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閑話① ナイトレートの視点 寝顔

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「はっ!? も、申し訳ない! アリアンヌ嬢! つい一人で舞い上がってしまっていた! そ、それより、顔が赤いようだが......熱でもあるのか……?」

 ダメ元で頼んだ婚約を『承諾してくれる』という返事を聞いて、思わず舞い上がってしまっていた。その所為で、アリアンヌ嬢が顔を赤くしていたことに気付かなかった。全く、折角婚約者として認めて貰えたというのに、不甲斐ない限りだ。

 そう思い、私はアリアンヌ嬢に熱がないか、確認する為、いつも従者達にされていたように、彼女の額に自分の額を当ててみたのだが____

「でん......かぁ......」
「あ、アリアンヌ嬢ぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 結果、体調不良を拗らせてしまったのか、アリアンヌ嬢は顔を真っ赤にしたまま倒れてしまった。私が気を配れていなかったせいだ.....

 と、悲観的になっても仕方がない。私は一刻も早く、アリアンヌ嬢を医務室に運ばなければならないのだ。

 そう思い、私はアリアンヌ嬢を抱えて、部屋を出た。



 アリアンヌ嬢を医務室に運び込み、ベッドに寝かせ、私も近くにあった椅子に座る。

 普段は従者達に自分が運ばれ、寝かされている場所に、今は自分の愛しい女性が寝かされていると思うと、何だか不思議な気持ちになってしまい、私はベッドで寝かされているアリアンヌ嬢に目を向ける。

 あのパーティー以前に最後に言葉を交わしてからは一年か二年程しか経っていないはずだが、自分のものよりも強く、丈夫に見えた四肢は少し力を加えると折れてしまいそうな程に華奢で、その寝顔はまるで一級品の彫刻の様に美しく、いつまでも眺めていられそうだった。

 すー、すー、と規則正しい寝息の音が聞こえてきて、何故だかといぇもドキドキしてしまう。彼女のことが好きだから、といえばそれまでなのだが、この幸福感を感じられるのは婚約者である自分だけ、と考えると、優越感から笑みが零れる。その時だった__

「ここは……?」

「んぅ、殿……下......?」

 アリアンヌ嬢が目を覚ましてしまったようだ。寝起きの顔もまた綺麗だ。しかし、ずっと見詰められていたことを知ると彼女はどう感じるだろうか____彼女に嫌われる、という可能性がゼロではないことを悟り、私は思考を巡らせた。

 今日のことは、死ぬまで自分一人の秘密にしよう____そう思い、私は口を開いた。
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