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第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らして学園トップ共を蹴落とす)
第55話 契約と再会する兄妹(弟子は───)。
しおりを挟む「……組む相手を間違えたか」
抗ってもどうしようもないと諦めたのか。
愕然とした様子から力が抜けて俯いてしまった。
「意外と冷静だな? 気が付いたら此処で縛られてたんだろ?」
「ああ、ビックリしてる。アンタがいる事もそうだが、何でこうなるまで起きなかったんだ俺は? 考えられるとしたら……薬か」
「想像以上も冷静さだ。薬の件は合ってる。オレが用意して尊君に渡したが……」
動けないからと言って抵抗が無さ過ぎる。
不審に思い尊に視線を移す隆二。
「言われた通り飲ませたぜ」
「その証拠はあるか? 契約の件があっても裏切りの可能性は拭い切れない。証明する事は出来るのか?」
「わざわざ貴重な魔道具を使った癖に。違反したならその時点で契約魔法が反応してるだろ」
契約とは魔法による契約を指す。
かなり強引なやり方で隆二が尊に結ばせた。魔法自体は簡単だが、使用者同士が提示した条件は必ず守らねばならない。破るのが非常に難しい。万が一の事を考慮し魔道具も使って尊を契約で縛っているが、隆二の中にはそれでも疑いが残ってしまう。
断れないと分かっていても尊は刃を大が付くほどの親友だと思っている。
その内容とは───。
「分かってると思うが、君の姉、四条咲耶の婚約……」
「それ以上口にしたら──殺すぞ?」
遮るように鳳凰が唸った。
強烈な威圧。尊に共鳴して翼を広げると炎を出して威嚇する。
威圧を浴びせられる隆二は眉を歪めて険しくなり、聞いているだけの長谷川は内心感心する。
「薬は飲ませた。信用出来ないなら尻尾巻いて帰れ。薬で弱らせないと話し合いも出来ない白坂の問題児」
「言うじゃないか。四条家の化身……!」
学生が放つような殺気ではない、四条尊の隠された素質。
この世界の守護獣の化身すら従わせている。少なくとも彼が担当するクラスの生徒よりも……否、学生最強と呼ばれている土御門と同等以上の潜在能力を既に担っていた。
「っまぁいい……こちらも時間が惜しい。契約違反……ないようだしな」
挑発的な態度と言動。非常に腹が立つが、それでも目を瞑り受け流す。
時間が惜しいのは事実。尊の発言が本当か嘘なのかは一旦置いても、龍崎がこの場にいる時点で最重要な契約事項は達成されている。
正直いないか替え玉の可能性も考えていたが、掛けている契約魔法は強力だ。破ろうとすれば尊といえどただでは済まない。
「用心深いな。条件通りジンを連れて来たって言うのによ」
「ふ、悪いな。どうやら本当にやり遂げたらしい。他のメンバーが次々と返り討ちにあったようだからどうしても警戒してしまった」
特に姫門の藍沢や土御門の失敗が大きい。どちらも学園の最強戦力と呼ばれている。
分家とは言え七大魔法名家に匹敵する藍沢の敗北。土御門に至って隆二にとって本命の一人でもあったが、聞いた話ではついでのように敗れてあっさりリタイアしたそうだ。
聞いた時は隆二も呆けて考えが追い付かなかったが、保険として用意した尊が見事に契約を達成させた。
「契約に不備ないか。ならここからはオレの仕事だ」
そして用意した鎖で拘束されている今なら龍崎は何も出来ない。
何よりこうしてグダグダと遅れて、敵に回すと一番厄介な龍崎鉄に気付かれでもしたら……。割と現実味のある恐ろしい未来を想像して、手早く済ませようと隆二は話を進めた。
「龍崎……君には二つの選択肢がある。潔く学園を去り二度と桜香の前に現れないと誓うなら見逃そう。だが、このまま留まると言うなら、こちらも強引な方法を取るしかないが?」
これで素直に龍崎が従うなら簡単であるが、これまで情報を聞く限り彼が承諾するとは到底思えない。
「従わないなら無理やりって事ですか? あり得ないですね」
呆れた様子で即否定する刃。尊の時は見てわかるほど動揺していたが、どうしてか……
「シスコンなのは前から知ってましたが、もはや病気のレベルですね。桜香の件は向こうの方に原因があると思いますが?」
「っ、それでも初めに顔を見せたのはお前の方だろう! 何年も大人しく沈黙を貫いていたのが、何故今さら沈黙を破ったりした!?」
どうしてか、縛られている刃からは全く動揺が見られなかった。
こちらの痛いところ突いてきて、揺さぶるような丁寧口調が余計に余裕さをアピールしている。
裏切った尊を見上げていた際は、少なからず動揺してショックを受けていたように見えたが……。
「今さらは、こっちのセリフなんですけどね。散々否定して向こうから決別したクセに、理由を付けて同じ高校に入って、また強引な理由で俺を巻き込んで来る。確かに今回の協力体制は俺からですが、そもそも桜香が龍門ではなく、そちらの方針通り姫門を選んでいればこうはならなかった」
神崎家が管理する『第二姫門学園』。
桜香は本来そこの高等部へ入学する予定であった。
家の方針で中学までは普通の学校。もちろん魔法関連の学校であるが、姫門が女子専門の学園である為、桜香の親たちは早い段階で男女の間の慣れを覚えさせる事にした。……小学校の際は刃と一緒がいいと言う彼女の願いを叶えただけであるが。
「俺と絡む可能性が少しでもある以上。いや、それ以前に俺の存在が彼女にとって害悪だと思うなら、龍門への受験は何が何でも止めるべきじゃなかったんですか?」
「こちらにも都合があるんだ! お前のように自由にはいかないんだ!」
ただ妹に嫌われたくないというのと、桜香だけでなく刃にも優しい両親が止めなかった所為だ。
「どうせ嫌われたくなかっただけでしょう?」
「ぐっ」
そして当たり前のように刃が当ててくる。平然とした様子、呆れている色もあって緊張感が微塵も見られない。
「受け入れないなら、お前に残された選択はただ一つだぞ? それでもいいのかっ?」
「交渉の余地は無いんですか? 桜香自身を姫門へ転校させれば済む話だと思いますが?」
「だから言ってるだろっ! こちらにも都合があると! 選ばないならお前の行く先は病院だと思えっ!」
「それは怖い選択ですね。ですが、こちらにも都合があります。あなたにあるように俺にも退けない理由があります。なので、諦めて帰ってください隆二さん」
「っ」
恐れを全く見せない刃に対して困惑する隆二。
さっきから違和感があると思っていたが、ここに来てそれがより濃くなって徐々に不安を、恐怖を駆り立てる。
「お前……本当にあの神崎刃なのか? 強くなったと言っても経った数年でここまで変わるわけが……」
自分がわざわざ用意した魔法使い専用の拘束具で押さえて優勢だ。
なのに隆二の不安は増していき、徐々にそれが恐怖へと変換されていく。
無意識に持っている刀に片手が触れる。暑さは魔力で防いでいる筈が、合流するまで平気だった喉が枯れ始めていた。
「何故、そんなに冷静でいられる。いくらなんでもおかしいだろ」
異常だ。明らかに異常な事が起きている。
新年トラブルと学園内での話は隆二の耳にも届いている。
それを踏まえて欠陥品である筈の龍崎刃の危険度を上げて、それが余計に妹への悪影響になると直感が警告を発していた。
だから無理を言って神崎側と協力を得て、学生の彼を邪魔だと思っていた龍門の学園側とも密かに交渉した。姫門も巻き込む形で彼を追い詰めた。
さらに土御門、西蓮寺、藤原、奥の手として四条尊と神崎緋奈も用意した。
後の二人に関しては最初はカウントしてなかったが、思わぬ形で二人からも協力を得る事ができた。布陣は完成した筈だった。
「どうして冷静か、か? そんなの少し考えれば……」
しかし、追い詰められている筈の刃から未だに動揺の気配すらない。
いや、それどころか……。
「分からないのか? ここまで来ても」
「っ!」
まるで追い詰められているのは自分のような緊張感。
警務部隊として何度も危機を潜り抜けて来たが、白坂隆二の脳裏で最悪の展開が過ぎる。あり得ないと思いながら……直感に従い四条尊の方へ視線を向けると。
「……そっち側に付いたのか? 尊」
「何の話だ?」
「惚けるな。理解させた癖に今さら誤魔化す事もないだろ?」
問い掛けに尊が不敵に笑うが、隆二は見逃さない。
肩に乗っていた金色の鳳凰が舞う。状況が変化した証拠だ。
「確信した。オレの前で捕まってる刃は──ニセモノだ」
迷いなく隆二が告げると、縛られていた刃も薄く笑った。
「流石現役の異名持ちの魔導師と言うべきか? 聞き出したい事は聞けたが、思ったよりも早かった」
「テメェの鼻までは誤魔化せねぇって事かー。仕方ねぇ……」
金色の炎の塊となった鳳凰。頭上に掲げた尊が手のひらに収めた鳳凰の塊を……。
「ハッ!」
刃の姿をしたメタルスライム。
刃が使役している契約魔物『メタル君』へぶつけた。
「じゃあこっちは頼むぞ──『(ピュイ!)』」
瞬間、刃の魔法が解けて全身が銀色の液体金属になる。
さらに尊の魔法を受けて膨張を起こすと、中で溜め込まれていた『特殊弾』を爆破させた。
次の瞬間、金色の爆炎が遠くで待機していた神崎緋奈、四条咲耶、それに藤原輝夜とチームメイトの視界まで届く。
激しい爆炎は赤き空の中で、これでもかと自身の存在を主張する。
万が一の事を想定して離れていたが、まさかテロ紛いな爆破現場を目撃するとは考えてもいなかった。
「あの炎って……」
尊の事を誰よりも知っている咲耶が苦い表情で呟く。
正直胡散臭いと思っていたが、あの爆炎の大きさを見る限り彼女の予想は当たっていたらしい。
「やはり裏切りましたか四条君は」
同じく爆炎の意味をいち早く理解した藤原も納得顔で頷く。
「あちら側からしたら厄介な展開でしょうが、私にとっては良い展開です」
一年どころか学園の中でも圧倒的にレベルが違うあの『火の化身』の攻略チャンス。
裏切りの可能性をあれば、必然的にあの白坂隆二との衝突も考えられる。戦略派な藤原がその機会を見逃す筈がない。
「動くのか藤原?」
「当然です。しかし、すぐには合流はしません。確実に消耗し切ったところで皆さんの魔法と私の魔法を合わせれb「勝てるって? お前如きが?」──!」
チームメイトの大武の言葉に藤原が肯定し指示を送ろうとして、被さるように挑発的な男の声に彼女の耳に届く。
そこで自分達を捉えて急接近した大きな魔力二つを感じ取る。魔力による探知を優先していた所為か、男の存在に気付くのに遅れてしまった。
「鬼苑君ですか」
「よぉ、藤原」
前日に白坂や土御門といった強敵たちと戦ったが、休憩場でしっかり回復したらしい。
悪どい笑みを浮かべながら遅れて到着した双子のコンビの間に立つ。
「このタイミングで来ましたか」
「寧ろ何故来ないと思うんだ? 藤原?」
獲物である藤原を捉えて、鬼苑亜久津は真っ黒なトンファーを構えた。
「やれやれ仕方ありませんねぇ」
「……」
藤原も魔法を唱える体勢に入る。他のチームの面々が双子の存在に驚いているが、感情を押し殺した無表情の四条咲耶が静かに前に出ていた。
「……なるほど、そういう事ですか」
そんな光景を眺めていた神崎緋奈が呟く。少し離れていたので包囲から逃れていた。
自分も加勢に入ろうか悩んでいたが、背後から近づく覚えのある魔力に全てを悟った。
「こっちの企みは全部読まれていた訳ですか。流石ですね」
「事前に藤原たちから離れていたのは、こうなると想定してか?」
後ろを取られているが、緋奈の口調は落ち着いた様子で褒める。
相手も緋奈に対し奇襲を仕掛ける気はなかったようで、後ろを取りながら尋ねてくる。
「まさか、あの二つの巨大な魔力以外に近付いている魔力を探知したから一旦距離を取っただけです。藤原さんは気付いてないようでしたが」
「教えれば良かったんじゃないか? 協力者なんだろ?」
「あの人数では移動しても仕方ありません。それにこうなる展開を私は心のどこかで望んでいた気がします」
最後の部分は何処か疲れたような声音で、色々と溜まっていた物を吐き出すかのように溜息を漏らす。
数秒ほどで落ち着いて軽く咳払いすると、ゆっくりと背後の方を振り向いた。
「とうとう見つかりましたね。兄さん」
「やっと会えたな。緋奈」
ダンジョンにて半分だけ血が繋がっている兄妹が出会う。
妹の方は何もかもバレた為か、悲痛な顔で兄の方を見つめる。
銀のマントを着けた兄の方は懐かしい優しそうな顔で妹に向かって微笑んでいた。
*作者コメント*
はい、次回から逆襲回(テンプレ)です。
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