90 / 101
第5章 弟子の魔法使いは世界を彼らと共に守り抜く(掟破りの主人公大集結編!!)
第82話 禁忌の儀式と復活した別世界の王(弟子はダンジョンのダンジョンへ挑む)。
しおりを挟む
『ぬ……やはり納得いかんぞ』
「彼のお陰で欲しかった神の魔力が手に入ったんだよ?」
『その作戦に文句は最初からない。我とて奴らから魔力を奪うのは容易ではない。貴様の手引きがなければこうも簡単にはいかなかった』
とある場所へ転移された塔の内部。魔力が一番集まっている超巨大な魔石──コアが置かれている部屋。
複雑な魔法陣と祭壇。その上にこの街で盗まれた棺が置かれており、その上に乗るようにして魔神の女性が見上げている魔王に笑顔を向けた。
『しかし、しかしだ……!』
「一旦その不満は置いてよ。どのみち彼らとはすぐ戦う事になるんだ。決着を付けたいならその時で良いだろ?」
苛立っている魔王を諭すように告げる魔神だが、実は内心かなり浮かれていた。
待ちに待った実験への挑戦。必要だった『鍵』を奇しくも彼女が否定したくてしょうがない彼が持っていた。ショックで馬鹿馬鹿しいと思われても、彼女は運命を感じずにはいられなかった。
(未だに世界の天秤は水平を保ってる。けどそれは偽りでしかない。綻びは徐々に広がる。……君の天秤はどっちに傾く?)
芽生えてくるこの感情を魔神は不思議で仕方なかった。いつの間にか好奇心が否定的だった敵意を上回ろうとしていた。
「それじゃー儀式を始めようか」
祈るように両手を握る。祭壇に描かれている魔法陣を輝き始める。
置かれている棺も淡く輝きを始めて、周囲に漂っている膨大な魔力を吸収。
「『異次元・生贄の祭壇』──発動!」
彼女は神々が最も恐れている禁忌を犯してしまった。
再び合流した零さん、幼馴染という九条さん。それに伝言を頼まれていたトオルさんも戻って来たところで早速移動した俺たち。じゃあ何処を目指せばいいかと一部のメンバーが口にしていたが、生憎とその手間はとっくにショートカットしていた。
「本当にここであってるのか?」
「はい、間違いないかと」
その建物を見ながら零さんが訝しげに尋ねる。確信を得ているので俺は頷くと、不思議そうな顔のマドカも訊いてくる。
「ですが刃。念の為セキュリティに侵入して内部の状況を調べましたが、特に反応はありませんでしたよ? 沢山の探知機が設置してるのでアレだけの巨大な物体に反応しないというのは少々無理がありませんか?」
マドカの意見は最もだが、ここに奴らがいるのは間違いない。シュウさんに頼んだ保険がどうやら間に合ったようだしな。ちなみに師匠は何も言ってこないが、その目付きを見ればこの人も気付いているのだとよく分かった。トオルさんは知らんが。
「何処で聞かれてるかも分からないんだ。とりあえず信じてくれとしか言えない。……だが」
「刃?」
不意に自分の手のひらを見つめる俺を見てマドカが不思議そうにする。
「問題があるとしたらこっちだ。魔道具の副作用で全身の倦怠感と脱力感がヤバい」
「ジン、魔力と気力はある程度回復したんだよな?」
「それでも限度があります。ただでさえ師匠と魔王の力を続けて使っちゃってますから」
しかも魔力まで持ってかれて完全に消耗し切っていた。沢山食い物を食って副作用の反動から戻したが。
「この体で何処まで戦えるか……」
「いっそ退がりませんか? この戦いは言うなら神々の問題です。分身とはいえ魔導神が来てますし、押し付けても罰は当たりませんよ、ね?」
「よ?って首を傾げながらこっちを見ないでくれよ……」
嫌そうな顔で師匠がため息を漏らす。まぁこの状況の原因は師匠。正確には全ての世界を守っている神々にある。さぞや恨みや憎しみがたっぷりなようだしフォローのしようがない。
「正直休みたい気持ちもある。トオルさんやマドカ、他にも異能使いの零さんたちもいるし、俺が居なくてもなんとかなりそうなメンツばかりだ」
「なんかオレがカウントされてないけど、ツッコムのは止めよう(理不尽なカウンターくらいそうだし)」
ブツブツとヴィットが何か言っているけどスルー。
「けど此処は俺が生きている世界なんだ。それに……魔神は桜香だけじゃなくて緋奈にまで手を出しやがった」
心の中で切り捨てた筈だった過去の絆。
それを魔神は利用して前回のダンジョンだけでなく今回も奴は……!
怒りのあまり煮え滾りそうになる。体がぐったりしているのに笑っている奴の顔を思い浮かべると……!
「その怒りに呑まれるな。刃」
「っ……れ、零さん?」
「妹なのか? あの操られていた子は」
……言ってなかったか。あの光景が浮かんだ途端血圧や心拍が跳ね上がったが、ジッと見つめる零さんの瞳に圧される。まるで相手の全てを支配するような威圧感。煮え滾っていた精神が徐々に静かになるのを感じた。
「はい、色々あって疎遠で仲が良い方ではないんですが……」
「そうか……オレもそうだったな。ずっと一緒に住んでいたが、ずっと遠ざけていた」
あの妹に会えない事で苛立っていた零さんが?
信じられない俺をよそに零さんは思い出すように空を見上げた。
「オレの家系は異能の一族だったんだが、妹はまだ目覚めてなかった。一般からは秘匿が基本な異能社会の方針もあって妹には内緒にしていたが、オレは守りたいあまりに何年も拒絶してしまった」
「そしてオレの失敗で妹を巻き込んで……傷付けた。覚えた方がいい。一人でなんでもやろうとしている内はどんなに強くても半人前なんだ。一生な」
「オレたちは誰かに打ち明けて頼る事を覚えないといけないんだ。でなければお前もオレのように取り返しの付かない失敗をしてしまう。向き合わないといけないんだ」
チラリと九条さんが横目で彼を見つめる。色んな気持ちが混ざった複雑そうな表情で。
「零さんでもそんな失敗をしたんですか」
「所詮まだガキだったという事だ。事件自体は解決はしたが、オレは後悔のあまり一度異能世界から足を洗った。拒絶していた妹を……これでもかと甘やかした!」
あ、一瞬で白けた顔になった。深いため息をついて会話に入ってくる。
「はぁぁぁあああああ。それが重度のシスコンの誕生の瞬間。今まで私たちがどれだけ言っても知らん顔だったのが、今ではこんな悲惨な兄になって……」
「悲惨とはなんだ! オレはただ妹に愛を注ぐと誓っただけだ!」
「限度に気付きなさい。まだ中学生だけど葵の方がその気になったらどうするの?」
「その気? いつも笑顔だぞアイツ?」
「……本気で葵の将来が不安になってきた」
シリアスな感じから空気がなんかアレな方向へ進んだ。
会話の感じからさすがに冗談かと思ったけど、あの疲れたような九条さんの表情。……マジなのか。さすがに緋奈とそんな禁断の領域に踏み込む事はないが。
「な、なんという事でしょうか……! 刃のところだけでなく他所様でもそんな心配が……!」
ちょっとマドカさん? 俺のところだけでなくってどういう意味かな?
あるわけないだろう。どんだけ信用ならないんだ俺は。
「ちなみにお前の方はどうなんだ? 四神使い」
「う、じ、実妹じゃないが、知り合いの姉妹と……ちょっと?」
はい、ダウト。師匠とヴィットの会話を聞いて思った。こっちも大概ヤベェわ。
「まぁ一番ヤバいのはそこの魔道神ですけどね。何人も侍らせた上、幼女にしか見えない妖精族とお風呂入ってたそうですよ?」
師匠ォォォォォォォォォ!? まだ爆弾があったんですかァァァァァ!? 大概にしないと本当に弟子やめますよ!? というかこの物語が終わる!
「刃、気にしてても仕方ありませんよ?」
「メンバー扱いだから嫌でも気にするんだよ! ていうかなんでこんな話になった!?!?」
敵が隠れている学園を前にして早くも帰りたくなった。このチーム、最悪過ぎる!
警備の人たちは眠らせた。師匠とマドカが組めば簡単だった。
セキュリティに関してもマドカの魔法で掌握済み。門を開けてダンジョンが設置されている建物へ行く。
「魔神たちはダンジョンの中へ転移したんですか?」
「ああ、恐らく以前ダンジョン内に殺戮ゴーレムを入れていた際、ついでに転移用のマーキングが陣でも作って置いたんだろ。教員の中に使者も紛れていたし、密かに実験を行っていても不思議じゃない」
そう考えると俺の学園選択は間違いだったかもしれない。面倒しか舞い込んでこないから。
数分歩くと建物に到着。さすがに警備の人はいなくて職員も不在であるが、今は都合が良かった。扉をマドカに開けて貰い俺たちは反応がある階層まで置かれている転移装置で一気に降りた。
場所は四十四層の迷宮と洞窟ステージ。
広さは俺の知る限り1位2位くらいはあるほど広大。洞窟と言っても規模がデカ過ぎる。大分下の階層なので魔物のランクも雑魚ではなく中級が多いが、今回に限ってはその心配も不要である。何故なら……
「なんで一体もいないんだ?」
首を傾げるヴィットに同意するように何名か頷いている。
気付いたのは俺、師匠、マドカ、トオルさんの四人。零さんももしやと言った視線を奥に隠されていた塔へ向けた。かなりデカい塔だったが、どうやら洞窟に埋め込まれる感じで転移されたらしい。抜け出すにはまた転移が必要だろう。
「あの塔が全て喰らったのか?」
「は!? そうなのか!?」
「オレはあの塔に取り込まれそうになってこっちに来た。抜け出せてなかった場合の事を考えると可能性は高いと思うが」
「零さんの言う通りだと思いますが、多分それだけじゃないかと」
推測する零さんに肯定しておく。あの塔にはいろいろな機能が備わっているようだし、そういった魔物を強制的に取り込んでしまう魔法やスキルも付いているかもしれないが、魔物ゼロのこの惨状はそれだけが理由ではない。
師匠もトオルさんも気付いている。うまく溶け込んでいるが……いるな。
「っ!」
零さんも気付いたようだ。俺の説明に対し疑問を口にしかけたが、微かに感じ取った気味の悪い気配に意識を逸された。
【……】
ソイツは景気に同化していたが、俺たちが気付いたと知ってか、徐々に姿を露わにして抑えていた気配を解放させた。
「アイツは……!」
「零さん?」
ソイツの姿を目撃した零さんが両目を見開く。九条さんも何か感じ取ったのか信じられない様子でソイツを見て、零さんの方へ顔を向けた。
「零! アレってまさか!」
「っ……ああ、忘れるかよ。あの姿もこの気配……!」
「知ってるんですか? 奴を」
意外な事に零さんと九条さんも知っているようだ。ただの魔物ではないと思ったが、二人が知っていると言うことは別世界の魔物というのか?
真っ黒なローブの存在が浮いていた。魔力に似ているが、何か別の気配が奴を覆っていて不気味だった。
だが、ソイツがこの辺りの魔物を喰い尽くしたのは、微かに残っている魔物の残滓。目では見えないが、奴の周りで漂っていた。
「奴はオレの世界で暴れた魔獣。オレが倒した筈の『王』と呼ばれる化け物だ」
【ウォォォォォオオオオオオオ】
告げられた事実と共に唸り上げる魔獣の王。
情報は少な過ぎるが、静かな殺気を漏らしている零さんを見て、俺は奴が妹さんの原因だと理解した。
*作者コメント*
遂に行われた禁断の儀式によって復活した別世界の怪物(見た目はローブのお化けですが)。世界のバランスが徐々に崩れていく。
「彼のお陰で欲しかった神の魔力が手に入ったんだよ?」
『その作戦に文句は最初からない。我とて奴らから魔力を奪うのは容易ではない。貴様の手引きがなければこうも簡単にはいかなかった』
とある場所へ転移された塔の内部。魔力が一番集まっている超巨大な魔石──コアが置かれている部屋。
複雑な魔法陣と祭壇。その上にこの街で盗まれた棺が置かれており、その上に乗るようにして魔神の女性が見上げている魔王に笑顔を向けた。
『しかし、しかしだ……!』
「一旦その不満は置いてよ。どのみち彼らとはすぐ戦う事になるんだ。決着を付けたいならその時で良いだろ?」
苛立っている魔王を諭すように告げる魔神だが、実は内心かなり浮かれていた。
待ちに待った実験への挑戦。必要だった『鍵』を奇しくも彼女が否定したくてしょうがない彼が持っていた。ショックで馬鹿馬鹿しいと思われても、彼女は運命を感じずにはいられなかった。
(未だに世界の天秤は水平を保ってる。けどそれは偽りでしかない。綻びは徐々に広がる。……君の天秤はどっちに傾く?)
芽生えてくるこの感情を魔神は不思議で仕方なかった。いつの間にか好奇心が否定的だった敵意を上回ろうとしていた。
「それじゃー儀式を始めようか」
祈るように両手を握る。祭壇に描かれている魔法陣を輝き始める。
置かれている棺も淡く輝きを始めて、周囲に漂っている膨大な魔力を吸収。
「『異次元・生贄の祭壇』──発動!」
彼女は神々が最も恐れている禁忌を犯してしまった。
再び合流した零さん、幼馴染という九条さん。それに伝言を頼まれていたトオルさんも戻って来たところで早速移動した俺たち。じゃあ何処を目指せばいいかと一部のメンバーが口にしていたが、生憎とその手間はとっくにショートカットしていた。
「本当にここであってるのか?」
「はい、間違いないかと」
その建物を見ながら零さんが訝しげに尋ねる。確信を得ているので俺は頷くと、不思議そうな顔のマドカも訊いてくる。
「ですが刃。念の為セキュリティに侵入して内部の状況を調べましたが、特に反応はありませんでしたよ? 沢山の探知機が設置してるのでアレだけの巨大な物体に反応しないというのは少々無理がありませんか?」
マドカの意見は最もだが、ここに奴らがいるのは間違いない。シュウさんに頼んだ保険がどうやら間に合ったようだしな。ちなみに師匠は何も言ってこないが、その目付きを見ればこの人も気付いているのだとよく分かった。トオルさんは知らんが。
「何処で聞かれてるかも分からないんだ。とりあえず信じてくれとしか言えない。……だが」
「刃?」
不意に自分の手のひらを見つめる俺を見てマドカが不思議そうにする。
「問題があるとしたらこっちだ。魔道具の副作用で全身の倦怠感と脱力感がヤバい」
「ジン、魔力と気力はある程度回復したんだよな?」
「それでも限度があります。ただでさえ師匠と魔王の力を続けて使っちゃってますから」
しかも魔力まで持ってかれて完全に消耗し切っていた。沢山食い物を食って副作用の反動から戻したが。
「この体で何処まで戦えるか……」
「いっそ退がりませんか? この戦いは言うなら神々の問題です。分身とはいえ魔導神が来てますし、押し付けても罰は当たりませんよ、ね?」
「よ?って首を傾げながらこっちを見ないでくれよ……」
嫌そうな顔で師匠がため息を漏らす。まぁこの状況の原因は師匠。正確には全ての世界を守っている神々にある。さぞや恨みや憎しみがたっぷりなようだしフォローのしようがない。
「正直休みたい気持ちもある。トオルさんやマドカ、他にも異能使いの零さんたちもいるし、俺が居なくてもなんとかなりそうなメンツばかりだ」
「なんかオレがカウントされてないけど、ツッコムのは止めよう(理不尽なカウンターくらいそうだし)」
ブツブツとヴィットが何か言っているけどスルー。
「けど此処は俺が生きている世界なんだ。それに……魔神は桜香だけじゃなくて緋奈にまで手を出しやがった」
心の中で切り捨てた筈だった過去の絆。
それを魔神は利用して前回のダンジョンだけでなく今回も奴は……!
怒りのあまり煮え滾りそうになる。体がぐったりしているのに笑っている奴の顔を思い浮かべると……!
「その怒りに呑まれるな。刃」
「っ……れ、零さん?」
「妹なのか? あの操られていた子は」
……言ってなかったか。あの光景が浮かんだ途端血圧や心拍が跳ね上がったが、ジッと見つめる零さんの瞳に圧される。まるで相手の全てを支配するような威圧感。煮え滾っていた精神が徐々に静かになるのを感じた。
「はい、色々あって疎遠で仲が良い方ではないんですが……」
「そうか……オレもそうだったな。ずっと一緒に住んでいたが、ずっと遠ざけていた」
あの妹に会えない事で苛立っていた零さんが?
信じられない俺をよそに零さんは思い出すように空を見上げた。
「オレの家系は異能の一族だったんだが、妹はまだ目覚めてなかった。一般からは秘匿が基本な異能社会の方針もあって妹には内緒にしていたが、オレは守りたいあまりに何年も拒絶してしまった」
「そしてオレの失敗で妹を巻き込んで……傷付けた。覚えた方がいい。一人でなんでもやろうとしている内はどんなに強くても半人前なんだ。一生な」
「オレたちは誰かに打ち明けて頼る事を覚えないといけないんだ。でなければお前もオレのように取り返しの付かない失敗をしてしまう。向き合わないといけないんだ」
チラリと九条さんが横目で彼を見つめる。色んな気持ちが混ざった複雑そうな表情で。
「零さんでもそんな失敗をしたんですか」
「所詮まだガキだったという事だ。事件自体は解決はしたが、オレは後悔のあまり一度異能世界から足を洗った。拒絶していた妹を……これでもかと甘やかした!」
あ、一瞬で白けた顔になった。深いため息をついて会話に入ってくる。
「はぁぁぁあああああ。それが重度のシスコンの誕生の瞬間。今まで私たちがどれだけ言っても知らん顔だったのが、今ではこんな悲惨な兄になって……」
「悲惨とはなんだ! オレはただ妹に愛を注ぐと誓っただけだ!」
「限度に気付きなさい。まだ中学生だけど葵の方がその気になったらどうするの?」
「その気? いつも笑顔だぞアイツ?」
「……本気で葵の将来が不安になってきた」
シリアスな感じから空気がなんかアレな方向へ進んだ。
会話の感じからさすがに冗談かと思ったけど、あの疲れたような九条さんの表情。……マジなのか。さすがに緋奈とそんな禁断の領域に踏み込む事はないが。
「な、なんという事でしょうか……! 刃のところだけでなく他所様でもそんな心配が……!」
ちょっとマドカさん? 俺のところだけでなくってどういう意味かな?
あるわけないだろう。どんだけ信用ならないんだ俺は。
「ちなみにお前の方はどうなんだ? 四神使い」
「う、じ、実妹じゃないが、知り合いの姉妹と……ちょっと?」
はい、ダウト。師匠とヴィットの会話を聞いて思った。こっちも大概ヤベェわ。
「まぁ一番ヤバいのはそこの魔道神ですけどね。何人も侍らせた上、幼女にしか見えない妖精族とお風呂入ってたそうですよ?」
師匠ォォォォォォォォォ!? まだ爆弾があったんですかァァァァァ!? 大概にしないと本当に弟子やめますよ!? というかこの物語が終わる!
「刃、気にしてても仕方ありませんよ?」
「メンバー扱いだから嫌でも気にするんだよ! ていうかなんでこんな話になった!?!?」
敵が隠れている学園を前にして早くも帰りたくなった。このチーム、最悪過ぎる!
警備の人たちは眠らせた。師匠とマドカが組めば簡単だった。
セキュリティに関してもマドカの魔法で掌握済み。門を開けてダンジョンが設置されている建物へ行く。
「魔神たちはダンジョンの中へ転移したんですか?」
「ああ、恐らく以前ダンジョン内に殺戮ゴーレムを入れていた際、ついでに転移用のマーキングが陣でも作って置いたんだろ。教員の中に使者も紛れていたし、密かに実験を行っていても不思議じゃない」
そう考えると俺の学園選択は間違いだったかもしれない。面倒しか舞い込んでこないから。
数分歩くと建物に到着。さすがに警備の人はいなくて職員も不在であるが、今は都合が良かった。扉をマドカに開けて貰い俺たちは反応がある階層まで置かれている転移装置で一気に降りた。
場所は四十四層の迷宮と洞窟ステージ。
広さは俺の知る限り1位2位くらいはあるほど広大。洞窟と言っても規模がデカ過ぎる。大分下の階層なので魔物のランクも雑魚ではなく中級が多いが、今回に限ってはその心配も不要である。何故なら……
「なんで一体もいないんだ?」
首を傾げるヴィットに同意するように何名か頷いている。
気付いたのは俺、師匠、マドカ、トオルさんの四人。零さんももしやと言った視線を奥に隠されていた塔へ向けた。かなりデカい塔だったが、どうやら洞窟に埋め込まれる感じで転移されたらしい。抜け出すにはまた転移が必要だろう。
「あの塔が全て喰らったのか?」
「は!? そうなのか!?」
「オレはあの塔に取り込まれそうになってこっちに来た。抜け出せてなかった場合の事を考えると可能性は高いと思うが」
「零さんの言う通りだと思いますが、多分それだけじゃないかと」
推測する零さんに肯定しておく。あの塔にはいろいろな機能が備わっているようだし、そういった魔物を強制的に取り込んでしまう魔法やスキルも付いているかもしれないが、魔物ゼロのこの惨状はそれだけが理由ではない。
師匠もトオルさんも気付いている。うまく溶け込んでいるが……いるな。
「っ!」
零さんも気付いたようだ。俺の説明に対し疑問を口にしかけたが、微かに感じ取った気味の悪い気配に意識を逸された。
【……】
ソイツは景気に同化していたが、俺たちが気付いたと知ってか、徐々に姿を露わにして抑えていた気配を解放させた。
「アイツは……!」
「零さん?」
ソイツの姿を目撃した零さんが両目を見開く。九条さんも何か感じ取ったのか信じられない様子でソイツを見て、零さんの方へ顔を向けた。
「零! アレってまさか!」
「っ……ああ、忘れるかよ。あの姿もこの気配……!」
「知ってるんですか? 奴を」
意外な事に零さんと九条さんも知っているようだ。ただの魔物ではないと思ったが、二人が知っていると言うことは別世界の魔物というのか?
真っ黒なローブの存在が浮いていた。魔力に似ているが、何か別の気配が奴を覆っていて不気味だった。
だが、ソイツがこの辺りの魔物を喰い尽くしたのは、微かに残っている魔物の残滓。目では見えないが、奴の周りで漂っていた。
「奴はオレの世界で暴れた魔獣。オレが倒した筈の『王』と呼ばれる化け物だ」
【ウォォォォォオオオオオオオ】
告げられた事実と共に唸り上げる魔獣の王。
情報は少な過ぎるが、静かな殺気を漏らしている零さんを見て、俺は奴が妹さんの原因だと理解した。
*作者コメント*
遂に行われた禁断の儀式によって復活した別世界の怪物(見た目はローブのお化けですが)。世界のバランスが徐々に崩れていく。
0
あなたにおすすめの小説
(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。
人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。
それからおよそ20年。
ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。
ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。
そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。
ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。
次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。
そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。
ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。
採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。
しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。
そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。
そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。
しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。
そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。
本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。
そうして始まった少女による蹂躙劇。
明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。
こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような……
※カクヨムにて先行公開しています。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる