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エピローグ
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その日、突然王宮は崩れ落ちた。
予兆は何もなかった。
王宮は古くはあったが元々が頑丈に作られていたし、補修も必要以上にしっかりと行われている。
何より国王を始めとする王族が住まうところなのだから、万が一がないよう全てが整えられているものだ。
しかし一瞬にして瓦解した。王宮で働く人々を巻き込んで。
多くの人が巻き込まれて命を落した。国王を始めとする王族ももれなく絶命したが、ただ一人、王太子のみ死体が出てこなかった。
「妖精の怒りに触れたのだろう」
とは国の宝たる妖精の里を視察した官吏の談だ。
妖精の愛し子を力尽くで拐ったから、怒った妖精が腹いせに王子を殺し、王宮を崩壊させたのだというのが理由である。
しかし実際は違う。
妖精の愛し子との契約の中に「王子と二度と会いたくない、王宮に居たくない」とあったから、その通りになっただけだった。
王族がただの一人もいなくなった国が滅ぶのはあっという間だった。
王宮が崩壊して間もなく地図から国は消え、隣国の一部になる。妖精の力の上に胡坐をかいていた国王を諫めなかった側近や、不正に手を染めた官吏が粛清されただけでなく、殆どの貴族が身分や財産を剥奪され処分されたが、庶民の生活が替わることは無かった。
* * *
ピチャリ――。
顔に水滴がかかり目が覚める。
「ここは、どこだ……?」
王子と呼ばれた存在が目覚めと同時に周囲を見回す。
そこには見たことのない風景が広がっていた。
王宮どころか王都ですらない。
あたり一面、草原が広がっていた。近くには底が見えないほど深い池。澄んだ水が深い碧をたたえている。
「一体なにが?」
自分の置かれている状況が掴めなかった。
意識を失う前に俺は――
アーサーと楽しく酒を呑んだ。
その前は……。
その前は妖精の里の視察に同行したのだ。国王である父上の命令で。そして行った先に美しい女がいたから召し上げた。王宮に帰ってから出くわしたアーサーと酒を呑み、女を味わおうとした。
だが抵抗する女を組み敷いた後……目の前が真っ暗になって、目覚めたらここにいたのだ。
アーサーと呑んだ後は確か、女が「帰りたい」と叫んでいた。「この場にいたくない」とも。
だからなのか?
でも女が帰ることと、自分がこんな所にいることが繋がらない。
そういえば、俺とは二度と会いたくないとも言っていたな……。だから遠く離れた場所に妖精が捨てたのか?
王子は珍しく頭をフル回転させた。
着の身着のまま人里離れたところに一人だ。ここがどこで王宮からどれほど離れた場所かも分からない。馬もなければ伴の一人もいないのだから、自分だけで何とかするしかなかった。
――あの女!
考えれば考えるほど、自分が召し上げた女に怒りが募る。
王子たる自分に何という仕打ちか。
手付きになる栄誉に喜ぶどころか、妖精に命じて高貴なる身を傷つけるなど、厳罰に処さなければならない。
しかし今は王宮に戻ることを考えねば……。
王子は立ち上が歩き始めようとするが、どの方角に歩けば良いかまるで分らなかった。
そんな時だった――。
「雄は筋張ってて肉が硬いんだがな」
自分の背後から声が聞こえたのは。
振り返れば一頭の馬がいた。
いつの間に?
軍馬のようにがっしりと肉付きの体躯と白い毛並みで、何故か禍々しい雰囲気だった。
「ふん、餌を持ってきたというから期待したが、あいつらに期待したのが間違いだった。まあ食えるだけいいが」
馬がしゃべった!
「馬じゃないぞ」
そう言った直後、俺は水の中に引きずり込まれた。
息ができない。もがいてもどんどん深みに落ちていく。
誰か――!
水面に手を伸ばしたが出ることは叶わなかった。
最後に目に映ったのは大きな口を開けた馬だ。白い歯がやけに印象的だった――。
水棲馬が王子を池に引きずり込んだのは一瞬だった。
大小の泡がいくつも上がったが、引きずり込まれた王子が上がってくることはなかった。
数瞬の後、水面が朱に染まる。
それ以外、王子の痕跡はない。
後はまた静寂だけが支配するのだった。
予兆は何もなかった。
王宮は古くはあったが元々が頑丈に作られていたし、補修も必要以上にしっかりと行われている。
何より国王を始めとする王族が住まうところなのだから、万が一がないよう全てが整えられているものだ。
しかし一瞬にして瓦解した。王宮で働く人々を巻き込んで。
多くの人が巻き込まれて命を落した。国王を始めとする王族ももれなく絶命したが、ただ一人、王太子のみ死体が出てこなかった。
「妖精の怒りに触れたのだろう」
とは国の宝たる妖精の里を視察した官吏の談だ。
妖精の愛し子を力尽くで拐ったから、怒った妖精が腹いせに王子を殺し、王宮を崩壊させたのだというのが理由である。
しかし実際は違う。
妖精の愛し子との契約の中に「王子と二度と会いたくない、王宮に居たくない」とあったから、その通りになっただけだった。
王族がただの一人もいなくなった国が滅ぶのはあっという間だった。
王宮が崩壊して間もなく地図から国は消え、隣国の一部になる。妖精の力の上に胡坐をかいていた国王を諫めなかった側近や、不正に手を染めた官吏が粛清されただけでなく、殆どの貴族が身分や財産を剥奪され処分されたが、庶民の生活が替わることは無かった。
* * *
ピチャリ――。
顔に水滴がかかり目が覚める。
「ここは、どこだ……?」
王子と呼ばれた存在が目覚めと同時に周囲を見回す。
そこには見たことのない風景が広がっていた。
王宮どころか王都ですらない。
あたり一面、草原が広がっていた。近くには底が見えないほど深い池。澄んだ水が深い碧をたたえている。
「一体なにが?」
自分の置かれている状況が掴めなかった。
意識を失う前に俺は――
アーサーと楽しく酒を呑んだ。
その前は……。
その前は妖精の里の視察に同行したのだ。国王である父上の命令で。そして行った先に美しい女がいたから召し上げた。王宮に帰ってから出くわしたアーサーと酒を呑み、女を味わおうとした。
だが抵抗する女を組み敷いた後……目の前が真っ暗になって、目覚めたらここにいたのだ。
アーサーと呑んだ後は確か、女が「帰りたい」と叫んでいた。「この場にいたくない」とも。
だからなのか?
でも女が帰ることと、自分がこんな所にいることが繋がらない。
そういえば、俺とは二度と会いたくないとも言っていたな……。だから遠く離れた場所に妖精が捨てたのか?
王子は珍しく頭をフル回転させた。
着の身着のまま人里離れたところに一人だ。ここがどこで王宮からどれほど離れた場所かも分からない。馬もなければ伴の一人もいないのだから、自分だけで何とかするしかなかった。
――あの女!
考えれば考えるほど、自分が召し上げた女に怒りが募る。
王子たる自分に何という仕打ちか。
手付きになる栄誉に喜ぶどころか、妖精に命じて高貴なる身を傷つけるなど、厳罰に処さなければならない。
しかし今は王宮に戻ることを考えねば……。
王子は立ち上が歩き始めようとするが、どの方角に歩けば良いかまるで分らなかった。
そんな時だった――。
「雄は筋張ってて肉が硬いんだがな」
自分の背後から声が聞こえたのは。
振り返れば一頭の馬がいた。
いつの間に?
軍馬のようにがっしりと肉付きの体躯と白い毛並みで、何故か禍々しい雰囲気だった。
「ふん、餌を持ってきたというから期待したが、あいつらに期待したのが間違いだった。まあ食えるだけいいが」
馬がしゃべった!
「馬じゃないぞ」
そう言った直後、俺は水の中に引きずり込まれた。
息ができない。もがいてもどんどん深みに落ちていく。
誰か――!
水面に手を伸ばしたが出ることは叶わなかった。
最後に目に映ったのは大きな口を開けた馬だ。白い歯がやけに印象的だった――。
水棲馬が王子を池に引きずり込んだのは一瞬だった。
大小の泡がいくつも上がったが、引きずり込まれた王子が上がってくることはなかった。
数瞬の後、水面が朱に染まる。
それ以外、王子の痕跡はない。
後はまた静寂だけが支配するのだった。
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