王子は破滅願望がおありでしょうか? ―バカ王子が妖精の愛し子を欲望のままに拐ったので国が崩壊しました―

Erin

文字の大きさ
5 / 6

第5話

しおりを挟む
『クッキー!』
『約束のクッキーだ!』

 花畑に帰ってきた翌日、私は朝早くに起きだしてハーブを採りに行った。妖精たちはローズマリー入りのサクサクしたクッキーがお気に入りだ。他にも香りのよい花びら入りのクッキーも大好き。

 だから朝露に濡れたローズマリーと、食べられて香りの良い花を摘んで家に戻る。朝食の後、手早くクッキーを作る。家族のために少しだけ取り置いた後、花畑に向かった。

「いっぱい食べて。約束のクッキーよ」
 そういえばいつも以上にたくさんの妖精が集まり、あっと言う間に無くなった。

『もっと!』
『足りないよ!』

 おかしい、普段の三倍は作ったのに。とはいえ妖精との契約は絶対だ。

「えっと今日はこれで終わりだけど、材料があれば明日、なければ手に入った翌日に今日と同じだけ焼くから許してくれる?」

『いいよー』
『また作ってくれるなら』
『たくさん作ってー』

 私の一言にたくさんの言葉が返ってくる。
 変わらない日常、これまでもこれからもきっと続く。

 妖精との契約は絶対だ。

 私がこんなところに居たくない、帰りたい、もう王子の顔を二度と見たくないと願って、その対価にクッキーを作ると契約した。

 結果、私の日常は元通りになった。

 きっともう王子と会うことも、王宮に召し上げられることもない。
 王子のその後がどうなったかは知らないけど、気遣うことはしない。
 妖精は人とは違う。

 花畑に集まる子たちは陽気で難しいことを考えることが嫌いな快楽主義ばかりだ。善悪の区別はなく好悪で行動を決める。

 それに人間とは行動規範が全く違う。
 このことを頭に入れて契約しないととんでもないことになるのだ。

 例えば嫌いな人に付きまとわれてどうにかしてほしいと願えば、自分か相手が死んで一緒になれない状況を作り出す。
 お金持ちになりたいと願えば、大怪我を負い、慰謝料で大金持ちになる。

 一事が万事がこうなのだ。

 だから付きまとう男をなんとかしたいなら、相手が私以外の女性と相思相愛になり、自然につきまといがなくなるようになって欲しいと願わなくてはいけない。お金持ちになりたいと願うなら、自分がやりたい職業で成功してお金持ちになりたい。でも自分や家族が害されたり、家族の仲が壊れるような事態は望まないことを契約に盛り込む必要がある。

 でも私はあの時、そんなことは願わなかった。
 今頃きっと王子は私に近づけるような状態ではない。居たくないと言ったから、王宮も人が住める状態ではない可能性がある。

 知ってしまえば罪悪感に苛まされ後悔するだろう。
 だから敢えて気にしないのだ。

「ありがとう、皆のお陰で助かったわ」
 何も知らないまま、この場所で幸せな生活を送り続ける。

「エミリー、まだ陽は高いが冷えるころ合いだ。家に帰ろう」

 日暮れにはまだ早い時間、迎えが来た。
 家族ではないけど、これから家族になるかもしれない人。
 私は今、村の男の一人と好い仲になりつつある。

『エミリーの好きな人だ!』
『えー、エミリーにはもっといい人がいるよ!』
『でも一番、エミリーに優しい』

 妖精たちが彼の人物評価をすれば、彼が少し困ったような照れた顔をする。彼は一族のなかでも数少ない、妖精がはっきり見える人なのだ。

「色々言うけど、あなたたち彼の事が好きでしょう?」

『まあねー』
『どっちかっていうと好きー』
『遊んでくれるから好き』

「あんまり彼らを使ってからかうな」
 照れて笑う彼のことが、妖精とは別の意味で愛おしい。

 私は彼の手を取って家に帰る。

 きっとこのまま結婚して子を産み育てるのだろう。花畑にいる時間は減るけど、次代の愛し子が生まれる可能性を伝えれば、妖精たちは納得する。人の世界とは時間の流れが違う妖精界とを行き来する彼らが、人の世界に来た時に住処が無くなっているのは嫌なのだから。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...