞い込んで来る。
 あの『ダメージ・管理センター』の関係者の事情を聞いている中、何故か行方不明になっていた人物。

 正月の大広間で騒ぎを起こして、逃げたままであった佐野の死体が発見された。
 場所は廃墟のビルの中、外傷は殆どなかったが、心臓が破壊されており、犯人の手掛かりは魔法使いということしか分からなかった。

*作者のコメント*
 帰還の際、刃は師匠にいくつか封印を施されて戻って来ている。
 修業期間中に元々宿していた魔力だけじゃなく、異世界の魔力も宿すようになったことで、彼の肉体や魔力体が大きく変化したのが切っ掛けである。

 その内の一つが『融合』のスキル。
 初めは師匠の融合魔法を覚えていたが、いつしか『スキル』としてその技法を会得して、師匠とは別種の融合技法を会得した。
 別種と言っても師匠の技術が使えない訳ではないが、さらに精密的に『魔法融合』『魔力・融合化』が使えるようになって、帰還直後では反動が大きい為に封印対象となった。

 二つ目が『継承された神ノ刃イクスセイバー』の白金の聖剣。
 師匠の愛用する伝説級の聖剣の欠片から作られた物だが、余りに危険過ぎるために普段は特殊な異次元の中に収納されている。
 白金の刃には三つのSランクの魔石が埋め込まれて、派生属性の【聖属性】【天地属性】、【時空属性】の順に入っている。
 強力なチカラが宿っているが、展開時間や発動回数に限りがあるので、上手く使い分ける必要がある。

 三つ目は肉体の若返り、異世界に行く前に戻すこと。
 帰還の際に混乱を避ける為に施された時を戻すタイプの封印魔法である。
 解除されると本来の姿に戻ることができるだけでなく、鍛えられた『気』も復活する。
 こちらも他の封印の悪影響になる恐れがあるので、不用意の封印は控えている。

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