神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜

ルド

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第5章 弟子の魔法使いは世界を彼らと共に守り抜く(掟破りの主人公大集結編!!)

第82話 禁忌の儀式と復活した別世界の王(弟子はダンジョンのダンジョンへ挑む)。

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『ぬ……やはり納得いかんぞ』
「彼のお陰で欲しかった神の魔力ピースが手に入ったんだよ?」
『その作戦に文句は最初からない。我とて奴らから魔力を奪うのは容易ではない。貴様の手引きがなければこうも簡単にはいかなかった』

 とある場所へ転移された塔の内部。魔力が一番集まっている超巨大な魔石──コアが置かれている部屋。
 複雑な魔法陣と祭壇。その上にこの街で盗まれた棺が置かれており、その上に乗るようにして魔神の女性が見上げている魔王に笑顔を向けた。

『しかし、しかしだ……!』
「一旦その不満は置いてよ。どのみち彼らとはすぐ戦う事になるんだ。決着を付けたいならその時で良いだろ?」

 苛立っている魔王を諭すように告げる魔神だが、実は内心かなり浮かれていた。
 待ちに待った実験への挑戦。必要だった『鍵』を奇しくも彼女が否定したくてしょうがない彼が持っていた。ショックで馬鹿馬鹿しいと思われても、彼女は運命を感じずにはいられなかった。

(未だに世界の天秤は水平を保ってる。けどそれは偽りでしかない。綻びは徐々に広がる。……君の天秤はどっちに傾く?)

 芽生えてくるこの感情を魔神は不思議で仕方なかった。いつの間にか好奇心が否定的だった敵意を上回ろうとしていた。

「それじゃー儀式を始めようか」

 祈るように両手を握る。祭壇に描かれている魔法陣を輝き始める。
 置かれている棺も淡く輝きを始めて、周囲に漂っている膨大な魔力を吸収。


「『異次元・生贄の祭壇ディメンション・サクリファイス』──発動!」


 彼女は神々が最も恐れている禁忌を犯してしまった。





 再び合流した零さん、幼馴染という九条さん。それに伝言を頼まれていたトオルさんも戻って来たところで早速移動した俺たち。じゃあ何処を目指せばいいかと一部のメンバーが口にしていたが、生憎とその手間はとっくにショートカットしていた。

「本当にここであってるのか?」
「はい、間違いないかと」

 その建物を見ながら零さんが訝しげに尋ねる。確信を得ているので俺は頷くと、不思議そうな顔のマドカも訊いてくる。

「ですが刃。念の為セキュリティに侵入して内部の状況を調べましたが、特に反応はありませんでしたよ? 沢山の探知機が設置してるのでアレだけの巨大な物体に反応しないというのは少々無理がありませんか?」

 マドカの意見は最もだが、ここに奴らがいるのは間違いない。シュウさんに頼んだ保険がどうやら間に合ったようだしな。ちなみに師匠は何も言ってこないが、その目付きを見ればこの人も気付いているのだとよく分かった。トオルさんは知らんが。

「何処で聞かれてるかも分からないんだ。とりあえず信じてくれとしか言えない。……だが」
「刃?」

 不意に自分の手のひらを見つめる俺を見てマドカが不思議そうにする。
 
「問題があるとしたらこっちだ。魔道具の副作用で全身の倦怠感と脱力感がヤバい」
「ジン、魔力と気力はある程度回復したんだよな?」
「それでも限度があります。ただでさえ師匠と魔王の力を続けて使っちゃってますから」

 しかも魔力まで持ってかれて完全に消耗し切っていた。沢山食い物を食って副作用の反動から戻したが。

「この体で何処まで戦えるか……」
「いっそ退がりませんか? この戦いは言うなら神々の問題です。分身とはいえ魔導神が来てますし、押し付けても罰は当たりませんよ、ね?」
「よ?って首を傾げながらこっちを見ないでくれよ……」

 嫌そうな顔で師匠がため息を漏らす。まぁこの状況の原因は師匠。正確には全ての世界を守っている神々にある。さぞや恨みや憎しみがたっぷりなようだしフォローのしようがない。

「正直休みたい気持ちもある。トオルさんやマドカ、他にも異能使いの零さんたちもいるし、俺が居なくてもなんとかなりそうなメンツばかりだ」
「なんかオレがカウントされてないけど、ツッコムのは止めよう(理不尽なカウンターくらいそうだし)」

 ブツブツとヴィットが何か言っているけどスルー。

「けど此処は俺が生きている世界なんだ。それに……魔神アイツは桜香だけじゃなくて緋奈にまで手を出しやがった」

 心の中で切り捨てた筈だった過去の絆。
 それを魔神は利用して前回のダンジョンだけでなく今回も奴は……!
 怒りのあまり煮え滾りそうになる。体がぐったりしているのに笑っている奴の顔を思い浮かべると……!

「その怒りに呑まれるな。刃」
「っ……れ、零さん?」
「妹なのか? あの操られていた子は」

 ……言ってなかったか。あの光景が浮かんだ途端血圧や心拍が跳ね上がったが、ジッと見つめる零さんの瞳に圧される。まるで相手の全てを支配するような威圧感。煮え滾っていた精神が徐々に静かになるのを感じた。

「はい、色々あって疎遠で仲が良い方ではないんですが……」
「そうか……オレもそうだったな。ずっと一緒に住んでいたが、ずっと遠ざけていた」

 あの妹に会えない事で苛立っていた零さんが?
 信じられない俺をよそに零さんは思い出すように空を見上げた。

「オレの家系は異能の一族だったんだが、妹はまだ目覚めてなかった。一般からは秘匿が基本な異能社会の方針もあって妹には内緒にしていたが、オレは守りたいあまりに何年も拒絶してしまった」

「そしてオレの失敗で妹を巻き込んで……傷付けた。覚えた方がいい。一人でなんでもやろうとしている内はどんなに強くても半人前なんだ。一生な」

「オレたちは誰かに打ち明けて頼る事を覚えないといけないんだ。でなければお前もオレのように取り返しの付かない失敗をしてしまう。向き合わないといけないんだ」

 チラリと九条さんが横目で彼を見つめる。色んな気持ちが混ざった複雑そうな表情で。

「零さんでもそんな失敗をしたんですか」
「所詮まだガキだったという事だ。事件自体は解決はしたが、オレは後悔のあまり一度異能世界から足を洗った。拒絶していた妹を……これでもかと甘やかした!」

 あ、一瞬で白けた顔になった。深いため息をついて会話に入ってくる。

「はぁぁぁあああああ。それが重度のシスコンの誕生の瞬間。今まで私たちがどれだけ言っても知らん顔だったのが、今ではこんな悲惨な兄になって……」
「悲惨とはなんだ! オレはただ妹に愛を注ぐと誓っただけだ!」
「限度に気付きなさい。まだ中学生だけど葵の方がその気になったらどうするの?」
「その気? いつも笑顔だぞアイツ?」
「……本気で葵の将来が不安になってきた」

 シリアスな感じから空気がなんかアレな方向へ進んだ。
 会話の感じからさすがに冗談かと思ったけど、あの疲れたような九条さんの表情。……マジなのか。さすがに緋奈とそんな禁断の領域に踏み込む事はないが。

「な、なんという事でしょうか……! 刃のところだけでなく他所様でもそんな心配が……!」

 ちょっとマドカさん? 俺のところだけでなくってどういう意味かな?
 あるわけないだろう。どんだけ信用ならないんだ

「ちなみにお前の方はどうなんだ? 四神使い」
「う、じ、実妹じゃないが、知り合いの姉妹と……ちょっと?」

 はい、ダウト。師匠とヴィットの会話を聞いて思った。こっちも大概ヤベェわ。

「まぁ一番ヤバいのはそこの魔道神ですけどね。何人も侍らせた上、幼女にしか見えない妖精族とお風呂入ってたそうですよ?」

 師匠ォォォォォォォォォ!? まだ爆弾があったんですかァァァァァ!? 大概にしないと本当に弟子やめますよ!? というかこの物語が終わる!

「刃、気にしてても仕方ありませんよ?」
「メンバー扱いだから嫌でも気にするんだよ! ていうかなんでこんな話になった!?!?」

 敵が隠れているを前にして早くも帰りたくなった。このチーム、最悪過ぎる!





 警備の人たちは眠らせた。師匠とマドカが組めば簡単だった。
 セキュリティに関してもマドカの魔法で掌握済み。門を開けてダンジョンが設置されている建物へ行く。

「魔神たちはダンジョンの中へ転移したんですか?」
「ああ、恐らく以前ダンジョン内に殺戮ゴーレムを入れていた際、ついでに転移用のマーキングが陣でも作って置いたんだろ。教員の中に使者も紛れていたし、密かに実験を行っていても不思議じゃない」

 そう考えると俺の学園選択は間違いだったかもしれない。面倒しか舞い込んでこないから。
 数分歩くと建物に到着。さすがに警備の人はいなくて職員も不在であるが、今は都合が良かった。扉をマドカに開けて貰い俺たちは反応がある階層まで置かれている転移装置で一気に降りた。

 場所は四十四層の迷宮と洞窟ステージ。
 広さは俺の知る限り1位2位くらいはあるほど広大。洞窟と言っても規模がデカ過ぎる。大分下の階層なので魔物のランクも雑魚ではなく中級が多いが、今回に限ってはその心配も不要である。何故なら……

「なんで一体もいないんだ?」

 首を傾げるヴィットに同意するように何名か頷いている。
 気付いたのは俺、師匠、マドカ、トオルさんの四人。零さんももしやと言った視線を奥に隠されていた塔へ向けた。かなりデカい塔だったが、どうやら洞窟に埋め込まれる感じで転移されたらしい。抜け出すにはまた転移が必要だろう。

「あの塔が全て喰らったのか?」
「は!? そうなのか!?」
「オレはあの塔に取り込まれそうになってこっちに来た。抜け出せてなかった場合の事を考えると可能性は高いと思うが」
「零さんの言う通りだと思いますが、多分それだけじゃないかと」

 推測する零さんに肯定しておく。あの塔にはいろいろな機能が備わっているようだし、そういった魔物を強制的に取り込んでしまう魔法やスキルも付いているかもしれないが、魔物ゼロのこの惨状はそれだけが理由ではない。

 師匠もトオルさんも気付いている。うまく溶け込んでいるが……

「っ!」

 零さんも気付いたようだ。俺の説明に対し疑問を口にしかけたが、微かに感じ取った気味の悪い気配に意識を逸された。

【……】

 ソイツは景気に同化していたが、俺たちが気付いたと知ってか、徐々に姿を露わにして抑えていた気配を解放させた。

「アイツは……!」
「零さん?」

 ソイツの姿を目撃した零さんが両目を見開く。九条さんも何か感じ取ったのか信じられない様子でソイツを見て、零さんの方へ顔を向けた。

「零! アレってまさか!」
「っ……ああ、忘れるかよ。あの姿もこの気配……!」
「知ってるんですか? 奴を」

 意外な事に零さんと九条さんも知っているようだ。ただの魔物ではないと思ったが、二人が知っていると言うことは別世界の魔物というのか?
 真っ黒なローブの存在が浮いていた。魔力に似ているが、何か別の気配が奴を覆っていて不気味だった。
 だが、ソイツがこの辺りの魔物を喰い尽くしたのは、微かに残っている魔物の残滓。目では見えないが、奴の周りで漂っていた。


「奴はオレの世界で暴れた魔獣。オレが倒した筈の『王』と呼ばれる化け物だ」
【ウォォォォォオオオオオオオ】


 告げられた事実と共に唸り上げる魔獣の王。
 情報は少な過ぎるが、静かな殺気を漏らしている零さんを見て、俺は奴が妹さんの原因だと理解した。

*作者コメント*

 遂に行われた禁断の儀式によって復活した別世界の怪物(見た目はローブのお化けですが)。世界のバランスが徐々に崩れていく。

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