神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜

ルド

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第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らして学園トップ共を蹴落とす)

第63話 神と魔王の後継者 後編(弟子は魔導を極める)。

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 ───遥か別時空の異世界。
 そこはこちらとは異なる宇宙、異なる世界が存在する。

 共通している事があるとすれば、そこは魔法の世界ということ。

 文明の違いから使われる手法も異なっていたが、そこには神に等しい力を持つ魔法使いがいた。

 その者はやがて『王』と呼ばれ、やがて世界を超えて、いくつもの世界を救う『神』へと到達するが、……その者は決して自分を神とは思わなかった。

 皆がどれだけ認めても神とは認めない。
 何故そこまで神である事を否定するのか……。


 それは───。




 剣を振るいながら魔神がこれまでにない程、苛立ちを露わにしていた。

「所詮魔導神の奴隷が! このボクに! 喧嘩を売る事事態が! そもそも間違っているッ!」

 剣の技術なんて関係ない。力任せな攻撃。
 しかし、魔神は超人を超える身体能力と測り知れない魔力量を所持している怪物。

「ッ……」

 斬撃を何度も受ける度に刃がガードに使っていたガントレットがヒビ割れていく。
 ガードし切れず何度か肉体にも受けた事で全身から出血が見られる。……強化されている肉体でも防ぎ切れなくなっていた。

「君の死属性は確かに厄介だが! けどそれ以外は魔王の力! 隠しているのかは知らないが、を纏っている以上、本体のボクには絶対に勝てない!」

 死属性の危険度はもう十分理解した。
 ならばと魔神として同じ本質である部分を狙う。
 格下である魔王の力に頼っている限り、刃は決して優勢にはなれない。

「諦めろ! どうあっても運命は変わらない!」

 魔王は決して魔神には勝てない。
 その法則は絶対に覆る事はない。
 何千年も続いている魔神の歴史がそれを証明してきた。

 それでも同じ本質で魔神に勝てる存在がいるとすれば、魔導神のような神族であるか、あるいは───『』となった裏切り者の魔神だけであろう。

「ハァァァァッ!」
「ッ──!」

 暗黒の炎を束ねた魔神の一撃が鬼化した刃を飲み込む。
 その炎は拘束効果もあったか、炎から抜け出そうとする刃を縛り上げて逃さない。

「裁きの時間だよ。『邪滅の処刑人イービル・ジェノサイド』」

 何重にも彼を押さえると暗黒の魔法を唱える。
 すると空間から禍々しい暗黒と瘴気の煙が混ざり合った歪な槍が出現。

「今度こそ終わりにしよう。──死ねッ!」

 魔神は触れずに空間を操り投げ飛ばす。
 一直線に伸びていく穢された槍。同時に広がっていく瘴気に触れた地面が一気に腐り落ちていく。

 暗黒の炎に拘束される刃にそれを躱す余裕などない。受けてしまいあっさり腐り落ちてしまう───。


「『擬似・究極原初魔法フェイク・ウルティムス・オリジン』『黙示録の記した書庫アポカリプス・アーカイブ』──発動」


 筈だった。刃の切り札が『魔王』だけだったら。

「“受け継ぐは───魔導王の世界”!!」

 解放される神と呼ばれた男の魔力が穢された槍を弾き飛ばした。
 暗黒の炎も消し飛ばされるとそこから神々しい銀光が発生する。


「『原初ノ魔導王オリジン・シルバー』ァァァァァァァッッ!!」


 そして眠っていたのは『始まりの魔法使い達』の原点を引き継いだ魔法の神。
 まだ人間だった頃から異世界では『原初を極めし者』『魔導王』とも呼ばれていた世界最強の魔法使い。

 いくつもの世界を超えて、いくつもの試練を超えて……そのチカラは遂にこの世界で解放された。

 最もチカラに相応しい後継者の下で。



 眩い銀の光が消失する。
 するとそれまで漆黒の鬼と化していた刃の姿が一変。

 銀の髪と瞳、真っ白な魔法使いのローブを付けて静かに片手を構えた。

「か、神の魔力だと……?」
「神か……あの人が聞いたら溜息吐きそうだ」

 苦笑しながら現れた刃の姿とその魔力を感じて呆然とする魔神。
 だが、無理もない。たった今目の前で絶対にあり得ない現象が起きている。
 混乱するなというのが、無理な話であった。

「魔王の力を解放しながら逆に神の力に切り替えた? そ、そんな……馬鹿げた話が、あるのか?」
「疑うのも無理はないが、今お前の目の前にあるのが全てだ」

 こんな事が許されるのか。魔神は自分自身に問いかけるが、返ってくるのは刃からの理不尽な現実のみ。
 二つの力を使っているのは、魔神も薄々であるが勘付いていた。

 だけどそれは一定条件下でのみ僅かであるが使えるだけで、決して二種類とも同じくらい使える訳じゃないと……魔神は内心勝手に自分を納得させていた。

「魔王の力をあそこまで使えるのは……何万歩譲ってどうにか理解したけど、それは……いくら何でも受け入れられないよ……?」

 体が小刻みに震えている。
 拒絶反応、自分が認めたくない現実を前に彼女は取り戻しかけた冷静さを失い……さっき以上に頭がパニックを起こす。

「こんなの絶対ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ……ダメだよ?」

 フラフラしながら頭を抱える。綺麗な白髪を掻き毟る。
 どうあっても許容出来ない。認め難い存在を前にいよいよ思考回路がおかしくなり……。

「神と魔王……魔神は絶対に愛入れちゃダメなんだ」

 自分が認めていた絶対の秩序が崩れて、次第に震えた手から暗黒の魔力が溜まっていく。

「ダメなんだから───

沈黙の贖罪者イービル・ジャッジメント

 それが巨大な暗黒の雷となる。限界を迎えた魔神の静かな激情と共に放たれたが……。

「……“魔無ゼロ”」

 放たれた巨大な雷は彼を襲い掛かろうとしたところで、その空間に発生した魔力の圧力によって潰される。

 ただの障壁ではない。魔神は放ち続けるが、原理が根本的に違うのか、崩れる様子も見えず彼女の方から放つのを止めた。

「どうやった……」
「……」

 困惑の声に冷たい表情の刃は答えない。
 前方に放っていた魔力の圧力を消すと、手から自身を張るように銀色の魔法陣が展開された。

「『擬似・奇術師の極意フェイク・イリュージョン』」

 瞬間、手首のブレスレットの球体が『透明な水の光』、『宝石のような氷の光』、『神々しい月の光』へと点滅して……三つの光が魔法陣と合体する。

 氷結騎士、月光騎士、慈愛聖女をイメージした三人の女性が降臨した。

「これは……!」
「サナさん! ティアさん! アイリスさん! 頼みます!」

 唖然とする魔神だが、刃の言葉に危機感を抱いて暗黒の障壁を無数に展開する。
 すると彼の声に反応して三人が一斉に攻撃体制に入る。

 氷結騎士サナは氷色の槍からブリザードのような光の波動を放つ。

 月光騎士ティアは月の聖剣を構えて、その一閃を聖なる斬撃刃として飛ばす。

 慈愛聖女アイリスは祈るように杖を構えて、汚れを浄化する白き魔法の光線を撃つ。
 
「ク、ア、アアアアアアアッ!?」

 それぞれの強力な一撃が展開される暗黒の障壁を何枚も破壊。
 魔神の彼女は何とか堪えようとするが、衝撃の余波で後方へ吹き飛ばされしまう。

第三権能サード『超融合』──発動」

 その隙を刃は躊躇わない。
 融合スキルを使って三人の力を自分に取り込んで融合させる。

「“三つの女神の力を一つに”───『宝玉天の限界点クリスタル・メイター』!」

 姿は再び変化する。
 銀だった髪が真っ白になり、左右の瞳は金と水色のオッドアイ。
 ローブはそのままであるが、周囲には宝石のようなキラキラとした三色の球体が弧を描いて並ぶ。

「『宝玉の王威クリスタル・アクセル』!」

 体に『月の宝玉』の力が加わる。
 光となった彼が跳躍すると一気に彼女の真上へ到達。倒れている彼女へ両手を向けた。

「速い!」
「違う。お前が遅いんだ!『宝玉天の光撃ダイヤモンド・レイ』!」
「ッ……!」

 咄嗟に彼女も暗黒の炎『極悪の傲慢者イービル・プライド』を展開するが、出力差が桁違いであった。

「──ッ、こんなことが……!」

 刃から放たれた宝石のような光の光線は巨大な柱だ。
 逃れられず魔神は炎の壁で防ごうとしたが。

「ハァァァァァァッ!!」
「ッッ──!」

 宝石の光線は炎を一瞬にして浄化。
 大した抵抗にもならず、魔神の彼女は光の中へ飲まれていった。




 発動していた『超融合』を解除してゆっくりと降り立つ。
 だが、警戒は少しも緩んではおらず、色が戻った銀の瞳は煙の中の彼女を捉えていた。

「耐えたか……流石だな」

 ダメージはかなり負っているが、まだまだ戦える様子だ。思ったよりの頑丈である。
 このままだと時間を掛け過ぎて逆にこちらがリミットを迎えてしまう恐れが出てくる。
 可能な限りそれは避けてさっさとトドメを刺したいところが……。

「……あれほど殺意で一杯だったのに、まだ覚悟が足りないのか?」

 暴れ過ぎたか、このタイミングになって殺し合いに対する躊躇いが出てきてしまった。

「……ヤバいな」

 これではお人好しというよりも覚悟のない臆病者でしかない。
 魔王の力で正気を失わないようにしたのが仇となったか、その前までに抱いていた憤怒の力が弱まっている。

「ああ、分かってる。倒さないといけない。放って置いたら危険だ。チャンスは今しかない。そんな事は……」

 結局最後はやるかやらないかなのは、彼だってよく知っている筈なのに……。
 このタイミングになって踏ん切りが付かない自分に言い聞かせる刃であるが……。

「ふ、ふふっふふふふ!」

 そうこうしている間に魔神も煙をかき消して出て来る。
 さっきの一撃はだいぶ効いたようだが、それでも致命傷には届くほどの魔力ではない。

「結構本気で撃ったんだけど」

 頭や見える肌から血を流してダメージも大きいが、無傷の仮面が彼女の状態を表せているようだ。

「元気そうだな。やっぱり化け物級だ」
「君が言うか? ここまでボロボロにされたのは久し振りだよ?」

 完全に冷静さが戻った。ようにも見えるが、キレ過ぎて逆に頭が冷えただけ。
 近付くだけでも危険な香りの魔力が溢れ出ているみたいだ。

「認めるよ龍崎刃くん。君はボクが最も否定したい存在の塊だ」
「気のせいか? 人扱いされてる気がしないな」

 神と魔王、その両方の力を普通に使えるのがどうしても許せないのか、逃避を止めるも存在を否定して暗黒の魔力を全身へ集中させる。

「ボクが倒したいのは世界の番人ぶっている神共さ。自分達が中心だと思い込んでいる妄想共」
「凄い良いようだが、突然どうした?」

 そうして自分の目的を再認識させる。
 本来であれば目の前にいる存在など無に等しい。
 居ないようなもので今回の騒ぎの最終的な狙いは、魔導神への嫌がらせであった。

「人間への干渉は遊び程度と決めてたんだけどねぇ」
「……出来れば遊びでもやめて欲しいところだが」
「無理だね。ボクの数少ない息抜きだ。ないと鬱になる」
「一生鬱病になってろ」

 つまりもう遊びではなくなるという事。
 そう理解した刃は僅かにあった躊躇いを一旦忘れる。
 どのみちさっきの魔法レベルでもダメだとなると、今彼が出せる最大級の一撃が必要になる。

「どちらにせよ、やっと本気になったって事か……なら俺もその対応に応える必要があるな」
「まだまだ奥の手がありそうだねぇ。うん、良いよ。そう来ないと───面白くないっ!」

 両手を広げて告げる。
 途端、空間より巨大な暗黒の魔法陣が出現。
 現れたのはさっきまでダンジョンのコアを守護していた竜王キングレッド・ドラゴン。

「契約済みだったって事か……」
「見せてあげるよ。ボクたち魔神の本当の力を!」

 ルールブ姉妹と白き龍アステルとの激突で負傷しているようだが、暗黒のオーラを纏って魔神の側に付き従うと……。

邪悪魔獣・融合イービル・フュージョン

 支配下に置いた竜王と魔神の覆うように赤い魔法陣が生成される。
 魔物同士の融合魔法であるが、魔神は平然と分解していく竜王を取り込んでいく。

「キメラ化したか──来い!」

 対する刃も専用の空間の裂け目から白金の光を取り出す。
 右手首に収めると光がやがて刃へと形状が変化した。


「『悪魔獣・邪炎竜王イービル・レッド・ドラゴン』ッッ!!」
「『継承された神ノ刃イクスセイバー』ッッ!!」


 悪魔獣化した巨大な赤き竜王と白金の刃を装着した銀色の魔導師。

 ダンジョン最下層を舞台にした最後の戦いが始まった。
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