ダンジョンに村人が住み着きました

日向悠介

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報告書7『畑仕事は大変です1』

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「実が成ってるから畑作りに勤しもうか」

 スズネはゴブリンの実をもぎ取り、先端部分を開けると中から土をダンジョン内にぶちまけた。少量の砂で出来た山がその場に出来上がる。

 土は意外に湿り気があり、畑にうってつけな品質だった。

「なぁこれ全部ここにぶちまけて畑作るのか? 二階層に行って土持って来たほうが早いんじゃねえの?」

「それがこの土じゃないと育たないのよ。モンスターの核って知っての通り魔力伝導性がいいじゃない? その魔力伝導性を持つからこそモンスターの核からいろいろ育てられるのよ。普通の土じゃ唯核を埋めただけ。モンスターの核から実を育てるにはゴブリンの土とスライムの水、同じモンスターから取り得た物でしか育たないの」

「ほーう、核栽培にもいろいろとお決まりがあるんだな」

 魔力伝導性がどうこう言っていたが、土と水なしで育つこれらの核は何か特別なのだろうか? まぁ別に気にすることではないか、そういうお決まりってだけだからな。

「ちなみにスライムの水がおいしかったのは魔力があの水に多少なりとも含まれているからだよ」

「魔力が含まれているとなんで美味しく感じるんだ?」

「人間にはないものだから脳が美味しいって錯覚するんだよ。これから作る食材達にも魔力は含まれているから美味しく出来上がる筈だよ。それと魔力を喰らい続けると魔法が使えるかもねー」

「魔法? それはあの伝説のエルフが使うとされている?」

 俺も一度くらいは本を読んだことがあるので分かるが、魔法とは伝説の存在であるエルフ一族が扱ったとてつもない能力だ。そんなものを俺が使えるように?

「エルフのは精霊と契約して扱う魔法だから少し違うかな。もともと人間には魔力を生成する機能がないから外から取り入れるしかないんだけど、外から取り入れるって言っても極少量だから……魔法と言っても殺傷力のない火や水を具現化出来るくらいだよ」

 それでも凄いと思う。俺が夢見た魔法を扱える日がやってくるとは……
 俺は魔法を扱えるかもという事でやる気が出始め、ゴブリンの実へと手を伸ばした。

 俺はゴブリンの実から土を取り出す。先程スズネが撒き散らした場所へと寄せ、次の実へと手を伸ばす。

 地道な作業をコツコツとこなしていく。いつの間にか人、一人分くらいの大きさのある畑が出来上がっていた。

「これで最後だな」

 俺は最後の一個から土を摘出する。

「やったー、やっと終わったね。こんな小さな実からここまでの畑に出来るなんて自分でも正直びっくりだよ。塵も積もれば山となるって本当なんだね」

「本当に出来たな……」

 俺は言葉を紡ぐ事が出来なかった。こんな地味な作業の割に結構な体力と時間を浪費する。俺は息を切らしながら滴る汗を拭き取った。

「はい、喉乾いたでしょ?」

 スズネがスライムの実を俺に手渡す。スズネの方を見ると、スズネも汗だくになり、息を切らしていた。そしてにっこりと笑う。俺は一瞬ドキッとしてしまうが、これから長期間過ごすのだからこんな事で顔を赤らめてられないと、自我を取り戻す。

 スライムの実から溢れる水を口に放り込むとカラカラになった喉が潤され、美味しい天然水が体を癒やした。

「ふわぁ、仕事終わりのスライム水最高だなぁ」

 思わず感嘆の息が漏れる。
 スズネも腰に手をやり、スライム水をごくごくと一気に飲み干すと、

「本当だねぇ。美味しいぃ」

 と顔を綻ばせた。

「もう動きたくないけどぉ、少し休憩したら畑を耕すからぁ」

「ふぁっ!?」

 え? まだやる事あるの?
 嘘だぁ! もう働きたくない、動きたくない、休憩したい!
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