稲川淳二の超怖い話「逃避」

早く4ね

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これはある精神病の男性の話です。

その人は思春期頃から理由もなく生きるのが辛い変な人でした。初めて「死にたい」と思った瞬間から下向いてとにかく逃げ続けたそうです。人の声も聞こえないように耳を塞いで、足の感覚もなくなるくらい、息を切らしてアスファルトを蹴っていました。
男はその途中でふと考えました。

「自分から逃げている…?」

そう、男は自分から逃げています、一生懸命。
……変だなー、おかしいなー。逃げる対象は自分、逃げる行動をするのも自分。

「これじゃあ逃げても距離は1ミリも変わらない。ただ心身をすり減らして走るフリをしてるだけだ」

そう思いながらも男はもう足を止められず、ただ走り続けました。
怖いなー、怖いなー。男は自分の影に怯えて逃げる犬と変わらない馬鹿と気づいたのです。逃げやすいように大事な物を全部を放り捨てたので「もう今更引き返せない」という気持ち1つだけを残して走ります。男はもう自分の力では止まれなくなってしまいました。

何も変わらないのに、ただ辛いだけなのに、血汗涙を流して、心臓を高く鳴らして――たった今も死ぬ気で、逃げられない自分から、逃げています。
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