メンヘラ魔法少女、薬物中毒で離脱症状

早く4ね

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翌日の放課後、真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、私は怪人を倒した場所とは別の近くの公園でブランコを漕いでいた。
 
「正しい」

 正しいとはどういうことだろうか。結局それは主観に過ぎず明確な正しさなど存在しないのではないか。人間が平和に生きることは「正しい」のか。そもそも人間が多くの命を犠牲にして私利私欲に生きることは正しいと言えるか?分からない。分からない。

「あれ、苧環おだまきさん?」

 考え事をしている最中突然声をかけられビクッと体が動いた。目を向けると同じ制服を着ている男子がいた。彼はクスッと笑った。

「やっぱり苧環さんだよね?俺E組の畑中だよ」

 E組の畑中。少し記憶を巡らせたがパッと出てこない。

「あれ、覚えてない?この前体育の時2人だけ見学でちょっと話したじゃん」

 笑った顔が少し悲しそうになった。
 
「ああ、畑中くん」

 思い出した。数週間ほど前に面倒で体育を見学にした際、たまたま畑中くんだけ見学で、たわいも無い話をしていた。

「ブランコってたまに漕ぐと楽しいよね。小学生の時とか遊んでたの思い出す」

 そう言って畑中くんは隣のブランコに乗って大きく漕ぎ始める。私は漕ぐ気にならなくてただ座って俯いていた。

「何か考え事でもしてたの?」

「うん……まあ、そんな感じ」


「何考えてたか聞いてもいい?」

 畑中くんは助走をつけて大きく往復しながら聞いた。心配になるほどブランコを漕いでいる。

「えっと……最近なんか生きてるのが辛くてさ」

 1度話しただけの相手に何を言っているのだろう。すぐに後悔した。急にこんな暗いこと言い出してめんどくさいだろうな、私。

「……なるほど」

 彼は足を地面にザザっと絡ませてブランコの動きを止めた。私をチラッと見た後に同じように下を向く。それから10秒ほど黙っている。その沈黙がなんだか怖くて心臓の動きが早くなった。気まずい。

「実は俺も毎日死にたいと思っててさ、見てよこれ」

 制服のシャツの左袖をまくって畑中くんはそれを見せつける。驚いた。手首の辺りに無数の線のような傷がついていた。皮膚が開き赤くなっている。

「ごめん、気持ち悪いよね」

 苦しそうな表情で笑いながらすぐにその傷を隠した。しかし私は運命じみた物をその瞬間に感じた。何故ならーー

「私もリスカしてる」

 同じように制服の袖をまくって左手首を見せた。畑中くんと同じように10本ほどのハサミで切り刻んだ跡を出す。

「まじ!?」

「うん。場所も左手で畑中くんと同じだよ」

 なんだか嬉しい気持ちが湧き出てくる。私と同じように苦しんでる人が身近にいたんだ。辛いのは私だけじゃなかった。

「同じじゃん!なんか嬉しい!生きるの辛いよね。毎日死にたくてもう進路とか決められないよ」

「分かる!私も大学とか就職のこと考えられなくて、でも決めなきゃいけなくてどうしたらいいんだろうってずっと辛かった」

「そうだよなー。もうどうしたらいいか分かんないよなぁ」

「うんうん」

  仲間を見つけられた嬉しさでつい笑みが溢れてしまう。誰にも言えなかったのでホッとして気分が落ち着いた。

「あのさ……」

 畑中くんがそう言ってから数秒黙った。なんだろう。

「どうしたの?」

「俺、辛いことを忘れられる薬を飲んでてさ。モルヒネって言う鎮痛剤なんだけど」

 彼はポケットからシートにしまわれた白い錠剤を出した。

「これ飲むと嫌なこととか全部忘れられるんだよ。嫌ならいいんだけどさ、苧環さんもこれ飲んでみる?」

 その提案に私はつい黙ってしまった。恐らく飲んではいけない薬だ。馬鹿な自分でもそれは分かる。でも畑中くんはそれを飲んでる。もしかしたら今より楽になれて死にたいと思わなくなるかもしれない。少しの間でもこの辛さを紛らわせるなら飲みたい。

「飲んでみたい」

 私が出した答えは飲むだった。どうせこのまま生きても辛いだけだ。今はとにかく楽になりたい。その場しのぎでもいい。この暗く淀んだ感情をどうにかしたい。

「わかった。じゃああそこで座って飲もうよ」

 畑中くんはかまくらのようなドーム型の石の場所を指さした。私は二つ返事で一緒にそこに入り座り込んだ。

「じゃあ最初だし1錠でいっか。はい」

 渡された錠剤は米粒程度の大きさで、本当にこんなもので変わるのかと不安になった。バッグからペットボトルを取り出してそれを飲み込む。それを見た畑中くんは「俺も飲もーっと」と言って2錠を飲み干した。

 それから30分ほどたわいも無い話を2人でした。私は親に期待されていなく、ほぼ放置状態にされていること、畑中くんは再婚相手の父親に虐待を受けていて今に至ったこと、互いの入り組んだ話をした。2人の距離はかなり縮んだように感じて、私はすっかり畑中くんのことを好きになりそうだった。ちょろい女だ。

「あ、なんか幸せになってきた」

 脳にとろけるような感触がやってくる。幸せという名の物質が全身押し寄せてどうしたらいいか分からなくなる。こんなのは初めてだ。

「俺も効いてきた」

 畑中くんは柔らかいニタリとした笑みを浮かべて恍惚とした表情を見せつける。多分私も今こんな顔をしている。幸せ。幸せ。辛いことなんて1つもない。これが楽園かと本気で思ってしまう。

「ねえ、結衣って呼んでもいい?」

 あれ、私下の名前教えたっけ。まあ今は気にする必要は無い。下の名前で呼んで欲しい。そうしたらもっと幸せになれる気がする。

「いーよ」

「結衣」

 そう言って私を優しく抱きしめる畑中くん。今までの人生で1番と言えるほど心地いい。頭のてっぺんからつま先まで幸福を私に押し付けてくる。畑中くんが好きだ。大好き。世界で一番好きなんだ。

「畑中くんのこと大好き」

「ほんと?」

 心の中で言ってるつもりがつい口に出してしまった。恥ずかしくなって耳が急に熱くなり始める。

「俺も結衣が大好き。一生こうしてたい」

 心臓がドキンと強く打った。時間が止まったような衝撃がやってくる。私なんかがこんなに幸せになっていいのかな。

「キスしたい」

「いいよ」

 ゆっくりと顔を近づけ唇を合わせる。脳が痺れる感覚がしてもっと幸福を追求しようと舌を入れ込んだ。畑中くんはそれを迎え入れて絡ませ合う。全てがどうでもよくなった。

「さいこう」

 彼はニタリと笑って私の腕を優しくさすった。

「笑ってる顔こわーい」

「あはは」

 それから私達は数時間抱擁と口付けを繰り返して、夜になったので親を心配させないように帰宅することにした。

 それから毎日のように私と畑中くんはあの公園で会い、モルヒネを飲んで愛し合った。互いの腕を切りあったりもした。1週間経った頃には1錠じゃ足りなくなって今は3錠飲んでいる。畑中くんはずっと2錠。もっと欲しいってならないのかな。

 
 今日もいつものようにそうして部屋に戻り、天井を眺めながら畑中くんのことを考えていた。彼のことを思い出してニヤニヤとしていたらパメラが目の前に現れた。

「結衣!あんな奴と関わるのはもうやめるパメ!」

 パメラは毎日のように畑中くんと関わるなと怒ってくる。腹ただしくて仕方ない。

「畑中くんは優しいしいい人だよ。なんでそういうこと言うの」

「あんな薬飲んでたら心も体もボロボロになっちゃうパメ!最近怪人が出たって言っても無視するしおかしいパメ!」

「うるさいな!」

 手元にあったハサミをパメラに投げる。それは直撃して「いたっ!」と声を上げた。

「あいつは絶対悪いやつパメ!結衣は魔法少女として怪人を倒す宿命があるパメ!」

「私は人が死のうがどうでもいいの!畑中くんさえ居れば世界がどうなっても構わない!邪魔しないで!魔法少女なんて元々やりたくなかった!お前なんか死ねばいいのに!」

 吐き捨てて外へ逃げ出した。
 私には畑中くんがいる。それ以外は私を助けてくれないし苦しんでも放っておくだけ。パメラだって私を怪人を倒す道具としか思ってない!でも畑中くんは違う!私と同じように苦しんでて、私の痛みを全部知ってる!

 無我夢中であの公園へと走りこんだ。ブランコに座る。薬が欲しい。畑中くんに会いたい。辛い。苦しい。畑中くん以外の全てが忌まわしい。

「あれ、結衣。どうしたの?」

 顔を上げたら畑中くんが目の前にいた。夢かもしれない。天使のような表情で笑ってくれた。やっぱり私と畑中くんは運命の相手なんだ。私が辛いと思った時にそばに居てくれる。

「信じてくれないかもしれないけど、私魔法少女なの。でも何が正しくて何が悪いのか分からなくて。もう魔法少女なんてやりたくなくて。畑中くんがいればなんでもいいの」

 畑中くんのことを考えずまくし立てるように言葉を吐くと、彼はいつものように私を優しく抱きしめた。

「信じるよ。結衣は嘘なんてつかないでしょ。辛かったね。もう大丈夫だよ」

 脳がとろける。やっぱり畑中くんは私の全てだ。

「薬、飲む?」

「うん。いっぱいちょうだい。今日は凄い辛かったから。薬飲んで2人でずっとぎゅーってしてたい」

「じゃああそこ行って飲もっか」

 手を繋いでドームへと向かう。天国への道に思えた。

「10錠飲んでみない?俺も飲んだことあるけどもう頭おかしくなるくらい気持ちいいよ」

「飲む」

 今までは3錠だった。約3倍の量。辛いこと、悲しいこと、全てを洗い流してくれそうだ。差し出された薬を受け取って全部飲み干す。それから私達はただひたすらに抱き合い、口付けを交わし、傷を舐め合うように絡みあった。

「そろそろ効いてきたでしょ。どんな感じ?」

「あ、あーー」

 呼吸が浅くなっていく。全身が性感帯のように快楽を突き刺してくる。

「もうーー死んでもいいやーー」

 畑中くんはただ微笑んでいた。まるで死亡を受け入れる天使だ。頭が真っ白になる。

「結衣、可愛いよ」

 その言葉が耳から脳に到達して処理しきれないほどの幸福感に満たされる。視界がだんだん歪んでいく。呼吸の仕方を忘れた。それでもいい。畑中くんさえいれば私は、私はーー




「ボス、魔法少女の苧環結衣を殺しました」

 男は宮殿のような一室で髑髏の男に告げる。

‪「よくやった。流石色欲の化身」

「まあお易い御用ですよ。薬も相まって簡単にかかりました」

「ハハハ。その調子で次の魔法少女も頼む。期待してるぞ」

「有り難きお言葉」

 色欲の怪人はニタリと笑って自分の腕を優しくさすった。

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