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第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らして学園トップ共を蹴落とす)
第59話 増援の白き龍と魔神の策略(弟子はずっと気付いてなかった)。
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「監視室の通信機も破壊した。知らせる手段はもう残ってないだろ?」
「とことんイカれてるな!」
もう時間が無い。隙を見て銃で撃つが、展開される魔法陣の障壁を頑丈で突破出来ない。
「そんな弾では破れんぞ!」
「……そうかな?」
スタイルを“仙沈”に変更。
瞬間、魔力器官を含めた感覚能力が強化される。
さらに視覚の部分に強化の力を集中させると、改めて敵の魔法陣を見つめる。
「『照準の極限』」
「ッ──! 私の障壁の隙間を!」
引き金を引いて魔法陣の穴をすり抜けて相手に当たった。
「効かないぞ!」
「そうかな?」
スタイルを“羅刹”に変更。
瞬間、火力を底上げする。回転弾倉を開いき殻の薬莢を全て捨てて、装填する六発全てを『火力重視の特殊弾』にしてセットした。
「『銃撃形態』」
銃撃のスキルと混ざり合って、リボルバーの銃がカノンサイズまで大きくなる。
「吹き飛べ」
弾一発に付き『火炎弾』を百発分。
師匠が編み出した魔法の倍加技法の『術式重装』。
マドカの手も借りて弾に込める事に成功したソレは。
「ガハ!?」
頑丈な障壁を力技で押して隠れている術者を吹き飛ばす。
続けて二発目。男は焦って障壁を張り直すが、こっちは“羅刹”の火力も加わっている一発。
「ッ──そんな! ただの低級魔法でこんな威力が!」
「初級、もしくは基礎魔法を言え」
三発目、四発目と続ける。
その度に男は障壁を張り直して体勢を戻そうするが、徐々に押されてしまいすぐ後ろは運転席という壁だ。
「工夫は大事。仮にも教員なら知っておけ」
「ッッ!」
もう逃げられない。五発目が障壁ごと奴を後ろへ押し出した。
ラスト一発を残して銃を逆さに持ち直す。棍棒代わりで男の頭を叩き付けた。……結構本気で殴ったが、頭は割れてない。
「やはり強化してあるか。いや、肉体自体も弄ってるな」
「ぐっ」
銃を押し付けて首元を絞めて押さえる。
魔力と魔法は厄介であるが、身体レベルでは強化している俺の方が上。
「さぁ、今すぐ車両を止めてもらおうか?」
「ふ……言う通りにすると思うか? それに操作パネルも壊した。……もう終わりだ」
「そうかな?」
「っ」
本日三度目の言葉。何度も重ねていく事でそれが引き金だと認識させる。
同時に魔王師匠譲りの殺気も加える。恐怖を少しずつ植え付けていたら時間が足りない。
手加減のない重圧の殺気。男の顔から徐々に冷や汗が滲み出てきた。
「その割には顔色が優れないな? まさかこの程度で怖がってるのか?」
「──っ!? な、何を」
こいつが魔神の使者であろうが、状況次第で心を縛り付ける事も出来る筈。時間は少ないが、力で俺が勝って殺気でメンタルが揺れているなら可能性はある。
と考えていたが、増え始めた恐怖以上よりも男の表情から達成感による安堵の色が濃くなってしまった。
「ふ、ふふ……残念だが、時間切れのようだな! 外を見てみろ間抜け!」
「ッ!」
実行するよりも先に事態はさらに厄介な方へ進んでしまったか。
男の声によって外の異変に気付くが、分厚い窓から外を見た途端、赤い大地が噴火を起こしていた。
「起きたのか。この世界の主が」
「ダンジョンのボス『赤き竜王』のご起床だ」
キングレッド・ドラゴン。
日本でも数少ないSランクの竜王だ。
伝説級の魔物にも匹敵する威圧感と魔力で、五十メートル以上の巨体。全身が赤い血管のようなマグマが巡って岩のような鱗を纏った首の長い竜。
「もう手遅れだ! アレも魔法で引き寄せられる。この列車を止めている間に他の生徒たちの元へ行く!」
岩のような翼を広げて赤い眼でゆっくりとこちらを見つめるが、止めてくる気配がない。
俺たちの侵入する気配で起きようだが、迎撃する姿勢は一切感じられず男の言った通りミコたちのところへ行きそうだ。……いっそ止めに来てこの車両を破壊して欲しかったが……。
「そうはさせるか。“来い”ッ!」
そっちに行くなら容赦はしない。
出来れば呼び出したくなかったが、ドラゴンにはドラゴンだ。
「『アステル』!」
外で発現された光の魔法陣を超えて、翼を広げた白き龍が降臨した。
キングレッド・ドラゴンよりもずっと小さい十メートル級であるが、発している威圧感と魔力の質は竜王に匹敵している。
『……』
俺の視線を感じたかサファイアのような瞳でこちらを一瞥する。
「頼むアステル。手を貸してくれ」
『───わかった』
透き通る女の声が頭に届く。
アステルは竜王へゆっくりと視線を戻した。
「龍族だと、バカな! あの誇り高い種族が人間に従うなんて……。ましてやその程度の魔力でなど」
「不思議だよな。俺もそう思う」
気まぐれか運か良かっただけかもしれない。
けどアステルやルゥも膨大な魔力を求めず俺に付いてくれる。
異世界の人たちはこう言ってた。──魂で結びついた絆だと。
「ん?」
そこへ二つの光が飛来する。
遠いが目を凝らす。魔法武装したルールブ双子がキングレッド・ドラゴンを対立するように武器を構えていた。
「有難いが向こうは大丈夫なのか?」
こっちの方がずっと楽しめると思ったか知らんが、あんまり向こうの戦力を下げないでほしいな。
「っと、こっちも急がないとな」
そうこうしてたら、もうダンジョンの核がある巨大な柱が見えるところまで来てしまった。
「最後の通告だ。この車両を止めろ」
「ッ、何度言っても同じだ。この車両で魔物暴走を引き起こs……」
言い終わる前に男の頭を掴んで力任せに背の操縦機器へ押し込んだ。
潰れた呻き声が聞こえるが、俺は無視して『火炎弾』の火線をいくつも出して車両内部全体まで伸ばしていく。
「はぁ、なら勿体無いけどしょうがないよな」
導火線のように全てのラインの端を束ねて、男が埋もれたちょっと手前で床とくっ付ける。
埋もれていた男を無理やり引っ張って起こした。
「ガハッ! き、キサマ、一体何を考えていr「黙れ」──ブッ!?」
激突までもう一分もない。
喚く男で頭突きで黙らせると男をメタル君のマントの端で巻き付けて、引っ張りながら運転席のドアを蹴り破る。抱えながら外へ出る準備を整えた。
衝突まであと約30秒弱。
視線の先で柱に縛られた桜香が見える。まだ意識が戻ってないようだが、俺は銃を取り出して束ねたラインの導火線の中心。
取り付けた床のソレに狙いを定めて最後の『火炎弾』。
術式重装とされた弾を放った。
着弾した瞬間、ラインの導火線を通して莫大な火のエネルギーが車両の全体へ行き渡る。
完全に行き渡る前に俺は男を連れて脱出。念の為に桜香が縛られている核の方へ一気に飛ぶと……。
──ドォォォオオオオオオオオンンン!!!!
視界の端で凄い勢いで走っていた車両が真っ赤に染まった。
と思えば膨れ上がり激しい爆発を引き起こす。……かなり近かった為、巨大な爆炎や車両の破片が桜香の方へ飛んで来そうになるが、俺は大きくしていた銃を剣代わりにそれらを弾き返す。──って!?
「ッあ、ぶねぇ……うっかり銃を壊すところだった。何普通に鈍器代わりにしてんだよ」
結構振りまくなったので正直壊れたかと思ったが、よくよく考えたら師匠から貰ったヤツなので、無傷で頑丈なのは当たり前で思わず安堵の息を漏らした。
「桜香、起きろ」
長谷川もとい魔神の使者さまはメタル君の鎖で縛り付けて、その辺に放置。
トラップがないか警戒しつつ縛られた桜香を解放。何度か揺すって起こそうとしているが……。
「おい、起きろって」
反応が全くない。息はしているし見た限り傷もないが、何か薬でも盛られたか。
「たく、面倒な事を」
気絶している男を睨みながら溜息を吐く。
仕方なしに桜香を抱えてミコたちと合流しようと考えていると……。
「こ、この程度でェ……!」
気絶中だった男が俯きながら憤怒の呟きを漏らすと、拘束の鎖がバキッと音を鳴らして弾け飛ぶ。……おいおい。
「……はぁ、まだ立つか」
呆れながら融合スキルの第二権能を発動。
火属性と土属性の融合属性が確立する。燃えるような赤と岩のような茶色が混ざり合う。
「煉天」
融合属性をそのまま右腕に込める。
「『煉溶岩の拳槌』」
すると腕に天然石のようにキラキラした茶色と赤い模様の籠手が装着された。
俺の腕よりも二回りほど大きく、拳を握り締めたり開いたりすると赤い煙が漏れ出てくる。
火属性の火力と土属性の頑丈を合わせた魔法武器。うざい相手を黙らす用のハンマーでもある。
「いい加減しつこい。だからさっさと寝ろ」
「ッ、舐めるなよこの欠陥品がッ! 貴様程度、私が本気を出せば──」
今さら欠陥品って言われてもなぁ。その相手に酷い様だけど。
まだ懲りず何か厄介な魔法でも撃つ気か。そう判断しながら仕留める為に踏み込もうとした…………刹那だった。
「──ガッ!?」
「……!?」
風を切るように俺の真後ろから男に向かってナイフが襲い掛かる。
拳を構えた俺に意識を向けていた為か、男は避ける動作も見せず飛来したナイフが胸元……心臓に受けて倒れる。
奴の肉体は頑丈のようだけど中身が人間ベースなら確実に致命傷だ。
すぐ動かなくなり事切れたのが分かってしまった。
「──ッ!」
何が起きたか理解が追い付いてなかったが、無意識に体ごと素早く背後へ振り返り……。
「もう君の役目は終わったんだ。ゲームならさっさと退場するのがマナーじゃないのかい?」
ソレはいつの間にか起き上がっており、ナイフを軽く投げた構えのまま倒れた男を呆れた眼差しで見下ろす。
「君もそう思うだろ? せっかく魔導車を停めて幼馴染を救えて、さらに魔物暴走も防いだんだ。最終決戦に突入しそうでこっちは楽しんでたのに……はぁ、空気の読めない敵は困ったものだねぇ」
既に違和感しかなかった。
そいつはさっきまで眠っていた筈の俺の幼馴染。
起きたのなら普通は喜ぶべきだけど、その口調や仕草、纏っている気配まで、肉体以外の全てが彼女からかけ離れた別の何か置き換わっている。
何かが置き換わっている。
そう思考が行き着いたところで、それが偽者ではなく何かが入っているのだと確信した。
「お前……いつからそこにいた」
「ふふふっ、いつから……ねぇ。ニセモノとは思わないのかい?」
「思わない。お前らの匂いは目立つ。使者のように人間体ならともかくお前の体は正真正銘魔神のソレだろ」
普段の彼女なら絶対浮かべない笑みで、そいつは悪戯っぽく笑う。まるで子供だ。
「あの時から……って言えば分かるかい?」
試すようにそいつが質問で返してくる。……あの時と何だか意味深な単語に俺はまさかと思い答える。
「正月の一件。俺が魔法銃で狙ってお前が姿を消した時か?」
「正・解。ここ最近何度も会ってるからいつ気付くかって少しドキドキしてたんだよ?」
やはりそうなのか。
確かに誰かの中に入っていれば魔力以外の匂いによる探索がし辛くなるが……。
「あの距離で……俺に気付かれずに桜香に取り憑いたって言うのか」
「正確には君とこの彼女が合流する前だけど。途中まで覗いていたからねぇ。この子が君にとって大事な子だと調べなくても予想は付いていたよ。ふふふっ、やっと見つけてくれ──いや、自分から出て来てしまったけど」
突き刺さったナイフが回転しながら彼女の手に戻る。
血塗れなナイフ、そして桜香が持つ愛剣を引き抜く。全身からさっきの男以上の純度が濃い魔神の魔力を発して、取り込んだ両方の刃が暗黒に染まってしまう。
「でも仕方ないよね? ずっと待ってたんだ。君とこうして対面する瞬間……をねぇッーー!」
「──ッッ!」
桜香の体に取り憑いた魔神はそう告げた瞬間。桜香の姿が視界から消える。
と同時に俺は溶岩の籠手を構えようとしたが、至近距離まで急接近した魔神の桜香の剣で俺の籠手をあっさり破壊する。
そして使者を殺したナイフが頑丈な筈の俺の脇腹に深く突き刺さり、すれ違い様に遠慮なく引き抜かれる。
「あの時の借りを先に返しておくよ」
「ッッ!?」
と突き刺さっていた脇腹から血飛沫が溢れ出てしまった。
*作者コメント*
遂に魔神の登場! 実は幼馴染の中に隠れてました!
はい、急展開です! やっちゃいましたが、これは前から決めていた事なのでこのまま突っ走ります!
「とことんイカれてるな!」
もう時間が無い。隙を見て銃で撃つが、展開される魔法陣の障壁を頑丈で突破出来ない。
「そんな弾では破れんぞ!」
「……そうかな?」
スタイルを“仙沈”に変更。
瞬間、魔力器官を含めた感覚能力が強化される。
さらに視覚の部分に強化の力を集中させると、改めて敵の魔法陣を見つめる。
「『照準の極限』」
「ッ──! 私の障壁の隙間を!」
引き金を引いて魔法陣の穴をすり抜けて相手に当たった。
「効かないぞ!」
「そうかな?」
スタイルを“羅刹”に変更。
瞬間、火力を底上げする。回転弾倉を開いき殻の薬莢を全て捨てて、装填する六発全てを『火力重視の特殊弾』にしてセットした。
「『銃撃形態』」
銃撃のスキルと混ざり合って、リボルバーの銃がカノンサイズまで大きくなる。
「吹き飛べ」
弾一発に付き『火炎弾』を百発分。
師匠が編み出した魔法の倍加技法の『術式重装』。
マドカの手も借りて弾に込める事に成功したソレは。
「ガハ!?」
頑丈な障壁を力技で押して隠れている術者を吹き飛ばす。
続けて二発目。男は焦って障壁を張り直すが、こっちは“羅刹”の火力も加わっている一発。
「ッ──そんな! ただの低級魔法でこんな威力が!」
「初級、もしくは基礎魔法を言え」
三発目、四発目と続ける。
その度に男は障壁を張り直して体勢を戻そうするが、徐々に押されてしまいすぐ後ろは運転席という壁だ。
「工夫は大事。仮にも教員なら知っておけ」
「ッッ!」
もう逃げられない。五発目が障壁ごと奴を後ろへ押し出した。
ラスト一発を残して銃を逆さに持ち直す。棍棒代わりで男の頭を叩き付けた。……結構本気で殴ったが、頭は割れてない。
「やはり強化してあるか。いや、肉体自体も弄ってるな」
「ぐっ」
銃を押し付けて首元を絞めて押さえる。
魔力と魔法は厄介であるが、身体レベルでは強化している俺の方が上。
「さぁ、今すぐ車両を止めてもらおうか?」
「ふ……言う通りにすると思うか? それに操作パネルも壊した。……もう終わりだ」
「そうかな?」
「っ」
本日三度目の言葉。何度も重ねていく事でそれが引き金だと認識させる。
同時に魔王師匠譲りの殺気も加える。恐怖を少しずつ植え付けていたら時間が足りない。
手加減のない重圧の殺気。男の顔から徐々に冷や汗が滲み出てきた。
「その割には顔色が優れないな? まさかこの程度で怖がってるのか?」
「──っ!? な、何を」
こいつが魔神の使者であろうが、状況次第で心を縛り付ける事も出来る筈。時間は少ないが、力で俺が勝って殺気でメンタルが揺れているなら可能性はある。
と考えていたが、増え始めた恐怖以上よりも男の表情から達成感による安堵の色が濃くなってしまった。
「ふ、ふふ……残念だが、時間切れのようだな! 外を見てみろ間抜け!」
「ッ!」
実行するよりも先に事態はさらに厄介な方へ進んでしまったか。
男の声によって外の異変に気付くが、分厚い窓から外を見た途端、赤い大地が噴火を起こしていた。
「起きたのか。この世界の主が」
「ダンジョンのボス『赤き竜王』のご起床だ」
キングレッド・ドラゴン。
日本でも数少ないSランクの竜王だ。
伝説級の魔物にも匹敵する威圧感と魔力で、五十メートル以上の巨体。全身が赤い血管のようなマグマが巡って岩のような鱗を纏った首の長い竜。
「もう手遅れだ! アレも魔法で引き寄せられる。この列車を止めている間に他の生徒たちの元へ行く!」
岩のような翼を広げて赤い眼でゆっくりとこちらを見つめるが、止めてくる気配がない。
俺たちの侵入する気配で起きようだが、迎撃する姿勢は一切感じられず男の言った通りミコたちのところへ行きそうだ。……いっそ止めに来てこの車両を破壊して欲しかったが……。
「そうはさせるか。“来い”ッ!」
そっちに行くなら容赦はしない。
出来れば呼び出したくなかったが、ドラゴンにはドラゴンだ。
「『アステル』!」
外で発現された光の魔法陣を超えて、翼を広げた白き龍が降臨した。
キングレッド・ドラゴンよりもずっと小さい十メートル級であるが、発している威圧感と魔力の質は竜王に匹敵している。
『……』
俺の視線を感じたかサファイアのような瞳でこちらを一瞥する。
「頼むアステル。手を貸してくれ」
『───わかった』
透き通る女の声が頭に届く。
アステルは竜王へゆっくりと視線を戻した。
「龍族だと、バカな! あの誇り高い種族が人間に従うなんて……。ましてやその程度の魔力でなど」
「不思議だよな。俺もそう思う」
気まぐれか運か良かっただけかもしれない。
けどアステルやルゥも膨大な魔力を求めず俺に付いてくれる。
異世界の人たちはこう言ってた。──魂で結びついた絆だと。
「ん?」
そこへ二つの光が飛来する。
遠いが目を凝らす。魔法武装したルールブ双子がキングレッド・ドラゴンを対立するように武器を構えていた。
「有難いが向こうは大丈夫なのか?」
こっちの方がずっと楽しめると思ったか知らんが、あんまり向こうの戦力を下げないでほしいな。
「っと、こっちも急がないとな」
そうこうしてたら、もうダンジョンの核がある巨大な柱が見えるところまで来てしまった。
「最後の通告だ。この車両を止めろ」
「ッ、何度言っても同じだ。この車両で魔物暴走を引き起こs……」
言い終わる前に男の頭を掴んで力任せに背の操縦機器へ押し込んだ。
潰れた呻き声が聞こえるが、俺は無視して『火炎弾』の火線をいくつも出して車両内部全体まで伸ばしていく。
「はぁ、なら勿体無いけどしょうがないよな」
導火線のように全てのラインの端を束ねて、男が埋もれたちょっと手前で床とくっ付ける。
埋もれていた男を無理やり引っ張って起こした。
「ガハッ! き、キサマ、一体何を考えていr「黙れ」──ブッ!?」
激突までもう一分もない。
喚く男で頭突きで黙らせると男をメタル君のマントの端で巻き付けて、引っ張りながら運転席のドアを蹴り破る。抱えながら外へ出る準備を整えた。
衝突まであと約30秒弱。
視線の先で柱に縛られた桜香が見える。まだ意識が戻ってないようだが、俺は銃を取り出して束ねたラインの導火線の中心。
取り付けた床のソレに狙いを定めて最後の『火炎弾』。
術式重装とされた弾を放った。
着弾した瞬間、ラインの導火線を通して莫大な火のエネルギーが車両の全体へ行き渡る。
完全に行き渡る前に俺は男を連れて脱出。念の為に桜香が縛られている核の方へ一気に飛ぶと……。
──ドォォォオオオオオオオオンンン!!!!
視界の端で凄い勢いで走っていた車両が真っ赤に染まった。
と思えば膨れ上がり激しい爆発を引き起こす。……かなり近かった為、巨大な爆炎や車両の破片が桜香の方へ飛んで来そうになるが、俺は大きくしていた銃を剣代わりにそれらを弾き返す。──って!?
「ッあ、ぶねぇ……うっかり銃を壊すところだった。何普通に鈍器代わりにしてんだよ」
結構振りまくなったので正直壊れたかと思ったが、よくよく考えたら師匠から貰ったヤツなので、無傷で頑丈なのは当たり前で思わず安堵の息を漏らした。
「桜香、起きろ」
長谷川もとい魔神の使者さまはメタル君の鎖で縛り付けて、その辺に放置。
トラップがないか警戒しつつ縛られた桜香を解放。何度か揺すって起こそうとしているが……。
「おい、起きろって」
反応が全くない。息はしているし見た限り傷もないが、何か薬でも盛られたか。
「たく、面倒な事を」
気絶している男を睨みながら溜息を吐く。
仕方なしに桜香を抱えてミコたちと合流しようと考えていると……。
「こ、この程度でェ……!」
気絶中だった男が俯きながら憤怒の呟きを漏らすと、拘束の鎖がバキッと音を鳴らして弾け飛ぶ。……おいおい。
「……はぁ、まだ立つか」
呆れながら融合スキルの第二権能を発動。
火属性と土属性の融合属性が確立する。燃えるような赤と岩のような茶色が混ざり合う。
「煉天」
融合属性をそのまま右腕に込める。
「『煉溶岩の拳槌』」
すると腕に天然石のようにキラキラした茶色と赤い模様の籠手が装着された。
俺の腕よりも二回りほど大きく、拳を握り締めたり開いたりすると赤い煙が漏れ出てくる。
火属性の火力と土属性の頑丈を合わせた魔法武器。うざい相手を黙らす用のハンマーでもある。
「いい加減しつこい。だからさっさと寝ろ」
「ッ、舐めるなよこの欠陥品がッ! 貴様程度、私が本気を出せば──」
今さら欠陥品って言われてもなぁ。その相手に酷い様だけど。
まだ懲りず何か厄介な魔法でも撃つ気か。そう判断しながら仕留める為に踏み込もうとした…………刹那だった。
「──ガッ!?」
「……!?」
風を切るように俺の真後ろから男に向かってナイフが襲い掛かる。
拳を構えた俺に意識を向けていた為か、男は避ける動作も見せず飛来したナイフが胸元……心臓に受けて倒れる。
奴の肉体は頑丈のようだけど中身が人間ベースなら確実に致命傷だ。
すぐ動かなくなり事切れたのが分かってしまった。
「──ッ!」
何が起きたか理解が追い付いてなかったが、無意識に体ごと素早く背後へ振り返り……。
「もう君の役目は終わったんだ。ゲームならさっさと退場するのがマナーじゃないのかい?」
ソレはいつの間にか起き上がっており、ナイフを軽く投げた構えのまま倒れた男を呆れた眼差しで見下ろす。
「君もそう思うだろ? せっかく魔導車を停めて幼馴染を救えて、さらに魔物暴走も防いだんだ。最終決戦に突入しそうでこっちは楽しんでたのに……はぁ、空気の読めない敵は困ったものだねぇ」
既に違和感しかなかった。
そいつはさっきまで眠っていた筈の俺の幼馴染。
起きたのなら普通は喜ぶべきだけど、その口調や仕草、纏っている気配まで、肉体以外の全てが彼女からかけ離れた別の何か置き換わっている。
何かが置き換わっている。
そう思考が行き着いたところで、それが偽者ではなく何かが入っているのだと確信した。
「お前……いつからそこにいた」
「ふふふっ、いつから……ねぇ。ニセモノとは思わないのかい?」
「思わない。お前らの匂いは目立つ。使者のように人間体ならともかくお前の体は正真正銘魔神のソレだろ」
普段の彼女なら絶対浮かべない笑みで、そいつは悪戯っぽく笑う。まるで子供だ。
「あの時から……って言えば分かるかい?」
試すようにそいつが質問で返してくる。……あの時と何だか意味深な単語に俺はまさかと思い答える。
「正月の一件。俺が魔法銃で狙ってお前が姿を消した時か?」
「正・解。ここ最近何度も会ってるからいつ気付くかって少しドキドキしてたんだよ?」
やはりそうなのか。
確かに誰かの中に入っていれば魔力以外の匂いによる探索がし辛くなるが……。
「あの距離で……俺に気付かれずに桜香に取り憑いたって言うのか」
「正確には君とこの彼女が合流する前だけど。途中まで覗いていたからねぇ。この子が君にとって大事な子だと調べなくても予想は付いていたよ。ふふふっ、やっと見つけてくれ──いや、自分から出て来てしまったけど」
突き刺さったナイフが回転しながら彼女の手に戻る。
血塗れなナイフ、そして桜香が持つ愛剣を引き抜く。全身からさっきの男以上の純度が濃い魔神の魔力を発して、取り込んだ両方の刃が暗黒に染まってしまう。
「でも仕方ないよね? ずっと待ってたんだ。君とこうして対面する瞬間……をねぇッーー!」
「──ッッ!」
桜香の体に取り憑いた魔神はそう告げた瞬間。桜香の姿が視界から消える。
と同時に俺は溶岩の籠手を構えようとしたが、至近距離まで急接近した魔神の桜香の剣で俺の籠手をあっさり破壊する。
そして使者を殺したナイフが頑丈な筈の俺の脇腹に深く突き刺さり、すれ違い様に遠慮なく引き抜かれる。
「あの時の借りを先に返しておくよ」
「ッッ!?」
と突き刺さっていた脇腹から血飛沫が溢れ出てしまった。
*作者コメント*
遂に魔神の登場! 実は幼馴染の中に隠れてました!
はい、急展開です! やっちゃいましたが、これは前から決めていた事なのでこのまま突っ走ります!
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チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
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何故なら、彼は『転生者』だから…
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こうご期待。
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