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自殺
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俺は何者だ!気づいたら見知らぬ部屋で冷たい床に横たわっていた。きっと今は冬だ。寒い。長袖の分厚いパジャマを着ている。
「どうしたらいい。俺は、俺はどうしたらいい」
手足が酷く痙攣している。瞳孔がこれでもかと開き、ブレた視界を映している。気分が馬鹿みたいに上がっていて、笑っていることに今気づいた。ハイになっている。
「薬か、か。薬、だ」
言語を発するのも酷く困難で苦しい。ガタガタ震える体を起こしてテーブルを見る。そこにはメモのような白い紙があった。勝手に動く文字を目を凝らしてどうにか、少しづつ、読み取っていく。
「俺は人生が辛い。だから現実逃避をすることにした。これを読んでる頃には自分が誰だか分からなくなってるだろう。ドラッグだ。記憶を消し飛ばし、新しい自分になる錠剤。ハイにもなる。巷じゃ精神が壊れて、自殺する人や病院送りになることが多いから最悪の薬物として知られている。しかし俺はそれを摂取した。こんな物を使った理由はただ1つ、自殺をしたいからだ。とてつもなく死にたいのに勇気が出ない。オーバードーズをして自殺を図ったこともあるが、やっぱり死ねなかった。だから頼む。自殺をしてくれ。お前ならできる。やってくれ。お前は死ぬべき人間だ。それじゃあ、任せた」
「は……自殺……は……?」
元の俺は自殺がしたかったのか?ふざけるな。この俺は死にたくはない。寧ろ本来の自分をもっと知ってみたい。こんな状態だが人と話したい。
「あ、ああ。でも、でも」
何故だが死んで楽になりたい気持ちもある。まだ元の俺の意思が残っているのか。鳥のように高い所から飛び降りて天国に行きたい。そして来世は猫になる。どこかの優しい家庭に飼われ、愛されて、幸せになりたい。
「だ、だめだ、死ぬのは。あ、ああ。そうだ。元の俺を知ろう」
ふらつきながら部屋の隅にある引き出しを開ける。
「うわ、あ、」
大量の薬があった。ざっと見る限り30シート程ある。抗不安薬か、眠剤か、よく分からない。元の俺はこんなに薬を飲んでいたのか。震える手でその中の一つを手に取る。
「とりあえず、とりあえず飲む」
自分でも訳が分からないが、もう飲むという意思が頭の中に張り付いてしまった。青い錠剤を1つずつ開けて、10錠を手のひらに乗せて、口に放り込む。
「う、うう。あ、はあ……」
水がどこにあるかも不明で無理やり流し込んだ。つっかえる感覚があって喉を何度もゴクリと動かした。
「よし、よし。ははは」
これでいい。恐らく何かが間違っているが、どうでもよかった。空腹だからかもう作用が来ている気がする。真っ白な壁を見るとぐにゃぐにゃと波のように蠢いていた。気持ち悪くなりそうですぐに視線を逸らす。
「クソ、クソ!辛いのに幸せで、俺はなんだ!ははは!」
元の俺を殺したい。こんなおかしな空間に導くなんて頭がおかしい。目を瞑ると暗い空間の中に緑色のキラキラした生き物のような何かがグルグル回り出す。ダメだ、目を瞑っても気持ちの悪い物が映る。開いたら開いたで違う世界のような見え方になる。
「絶対に、死なない!あ、ああ!気持ちいい!」
壁に手を着いて叫んだ刹那、しんとした部屋にインターホンが鳴り響いた。
「ま、マジか。やばい、やばい」
こんな状態じゃ確実にまともな関わり方ができない。しかし俺の足は勝手に動いて玄関前のカメラに向かった。
「だ、誰だ。こいつは誰だ」
若い女の人だった。友達か?それとも彼女か?どういう関係だ?分からない、分からない。
「へへっ、まあいいや、いいや!」
出てやろう!どうにでもなれ!元の俺がやったことだ。気にするな!
ドアを開ける。
「海斗、沈んでて心配だからきちゃっーー」
女がそう言って目線を合わせた瞬間、口が止まる。
「海斗……?薬飲んだの……?様子が変だよ」
海斗。元の俺の名前か。
「はは、俺は、俺は君を知らない。記憶が全部消し飛ぶ薬を元の俺が飲んだんだよ」
「えっ……ほんとに……?海斗、私だよ。美結。忘れちゃったの?彼女だよ」
「アハハ!……ごめん、ハイにもなってるからおかしいんだ。本当に忘れてる。とりあえずメモを見てくれ」
そう言って部屋に招き入れる。美結という女はメモを手に取ってじっくりと読み始めた。
「海斗……嘘でしょ……なんでこんなこと……」
美結がワッと涙を流して座り込む。まあショックだろう。彼氏が史上最悪のドラッグを使って壊れてしまったんだ。しかも自殺をするための行為。最低だ。
「美結……俺は……ああ!」
痙攣と心臓の鼓動が収まらない。今にも失神しそうだ。これは夢か?
「横になって!」
美結が俺を抱えてベッドに倒れさせる。俺は口元に手を置いて白目を剥いている。
「美結……美結……君と俺は付き合っているのか?」
「そうだよ!大学で出会って2年付き合ってる……ああ、どうしよう……救急車呼ぶね!大丈夫だから、落ち着いて」
「ダメだ!!!」
俺は無意識に全ての力を振り絞って叫んでいた。
「で、でも、海斗、やばいよ……目も開きすぎてるし、痙攣も……このままだと死んじゃうよ!」
「いいんだ!大丈夫だから!絶対に呼ぶな!」
そうか、元の俺の意識が救急車を呼んで、命を助けられることを阻止しようとしてるのか。クソが!
「ハハハ……少し話をしようか」
「そんなことしてる場合じゃ……」
「大丈夫、た、多分、死なない」
美結の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。可哀想だ。こんなに元の俺のことを思ってくれているのに死のうとしているのか。何故そこまでして死にたいんだ?
「美結……元の俺はどんな人間だ?」
「えっ……海斗は……海斗は凄く優しい人だよ。弱ってる動物を助けたり、困っている人がいたらすぐにかけつけて……でも優しすぎるから、酷い部分を見たりすると凄い傷ついちゃって、1人で抱え込んじゃう。それで薬を飲んで楽になろうとして……」
「ああ、あ。そうか」
そんなに優しい人間だったのか。
「繊細で、弱いところもあるんだけど、私はそれも含めて大好き。海斗、なんでこんなことしちゃったの」
苦しい。元の俺は美結をどうしようもなく傷つけている。彼女の気持ちさえ無視してまで死にたいのか。きっと自分が嫌いで仕方がないんだ。現実の辛さを受け入れられない脆い心、それが変えられず自殺を選択した。そうだろう。
「今が何時かも、何年かも、親も友達も何もかも分からないんだ」
でも、美結がこの上なく、この世で1番、何よりも愛していることは理解できる気がする。
「お、俺は……美結が大切な人ってことは覚えてる」
「ほんとに……?」
体を起こして軽く頷いた。
「うん、美結が大好きでーー」
目を軽く閉じて言いかけた瞬間、瞼の裏で綺麗な景色が現れる。
「あ、ああ……!」
紅葉が降っていた。秋だ。俺と美結は手を繋いでゆっくりと歩いている。
『あ……ふふ、海斗、頭に乗ってるよ』
頭に指をさす。手で触ってみると確かに赤っぽい紅葉があった。
『はは、ほんとだ……綺麗だね』
『私とどっちが綺麗?』
美結が俺の前に立って尋ねる。
『そりゃ美結だよ。世界で1番綺麗で可愛い』
『やったー!海斗大好き』
『俺も大好きだよ、美結』
「紅葉!紅葉だ!一緒に歩いた!」
そうだ、俺は美結と紅葉を見に行ったんだ。いつなのかは分からないが断片的に記憶が蘇る。
「思い出した!?そうだよ!2ヶ月前にいったよ!海斗……よかった、覚えてるんだ」
「美結……こんなことしてごめん……」
「いいんだよ。辛かったよね、苦しかったよね」
力強く抱きしめられる。暖かい。痙攣が少し弱まって心臓の音も静かになった。
「病院行こう?記憶もきっと戻るよ、大丈夫」
「分かった」そう言おうとしたが、口が勝手に動いて違う言葉を発した。
「死なないといけないんだ!止めないでくれ!」
美結から離れ、立ち上がって荒くなっていく呼吸を合わせていく。
「どうして……死んじゃダメだよ!海斗が死んだら私……もう生きていけないよ!」
「ああ……あああああ!!!うるさい!俺は死ぬんだ!」
部屋の入口付近の引き出しの2段目を開ける。そうだ。ここにナイフがしまってある。いつか使うと思いネットで買ったバタフライナイフ。刃を出して美結の方を向く。
「海斗!やめて!死んだら一緒に過ごすこともできない!抱きしめることもできない!」
胸が苦しい。美結ともう会えないのか。誰よりも愛してるのに、元の俺はこの世界から消え去りたいのだ。
ああ、そうだ。
「美結、一緒に死のうよ」
「えっ……」
一気に顔が青ざめる。それはそうか。でもこれは名案だと思うのだ。
「一緒に死ねば天国でも美結と居られる」
「そんな……私死にたくないよ……」
「じゃあ俺だけ死ぬか」
バタフライナイフを首にあてがう。強く寄せすぎて軽く皮が切れて血が垂れる。痛みがなんだか気持ちよくて気分が高まっていく。
「嫌だ!どっちもやだよ!」
「決めてくれよ、早く」
ナイフをまた軽く引いた。さっきよりも出血が多くボタボタと床に垂れていく。視界が酷くブレていて血がアートのように見えて綺麗だ。
「……分かった。分かったよ。私も死ぬ。海斗がいない世界なんて嫌だ!」
「ハハ……美結、ほんとに愛してる」
最高だ。なんて幸せなんだろう。美結と出会えてよかった。これ以上望むものなんてない。
やっと終わるんだ!来世はきっと美結と一緒に動物になったりするんだ!一生、いつまでも彼女と同じ時間を過ごしていくんだ。
「じゃあ美結から行くね」
ナイフを彼女の首にあてる。
「海斗、大好きだよ。ずっと一緒」
口づけを交わす。甘い味がした。脳が活性化していく。俺達はきっと互いに依存をしている。しかしそれでいいんだ。幸せなのだから。
「さようなら、美結」
中途半端に切って苦しまぬよう、 強く、力を最大限に込めて、思いっきりナイフを引く。生々しい感触が握った手に伝わった。
「あ、あ」
水鉄砲のように首から血が溢れ出る。ゆっくりと後ろに倒れて頭を打った。目が虚ろになり、口をカタカタ震わせている。どんな芸術作品よりも美しく、愛くるしい。
「最高だよ……最高……」
ガタガタ揺れる体を動かし、美結の顔を撫でる。そして、おかしな方向に向かってる眼球を愛でるように舐める。
「愛してる……愛してるよ……」
これが美結の味ーー堪らない。何度も何度も舐めまわした。彼女と直接繋がってる感覚がした。
「はあ……よし、今度は俺の番だ」
手際よくバタフライナイフをさっきと同じように首にあてる。死ぬんだ。やっとだ。こんな狂ってる世界から救われる時が来たんだ。胸が高鳴る。
「さようなら、元の俺」
これまでの苦痛全てを力に込めて躊躇なく、深く切り裂いた。
「ひゅっ」
息が詰まるような気がした。と思ったら笑えるくらいに血が噴き出していく。美結の身体にもどんどんかかっていく。
自分の役割は果たした。これでいいんだ。ハッピーエンド。死ぬことは幸せだ。どんな苦痛からも救われる。苦しみながら生きるなんてバカらしいということだ。
「どうしたらいい。俺は、俺はどうしたらいい」
手足が酷く痙攣している。瞳孔がこれでもかと開き、ブレた視界を映している。気分が馬鹿みたいに上がっていて、笑っていることに今気づいた。ハイになっている。
「薬か、か。薬、だ」
言語を発するのも酷く困難で苦しい。ガタガタ震える体を起こしてテーブルを見る。そこにはメモのような白い紙があった。勝手に動く文字を目を凝らしてどうにか、少しづつ、読み取っていく。
「俺は人生が辛い。だから現実逃避をすることにした。これを読んでる頃には自分が誰だか分からなくなってるだろう。ドラッグだ。記憶を消し飛ばし、新しい自分になる錠剤。ハイにもなる。巷じゃ精神が壊れて、自殺する人や病院送りになることが多いから最悪の薬物として知られている。しかし俺はそれを摂取した。こんな物を使った理由はただ1つ、自殺をしたいからだ。とてつもなく死にたいのに勇気が出ない。オーバードーズをして自殺を図ったこともあるが、やっぱり死ねなかった。だから頼む。自殺をしてくれ。お前ならできる。やってくれ。お前は死ぬべき人間だ。それじゃあ、任せた」
「は……自殺……は……?」
元の俺は自殺がしたかったのか?ふざけるな。この俺は死にたくはない。寧ろ本来の自分をもっと知ってみたい。こんな状態だが人と話したい。
「あ、ああ。でも、でも」
何故だが死んで楽になりたい気持ちもある。まだ元の俺の意思が残っているのか。鳥のように高い所から飛び降りて天国に行きたい。そして来世は猫になる。どこかの優しい家庭に飼われ、愛されて、幸せになりたい。
「だ、だめだ、死ぬのは。あ、ああ。そうだ。元の俺を知ろう」
ふらつきながら部屋の隅にある引き出しを開ける。
「うわ、あ、」
大量の薬があった。ざっと見る限り30シート程ある。抗不安薬か、眠剤か、よく分からない。元の俺はこんなに薬を飲んでいたのか。震える手でその中の一つを手に取る。
「とりあえず、とりあえず飲む」
自分でも訳が分からないが、もう飲むという意思が頭の中に張り付いてしまった。青い錠剤を1つずつ開けて、10錠を手のひらに乗せて、口に放り込む。
「う、うう。あ、はあ……」
水がどこにあるかも不明で無理やり流し込んだ。つっかえる感覚があって喉を何度もゴクリと動かした。
「よし、よし。ははは」
これでいい。恐らく何かが間違っているが、どうでもよかった。空腹だからかもう作用が来ている気がする。真っ白な壁を見るとぐにゃぐにゃと波のように蠢いていた。気持ち悪くなりそうですぐに視線を逸らす。
「クソ、クソ!辛いのに幸せで、俺はなんだ!ははは!」
元の俺を殺したい。こんなおかしな空間に導くなんて頭がおかしい。目を瞑ると暗い空間の中に緑色のキラキラした生き物のような何かがグルグル回り出す。ダメだ、目を瞑っても気持ちの悪い物が映る。開いたら開いたで違う世界のような見え方になる。
「絶対に、死なない!あ、ああ!気持ちいい!」
壁に手を着いて叫んだ刹那、しんとした部屋にインターホンが鳴り響いた。
「ま、マジか。やばい、やばい」
こんな状態じゃ確実にまともな関わり方ができない。しかし俺の足は勝手に動いて玄関前のカメラに向かった。
「だ、誰だ。こいつは誰だ」
若い女の人だった。友達か?それとも彼女か?どういう関係だ?分からない、分からない。
「へへっ、まあいいや、いいや!」
出てやろう!どうにでもなれ!元の俺がやったことだ。気にするな!
ドアを開ける。
「海斗、沈んでて心配だからきちゃっーー」
女がそう言って目線を合わせた瞬間、口が止まる。
「海斗……?薬飲んだの……?様子が変だよ」
海斗。元の俺の名前か。
「はは、俺は、俺は君を知らない。記憶が全部消し飛ぶ薬を元の俺が飲んだんだよ」
「えっ……ほんとに……?海斗、私だよ。美結。忘れちゃったの?彼女だよ」
「アハハ!……ごめん、ハイにもなってるからおかしいんだ。本当に忘れてる。とりあえずメモを見てくれ」
そう言って部屋に招き入れる。美結という女はメモを手に取ってじっくりと読み始めた。
「海斗……嘘でしょ……なんでこんなこと……」
美結がワッと涙を流して座り込む。まあショックだろう。彼氏が史上最悪のドラッグを使って壊れてしまったんだ。しかも自殺をするための行為。最低だ。
「美結……俺は……ああ!」
痙攣と心臓の鼓動が収まらない。今にも失神しそうだ。これは夢か?
「横になって!」
美結が俺を抱えてベッドに倒れさせる。俺は口元に手を置いて白目を剥いている。
「美結……美結……君と俺は付き合っているのか?」
「そうだよ!大学で出会って2年付き合ってる……ああ、どうしよう……救急車呼ぶね!大丈夫だから、落ち着いて」
「ダメだ!!!」
俺は無意識に全ての力を振り絞って叫んでいた。
「で、でも、海斗、やばいよ……目も開きすぎてるし、痙攣も……このままだと死んじゃうよ!」
「いいんだ!大丈夫だから!絶対に呼ぶな!」
そうか、元の俺の意識が救急車を呼んで、命を助けられることを阻止しようとしてるのか。クソが!
「ハハハ……少し話をしようか」
「そんなことしてる場合じゃ……」
「大丈夫、た、多分、死なない」
美結の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。可哀想だ。こんなに元の俺のことを思ってくれているのに死のうとしているのか。何故そこまでして死にたいんだ?
「美結……元の俺はどんな人間だ?」
「えっ……海斗は……海斗は凄く優しい人だよ。弱ってる動物を助けたり、困っている人がいたらすぐにかけつけて……でも優しすぎるから、酷い部分を見たりすると凄い傷ついちゃって、1人で抱え込んじゃう。それで薬を飲んで楽になろうとして……」
「ああ、あ。そうか」
そんなに優しい人間だったのか。
「繊細で、弱いところもあるんだけど、私はそれも含めて大好き。海斗、なんでこんなことしちゃったの」
苦しい。元の俺は美結をどうしようもなく傷つけている。彼女の気持ちさえ無視してまで死にたいのか。きっと自分が嫌いで仕方がないんだ。現実の辛さを受け入れられない脆い心、それが変えられず自殺を選択した。そうだろう。
「今が何時かも、何年かも、親も友達も何もかも分からないんだ」
でも、美結がこの上なく、この世で1番、何よりも愛していることは理解できる気がする。
「お、俺は……美結が大切な人ってことは覚えてる」
「ほんとに……?」
体を起こして軽く頷いた。
「うん、美結が大好きでーー」
目を軽く閉じて言いかけた瞬間、瞼の裏で綺麗な景色が現れる。
「あ、ああ……!」
紅葉が降っていた。秋だ。俺と美結は手を繋いでゆっくりと歩いている。
『あ……ふふ、海斗、頭に乗ってるよ』
頭に指をさす。手で触ってみると確かに赤っぽい紅葉があった。
『はは、ほんとだ……綺麗だね』
『私とどっちが綺麗?』
美結が俺の前に立って尋ねる。
『そりゃ美結だよ。世界で1番綺麗で可愛い』
『やったー!海斗大好き』
『俺も大好きだよ、美結』
「紅葉!紅葉だ!一緒に歩いた!」
そうだ、俺は美結と紅葉を見に行ったんだ。いつなのかは分からないが断片的に記憶が蘇る。
「思い出した!?そうだよ!2ヶ月前にいったよ!海斗……よかった、覚えてるんだ」
「美結……こんなことしてごめん……」
「いいんだよ。辛かったよね、苦しかったよね」
力強く抱きしめられる。暖かい。痙攣が少し弱まって心臓の音も静かになった。
「病院行こう?記憶もきっと戻るよ、大丈夫」
「分かった」そう言おうとしたが、口が勝手に動いて違う言葉を発した。
「死なないといけないんだ!止めないでくれ!」
美結から離れ、立ち上がって荒くなっていく呼吸を合わせていく。
「どうして……死んじゃダメだよ!海斗が死んだら私……もう生きていけないよ!」
「ああ……あああああ!!!うるさい!俺は死ぬんだ!」
部屋の入口付近の引き出しの2段目を開ける。そうだ。ここにナイフがしまってある。いつか使うと思いネットで買ったバタフライナイフ。刃を出して美結の方を向く。
「海斗!やめて!死んだら一緒に過ごすこともできない!抱きしめることもできない!」
胸が苦しい。美結ともう会えないのか。誰よりも愛してるのに、元の俺はこの世界から消え去りたいのだ。
ああ、そうだ。
「美結、一緒に死のうよ」
「えっ……」
一気に顔が青ざめる。それはそうか。でもこれは名案だと思うのだ。
「一緒に死ねば天国でも美結と居られる」
「そんな……私死にたくないよ……」
「じゃあ俺だけ死ぬか」
バタフライナイフを首にあてがう。強く寄せすぎて軽く皮が切れて血が垂れる。痛みがなんだか気持ちよくて気分が高まっていく。
「嫌だ!どっちもやだよ!」
「決めてくれよ、早く」
ナイフをまた軽く引いた。さっきよりも出血が多くボタボタと床に垂れていく。視界が酷くブレていて血がアートのように見えて綺麗だ。
「……分かった。分かったよ。私も死ぬ。海斗がいない世界なんて嫌だ!」
「ハハ……美結、ほんとに愛してる」
最高だ。なんて幸せなんだろう。美結と出会えてよかった。これ以上望むものなんてない。
やっと終わるんだ!来世はきっと美結と一緒に動物になったりするんだ!一生、いつまでも彼女と同じ時間を過ごしていくんだ。
「じゃあ美結から行くね」
ナイフを彼女の首にあてる。
「海斗、大好きだよ。ずっと一緒」
口づけを交わす。甘い味がした。脳が活性化していく。俺達はきっと互いに依存をしている。しかしそれでいいんだ。幸せなのだから。
「さようなら、美結」
中途半端に切って苦しまぬよう、 強く、力を最大限に込めて、思いっきりナイフを引く。生々しい感触が握った手に伝わった。
「あ、あ」
水鉄砲のように首から血が溢れ出る。ゆっくりと後ろに倒れて頭を打った。目が虚ろになり、口をカタカタ震わせている。どんな芸術作品よりも美しく、愛くるしい。
「最高だよ……最高……」
ガタガタ揺れる体を動かし、美結の顔を撫でる。そして、おかしな方向に向かってる眼球を愛でるように舐める。
「愛してる……愛してるよ……」
これが美結の味ーー堪らない。何度も何度も舐めまわした。彼女と直接繋がってる感覚がした。
「はあ……よし、今度は俺の番だ」
手際よくバタフライナイフをさっきと同じように首にあてる。死ぬんだ。やっとだ。こんな狂ってる世界から救われる時が来たんだ。胸が高鳴る。
「さようなら、元の俺」
これまでの苦痛全てを力に込めて躊躇なく、深く切り裂いた。
「ひゅっ」
息が詰まるような気がした。と思ったら笑えるくらいに血が噴き出していく。美結の身体にもどんどんかかっていく。
自分の役割は果たした。これでいいんだ。ハッピーエンド。死ぬことは幸せだ。どんな苦痛からも救われる。苦しみながら生きるなんてバカらしいということだ。
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